仮面ライダークロス 第十五話 Mの狂気/ある意味最悪なバイオハザード |
ムスカ達は巨大な飛行戦艦、ゴリアテに乗り、ある場所へ向かっていた。
しばらく行くと、
「ここだ。」
ムスカが到着を告げる。
今、彼らの目の前には巨大な積乱雲があった。ゴリアテとは比較にならないほどに巨大な…。
井坂は首を傾げる。
「おかしいですねぇ…雲以外何もないじゃないですか。」
「我々が目指すべき場所は、雲の中にある。出番だよ井坂君」
ムスカは井坂を見て言った。
「出番?」
「君のウェザーメモリの力で、この積乱雲、『竜の巣』を払ってもらいたいのだ。」
「これを?」
井坂はムスカに言われて、再度積乱雲、竜の巣を見る。
これほどまでに巨大な積乱雲は、井坂も見たことがない。いかに気象現象を自在操り、パワー増幅までされたウェザーメモリであっても消し去れるかどうか…井坂はそんな消極的な感情を持ちつつあった。
だが、彼は次の言葉で、やる気を燃やす。
「頑張ってくれたまえ。この雲の奥にある場所で、我々は大いなる力を手に入れられるのだから。」
「…大いなる、力?」
井坂はその言葉に反応し、妄想を膨らませる。
(もしや…強力なガイアメモリでもあるのか?)
そうだとしたら、ぜひ手に入れたい、井坂はそう思い、
「わかりました、全力でやりましょう。」
〈WEATHER!〉
引き受けてウェザーに変身した。
そのままデッキからハッチを開けて外に出たウェザーは、竜巻を操って空を飛び、ゴリアテの上に降り立つ。
(ですが、その力を手に入れるのは…)
ウェザーは竜の巣を見据えると、意識を集中させ、
(私だけですよ)
「はぁっ!!」
両腕を広げて力を解放した。
「…どうしてこうなったんだろう…」
「わからない…」
光輝と一真は焦っていた。なぜ焦っているのか、それは今から数分前に遡る。
いつもと変わらない通学路を、いつも通り一緒に登校していた光輝と一真。
だが、今日はいつもと違った。
二人は登校途中に、打ち水をしている老婆に出くわした。夏が近付き、暑くなってきた今日この頃である。エコなことをしている、と、二人は思った。
「おはようございます!」
「今日も暑いですね。」
老婆に挨拶する二人。この老婆にはいつも挨拶しており、いつもちゃんと挨拶を返してくれる。
今日も同じだろう、二人はそう思っていた。老婆がこちらに振り向くまでは。
老婆が振り向いた時、二人は目を疑った。
なぜなら…
老婆の顔が……
ムスカだったからだ。
「「…は?」」
思考が停止する二人。
「死ねぇぇ!!」
老婆はそんな二人に襲いかかってきた。ちなみに、声もムスカだ。
「うわぁっ!!」
「気持ち悪っ!!」
二人はテメンニグル学園まで走って逃げた。
それが数分前の出来事だった。しかも、まだ終わりではない。
学園には二人と同じように、顔と声がムスカの人間を見た、そして襲われたという生徒が、何人もいたのだ。無論、ダンテ達も例外ではない。
これらの事態が発生しているため、現在テメンニグル学園には、街中の住民が避難している。ここは風都で一番広い学園なので、緊急事態が発生した場合は、避難所にもなるのだ。教師達は避難してきた住民達を落ち着けるために出払っており、光輝達はクラスで待機させられているという状態だった。
「状況を整理しよう。」
一真に言われ、光輝、ダンテ、バージル、レディ、トリッシュ、照山は、状況をまとめる。
一真は一つずつあげていった。
「今、風都にはムスカ大佐の顔と声をした人間が溢れて、人を襲っている。なぜそんな怪物がいるのか、それは全くの原因不明、ってことでいいね?」
全員が頷き、バージルが挙手をする。
「原因についてだが、今ディスクに調べてもらっている。ほどなく判明するだろう」
そこへ、ちょうどいいタイミングでディスクが来た。
「バージル。」
「ディスクか…どうだ?」
「さっき調べ終わったところよ。あなたとダンテが危惧した通りだったわ」
「そうか…」
