天人の教え
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月明かりだけが頼りとなる暗闇の中、鬱蒼とした竹林の一角で突然、巨大な火柱が昇った。

パチパチと竹が爆ぜる音が響く。生きるもの全てを焼き尽くさんとする業火の中心において、一人の少女が立ち尽くしていた。

少女の周囲を炎が包みこむ。しかし、炎は少女を襲おうとせず、逆に王を守る家来のように周りを覆っていた。

白く輝く長髪をなでる。それとともに毛先から火花が生じ、空中へと消えていった。

「今日も決着着かず、か」

 いらただしげに月を見上げる少女――藤原妹紅は、つまらなそうにそう呟いた。

彼女は犬猿の仲である蓬莱山輝夜と数日おきに弾幕ごっこでの決闘を行っているのだが、ここ数回は引き分けが続いていた。

輝夜に負けるのだけは絶対に嫌だが、かといって引き分けが続くというのも癇に障る。 だからこそ、行き所のない不満を吐き出すかのように妹紅は周囲の竹林に対して炎を撒き散らしていたのだった。

と、どこからか「あちちち」という声が聞こえた。

「誰かいるのか?」

 妹紅が声の出所に問いかける。すると、竹林の影から桃のついた帽子を被り、派手な服装をした少女が飛び出してきた。

「誰かいるのか、じゃないでしょ。散歩してたらいきなり目の前が燃え出すんだもの。これ、あなたが出した炎でしょ?危うく服が煤けちゃうところだったじゃない」

「ああ、それは悪かった……ん?」

 そこまで言って、ふと気づいた。竹林の火災について妹紅の起こしたものだと躊躇なく指摘したこと、これだけの炎を前にして服が煤けるくらいにしか危機感を持っていないこと。

「……あんた、誰だ?」

「誰だとは失礼ね。わたしは比那名居天子。通りすがりの天人よ」

「なんだ天人か」

 たしかに天人ならこの程度の炎で焼け死ぬわけがない。それに悪い妖怪というわけでもなさそうだと判断すると、妹紅は興味を無くしたのかぷい、とそっぽを向いた。

「……本当に失礼ね。まあいいわ。因果応報、応報覿面。物事には結果とそれにつながる原因があるわ。あなたずいぶん荒れてるみたいだけど、なにかあった?」

「悪いけど、ご近所の先生のおかげでありがたい教訓は間に合ってるんだ」

 そう言って妹紅は指をパチン、と鳴らした。その途端、あたりを包んでいた炎は急に勢いを弱め、焦げ臭い匂いだけを残して鎮火したのだった。

「ふうん。あなたの能力は火を扱う程度の能力なのかしら」

「違うな。これは単なる私の妖力だ」

「本質は別のところにあるということね。……ねえ、あなたの名前は?」

「藤原妹紅だ」

「ねえ妹紅。ちょっとわたしと遊ばない?」

「それは弾幕ごっこでという意味か?」

「それ以外のなにがあるのよ。わたしもメンドクサイのから逃げて暇してたところなの。つきあってよ」

「お断り……」

 お断りだ、と言いかけたところで妹紅は考える。

天人といえば迎えに来た死神を撃退することで不死を実現する稀有な存在だと聞いている。彼女も、見かけはちゃらんぽらんな印象ではあるが天人というのも嘘ではないのだろう。

