ISジャーナリスト戦記 CHAPTER13 飛翔白剣
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遠足が楽しみで眠れなかった小学生のように睡眠時間が十分取れなかった状態で迎えた試合当日。俺は待機していろと言われた第三アリーナ・Aピットにて箒と共に立っていた。他でもない自分専用のISが届けられるのを待つために。

「・・・遅いな」

「そう言いなさんや、箒。向こうだって最終調整に手間がかかっているんだろうから気楽に待とうぜ」

文句を言ったところで状況は変わらないのだから。今頃は灯夜さんが運搬用のトラックにてひっそりと絶賛作業中なはずだ。彼が追加してくれるデータとやらを信じて待ち続けることが今の自分に出来ることである。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

んでもって沈黙して更に待つこと五分。一週間ですっかり聞き慣れた声が足音と一緒にピットへ鳴り響いた。

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

はい、なんでしょうか山田先生。取り敢えず顔が近いですから離しましょーね。勢い余りすぎて押し倒される寸前だったよ。

深呼吸で彼女を落ち着かせから要件を尋ねる。内容は案の定、ISがやっとアリーナに届いたというものだった。

「すぐに準備しろ、織斑。アリーナを使用できる時間は限られている、ぶっつけ本番だがものにしてみせろ」

「えー、ということは初期設定のまま戦えと?」

せめて一次移行のタイミングとか教えて欲しいんですが。目安はちなみに何分なんでしょう?

「―――三十分だ。その間被弾せずにいられたら上出来だろう。さあ、お前のISとのご対面だ」

無理言うなと言いかけた所でゴゴゴゴゴッ・・・と鈍い音をたてて千冬姉が指した先のピット搬入口が開く。斜めに噛み合っていた防壁扉は重量感のある駆動音を響かせて少しずつその向こう側にあるモノの姿を晒していく。扉が全て開き終わるとそこには―――

 

 

『白』があった。

 

 

眩しいばかりの純白で全身を染め上げたそれ(・・)は、俺を目の前にしてその装甲を解放し操縦者を待ち望んで鎮座していた。

「これが・・・」

「はい!織斑くんの専用IS『白式』ですっ!」

何だろうか・・・無機質な『白式』からは運命めいた感覚を覚える。指示を受けて触れるとなおさらその感覚は強まった。まるでISと一体になっているような気分だ。

「背中を預けるようにしろ、座る感じにだ。後はシステムが最適化するだけだ」

装甲の開いた部分へ言葉通りに体を任せる。後ろから抱擁されている感覚がしてから、すぐに俺の体に合わせて装甲が閉じた。続けて空気が抜かれ完全に全身とISが密着をする。

無意識に閉じていた瞳を開けば何時も見ていた世界とは違う、未知の新世界が視界全体に広がった。

―――戦闘待機状態のISを感知。操縦者名『セシリア・オルコット』。ISネーム『ブルー・ティアーズ』。戦闘タイプ中距離射撃型。特殊装備の有無・・・『有』―――。

「ハイパーセンサーに異常はないな。一夏、気分は悪くないか?」

教師としてでなく一人の姉として千冬姉は言葉をかけてくれた。普段は見せない心配そうな顔まではっきりと知覚できる。

「特にはなんともない。大丈夫だ、千冬姉」

「・・・そうか」

ホッとしているのか、更に心配が強まったのかはわからないけれど兎に角見守ってくれることは確かだ。続けて箒の声援を受けた後、俺はピット・ゲートへと進む。僅かに体を傾けただけでも白式はふわりと浮かび上がって前方に移動した。

カタパルトに足を固定しゲートの開放の時を待つ。そしてその間にアリーナに来る前に受けた最終連絡の事を思い出した。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「・・・えっ、ブレードは使うなってどういう事ですか?」

場所はアリーナに来る前に立ち寄った歴とした男子トイレの中。別名、教員用トイレとも言うがそんな些細のことはこの際気にしない。事務員か清掃員の男性しか使わないのだからほぼ無人地帯ってことでオーケー。

自分以外の存在がいないことを確認してから俺は待機状態にあった灯夜さんからの通信に受け答える。

『言葉の通りだ、普通の近接ブレードと同じような感覚で使っては自滅する・・・言わば、諸刃の剣とも言うべき代物なんだよお前のISに付く装備は』

聞くところによればブレードの正式名称は『雪片』。かつて千冬姉を『ブリュンヒルデ』たらしめていた近接武装だという。名前は格好良いが問題は性能にあった。

実は『雪片』には自分のシールドエネルギーを消費して相手のシールドバリアーを破壊し大ダメージを負わせるという能力があるのだ。使いどころさえ間違わなければ強力な武器なのだが扱うにはそれなりの力量を自身が備えていなければならない。IS初心者には本当に易しくない装備である。

『だから使うとしても止めかそれに繋げる手立てに使え。それ以外は能力をカットして使うしか方法はない。その場合は只の近接ブレードと変わりないがな』

「無闇に刀を振るって対処するなってことですか、わかりました。・・・ところで、もう一つ付く予定の武装ってどうなっていますか?」

確か下手な射撃武装は付けないって言ってたような気がする。あれか、ロマン溢れるドリルとか飛び出すパンチでも付けてくれるのだろうか。

『安心しろ、お前が気に入るような武装をチョイスして組み込んでいる。天元突破するようなドリルや機体自体が一つのロケットパンチになるような武装よりは見劣りするが性能は折り紙付きだ』

見劣りするって・・・そこまで高度なクオリティを求めてませんから。出来る範囲での最高性能をお願いします。

『武装の発現は最適化が済んだ後、つまり一次移行が完了してから現れることになるはずだ。具体的な時間は個人差があるから特に言及しないが、移行しようとしたら早速使う準備の為に急上昇しておけよ。『瞬時加速』のチャージも忘れずにな』