「なに?何の話?」
二人の話についていけない光輝は尋ねる。
「…今から五年程前の話だ。」
言って回想に入ったバージルとダンテ。
それは五年前、バージルとダンテが家族全員で、ラクーンシティと呼ばれる街に旅行に行った時のこと。
そこは、何の変哲もない普通の街だった。
二人はスパーダやエヴァとともに観光地を巡ったりして楽しんでいたのだが、それもたった二日で終わってしまった。
二泊三日というわけではない。本来なら、一週間滞在するはずだった。しかし、彼らはラクーンシティを離れるしかなかったのだ。ある理由で。
「驚いたぜ?なんせ朝起きて外に出てみたら、住民が全員ゾンビになってたんだからな。」
ダンテの言う通り、三日目の朝、次の観光地に向かうべく外出してみると、住民がゾンビと化しており、彼らに襲いかかってきたのだ。
「原因は、アンブレラ・コーポレーションという製薬会社の計画だった。」
アンブレラ・コーポレーション。表向きは製薬会社だったが、本来の活動内容は生物兵器の開発であり、街中にゾンビが溢れたのはアンブレラ社が開発したT-ウィルスという危険なウィルスが原因だった。まさに生物災害、バイオハザード。
バージル達はゾンビと戦いながら状況を切り抜け、その後、スパーダの活躍によってアンブレラ社は崩壊し、彼らの計画は潰えたのだが……。
「あの時と状況が酷似している。それでディスクに頼んで調べてもらっていたのだが」
バージルの言葉を聞き、照山がディスクに尋ねる。
「そういや、バージルが危惧してた通りだったって言ってな。どういうことなんだ?」
ディスクが説明した。
「さっきスキャンを使って調べたんだけど、空気中にウィルスが蔓延してることがわかったわ。この教室にも、ね」
全員が口を塞ぐ。
「安心して。ウィルス自体はかなり弱ってるから、空気感染の心配はほとんどないわ。」
「お、驚かさないでよディスク!」
レディは怒る。
「ごめんなさい。このウィルスは人間にしか感染しないし、あとムスゾンに襲われたりしない限りは大丈夫ね。」
素直に謝るディスク。と、聞き慣れない用語があったので、トリッシュが尋ねた。
「ムスゾン?ムスゾンって何?」
「ムスカのゾンビ、略してムスゾンよ。」
なるほど、わかりやすい。全員がそう思った。
「このウィルスの名称は『M-ウィルス』。」
「M-ウィルス?」
ダンテの問いに、ディスクは答える。
「このウィルスは、T-ウィルスをいじって作られたもの。でもT-ウィルスと違って、致死性はないわ。人間をムスゾンに変えるだけ」
「何だそのとてつもなく意味不明なウィルスは。」
思わずツッコミを入れたバージル。
「私だって意味がわからないわ。ただわかっているのは、このウィルスさえ除去すれば、ムスゾンになっている人を元に戻すことができるということ。」
光輝は耳を疑った。
「戻せる?それって本当に!?」
「ええ、除去できれば、ね。」
光輝は思った。クロスに変身しなくてよかった、と。もし変身して殺してしまっては、目も当てられない。
そういえば、と光輝はダンテとバージルに尋ねる。
「もしかして、途中でムスゾンを殺したりした?」
「いや、殺していない。」
答えたのはバージル。光輝は意外に思う。
「よく殺さなかったね。」
「いや、あんな気色悪いもんの相手をしたくなかったから。」
次に答えたのはダンテ。確かに気色悪い。あんなものの相手を進んでやろうと思う者は、まずいないだろう。
「ただ、ウィルスを除去する方法が問題なの。ワクチンの精製には、結構特殊な薬品が必要で…」
「それだったら、ここの保健室か理科室にでも行けばいいんじゃねぇか?」
進言したのは照山。なるほど、彼の言う通り、この学園はかなりのエリート学園であり、それ相応の金もかかっている。保健室や理科室に行けば、大抵の薬はあるのだ。
「その手があったか…ディスク。薬があれば、ワクチンは作れるか?」
「その点は心配ないわ。薬さえあればね」
