《インフィニット・ストラトス》〜二人の転生者〜 |
外伝・第一話 電光石火と瞬間加速
「夏……なんか寂しいな」
「秋もか?やっぱり……寂しいよな」
今は春休み、織斑家のリビングでぼーっとしていた。もう少しすれば俺も夏も小学五年生だ。その前に俺と春華の誕生日があるのだが、気分は浮つくどころか深く沈んでいた。幼馴染の篠ノ之箒が引っ越して転校してしまったのだ。
「理由はわかるけどさ、転校まですることなのか?」
「多分することだと思うぜ?」
直接は関わってないとはいえ、原因のIS開発者としては良心が痛む。俺たちが小学一年生の時に束さんがISを発表、その数カ月後に一般で言う《白騎士事件》が発生、そのせいで世界中の軍事バランスが無に帰り、各国で会議が行われ今でこそ落ち着きを取り戻しつつあるが、まだ問題は結構あるはずだ。なんでもIS操縦者を育成するための《IS学園》というのがあるらしいしな。
「しかしだからって今まで放ったらかしにしておいてイキナリ保護って……おかしいだろ!?」
夏は苛つきながらそう言い放つ。勿論相手は俺しか居ないから俺に向きながら言うのだが――
「んなこと言ったって俺達に何が出来るんだよ?それに実際に命は狙われる危険度がある箒だ、保護と言う拘束や軟禁でもちゃんと食事は与えられるし安全は確保されている。事情聴取や取り調べで心身共にボロボロになるだろうが連絡が取れないわけじゃない、箒のことだ筆で丁寧な言葉を連ねて手紙でも送ってくるさ」
「……矢文が来たらどうするよ?」
「……それはつまりそれほど元気ってことだろ?」
少し沈黙したあと、俺達は大爆笑した。俺の言葉に少し安心したんだろう、俺も心が軽くなっていた。
「しかし春休みってやること無いよな〜」
「んなこと言って学校始まったら始まったらでなんかボヤくんだろ?」
俺と夏は無音のリビングでそう話す。
「そりゃ秋はいいよな、勉強が理解できるんだから俺なんか九九覚えるのに四苦八苦してたのに一発で覚えたもんな」
「そうだっけ?ってかなら今のうちに勉強教えてもらったら?身近に教えてくれる人がいるんだから」
「千冬姉のこと?いや、教えてくれるとは思うけど厳しすぎてやってられないし、最近は家に居ないんだ、何処行ってるんだろ?」
束さんが失踪したんだ、冬姉もそうなっちゃってもおかしくないか。俺もIS開発者の一人だけど殆ど影の存在だからな、誰も気にもとめなんだろう。いいことだ。
「じゃあまあ俺はゲーセンでも行くけど……夏はどうする?」
「またかよ……まあやること無いから行くけどさ」
そう言い、俺と夏は財布などの必要な物を持って織斑家を出て、街中のゲーセンへ向かった。
「え〜っと、まずは両替機でお金崩さないとな、あったあった」
街中のゲーセンに着くとすぐに入って、騒がしい中両替機でお金を崩しにかかる。
このゲーセンは大通りからちょっと外れた場所にヒッソリと立っており、学校帰りの中学生や高校生が来る程度で後はほとんど客は居ない、しかし置いてあるゲームの種類は豊富な、いわゆる穴場という場所だった。
「で、何階に行くんだよ……いや、わかるけどさ」
「なら聞くなよ」
夏の問に俺はそっけなく答えると階段を登っていく。
このゲーセンは敷地は狭く、横に広いのではなく、上に高いのだ。三階建で一回はクレーンゲームと全年齢に人気がある音ゲーが置いてある。二階はほぼ男子禁制の階でプリクラ機が結構な数が置いてある。女子が一緒なら入っても構わないのだが男子だけで禁止されている。何故かって?痴漢とか盗撮の類の未然防止のためだろう。階の入り口にはかなりのプリクラが貼ってあり、所々剥がされた後もある。
「お、まだ残ってるぜ、ほら箒と俺と夏、春華の四人で撮ったやつ」
「お、本当だ。まだ残ってるんだな、これ撮ったのって丁度一年ぐらい前だぜ?」
そのプリクラは俺と春華は笑っており、夏は箒を引き入れており、箒は焦りながら入っているという構成だ。前が俺と春華、後ろが夏と箒である。
「……さてと、三階に到着!空いてるかな〜……お、丁度空いてたぜ!一緒にやらね?」
「ん〜あんまり得意じゃないんだけど……いいぜ」
