IS-W<インフィニット・ストラトス> 死を告げる天使は何を望む |
あれから数日がさらに経ち、ついにクラス対抗戦の日にになった。
「まさか最初から鈴が相手か」
ピットにて一夏、ヒイロ、箒、セシリアがいた
何かぼやいている一夏の目にウィンドウが開きISの情報が表示されて真耶が説明する。
『((凰|ファン))さんのISは『((甲龍|シェンロン))』。織斑君と同じ近接格闘型です』
すでにフィールドで待機している鈴の映像も同時に公開された。
鈴の機体は中国製第三世代機『((甲龍|シェンロン))』。両肩のスパイク付き((非固定浮遊装甲|アンロックユニット))が特徴的で、手には大型の青龍刀『双天牙月』が二本柄を繋ぎ合体された状態で握られている。
だが、それよりも一夏や箒たちが気になっていたのが…
『そして、補佐の((速瀬|はやせ))さんのIS。『ガンダムアテーナ』です』
ヒイロと同じ全身装甲のIS、皐月の『ガンダムアテーナ』だった。
装備は隠しているのかこの段階ではわからないが、周りから大きな騒ぎ声が聞こえるのでかなり注目されている。
「わたくしの時とは勝手が違いましてよ、油断は禁物ですわ」
「硬くなるな、練習の時と同じようにやれば勝てる」
箒とセシリアが一夏にアドバイスする、そこにヒイロも言った。
ヒイロのウイングゼロの手には前にヒイロが使った実弾のロングライフルがあった。これは本来通常装備のツインバスターライフルの代わりと言う事で特別に許可が出たのだった。
「…『ガンダムアテーナ』の相手は俺がする。お前は鈴音に勝つことだけを考えろ、…危ないときは援護する」
「…ああ!!白式、いくぜ!!」
「…出撃する」
そうして二人はアリーナに出たのだった。
『それでは両者、規定の位置まで移動して下さい』
アナウンスに促されて、一夏、ヒイロと鈴、皐月は空中で向かい合う。その距離は5メートル。ISなら一瞬で距離を詰めれる距離だ。一瞬たりとも油断できない距離。この5メートルの空間に居るだけでやけにピリピリとした空気や緊張感が一夏は圧し掛かって来るのが感じられた。
「一夏、今謝れば少しは手加減してあげてもいいけど?」
「そんなのいらねぇよ。全力で来い」
「一応言っておくけど、シールドエネルギーを突破出来る攻撃力があれば絶対防御に関係なく本体にダメージを与えられる。意味わかっているわよね」
一夏はわかっていた。それは事実で操縦者のみにダメージを与える装備は競技規約違反で禁止されているが、規約を守っている装備で『殺さない程度にいたぶる』ことは可能であることを。
鈴の口振りから恐らく鈴はそれが可能なんだろうと一夏は確信していた。
けれど、一夏は負けられないと思っていた。
『試合を開始します』
ビ――――ッ!
合図とともに一夏と鈴が動き、雪片弐型と双天牙月がぶつかり合う。
「やるじゃない、初撃を防ぐなんて。でも…せいっ!!」
「ぐぁっ!?」
鈴の連続攻撃に一夏は展開されている雪片弐型で何とか受け止めるがやはり鈴の方が有利にことが進んでいる。ヒイロはアテーナの攻撃を自慢の機動性で回避しつつ飛び回り、逃げていたがここに来て一夏がピンチなっていたのでロングライフルを鈴に向けて放つ。
弾丸は鈴の双天牙月を持つ手に当たりそうになるが、鈴の甲龍(シェンロン)のハイパーセンサーに反応があり、紙一重で回避する。
「くっ…ウイングゼロ!!」
鈴がヒイロの方を見ると、すでにライフルを左手に持ち替え右手でサーベルを抜いて接近し鈴と競り合う。その様子を見た皐月も複合兵装シールドガンブレード『烈斬』を呼び出し、ヒイロの後ろから攻撃しようとする。だが…
「皐月!!後ろ!!一夏が!!」
「なっ!!」
いつの間にか、一夏は皐月の後ろに回り、皐月の肩にキックを食らわせる。
「ぐぅ!!」
ヒイロも鈴に右主翼を動かし薙ぎ払う事で鈴からダメージを取る。その間に離脱、そのまま後ろに飛ばされている皐月を後ろからすれ違いさまにサーベルで斬る。
『((甲龍|シェンロン))』
―ダメージ34 残りシールドエネルギー564、装甲 右胴体損傷軽微―
『ガンダムアテーナ』
―ダメージ214 残りシールドエネルギー550、装甲 左肩損傷軽微―
と二機のハイパーセンサーの表示に出てくる。
「鈴落ち着きなさい、ガンダムの相手は同じガンダムの私がするわ」
「わかったわ」
皐月と鈴がそう言うと同時に動き、鈴は双天牙月で一夏に猛攻する。
一方、皐月は『烈斬』の五十二口径機関砲でヒイロを一夏から遠ざける。ヒイロもマシンキャノンで対抗する。
火花を散らしぶつかり合う一夏の刃と鈴の刃。青龍刀と呼ぶにはあまりにもそれにはかけ離れている形状の両先端に刃を持つ鈴の得物は見た目通りの重みのある一撃を繰り出し一夏の雪片ごと弾き飛ばしてしまう。
(駄目だ!!さっきので気づいていたけど、やっぱり接近戦では鈴の方が一枚も二枚も上手だ!あれを使うか?…いや、駄目だ。)