バージルの問いに答えるディスク。光明が見えてきた。
「よし、じゃあ早速行動を開始しよう!」
一真が言ったその時、
銀八が入ってきた。
ムスカの顔の。
「「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
思わず叫ぶ光輝と照山。クラスメイト達も銀八のムスゾン化に驚く。
「みんな、落ち着くんだ!」
「一真!?」
一真がムスゾン銀八の前に進み出、光輝が驚いた。
「まだ話が通じるかもしれない。」
一真は危険な賭けと知りつつ、ムスゾン銀八に言う。
「先生、俺です。先生の教え子の、剣崎一真です。」
しかし、
「はっはっはっはっ!!死ねぇぇ!!」
ムスゾン銀八は一真に襲いかかった。
「待って下さい先生!俺がわからないんですか!?」
一真は攻撃をかわしつつも、ムスゾン銀八への呼び掛けをやめない。
「私はムスカ大佐だ。」
「違います!あなたは坂田銀八。俺達のクラス、3年B組の担任教師です!」
「死ねぇぇ!!」
「なぜですか…なぜ俺の言葉を聞いてくれないんですか!!」
「はっはっはっはっ!!」
「オンドゥルラギッタンディスカ!!」
「一真!言えてないから!!」
光輝はツッコミを入れた。ちなみに、今一真は『本当に裏切ったんですか』と言いたかったのだが、銀八は別に裏切ったわけではない。ウィルスに操られているだけだ。
「もういい、一真!下がれ!ムスゾンになった以上、説得は無駄だ!」
「ウゾダ…ウゾダドンドコドーン!!」
「だから言えてないってば!!」
ちなみに、今度は『ウソだ…ウソだそんなことー』と言いたかった。
その時、
「ハンバーガーが四個分くらいかな?」
「があっ!!」
材質不明のハンバーガーが四個飛んできて、それを顔面、胸、腹、股間の四ヶ所に食らったムスゾン銀八は倒れた。
ハンバーガーを放った張本人は、もちろんドナルドだ。
バージルは倒れたムスゾン銀八をとりあえず無視し、ディスクに訊く。
「どういうことだディスク?空気感染の心配は、ほとんどなかったのではないのか?」
「そうよ、ほとんどないわ。でもなんで…」
すると、ベオウルフが、窓の外を見て言った。
「おい、外を見てみろ!!」
その言葉に反応した光輝達が窓の外を見てみると、校庭をムスゾンの大群が埋め尽くしていた。銀八がムスゾンになっていた理由は、間違いなくこれだろう。
「あっ!!バージル、あれを見ろ!!」
と、ダンテが何かを見つけ、バージルに知らせる。
「あれは…ネメシス!?」
二人が見つけたもの、それは、アンブレラ社がネメシス・プロジェクトという計画で生み出した怪物、ネメシスだった。顔はムスカだが、間違いない。
「それもあんなにいやがる…」
ダンテの言う通り、校庭にはネメシスが二十体近くいた。
「ダンテ、バージル。これは!?」
トリッシュが尋ねた。
「恐らく、非感染者がここに集中していることを嗅ぎ付けたんだろ…」
「この分だと、何匹かに侵入されたな…」
「どうすんだよオイ…」
うろたえる照山。
バージルは意を決して告げた。
「もはや一刻の猶予もない。ムスゾンの進行を止めつつ、ワクチンを完成させねばならん。」
「でもどうするの?もし片方に目的の薬がなかったりしたら、もう片方まで取りに行かなきゃいけない。その間に襲われるわよ」
レディが言い、光輝が打開策を教える。
「その点は心配ない。僕は瞬間移動が使えるから、ムスゾンに襲われることなく、薬を集められる。」
「なら、あなたは私と来て。」
「わかった。」
光輝はディスクと行動をともにする。
「なら、俺達はムスゾンの足止めだな。」
「ネメシスの相手もしなければならん。」
ダンテ、バージル、レディ、トリッシュ、照山、一真は、ムスゾンの相手をすることにした。
と、
「光輝。」
フェイトが話しかけてきた。
「フェイトさん?」
「話は聞いた。私も行く」
「でも…」
「大丈夫。自分の身は自分で守れるから」
そこに、なのは、はやて、シグナム、ヴィータも来る。