三階は主に中学生や高校生に人気な音ゲーとレーシングゲーム、ミディタイプのアーケードゲーム……そしてIS・VBGが四台置いてあった。内二台は対戦中というライトが光っていたが残りの二台は空いていたので中に入り、ゲームを作動させる。このゲームは全国ネットだから何処に住んでいようが、例え沖縄と北海道だろうが対戦できるのである。
「登録カードを入れて……パスワード入力っと……さて、どのルームに入ろうかな」
このゲームは登録しなくても出来るのだが登録したほうが公式サイトや課金アイテム、ゲーム内通過で装備が買えたりするのだ。夏も持ってはいるのだが余りやってないため初期のままだと思う。俺はラファール・リヴァイヴを使っているが課金はしていない。金をつぎ込むほどやろうとは思わないし、ゲーム内通貨で買える装備で十分なのだ。
「今日はチーム戦のところでやろうかな……っと個人チャット?」
『チーム戦なんですが人数が後一人足りなくて……一緒にどうですか?』
ふむ、個人チャットでの呼びかけか。折角だ、ここにしよう。
「いいですよ……っと。ここか、五対五の対戦か。ステージは……夜の密林?普通はアリーナとかじゃないのかよ?」
このゲームは本物じゃないからあり得ない設定もできるのだ。それこそ吹雪の中とか火山の火口付近とか……ちょっとわかんないよね。
周りの風景が密林になったと思うとアラームが鳴り、バトルが始まった。
「さてと……作戦も何もないからな、兎に角上空に上がったらばれる可能性がある、木々を影替わりに静かにゆっくり動くか……」
俺はPIC機能ををある程度カットしてハイパーセンサーをフル稼働させて歩きながら静かに移動する。
――……パンパンッ!……ザザッ、がキンッ!キンッ!――
不意に戦闘の音が聞こえてくる。
「……あそこか……」
バレないように近づき、覗きこむと相手の五人でこっちのチームの一人を一方的に攻撃している最中だった。
「……他の連中は……まだ距離があるか、今の状態で加勢しても結果は大体分かる。ここは大人しくしているべき……!!馬鹿!何で突っ込む!!」
俺は様子をうかがっていると急いできたのか、友軍の一人が加勢に入ったが二人揃ってボコボコにされてしまった。
「いつまでもいれないか……ここは他の二人に連絡を……」
――……ザザッ……こち……ザザザッ……ど……ザーーー……――
俺はチーム内通信で連絡を取ろうとするが繋がらない。普通だとありえない。
「これは……ジャミング!!くそっ!相手側に大量課金者がいるっていうのかよ!!」
ジャミングやビット、果てにはレーダーや暗視スコープという確実に有利になる装備が課金の装備なのだがどれもこれも高いのだ。しかしジャミングはその中でも結構高い方――一万は下らない程だったはずだ。しかもさっき見た限りだと暗視スコープや熱源探知も装備してた……こりゃあヤバイかな?
「は〜っ、やっぱりISのゲームは向かねえや。体使うから体力結構いるし……秋は何やってんだろ?」
ゲーム機から出てベンチに座りながら飲み物を飲む。辺りをキョロキョロと目線を移動し、大型スクリーンに秋達の対戦画面が映っていたのが見えたので近づき見物する。しかし他の見物客がざわめいている。
「おい、あの五人の装備、全部課金装備だぜ?」
「ああ、しかも相手は素人ばっかり、最後に残った《シュウ》ってやつも逃げてばっかりで反撃の様子がない」
「こりゃあ最近噂になってる《赤報愚連隊》の奴らじゃねえのか?」
「ああ、あの負けたやつから金を巻き上げるって奴の?でも証拠はねえんだろ?」
「噂じゃゲーム内で相手に課金装備買わせてるって噂だぜ?しかし記録に残ってないから証拠が無いんだけどな」
《赤報愚連隊》――最近勢力を伸ばしている不良集団である。主に機械などのハッキングやクラッキングに長けているらしく被害にあったIT機業が十件も超えているとか。
「こ、これって電話したほうがいいんじゃあ……!?」
俺が電話しようとしたらバトルに急展開があったのか見物客が騒ぎ出した。
「あ〜あ、アイツもしびれを切らして攻撃しちまった。もっと前なら対処もあっただろうに」
「で、でもよ……相手の五人、どこから攻撃されてるのかわかんないらしいぞ!?ほら!一人倒した!」
