きらきら星狂想曲 第1話 埋もれた煌めき |
銀の巫女姫の結界に守られた深海の国、ディープルーの夜空には、月を模した光球が輝いている。欠ける事の無いその明かりの下、青年はひとり空を見上げた。『外』の夜空には本物の月の他にも星というものが輝いているらしい。漆黒の空にきらきらと輝くその光は宝石のように美しいと言う。でも、あの日確かに見えたんだ。深海に沈むディープルーからは決して見える事の無いはずの煌めく星の輝きが。
青年が少女に出会ったのは、ある夜のことだった。彼はこっそり部屋を抜け出して、魔物が出るという噂の池に行ってみた。しかし、彼がその晩見たものは、一面に凍って月の光を映す池の中央で、仄かな光を放ちながら魔法の練習をしている一人の少女だった。星屑のように光を弾く銀の煌めきとまっすぐな瞳。まるで吸い寄せられるように目が離せなかった。今まででも、娘達に言いよられる事は数知れず、その言葉は何度も耳にしていたけれど…『恋に落ちる』という言葉の意味を、初めて知った。
* * * * *
日暮れの市は夕飯の買い物客で賑わっている。その人ごみの間をするすると通り抜けて、少女は小走りに駆けてゆく。銀色のおさげに夕陽が反射する。
「セイちゃん、今日もこれから学校かい?」
「はい。」
「がんばるねぇ。ほら、林檎、夜食にもってお行き。」
「ありがとう。おばさん。」
果物屋の店主が放った林檎を、器用に受け取って笑顔を見せると少女はまた先を急いだ。開講までにはまだ時間があるが、早めに行って図書館で本を借りたかった。セイレン・アルザス、16歳。幼い頃に両親を流行病で亡くした彼女は、魔導士マルティナの薬屋で働きながら夜間の魔法学校に通っていた。貧しいセイにとって、本は貴重な品だ。卒業試験も近くなったこの頃は、図書館通いが日課になっていた。ただし、最近頻繁に邪魔が入って困っているのだ。
「セーイっ!今日も可愛いなv」
----ああ、今日も来たか。軽く米神を押さえながら、相手に対峙する。
「黙れ。ウィル!今日はお前と遊んでいる時間はないぞ。」
「え?。そんな酷い事言うなよ?。ちょっとは俺にかまってよ。」
いい募る若者は二十歳になるかならないかといった年の優男。簡素ながら上質な服を纏っており、青い髪を結ぶ薄紅色のリボンも小洒落た雰囲気を醸し出している。大方、大店の商人とか、良家の子弟である事は間違いない。そんな彼が、何が気に入ったのか解らないがこの所頻繁にセイの元に顔を出す。なにせ自分は取り立てて美人という程のこともなく、強いて言えば珍しい銀の髪も邪魔にならないように編み下げにして、着ているものもウィルと違って飾り気の無い質素な綿や麻の服ばかり。これだけ見ても、二人の暮らしぶりが全く違う事は一目瞭然だ。しかもウィルは言動は軽いが見た目は決して悪くない。すらりとした長身に整った顔立ち、甘やかな青玉(サファイア)の瞳に目を奪われる町娘も多い。それなのに、言葉を発すれば「セイ、セイ」ばかり。蓼食う虫も好き好きというが、単に今まで身近に居なかったセイのようなタイプが珍しいだけという気もする。
そんなことを考えながら、まとわりつくウィルを躱しながら学校への道を急ぐセイだったが、流石にウィルも素直に行かせてはくれなかった。おもむろにセイの片手を取ると、まるで騎士が姫君に対してするようにうやうやしく手の甲にキスをした。
「!!!!」
「ようやくこっちを向いてくれたね。俺の愛しい娘(こ)。」
セイはしばらく固まった後、ハッと気合いを入れて大きく弧を描いて脚を振り上げた。
「なにをするっ!!この馬鹿者!!」
その後には、自業自得とはいえ、セイの放った踵落としに沈んだ哀れな若者が倒れ伏していた。
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オリジナルのファンタジー小説です。 魔導士を目指す女の子と軟派な青年の恋物語です。 |
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