「じゃあ私達は、ムスゾンの相手だね。」
「私らの魔法は非殺傷設定ができるから、その分楽に戦えるで。」
「お前達だけに任せておくわけにはいかんからな。」
「私らだけじゃねぇ。このクラスの全員が、お前らと同じ気持ちだぜ。」
言われて光輝達は、クラスメイト達を見た。
風都を守りたい、ムスゾンになった人を助けたい。それは彼らもまた、同じ気持ちだった。
「みんな、ありがとう!」
光輝がお礼を言い、3年B組の生徒達は動き出した。
ムスゾン銀八を拘束しておくことを忘れずに。
光輝、フェイト、ディスクは瞬間移動を使い、保健室に来た。保健室といえば、学校における薬品保管場所の王道である。なのでまずここに来たのだ。
しかし、保健室はすでにムスゾンが溢れかえっていた。
〈CROSS!〉
「変身」
〈CROSS!〉
「バルディッシュ、セットアップ!」
〈Set up〉
光輝とフェイトはすかさず変身し、ムスゾンを蹴散らしていく。
やがてムスゾンが一人もいなくなった頃、ディスクが薬を探し始める。クロスとフェイトも手伝い、ディスクが探していた薬はすぐ見つかるのだが…
「あと一つ足りないわ」
「よし、じゃあ次は理科室だ!」
「うん。」
「お願い。」
フェイトとディスクはクロスに掴まり、クロスは瞬間移動によって二人を連れ、理科室に向かった。
理科室にたどり着いたクロス達。だが、ここもムスゾンに占領されており、しかも……
「ネメシスか…!」
クロスが言った通り、屈強な肉体にムスカの顔をもつ異形の生物兵器、ネメシスが一体、ムスゾンの中に紛れていたのだ。
「光輝…」
心配そうな声を漏らすフェイト。クロスは一瞬でわかった。フェイトでは、この怪物に太刀打ちできない、と。
「フェイトさんはムスゾンの相手をお願い。僕はネメシスを仕留める。ディスクさんは下がって!」
「う、うん!」
「わかったわ。」
クロスの言葉に従い、フェイトはムスゾンの相手し、ディスクは下がる。
「行くぞ、ネメシス!!」
「はっはっはっはっ!!私と戦うつもりか!!」
クロスはネメシスとの戦いを始めた。
クロス達が激闘を繰り広げている頃、それ以外の場所でも、乱闘が始まっていた。
「オラァッ!!」
「ふっ!!」
ダンテはリベリオンの側面で叩き、バージルは閻魔刀の峰打ちを決め、次々とムスゾンを倒していく。
「チッ!殺さねぇように加減するってのは、難しいもんだな!!」
愚痴をこぼしながら、再びリベリオンの側面でムスゾンを叩くダンテ。
「我慢しろ。これぐらいできんようでは、最強など程遠い!!」
バージルはそれを諫めつつ、際限なく襲い来るムスゾン達に峰打ちを決めていく。
「殺せねぇ分、あの時より状況が悪い。そして何より気持ち悪い」
「確かに、ある意味最悪なバイオハザードではあるがな。」
彼らが以前戦ったゾンビは、これより遥かに気持ち悪かったはずだが、彼らからすれば、こっちの方が気持ち悪いらしい。
「リトルボーイ!!」
照山は燃える拳でムスゾンを殴った。
「ウィルスは熱に弱ぇから、案外俺の炎でウィルスを除去できるかと思ったが…どうもそんな簡単にはいかねぇらしいな…」
照山のリトルボーイは確かに直撃したが、ムスゾンになった人間は、元に戻っていなかった。やはりワクチンが必要なのだろう。
そこに、サイクロンジョーカーエクストリームに強化変身したWがやってきた。照山が驚く。
「あんたらも来てたのか!?」
「ああ、事務所にこいつらが押し寄せて来てな…」
彼らがここにいる理由は、事務所がムスゾンの襲撃を受けたためだった。
ちなみに、ムスゾンは弱かったので、別にエクストリームを使う必要はなかったのだが、普通にWで戦うとフィリップの身体が無防備になってしまうため、万が一、フィリップの身体が狙われた時のための予防策としてエクストリームに強化変身しているのだ。
「ああ、こいつらは殺さない方がいいぜ。元に戻せるらしいからな」