「ま、マジかよ!!うおっ!二人目まで!!……チィッ!駄目だ!バレた!」
「よし、これだけ距離が空いてれば……でも無課金のスコープじゃこれが限度か……」
俺はマップの一番端まで行き、超遠距離型IS用対物スナイパーライフルを展開、最高倍率で射程距離ギリギリの五人を狙っていた。このライフルはあるイベントで当たった唯一の課金武装なのだがそれにあったスコープまで付いて来なかったので無課金スコープをしてるのだが、倍率が足りず、ピンボケでろくに狙えなかった。しかしその代わり武装としては現在最強とされている《((灰色の鱗殻|グレー・スケール))》という六十九口径パイルバンカーの次に最強の武装で現実では稀に絶対防御を発動させる武装として有名だった。しかし生産に多大なコストがかかるため現実世界に残っているのは十本だという。
「狙いは頭……絶対防御を発動させれば二発、外れても数発で倒せる。暗視スコープなどに当たればラッキー……行けっ!!」
俺はピンボケのスコープを眺めながら引き金を引く。すると銃弾はそのまま相手のうちの一人の頭上を直撃、一瞬の溜めも置かずに続けざまにもう一発、修正も何もなかったが連続で打ったのでまた頭上にヒット。一機を倒した。
「おい!どこからの狙撃だ!」
「わ、わからねえ!暗視スコープで見ても反応がねえ!!」
「ふんっ!わかるものか……暗視スコープで見れる距離はこのライフルの射程の1/10だ、この距離なら絶対にバレない……もう一機!!」
俺はさっきの方法と同じくもう一機も倒した……が――
「この先だ!倒れた方向と銃弾の開けた穴からしてまちがい無い!!俺は下から行く、お前らは上からいけ!!」
「「了解!」」
すると三人は動き出した。
「意外と早かったな……だけど近づいてきたのは誤算だったな……見えた!!」
俺はスコープで見えた相手の頭上を撃ちぬくとライフルを仕舞い、上空に上がる。
「……残るは二人だけだよ……赤報愚連隊のお二方」
「!!な、何故それを!?」
俺は上空で相手に語りかけた。
「簡単だ、ジャミングや暗視スコープ等のその他諸々の課金武装、通常積めるはずの無い武装、拡張領域以上の武装やシステム……そんあ不正行為を平然とやってのけ、運営サイトにバレない手際の良さ……赤報愚連隊に間違いはない。まあ確証は今のそっちの一言だけどな?敵の質問にそういう答え方はないだろう?」
「くっ……だがわかったところでどうする?このゲーム内の会話は外部には漏れていない、お前のようなガキの発言なんか誰が聞くと思う!?」
「そうだな……録音でもしてなければ証拠はない」
「ハッハッハ!所詮子供の浅知恵だったな!しかしバレちまったからには早々に決着を付けないとな……喰らえ!!」
その瞬間、相手の一人が銃系等の武装で攻撃してきた。それをバレルロールでよけるが読まれていたのか、後ろに回り込んでいたもう一人に同じ武装で攻撃された。しかもこの武装は――
「ビームライフル!?しかも攻撃力が半端ない!?」
「改造で数値をいじってる俺らに叶うはずがないだろ!?まだまだあるぜぇ……たまげろぉ!!」
さっき喋っていた奴とは別の、後ろに回り込んだ奴がそう言うと、ビームを発射するビットが十基現れ、攻撃してくる。
「ビットか……珍しい物使ってるじゃねえかよ……」
ビットも課金装備だが金額はちょっと高い程度で、購入するプレイヤーもそう多くはない。ただし販売方法が一基づつなので後々のことを考えると結構高い買い物になってしまう。しかもビットは使える人間がそうそういない。頭で考える方法と、実際に手でキーをいじりながら遠隔操作する方法があるのだが、どちらも複雑な思考と操作が要求されるのでビットは運営側の策略てきな武装になてしまった。しかし一度扱いに慣れて、そのポテンシャルを十分に発揮出来れば、驚異的な攻撃力を備えた武装となる……そして
「やっぱり不正行為で操作しやすくしてやがるな!しかも十基……片方五基としてもこれじゃあ攻撃する暇がねえ……」
俺はスラスターとPICをフル稼働させて避けている。しかしビットはそんなのお構いなしに前後左右、四方八方に回りこみ、狙い打ってくる。しかも本体に戻ってエネルギーを供給するような動きもない……どうする!考えろ!!