雪片弐型の特殊能力…零落白夜を使用すれば一撃の威力ならまず鈴に負ける事は無いだろう。白式の零落白夜の一撃は現存するどの兵器よりも接近戦では遥かに上回る威力を持っている。でも、それを代償に自身のシールドエネルギーを大きく消費して稼動するため、使用するほど自身も危機に陥ってしまう諸刃の剣でもある。そう何度も使う事は出来ない。ただでさえ雪片弐型でもシールドエネルギーが無効にできる代わりに自身のエネルギーを消費しているのだから。
どう動くべきか一夏は悩やむが先ほどやられている鈴がそれを許してくれる筈も無く容赦無く追撃しかけてくる。両端についたその刃を利用し自在に角度を変えてくる斬撃は、一夏に応戦する隙すら与えず絶えず襲い掛かってくる。
「くそっ!」
「一夏………っ!!」
「あなたの相手はわ・た・し」
一夏の焦りの声にヒイロは再びロングライフルを鈴に向けるがそれを皐月は実体槍でロングライフルの軌道を変えヒイロは誤射した。それで済んだらよかったのだが…
「いくわよ」
「!!」
いきなり槍の先端からビームがでて、接触していたロングライフルが破壊された。
これが『ガンダムアテーナ』のビーム発生デバイス装備型実体槍『((天之瓊矛|アマノヌホコ))』の力である。実体槍の刀身にビーム発生デバイスを内蔵し、ウイングゼロのビームサーベルからデータを引用して作られた。ビーム兵器はエネルギー消費が激しいので、刀身の根元にエネルギーを内包したカートリッジを六発入れるリボルバーを装備。ビームの形状固定までは再現出来なかったので相手に突き刺して機体から信号を送り、ビームを射出する。一発につきカートリッジ一つ消費し高い威力を示す。
ヒイロはそのまま壊れたライフルを皐月に投げつけ、翼で一気に上昇する。
「ヒイロ!!」
「…問題ない、来るぞ」
一夏とヒイロの秘匿通信の間に鈴は一夏に近づく。一夏は少し距離を取ろうとするが、
「甘い!」
鈴がそう言うと甲龍の肩装甲の((非固定浮遊装甲|アンロックユニット))がスライドして開く。装甲が開かれて中心の球体が姿を晒すとその球体は輝き始め、その光は極限にまで強く輝いた瞬間、一夏は目に見えない衝撃に『殴り』とばされた。
(な、んだ…!?)
「今のはジャブだからね」
(牽制の後は本命と決まっている。やばい…!!)
と一夏が思った時にはすでにドンっという鈍い音が白式から聞こえた。
「ぐあっ!!」
再び見えない衝撃に殴られ、一夏のシールドバリアーを貫通して痛みが身体を襲う。エネルギーもかなり消費し、白式のエネルギーはこの段階で250を切っていた。
「何だ、あれは…?」
モニタールームでモニター見る箒が呟く。その疑問に答えたのは同じモニターを見つめるセシリアだった。
「衝撃砲ですわね。空間自体に圧力をかけ、砲身を形成、余剰で生じる衝撃自体を砲弾として撃ち出す、ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」
箒はそう聞いて心配そうにモニターを見ていたのだった。
「驚いたわ。この龍砲をこうも避け続けるなんて。砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」
鈴の言う通り、一夏は龍砲を何とか避けていた。砲弾が見えないのはまだしも、砲身までもが見えないのはきつい。しかもどうやらこの衝撃砲、砲身斜角がほぼ制限無しで撃てるようだった。真上真下はもちろん、真後ろまで展開して撃ってくる。弾は銃口から飛び出してくる物だと言う概念に囚われている一夏には全方位に撃つ事が出来る砲身に警戒して避け続ける事しか出来ず、反撃の糸口を見つけられないでいた。
(ハイパーセンサーに空間の歪み値と大気の流れを探らせているが、これじゃ遅い。撃たれてからわかっているようなものだ。何処かで先手を打たなければ…)
ぎゅっと右手に持つ雪片弐型を握り締める。雪片弐型が持つ『バリアー無効化攻撃』。
(やはり今回もこれに頼るしかないのか…)
一夏がそう考えている隙に皐月がシールド装備ボウガン型エネルギー砲『烈洸』で一夏を攻撃した。こちらも同じく倉持技研の最新作で左腕に取付けるボウガン型エネルギー砲。連射は効かないが一発の威力はレールガンに、速度はレーザーに匹敵する。ガンダニュウム合金製物理シールドを表面に装備し、弓の部分はアテナが伴う梟の翼のイメージで未使用時には折り畳める武器だ。
一夏はそれに気づき回避するが
「フフ…もらったわ」
皐月がそう言うと後ろに鈴が龍砲を構えていた。
「しまった!!」
「終わりよ!!」
鈴が衝撃砲を放ったが、その二人の間に翼を前に展開したヒイロが割り込み、身代わりになった。しかし、翼にはほんの少し汚れただけでほぼ無傷だった。
それもそのはず、ウイングゼロの翼はシールドの役目をしているのでガンダニュウム合金も何重にしてかなり強いものを使用している。龍砲の一発ぐらいでは変形したりしない。
「一夏…思い出せ。俺との模擬戦後に言ったことを」
ヒイロは((秘匿通信|プライベート・チャンネル))そう言うとビームサーベルで皐月に斬りかかる。