「そのことなら心配はいらない。すでに検索済みさ」
「…あーなるほど」
照山はフィリップの地球の本棚のことを思い出し、納得した。
その時、
「ゴミのようだ!!」
「はっはっはっはっ!!」
「私はムスカ大佐だ。」
「勝負するかね!?」
ネメシスが四体現れた。
ダンテ、バージルも駆けつけ、Wがダンテに尋ねる。
「おい、何だこのバケモンは!?」
「生物兵器ネメシス。俺達が知ってるやつより、気持ち悪いけどな。」
ダンテが説明すると、ネメシスの一体が言った。
「最高のショーだと思わんかね?」
「思わん!!」
バージルが斬りかかり、W達も戦いを挑んだ。
クロスはネメシスと拮抗した死闘を繰り広げていた。
ネメシスはライダーにも匹敵するほどの豪腕を振るい、クロスはそれを巧みにかわして一撃を打ち込んでいく。しかし、相手はゾンビと同じような存在。チマチマとした攻撃をいくら繰り出しても、倒せない。
「一気に決める!フィニッシュ!!」
〈CROSS・MAXIMUM DRIVE!〉
「クロスインプレッション!!」
クロスは必殺の両足蹴りを叩き込み、
「眠れ。深淵の底で」
「目がぁぁぁぁ!!」
ネメシスを爆砕した。
(目?僕は胸に食らわせたんだけど…)
クロスはネメシスが発した断末魔を奇妙に思いながらも、フェイト達の元に行き、薬探しの手伝いを始めた。
〈XTREAM・MAXIMUM DRIVE!〉
「「ダブルエクストリーム!!」」
「ヴァルカンショックイグニション!!」
「ハイタイム!!」
「疾走居合!!」
Wはエクストリームメモリが生み出す竜巻に乗って放つ両足蹴りを、照山は巨大な火球を、ダンテはリベリオンによる斬り上げを、バージルは超高速で駆け抜けながらの居合斬りを、それぞれ放つ。
「「「「目がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」
ネメシスは断末魔をあげながら絶命した。
「…何で目なんだよ。」
W翔太郎サイドが、静かにツッコミを入れる。
「さぁて、今頃コウキ達は、ワクチンを作ってるところか?」
ダンテはさらに襲い来るムスゾン達を見て、気だるげに言った。
なんてことだ…。
今、僕とフェイトさんとディスクさんは、あまりにも残酷な現実に、打ちのめされている。
なぜなら、保健室になかった最後の薬、それがここにもなかったからだ。
「そんな…これじゃ…」
「ワクチンが作れない…ムスゾンにされた人達も、助けられない…」
フェイトさんもディスクさんも、僕と同じ気持ちだ。絶望にうちひしがれている。
ディスクさんの話だと、ワクチンを作るために必要な薬は、どれも海外の有名病院にでもいかなければ、手に入らない代物らしい。
つまり、この学園にないということは、風都中の全ての薬局や病院を探しても、絶対に見つからないということだ。この学園にここまであっただけで、すでに奇跡だったんだ。風都はこのまま、ムスゾンに占領されてしまう。そう思うと、悔しくてたまらなかった。
「クソォッ!!」
僕は悔しさのあまり、壁を殴ってしまう。
「何か…何か手はないのか!?みんなを助ける方法はないのか!?」
僕がそう言った時、僕の頭の中に、みんなを救う方法が浮かんだ。
なんだ…あるじゃないか。全てを救い、全てを守れる究極の力が!
〈ETERNAL!〉
〈INFINITY!〉
〈CROSS/ETERNAL/INFINITY!〉
〈UNLIMITED!〉
僕はクロスアンリミテッドに強化変身した。
「光輝?」
「何をするつもりなの?」
「アンリミテッドフォースで、ウィルスを浄化する。」
「そんなこと…」
「できるよ、フェイトさん。アンリミテッドフォースが、本当にありとあらゆる事象に干渉できるなら。」
その言葉を最後に、僕は意識を集中する。
ああ…この感覚だ。
今なら、何でもできる。
僕はさらに意識を集中し、ただひたすら願った。みんなを助けたい。みんなを、この恐ろしいウィルスから救いたい…!