そんなふうに考えてると、ふと前世で教わったある言葉が思い出された。
――いい?相手がこっちより多い場合、勿論攻撃も多いわ。そういう場合は最小限の動きで攻撃を避けて、相手の僅かにある隙を突くの。そうすれば敵が多くても逃げる隙や、撃退することが可能よ――
厳しくも優しかった上司であり教官の言葉が頭の中でこだまする。
「最小限の動きで隙を突く……か、隙ができるかどうかはわかんないが、やれることはやらないとな!!」
俺は空中でISを止めた。するとすぐにビットがこっちを狙ってきた。
「九時の方向から頭……一時の方向から右足……六時の方向から左方……十二時の方向から頭」
俺は俺はハイパーセンサーを使い、ビームが来る方向と狙う場所を分析しながら最小限のスラスターだけで避けて行く。
「くそっ!なんだアイツ、イキナリ避け方が変わりやがった!!」
「うろたえるな!あんな避け方がいつまでも通用するはずがねえだろ!一斉掃射だ!!」
相手の一人がそう叫ぶとビットが俺を囲むように全方位に展開、ISに乗っている二人もライフルをこちらに向けて発砲、ビットも全機同時にビームを発射した。
「……甘い!!」
俺は前方に加速しながらビームの合間を縫い、ビットを二基破壊してそこを通過してまた止まる。
「だいたい分かった……もうお前らの負けだよ」
「うるせぇ!ガキが粋がってんじゃねぇぞ!!」
相手の一気が残りのビットを自分の周りに集めて俺に向かってビームを撃ってきた。
「遅い!」
俺はブースターを小刻みに開けたり閉じたりして、最小限の移動を最速でこなしていた。《((瞬時加速|イグニッション・ブースト))》というのがあるが、あれは瞬時に爆発的な加速を得る技術……いまやっているのはこれの応用、瞬間的にしか発揮しないがトップスピードに持っていく技術、さしずめ《((瞬間加速|モーメント・ブースト))》とでも言うのだろうか?そしてその速度をだんだん上げていく、すると――
「く、くそっ!何でだ!!ガキが何人にも見えやがる!!」
どうも残像が見えるらしい。
「残像が見えるほど早く動いた覚えはないんだがな……そうだなこの回避行動を《電光石火》とでも呼ぼうか?そして……」
俺は回避行動を止め、瞬時加速を発動して一機のビットに近づきショートブレードで切り裂く。同時に隣のビットがこっちを狙ったので今度は横に瞬時加速をしてそのビットを落とす。瞬時加速でビットを落とす、この連続作業だった。
「た、多重瞬時加速!?」
相手が呆気にとられてる間に俺は最後の一基を落とし、瞬時加速で距離を取る。
「これで終わりだ……」
俺は例の対物ライフルと展開すると、瞬時に狙いをつけて二発づつ発砲、次の瞬間には試合終了のブザーが鳴り響いた。
「ご協力、感謝します」
「あ〜……いえ、ただゲームをやっただけなので」
ゲームが終わった後、夏が心配して通報していた警察が到着、相手の五人が赤報愚連隊と発覚、逮捕された。奴らは最初違うと嘘を吐いたが、俺が録音していたボイスレコーダーが証拠となり、無事事件は収まった。俺は事情聴取のために警察に任意同行、今帰路につこうとしていた。うん?録音はしてなかったんじゃないかって?「録音でもしてなければ証拠はない」とは言ったが誰も「録音はしてない」とは言ってないだろう?
「それじゃまた」
「はい、おつかれさま」
俺は警察署を出て、塀の所通過しようとしたら、夕陽のせいで影になっているが少し背の高い女性と俺と同じぐらいの男の子が――冬姉と夏がいた。
「ただいま夏、お久しぶりです冬姉」
「し、秋……何もされなかったか!?」
夏は恐る恐る聞いてくる。夏……俺は犯罪を犯した訳じゃないから大丈夫だって。
「大丈夫だよ。冬姉も俺を心配して?」
「まあ最近は物騒だからな、もうすぐ夕暮れだから迎えに来ただけだ」
冬姉は後ろを向き「帰るぞ」と言った。その顔が赤かったのは夕陽のせいだけじゃないだろう。
「夏〜、今日の夕飯は家に来いよ。カレーにするから」
「おお、いいぜ。千冬姉も行くよな?」
「ああ、ご馳走になろう。しかし一人で大丈夫か?」
「大丈夫、一人や二人増えたって大して量は変わらないから……家には大飯ぐらいが約一名いるので」
そんなことを話しながら俺たち三人は歩いて行く。
数日後、俺が使っていたゲーム機が壊れたのは新聞の端っこで小さな事件として載った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
こんにちは、菊一です。今回は初の外伝ということでオリジナル風になりました……戦闘描写の練習のはずなのにまったく表現できてない感覚がorz上手く書けない!くやしい!
さて、そろそろセシリアパートも終了しそうです。そろそろキャラクター設定載せなきゃな〜。多分近々乗せると思います。専用機の設定も連続で上げる場合は次の話の後編ぐらいになる予定ですが……取り敢えず眠いので今回はコレぐらいで。
ではまた〜
説明 | ||
第十三話……の前に外伝です。電光石火を初めて使った時の過去のお話。 ではぞうぞ〜 |
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