一夏は動き回りながら模擬戦後の事を思い出していた。
『なあ、ヒイロ。どうやってみんなは射撃とか躱してんだ?』
『…人それぞれだと思うが基本は銃身と砲口の角度、そして引き金を引く瞬間を見ることで判断しているだろう。後は視線や気配だ』
『視線?』
『人間、無意識のうちに目標とする部分を見る性質がある。…相手の視線を見れば何処を狙っているかがわかる』
『ふーん…』
その言葉を思い出し、一夏は鈴の視線を見ると…
(――間違いねェ。人間としての視界に入るうちは目で追っている。…なら、新しく覚えたとっておきの『あれ』を使うしかない)
一夏はそう結論付けると動き回り龍砲から((三次元躍動旋回|クロス・グリッド・ターン))で逃げ回る。
一方ヒイロと皐月の方はヒイロが優勢だった。いくら武装が優れている皐月でも歴戦の兵士のヒイロ相手にダメージを取れないのが現状である。しかしヒイロも優勢と言ってもマシンキャノンで少しずつ与えてるだけでなかなかエネルギーを減らせていない。ツインバスターライフルが使えないことで武装、機体性能両方をみてウイングゼロの方が武装が少なすぎて有効打を与えられない状態である。損傷覚悟の本当の戦いならヒイロは接近してサーベルで終えている。しかし、ウイングゼロのシールドエネルギーはものすごく少ないのでそれはできない。よってなかなか決まらないでいた。
だが、ここで一夏が自分の間合いに鈴を入れた。それも今まで見たことのない動きで。
その様子を見ていた皐月は驚きを隠せなかった。直線的ではあったが一瞬で鈴を捕えた動き…それは…
「な!!((瞬間加速|イグニッション・ブースト))!?いつの間におぼえたの?」
「千冬直伝だからな…隙だらけだぞ」
((瞬間加速|イグニッション・ブースト))
ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速する技術だ。一夏は鈴が衝撃砲を撃った瞬間に避け、一気に使って雪片が届く範囲に接近したのだ。
そして隙が生まれてしまった皐月にヒイロも接近する。そして二人がトドメを刺そうとした時だった…
突然、爆音とともに衝撃が走った。そして土煙が上がり、その中から『何か』がアリーナのステージ中央にたたずんでいた。さっきの爆音は『何か』がアリーナの遮断シールドを貫通して入って来た衝撃波だった。
「な、なんだ!?何が起こって…」
(一体何が起こっていんだ?今の衝撃は一体…。事故か?いや、遮断シールドを貫く程の威力がある何かが発生する程の事故って何だ?)
状況も分からず混乱する一夏に、鈴からオープン・チャンネルが繋がる。
「一夏、試合は中止よ!すぐピットに戻って!」
鈴は焦っている口ぶりだがけれど冷静にそう言った。
一夏は何をいきなり言い出すのか。鈴にそう思った瞬間、ISのハイパーセンサーが緊急通告を行ってきた。
―――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています―――
「なっ―――」
アリーナの遮断シールドはISと同じ物で作られている。それを貫通するだけの攻撃力を持った機体が乱入し、しかも此方をロックしてきている。混乱する頭で漸くそれを理解するとぶわっと嫌な汗が一夏から噴き出した。
唯でさえ鈴たちとの戦闘で消耗していると言うのに遮断シールドを貫通する程の攻撃を受ければひとたまりも無い。
「お前はどうするんだよ!?」
「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」
「逃げるって…女を置いてそんな事出来るか!」
「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!」
一夏は苦虫を食ったような顔をした。真実であることを自覚し、なにもできない自分にいらだちを感じたからだ
「別に、あたしも最後までやり合うつもりは無いわよ。こんな異常事態。すぐに学園の先生達がやって来て事態を収拾――」
―――警告!敵ISから高エネルギーを確認―――
ハイパーセンサーからの警告に一夏はっとして所属不明のISを見る。すると、所属不明のISはエネルギーを充填して紫に輝く右手を持ち上げて鈴を狙っているのに漸く気付く。そして、鈴はそれに気付いていない。
「あぶねぇっ!」
一夏は間一髪、鈴の体を抱きかかえて回避したが、その直後にさっきまでいた空間が熱線で砲撃された。当たったらひとたまりもないだろう。
「光学兵器かよ……しかもセシリアのISより出力が上だ」
ハイパーセンサーの簡易解説でその熱量を知った一夏は、もし避けずにあのままあの場に居たらと想像してぶるりと身体を震わしてしまう。
そしてその攻撃によって土煙が晴れる。そこにいたのは…全身装甲のISだった
「ち、ちょっと…離しなさいよ…」
「ん、ああ!悪い。怪我無いか?」
一夏は腕を離すと、何だか恥ずかしそうにして離れる鈴。それはそうだろう。