それなら、いい対輝夜を想定したトレーニング相手にはなるかもしれない。なにより、決着着かずで終わった弾幕ごっこのストレス発散にはちょうどいい。

「いいぜ。つきあってやるよ」

「そうこなくっちゃ」

 そう言って天子は懐から小さな要石を取り出すと、それを妹紅に向かって投げつけた。

ドリルのように回転しながら飛んでくる要石を軽く避けると、妹紅は手のひらで作り出した無数の火の玉を投げ返した。

 天子はバックステップで火の雨を避けると、針のようなレーザー光線で反撃に出る。

返す妹紅はレーザー光線をグレイズしながら接近し、すばやく蹴りを入れた。それを天子はガードし、弾き返す。

「ずいぶんといきなりなんだな」

「やると決めたらさっさとやるのがわたしの性分なの。それに、あの程度は不意打ちにもならないのではなくて」

「違いない」

 言って、妹紅は右手を上げた。

その手を中心に熱が集まり、周囲の景色が歪み始める。やがてボン、と爆発音がしたと思うと、炎は大きく広がり、翼を生やし、ついには鳥の姿へと変えた。

「不死『火の鳥―鳳翼天翔―』。言っとくけど、まだ序の口だからな」

「その程度で序の口なら、真打はどの程度のものかしらね。さあ、いらっしゃい」

「さすが天人。威勢は十分ということかね。そりゃ!」

 天子の不適な笑みを物怖じもせず、妹紅は右手に止まる火の鳥を飛ばした。

猛スピードで飛来する火の鳥は火の粉を飛び散らながら一直線に天子へと突撃する。そして瞬く間に炎が天子へと乗り移るかと思われたその時。

「『天罰の石柱』」

巨大な要石が天子の目の前に立ち塞がり、火の鳥の攻撃を防御する。

要石にぶつかった火の鳥は燃えるものを探して翼を伸ばすが、要石が崩れると同時に火の鳥も消滅してしまった。

「へえ、なかなかやるじゃないか」

「ほのおタイプがいわ・じめんタイプに勝てると思わないでよね」

「?何の話だ」

「なんでもない、よっと!」

 天子は気楽に言うと竹を利用して上空へと飛翔した。そして要石を取り出すと、それを最大限に巨大化させる。

「要石『天地開闢プレス』!」

「ちょ、おま……」

 月明かりを遮るほどの大きさとなった要石は妹紅の逃げ場を無くす。炎で対抗するも、質量を持たない炎では巨岩を押し返すことができない。

ズン、と鈍い音と振動が広がった。

 

                           †

 

「やー参った参った」

 妹紅は鼻に絆創膏を貼り付けた状態で笑い声をあげた。

「参ったのはこっちのほうよ、まったく」

 天子は服のあちこちについた焼け跡を気にするように体を擦った。

その後、リザレクションで復活した妹紅は「本気でやらないといけないみたいだな」と各種スペルカードを出し惜しみせず使い、天子を攻撃した。

ここまで手痛い反撃を受けては天子も本気にならざるを得ず、結局は両者消耗戦の上、弾幕ごっこは妹紅の勝利で終わった。

「ここまでやる事はなかったんじゃない」

「弾幕ごっこを誘ったのはそっちだろ」

「そうだけどさー……」

「まあ、こっちはいいストレス発散になったしな。一応礼を言っておくわ」

「礼を言われる程じゃないけど、受け取っておくわ。で、なんだっけ。決着を付けたい相手がいるんだっけ?」

 天子は体育座りの姿勢に座り直すと、妹紅に聞いた。

弾幕ごっこで意気投合した妹紅はここ最近輝夜と決着がつかないこと、それで苛立って爆発していたことを天子に話したのだった。

「ああ。輝夜には絶対に負けたくないけど、白黒着かない、ていうのは負けるよりムカつくんだよ」

「なるほどー」

 天子はふんふんとさも心情を察するとでも言うように頷く。そしてぴん、と人差し指を伸ばしたかと思うと「わたしにいい考えがある」と言った。

「なんだい?天人の極意でも教えてくれるのか」

「そんな程度のものじゃないわ。根本的な解決方法を考えたの」

 まるで事件の真犯人を当てる探偵のように伸ばした人差し指をくるくるとまわすと、朗らかに答えたのだった。

「レベルを上げて物理で殴ればいい」

 

説明
今回はバトルシーンの練習で書いてみました。さて、どんなものでしょうねぇ。
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東方 比那名居天子 藤原妹紅 

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