ショートストーリー『神さまの楽園』
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 むかしむかし、西の大陸には、古き時代から神さまや女神さまがたくさん住んでおりました。古き神さまさま達は、時々ケンカもしましたが、仕事や富や信者を公平に分担し、仲良く暮らしておりました。

 

 ところがある日、一柱の新しい神さまが現れました。本当の名前は誰も知らないので、仮に欲張り神さまと呼ぶことにします。欲張り神さまは『全能なる唯一神』を宣言し、様々な手を使って、古き神さま達の仕事や富や信者を奪い取っていきました。古き神さま達は力を合わせて反抗しますが、血気盛んな欲張り神さまは強引な方法で信者を増やし、どんどん力を付けてゆきます。やがて古き神さま達は居場所を奪われ、西の大陸から追い出されてしまいました。

 居場所と共に希望まで失いかけたその時、古き神さま達は不思議な噂を耳にしました。この世界のどこかに、いかなる神さまも受け入れてくれる『神さまの楽園』があるというのです。その噂に希望を委ね、古き神さま達は、残されたわずかな信者と共に旅に出ました。

 しかし、古き神さま達は、行く先々で辛い目にあいます。人が住む場所には、どこにも土着の神さまがいて、「よそ者に信者を盗られてはたまらない」と力ずくで追い出しにかかるのです。ですが、それも仕方のないことです。信者の有無は、どこの神さまにとっても死活問題なのですから。

 長い旅を続けているうちに、ある者は死に、またある者は宗教替えをして、信者は少しずつ減ってゆきました。同時に古き神さま達も、一柱、また一柱と消えてゆきました。神さまは、信者がいないと存在できないのです。古き神さま達と信者達に、安住の地など無いのでしょうか。古き者はそのまま消え去る運命なのでしょうか。彼らは正に風前の灯火でした。

 世界中を回り、精根尽き果てた一行が、最後にたどり着いたのは、東の最果てにある小さな島でした。回りは海に囲まれ、他に進める場所はありません。どのような結果が待ち受けようと、その島が古き神さま達のゴールでした。

『神さまの楽園』でなくていい。居場所さえもらえれば小さくてかまわない…。一縷の望みを託し、神さま達は島を代表する土着の神さまに掛け合います。すると土着の神さまは、笑顔でこう答えました。

「ここは八百万の神の国。百柱増えようと、二百柱増えようと、大差はありません。皆さんがこの島のルールに従い、この島と民のために尽くしてくださるなら、喜んで歓迎いたします。共にこの島を良くしていきましょう」

 

 その島は本当にふしぎな国でした。島に住む人々は複数の神さまを信仰することが許されており、信仰対象を替えることも自由でした。一方で、神さまが信者に与える加護の義務も1年単位と決められており、信者が加護の継続を望む場合は毎年1月に一斉に更新しに来ました。

 古き神さま達にとり、神さまと信者の関係は互いを縛りあう絶対的なものでしたから、この島のローカルルールは衝撃でした。ですが、冷静になって考えてみると、極めて合理的なシステムなのだと気づかされます。大陸思想では決して考えつかない、島国だからこそ生まれた知恵なのでしょう。これなら信者を取り合うこともなく、神さま同士いがみ合うことなく、平和に共存できます。

 また、島の土着の神さまの多種多様ぶりは、古き神さま達をはるかに上回っていました。禍々しき力を持った邪神が信仰されているかと思えば、犬や狐のような獣が神格化されていたり、なんと便所の女神(しかも美女)までいるのです! それもそのはずです。故郷を追われ、この島に逃れてきたのは、古き神さま達だけではなかったのですから。

 そう。この島こそ、居場所を無くした神々の安住の地。古き神さま達が必死に探し求めてきた『神さまの楽園』だったのです。

 

 古き神さま達は、八百万の神に仲間入りすることで、ようやく安住の地を得ました。その際、古き衣を脱ぎ捨て、名前も姿も島の人々に馴染みやすく変えました。だから、かつてなんと呼ばれていた神さまなのか、はっきりしたことはもう判りません。もしかしたら、あなたの町にある神社も、遠い異邦の世界からやってきた神さまを祀っているのかもしれませんね。

 

                                                 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 ………え? 欲張り神さまは、その後どうしたかって?

 西の大陸を自分の信者で溢れさせ、絶大な力を得ました。それこそ、欲張り神さまの望み通りにです。

 しかし、古き神さまをみんな追い出してしまったため、友だちと呼べる神さまは一柱もいません。はべらせた配下達はイエスマンばかりです。『全能なる唯一神』と宣言しているので、誰にも弱みを見せられません。悩みすら誰にも打ち明けられません。

 絶大な力を得た代償に、世界の誰よりも孤独になった欲張り神さまは、はたして幸せなのでしょうか。それとも不幸せなのでしょうか。それこそ正に、神のみぞ知る秘密なのでしょう。

説明
この物語はフィクションです。実在する宗教とは一切関係ありません(笑) ネットで色々調べているうちに出てきた、政治とか神話とか宗教とかオカルトとかのネタをヒントに、自分なりにかみ砕いたり、膨らませたりしてまとめました。(約2000文字)
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