大好きな一夏にお姫様だっこに近いことをされたのだから。
「だ、だいじょうぶ。…アンタが守ってくれたし」
「当たり前だろ。それくらい」
「ど、どうして?」
「そりゃ、あんな攻撃受ければ危ないのは分かりきってるからだろ?自分だけ助かろうなんて薄情な真似できるかよ」
「こ、こいつは!!……はぁ、アンタらしいわ」
―――警告!敵ISからエネルギー充填を確認―――
2人のISが警告音を発する。
「来るぞ!避けろっ!」
「言われなくても分かってるわよ!」
再び放たれるビーム。それをどうにかかわすと、ビームを撃って来たISがふわりと浮かび上がって来た…。
「なんなんだ、こいつ…」
一夏はそう言った。
なぜなら姿からして異形だったからだ。深い灰色をしたそのISの手が異常に長くつま先よりも下まで伸びている。しかも首という物がない。肩と頭が一体化している様な形になっている。そして、何より特異なのは、その『全身装甲』だった。
通常、ISは部分的にしか装甲を形成しない。何故なら必要無いからだ。防御は殆どはシールドエネルギーによって行われている。もちろん防御特化型ISで、物理シールドを搭載している機体もあるが、それにしたって1ミリも露出していないISなんて聞いたことが無いのだ。
しいて言うならヒイロのガンダムもそうだがあれは絶対防御がない代わりの装甲だ。しかしこいつからはシールドがあることがわかる。
そしてその巨体も異常だ。腕を入れると恐らく2メートルはするであろうその巨体は。姿勢を保持する為なのか全身にスラスター口が見える。頭部には剥き出しの無秩序に並ぶ複数のセンサーレンズ。腕には先程のビーム砲口が左右合計4つあった…。
「お前、何者だよ」
「………」
一夏は通信(オープン・チャンネル)で問うが当然、返事は返って来ない。謎の乱入者は一夏をただ黙って見てくるだけだ。
「織斑くん!!鈴!!」
皐月が大声で二人の名前を言う。
皐月は急いで二人の援護に行こうとしたときすでにものすごいスピードで向かっていく者がいた。ヒイロである。
「任務変更…内容、所属不明敵ISの撃退、及び織斑 一夏の護衛」
ヒイロが再びビームサーベルを抜き、全身装甲のISに接近しようとする。しかし先ほど開けられた穴からビームがふりそそぐ。
ヒイロはそれを回避したが、皐月は少し被弾してしまい、残りエネルギーが300を切った。
その穴からはオーカー(黄土色)を基調とした全身装甲のISが30機もやって来たのだ。その姿にヒイロ驚きを隠せなかった。なぜならそれは…
「ビルゴUだと!」
そう、ヒイロの世界にいたMS…ビルゴUだったのだった。
ヒイロはビルゴUの猛攻を回避する。
「これでもくらいなさい」
皐月は色気ムンムンに言いながら30機いるビルゴUの1機に『烈斬』の五十二口径機関砲と『烈洸』のビームアローで攻撃するがビルゴは両肩に8基搭載している円盤をだし、自身を何かのフィールドで包まれた、そして皐月の攻撃はすべて無効化された。
それを見たヒイロは
「プラネイトディフェンサーまであるのか」
とつぶやいた。
プラネイトディフェンサーとは円盤から出るのフィールドジェネレーター。強力な電磁フィールドを発生させ敵のビームを弾く防御用兵器。対ビーム防御用に開発されたがマシンキャノンやミサイルなど実体弾・物理的衝撃にも有効でジェネレーターは分離後それぞれ独立して行動し、防御範囲を自在にコントロール可能。密度を高めればビームサーベルの斬撃すら無効化するとんでもない装備である。ただし耐久力は有限でありウイングゼロのツインバスターライフル級のビームに対しては数秒の防御が限度である。
しかし、ISの武器は基本威力が高いものは用意できないので無敵の楯となってしまった。
ISの武器で唯一いけるのはバリア無効化能力を持つ雪片やその全力能力、『零落白夜』ぐらいだろう…
「皐月、奴らには接近戦…それも実剣で挑め。まだ攻撃が通る可能性がある…後、俺のそばから離れるな」
「わ…わかったわ」
そう言ってヒイロと皐月はビルゴの大群に挑んだ。
『織斑くん!凰さん!ユイくん!早瀬さん!今直ぐアリーナから脱出して下さい!!すぐに先生達がISで制圧に行きます!!』
突然4人の((秘匿通信|プライベート・チャンネル))で割り込んで来たのは真耶だった。心なしかいつもより声に威厳がある。
真耶の脱出しろという言葉は一夏たちの身を心配しての事なんだろうけど。それは出来ない理由があった。
「―――いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます。いいな、鈴」
「誰に言ってんのよ」
ニヤリと余裕の笑みを浮かべる鈴。
(ああ、お前はそう言う奴だよ)
一夏も鈴の返答にニヤリと笑みを浮かべる。
『お、織斑くん!?だ、駄目ですよ!生徒さんにもしものことがあったら―――』
真耶の言葉は敵ISの攻撃のよって最後まで聞く事無く終わってしまう。身体を傾けての突進を一夏と鈴は左右に分かれて回避する。