「M-ウィルス、浄化!!」
僕はアンリミテッドフォースを解放した。
全てのネメシスを倒したブレイドは、校舎の中を光が満たしていくのに気付いた。
「これは…アンリミテッドフォース!?」
アンリミテッドフォースの優しく、暖かく、力強い光は、そのまま学園を溢れだし、風都を包み込んでいく。
そして、
風都からM-ウィルスが消滅した。
「…ふぅ」
アンリミテッドフォースの解放を終えたクロスは、変身を解いた。
「…」
ディスクもフェイトも、あまりに幻想的な光景に放心状態に陥っていたが、ディスクはまだ胸の高鳴りが収まらない中、バイザーを着けてスキャンを発動、結果を言う。
「M-ウィルス、反応…なし。空気中から…消滅してる…」
「…すごい…」
フェイトはようやく我に返った。
そこへ、ダンテ、バージル、照山、翔太郎、フィリップがやって来た。
「コウキ!大丈夫だったか!?」
ダンテは光輝を心配する。
「うん。ワクチンが作れなかったから、アンリミテッドフォースを解放して、ウィルスを浄化した。」
「…すげぇなオイ。正真正銘、神の力かよ…」
照山は圧倒されていた。
バージルは妙に思う。
「しかし、お前にはリミッターがかけられていたのではなかったのか?」
「そうだ。一真を救った時といい、今といい…どういうことだ?」
翔太郎も考える。
「…もしかして…」
フィリップが何かに気付いた。
「白宮光輝。君は僕達を守りたいという激情によって力を覚醒させた。剣崎一真を救う時も、彼を救いたいという激情によってあのカードを生み出した。そして、さっきもこの街を救いたいという激情によって力を解放させた…違うかい?」
「合ってますけど、それが何か?」
「やっぱり…」
フィリップは確信する。
「君にかけられたリミッターを解除する鍵…それは『激情』だ。」
「激、情?」
光輝はおうむ返しに尋ねた。
「ああ。つまり君は、誰かを救いたい、守りたいという気持ちによって、その力を100%発揮することができるんだ。」
「なるほど、思いやりこそが力の源…あなたらしいわね。」
ディスクは微笑んだ。
そして、フェイトがお礼を言う。
「ありがとう光輝。この街を…私達を守ってくれて…」
光輝は、その綺麗な笑みに魅了された。
「どういたしまして、フェイトさん。」
フェイトもまた、光輝の見せた優しい笑みに魅了されていた。
ムスカ達は、竜の巣の中にあった巨大な空中都市、その城の中にいた。
「まさかこの世界にこんなものがあるとは…驚きましたね。まあ風都にあんなくだらないウィルスをばらまいたことにも驚きましたが」
ウェザーに変身したまま、井坂は驚いていた。ムスカは笑う。
「全ては、世界を私色で染め上げるための布石だよ。」
「私も興味深い実験ができましたしね。」
スカリエッティも言った。
「はぁ…」
ウェザーとしては、彼らの掲げる世界征服の野望など、心の底からどうでもよかった。大いなる力とやらさえ手にできれば。
「ところで、大いなる力とは、どこにあるのですか?」
ウェザーは本題を切り出した。見たところ、それらしきものはどこにも見当たらなかったからだ。ただ単に、目的地に着いていないだけかもしれないが。
しかし、ムスカから返ってきたのは、意外な言葉だった。
「まだ気付かないのかね?」
「…は?」
ムスカの言いたいことがわからないウェザーは、間抜けのように聞き返してしまう。
対するムスカの方は相当上機嫌らしく、そんなウェザーにも誇らしげに答える。
「この城そのものが、大いなる力だよ!!」
「オイ!!誰だこんなことしたヤツ!!」
自我を取り戻した銀八は、拘束されたまま教室の中で叫んだ(この後ちゃんと解放してもらいました)。
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次回、
仮面ライダークロス!!
スパーダ「私がお前達のために造ったドライバーと、ガイアメモリだ。」
バージル「ソウガ、ドライバー…」
スカリエッティ「さぁ、祭りを始めよう!」
ムスカ「これで世界は私の物だ!!」
光輝「そんなこと、させない!!」
第十六話
Mの狂気/カオスな文化祭
これが裁きだ!!
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実は今回から長編なのですが、ほぼギャグです。 | ||
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