「ふん、向こうはやる気満々みたいね」
「みたいだな」
一夏と鈴の横並びになってそれぞれの得物を構える。
「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。武器、それしか無いんでしょ?」
「その通りだ。じゃあ、それでいくか」
近接武器しか持たない一夏とでは、鈴の役割はどうしてもそうなってしまうだろう。
「じゃあ――」
「いくぞっ!」
一夏と鈴を引き割く様に飛んできたビームを避けて一夏と鈴は異形のISに目掛けて飛び出した。
一方ヒイロも真耶に言う。
「これは俺にしか倒せない。奴らにはプラネイトディフェンサーがある。ゼロの攻撃力がないと無理だ。後は任せろ…」
『ゆ!ユイ君!聞いていますか!?』
そう言ってヒイロは通信を切った。
真耶が大声でプライベート・チャネルで呼び掛ける。チャネルは声を発する必要が無いのだがそれほど真耶は焦っていた。
「山田先生、本人たちがやると言っているのだからやらせればいいだろう」
「織斑先生!!何を呑気なことを言ってるんですか!?」
「落ち着け。コーヒーでも飲んで糖分を補給しろ」
そう言って千冬は席を立ち、棚の上に置いてあるポットからコーヒーを淹れ、砂糖を投入し真耶に渡そうとする。しかし…
「…あの、それ塩ですけど…」
真耶の返答に千冬は手を止め自分がコーヒーに入れたものを見る。そこには確かに『塩』と書かれていた。
「…何故塩があるんだ」
「さ、さぁ…。あっ!織斑くんのことが心配なんですね!?やっぱり弟さんですか…ら…?」
真耶は感じ取った。
(――あ、これまずいかも…)
千冬は黙ったままである。だがイヤな沈黙が流れていた。この部屋には千冬と真耶、そして最初からここで試合を観戦していたセシリアと箒だけだ。他の先生は避難誘導等に向かっていた。
「山田先生。これを飲むといい」
背後に般若の幻影を出しながらにっこりとした笑顔で真耶にコーヒーを押しつける。
それも真耶の目の前でさらに塩をドバドバと入れながらにだ。
「えっ、でも、それ沢山塩が…」
「どうぞ」
「いや、その…」
「…どうぞ」
「い、いただきます…」
ついには押しつけられたコーヒー(ほぼ塩)。真耶は自分を責めつつ必死でこれをどう処理するか悩んだ。
「一気に飲むといい」
千冬のこの言葉は真耶にとって死刑宣告と同義だった。
そう言われたせいで真耶は一気に飲まされ、『ボゥエ!!』と言う謎の叫び声と一緒に口からリバースした。
そこにセシリアがこう言ってきた。
「織斑先生!私にIS使用許可を!!」
「無理だな。これを見ろ」
そう言って表示したのはアリーナのステータスチェックだった。
「遮断シールドがレベル4に設定…。全てのハッチが封鎖…。あのISの所為ですの!?」
「そのようだ。これでは避難することも救援に向かう事も出来ないな」
「で、でしたら!緊急事態として政府に助勢を―――」
「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来れば、すぐに部隊を突入させる」
「はぁぁ…。結局、待っている事しか出来ないのですね」
「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」
「な、なんですって!?」
セシリアには信じられない言葉だった。しかし、千冬は淡々と言う。
「お前のISの装備は一対多向きだ。多対一ではむしろ邪魔になる」
「そんなことありませんわ!このわたくしが邪魔などと―――」
「では連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?ビットをどういう風に使う?味方の構成は?敵はどのレベルを想定している?連続稼働時間―――」
「わ、わかりました!もう結構です!」
「ふん。分かればいい」
「はぁ…言い返せない自分が悔しいですわ…」
降参のポーズでセシリアが溜め息を吐きながらベンチに座る。
千冬も正気ではいられなかった。自分の大切な弟が命がけの戦いをしている。気が付けば抑え切れない心がせわしなく画面を叩かせる。明らかに動揺、もしくは焦っている。それを抑えられないでいた。自分は何もできないことに。セシリアに自分も言える立場ではないなと心で感じていた。だから…
(頼む…ヒイロ、一夏を…)
千冬の目線の先にはモニターに映るビルゴUとサーベル同士で競り合うヒイロのウイングガンダムゼロだった。
しかし、ここで気づくべきだった。…・箒がいつの間にかいなくなっていたことに…・
ヒイロはビルゴUと交戦していた。敵にはシールド防御もないのでサーベルで斬りさける。ヒイロはビルゴUと交戦して、あることに気が付き、皐月に言った。
「皐月…こいつらに遠慮はいらない…こいつらはMD(モビルドール)だ」
「MD?なんなの?それ」
皐月には聞いたことのない単語だった。ヒイロは簡単に説明した。
「集団で行動する無人機だ」
モビルドール(MOBILE DOLL)とは、 "MOBILE Direct Operational Leaded Labor" の略称であり、かつてヒイロのいた世界…アフターコロニーでは軍事組織OZに採用され、その生産ラインを奪ったコロニー側の革命組織ホワイトファングによっても運用された。他のパイロットの戦闘データをもとに作られた戦闘アルゴリズムが組み込まれ、完全な自立行動がとれる他、外部からの遠隔操作も可能で人間を遥かに超える反応速度、人体が耐え得る以上の高G機動が可能であり、精密無比な攻撃力と併せ、初期には有人機を圧倒、ガンダムでも悪条件下では、あえなく敗れることもあった。
しかし、ヒイロにとっては戦いなれた奴らなので楽ではあったが問題は今もまだまだ投入されてくることだった。
現に、10機落しているが、10機あの後また同じ穴から入ってきたからだ。
皐月は烈斬の実剣で攻撃するが、やはりMD相手に戦うのは初めてで反応速度で負けてしまう。ヒイロはそんな皐月をかばったりして戦っているのでシールドエネルギーはすでに0であった。
一方、一夏たちも苦戦していた。
「くっ……!」
一撃必殺の間合い。けれど、一夏の斬撃はするりとかわされてしまう。これで一夏は絶好のチャンスを5回ぐらい逃してしまっている。
「一夏っ、馬鹿!ちゃんと狙いなさいよ!」
「狙ってるっつーの!!」
鈴が激を飛ばすが、それでも避けられてしまうのだ。普通では避けられる筈も無い速度と角度での攻撃をあの全身に付けられたスラスターが回避を可能としているのだろう。あれのおかげで何処からの奇襲でも対処出来ているのだ。そして、そのスラスターの出力もまた尋常ではない。零距離から離脱するのに一秒もかからない。
化け物のようなISだった。
(まずい。シールドエネルギー残量が。バリアー無効化攻撃を出せるのは、よくてあと一回か…)
「一夏っ!離脱!!」
「お、おうっ!」
敵は攻撃を避けた後、必ず反撃に転じてくる。しかもその方法が無茶苦茶だった。でたらめに長い腕をぶんまわして此方に接近して来るのだ。まるでコマのように。しかも高速回転の状態からビームを撃ってくるのだから一夏たちの手に負えないのだった。
「ああもうっ!めんどくさいわねコイツ!」
鈴は焦れたように衝撃砲を放つ―――が、しかし、敵の腕が見えない砲撃を叩き落とした。どうやら、見えないものもセンサー等で感知していると一夏と鈴は考えた。
(どうする?どうする!?鈴との戦闘のダメージ、そして奴にかわされ続けて消費したエネルギーの事を考えると…)
一夏たちはマズイ状況になっていた。それは…
「…鈴、あとエネルギーはどのくらい残ってる?」
「180ってところね」
そう、エネルギー切れである。ヒイロのガンダムと違い、シールドエネルギーで動くISはエネルギー切れをすると動けなくなる。
ここで鈴が一夏にぼやいた
「…かなり厳しい状況ね。今のあたし達の火力でアイツのシールドを突破して機能停止させるのは確率的に一桁いくんじゃない?」
「ゼロじゃないならいいさ」
「あっきれた。確率はデカイ方が良いに決まってるじゃない。アンタって良く分からないところで健康第一っていうかジジ臭いけど、根本的には宝くじ買うタイプよね」
「うっせーな…。俺は宝くじ買わねぇよ!俺はくじ運弱いんだ!」
「うわっ!やめてよ。疫病神。こっち近づいてくんな」
しっしと近づいて来るなと一夏に言ってくる鈴。
「ふざけるのはこの辺にして…どうするの?」
「逃げたければ逃げて良いんだぜ?責めたりしないし逃げ切れるまで守ってやる」
(女を守るのは男の役目だからな。まぁ、鈴がこのままやられっぱなしで逃げる様なタマじゃないって事は知ってるけどな)
と一夏は心のなかでそう思う。案の定、鈴は
「なっ!?馬鹿にしないでくれる!?あたしはこれでも代表候補生よ。それが尻尾を巻いて退散なんて、笑い話にもならないわ」
と答えたのだった。
「そうか。じゃあ、お前の背中くらいは守らせてくれ」
「え?あ。う、うん…ありが「鈴!避けろ!」ひゃあ!?」
再び鈴目掛けて放たれたビームに、鈴は慌てて回避行動をとる。
しかし、それで一夏はあることに気が付いた。
(会話中は攻撃してこないから油断してたな…ん?会話中は攻撃してこない?どうしてだ?絶好の攻撃する機会なのに…)
「…なぁ、鈴。あいつの動きって何かに似てないか?」
「何かって何よ?コマとか言うんじゃないでしょうね?」
「それは見たまんまだろうが。何て言えばいーのかな………ロボットって言えばいいのか?機械ぽいっていうか」
「ISは機械じゃない。何言ってんのアンタ?」
あんたバカぁ?みたいな顔をする鈴。一夏はムッとしながらも話を続ける。
「そう言うんじゃなくてだな。えーと…あれって本当に人が乗ってるのか?」
「は?人が乗らないとISは動かな―――」
とそこまで言って鈴の言葉は止まる。
「―――そう言えばアレ、さっきからあたし達が会話してるときってあんまり攻撃してこないわね。まるで興味があって聞いてるような……ううん。でも無人機なんてありえない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういう物だもの」
『ISは人が乗らないと絶対に動かない』
一夏もそれは教科書で読んだ。ISは人が乗らないと絶対に動かない。しかしそれは本当なのだろうか?ISは今だ不明な所が多い存在。絶対なんて言いきれる筈がない。まだ解明されてないその部分に、それを可能とする物があるかもしれないのだから。そして、それを公表しなければ誰もその存在を知らないまま。
一夏はそう推測したのだ。
「仮に、仮にだ。無人機だったらどうだ?」
「なに?無人機だったら勝てるっていうの?」
「ああ。人が乗ってないなら容赦無く全力で攻撃しても大丈夫だしな」
全力攻撃…それは『雪片弐型』の力を最大に引き出す単一仕様能力《ワンオフ・アビリティー》、『零落白夜』のことだ。それはあまりにも威力が強すぎて訓練や学内対戦で全力…零落白夜をフルパワーで使う訳には無理だが、無人機なら最悪の事態を想定しなくてもいいからだった。
ヒイロはガンダニュウム合金が雪片の攻撃に多少耐えれるから使用した。
それに、一夏には一つ策があった。
「全力も何も、その攻撃が当たらなきゃ意味無いじゃない。分かってるの?今まだアンタ一度も攻撃を当てて無いのよ?」
「次は当てる」
一夏にはその自信があった。自分が考えた策が上手くいけばきっと奴に必殺の一撃で斬り伏せる自信が。
「言い切ったわね。じゃあ、そんな事絶対に有り得ないけど、アレが無人機だと仮定して攻めましょうか。で?何を企んでるの?」
「ありゃ、バレてたか」
「何年アンタの幼馴染やってると思ってんのよ。アンタが何か企んでることくらいお見通しよ。あたしは何をすればいいの?あたしはこれと言って策なんて考えてないし、とことん付き合ってあげるわよ」
鈴がそう言う。流石は箒よりも長く一夏と一緒にいた幼馴染と言ったところなのだろう。
一夏は鈴にこう言った。
「俺が合図したらアイツに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」
「? いいけど、当たらないわよ?」
「いいんだよ。当たらなくても」
(目的は別にあるんだからな)
「じゃあ、早速―――」
『一夏ぁぁぁぁぁぁ!!』
一夏が敵に向かって突撃しようとしたその瞬間だった、アリーナに此処に居る筈の無い人物の声が響いたのは…。
何事だと思い、一夏やヒイロ達はそれぞれハイパーセンサーで中継室の方を見た。見ればそこには箒の姿があった。そこにいるであろう審判とナレーターはすぐ横で気を失っている。箒が伸してしまったからだ。
そして箒は大声で言った。
『男なら……男なら、それくらいの敵に勝てなくてなんとする!』
肩で息を切らしながら、一夏に向けて喝を入れる。しかし、当の本人はビックリした用に目をパチクリしていた。
「…………」
その声を聴き、謎のISが箒の方を向いて攻撃態勢を取った。
一夏は死の恐怖とは違う何かが襲い急激に体温が低下するのが分かった。そして、言葉に表し様の無い感情が爆発した。
「鈴!やれええええええっ!」
「わ、わかった!」
一夏の気迫に圧されてながらも鈴は衝撃砲を構えて射撃体勢に入る。しかしその射線上に一夏が躍り出た。このままでは一夏に衝撃砲が当たる。
鈴は大声で慌てながら言った。
「ち、ちょっと馬鹿!何してんのよ!?どきなさいよ!」
「いいから撃て!!」
「ああもうっ…どうなっても知らないわよ!!」
そう言って鈴は衝撃砲『龍砲』を発射した。
高エネルギー反応を背中に受け、一夏はミシミシと言う音がする痛みに耐えながら瞬間加速《イグニッション・ブースト》のエネルギーチャージを行った。
先ほども言った通り、瞬間加速《イグニッション・ブースト》はISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速する技術だ。しかしそれは外部からのエネルギーもスラスターから取り込めば使用でき、またエネルギーの量に比例して出力が上がる。
一夏は衝撃砲の莫大なエネルギーを使って一気に加速した。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
俺の咆哮に呼応して、右手に持つ雪片弐型が強い光を放ち始める。そして、ヒイロの時と同様に全身が金色のオーラに包まれる。
―――零落白夜の使用可能。エネルギー転換率90%オーバー。零落白夜発動―――
ハイパーセンサーがそう告げていた。
加速中、ISが加速Gを軽減してくれているとは言え、一夏の身体にさらに軋むような痛みが走る。
それでも一夏は敵に向かって突っ込む。
そしていつの間にかビルゴUをすべて倒しきったヒイロから秘匿通信《プライベート・チャンネル》が入る。
「行け…一夏」
その一言が一夏に力と、勇気を与えた。
(俺は…千冬姉を、箒を、鈴を、そしていつかはヒイロも…、俺に関わる人すべてを…守る!!)
必殺の一撃は、敵ISが箒に向けて突き出していた右腕を切断した。しかし、その反撃で左拳をモロに受ける。そして敵ISは零距離からの砲撃を一夏にしようとする。
箒と鈴が声を上げる。しかし一夏はしてやったと笑っていた。
なぜなら……
「…狙いは?」
『完璧ですわ!』
そんなISの通信と同時に青い複数のビームが無人機ISを撃ち貫く。観客席からセシリアによるブルー・ティアーズの狙撃が入ったからだ。あの時、一夏は零落白夜の力で遮断シールドを破壊した。そして、敵ISのシールドも破壊していた。そんな状態であの狙撃を喰らえばひとたまりもない。無人機ISから小さな爆発が起こり、地面に倒れ込んだ。
『ギリギリのタイミングでしたわ』
「セシリアならやれると思っていたさ」
『そ、そうですの…。とっ当然ですわね! なにせわたくしはセシリア・オルコット。イギリス代表候補生なのですから!』
「ふぅ。何にしてもこれで終わ――」
「一夏、まだだ!!」
―――敵ISの再起動を確認。警告。ロックされています―――
「!?」
ヒイロからの通信と警告音で一夏は振り返る。片方だけ残った左腕。それを一夏に向けていた敵IS。
次の瞬間、迫り来るビームに向かって一夏は
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
突進した。そして、真っ白な視界の中で雪片が相手の装甲を切り裂く手応えを感じながら一夏は意識を失った。
「一夏!!」
鈴が倒れている一夏に近づく。セシリア、皐月も一夏に向かう。鈴に至っては泣いていた。
ヒイロは、この時、自分に腹を立てていた。千冬に一夏を守ると約束したのにそれを果たせなかった。ヒイロはいつの間にか強く拳を握っていた。
しかし、敵は待ってはくれない。
再び穴から今度は50機のビルゴUとそして一夏たちがやっとの思いで倒したあの謎のISも再び現れた。
「ま…またですの」
「も…もうエネルギーが残ってないわ」
セシリアと皐月はそう言った。すでにエネルギーが残っているのはセシリアのみ、絶望的な状況だった。
それでも鈴は泣きながら恨む目で謎のISを見ていた。
「よくも…よくも一夏を!!」
鈴がそう叫ぶがすでに鈴もエネルギーがなく、どうしようもできない。
謎のISが鈴たちに向かって右腕のビームを放とうとする。しかし…
轟音と主に山吹色のビームが謎のISの腕を飲み込み破壊した。空を見上げるとヒイロが右手のバスターライフルが敵に向けられていた。
「鈴音、一夏を連れて離脱しろ。遮断シールドはさっきので破壊されて観客ももう逃げたようだ。セシリアが入ってきたところから行け。箒、お前もだ。皐月はそのISを回収しろ、調べる必要がある。セシリアはこいつらの護衛だ」
ヒイロはそう言う。
しかし、セシリアが反論した
「ちょっと待ってくださいまし、ヒイロさんはどうするつもりですか。それにこの沢山の敵から逃げるのは無理に等しいですわ。また私が入ってきたところも瓦礫でもう通れませんのよ」
「なら、俺が相手をする。その間に上から逃げろ」
そう言ってヒイロは通信(オープン・チャンネル)でアリーナ全体に言う。
「このアリーナに残っている全員に言う。これより、バスターライフルを使用する。教職員含め全員ただちにここから離れろ」
ヒイロはそう言いながら、ビルゴUに向かう。ビルゴU10機は一斉射撃を行うが、ヒイロはさっきとは考えられない反応速度で光の矢の雨の中を無傷でかいくぐる。
ウイングゼロの胸元の緑の水晶体は光がともっていた。
「俺の敵…俺の仲間を傷づけるもの……そして、俺から大切なものを奪うもの…すべてが俺の敵だ!!ゼロ…俺を導いてくれ!」
ヒイロの目には見なれた映像が映っていた。それはかつでMSとしてのゼロに会った半球のモニター。
そして、それが起動する音がヒイロの耳に入った。
そう、ウイングガンダムゼロが最強の名を得ている理由…ゼロシステムの起動音だった。
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第10話 クラス対抗戦 | ||
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再構築 ヒイロ・ユイ ガンダムW IS インフィニット・ストラトス | ||
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