内容から察するに追加される武装は助走・・・つまりは勢いが必要不可欠なようだ。加速後に攻撃、といった感じの戦闘スタイルなのだろう。それぐらいならやれないことはない。

『序盤は避けて避けて避けまくれ。相手の行動パターンを見極めるのを忘れずにな』

「はい、最善を尽くします」

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想完了。ゲートは既に解放しきっており、アリーナ内の空中で相手となるセシリア・オルコットは腰に手を当てて待っていた。

「あら、随分と待たせましたわね」

鼻を鳴らして彼女は早速挑発を行なってきたが残念ながら俺の意識は別の所へと向けられている。ハイパーセンサーを用いて今この瞬間にも始まりそうな試合を前に相手のデータを解析しなければならないのだから。

まず、鮮やかな青色に自然と注目を引き寄せられる。特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えた姿は何処いずこの国の王国騎士のような気高さを放出していた。またそれを操るセシリアの手には二メートル超の長大な銃器―――名称、六七口径特殊レーザーライフル≪スターライトmkV≫がしっかりと握られている。ISは現在こそ使用用途はアレだが元より宇宙空間での活動を前提に開発されたというので原則として空中に浮遊している。その為自分の背丈を余裕で超える大きさの武器を扱う姿はあまり珍しくもない。

「最後のチャンスを差し上げますわ」

流れるような美しい動きで腰に当てた手を俺に向けて彼女は人差し指を突き出して言う。左手の銃は余裕の気持ちが現されているのか依然として下げられたままだった。

「・・・チャンス?」

「ええ、わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくないのならば、今ここで降参してくださってもよくってよ」

どちらにしろ格好悪い終わり方じゃねーか。チャンスの意味を間違って覚えていらっしゃいませんか、オルコットさんよ。付け加えてセリフが完全に調子に乗りすぎてやられる敵みたいなんだがわかってんのかな・・・フラグを立てていることに。

 

『―――警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードへ移行。武装のセーフティ・ロックが解除されました』

 

そう口に出して言う暇も無くセシリアは戦闘準備の構えを取る。こうなればもう後戻りなど出来やしない・・・やれるだけのことを全部やりきるだけだ。

「誰が降参なんてするかよ、舐めているのもいい加減にしやがれっ!」

「そう?残念ですわね、それならここで―――」

 

『―――警告!敵ISが射撃体勢へ移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填』

 

「―――お別れですわ!」

キュインッ!と耳をつんざく独特のレーザー音の響きが閃光と共に自分へ向けて接近する。これで不意打ちなら確実に命中してエネルギーを無駄に持っていかれただろうけどそんなヘマを俺は自分自身に対して許すはずもない。

レーザーの動きをすぐさま把握し必要最低限の動きで命中予想部位である左肩を後ろに下げるように移動させ重心を右へ傾けさせる。すると、間一髪すれすれの場所を光線は突き抜けていった。

「・・・チッ、危ねえ!」

毒づきながら至近距離で今みたいに攻撃されないよう距離をとる。相手からすれば自分の得意な距離に敵が行ったと思っていることだろうがそう簡単には行かせるものか。

現時点で展開できる武装は確認したが只の近接ブレードと変わらない『雪片』のみ・・・・・・訓練機以下のスペック状態で勝負を挑むのは得策ではない、ここは作戦通りに避けまくって一次移行のタイミングを待とう。

「さあ、踊りなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

容赦の無い弾雨の射撃攻撃が降り注ぐ。何もない空中で回避していては相手の勢いに飲まれるだけだと判断し地面を滑るように飛行してそれを避けるわけだが狙いの鋭さに何ら変化はなかった。今は相手の集中力を削ぐようただ只管に飛び続けるだけである。

ピットを発進した時から起動させていたタイマーを確認しつつ全力で俺は反撃のチャンスが到来するまで回避に徹した。

 

 

 

 

 

〜一夏回避中〜

 

 

 

 

 

「―――二十七分。その中で被弾は一回だけとは・・・流石は試験官を倒したというだけはありますわね」

「そりゃどうも・・・」

事前の自主練習や学習が活かされたのか辛うじて被弾は彼女のBT兵器・・・わかりやすく言えば自立機動兵器の一撃のみで済んでいた。現在のシールドエネルギーの残量は約530ほど。セシリアはこちらからの攻撃を一切喰らっていないので当然のごとく無傷の600だ。

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわよ」

素直に喜んでいいのかわからない。というか、どういう顔をすればいいのかもわかりません。

彼女は集中が一旦切れたようで不用意にも武器を構えないで接近し俺を賞賛する言葉を送ってきた。話している間にも狙い撃てばいいのにそういうところで彼女は礼儀正しいみたいで卑怯な真似を行わずにいる。エレガントでフェア精神が強いようだが今回ばかりはそれが命取りだ。

一次移行予定時刻まであと僅か。勝手に話して自慢してくれたブルー・ティアーズもといビットの能力についての考察をその間で行なっていると戦闘の再開の合図と言わんばかりに彼女は笑みと一緒に右腕を横にかざした。

「では、閉幕(フィナーレ)と参りましょうか」

命令を受けた二機のビットが多角的直線機動で接近を開始し、瞬く間に俺の上下へと回ったビットの先端が発光しレーザーを放つ。ビット同士の自滅を狙って避けてはみるもなかなか上手くはいかない。畳み掛けてセシリアは今度はライフルで回避の隙を狙ってきた。

「今度こそ、当てさせていただきますわ!」

「・・・誰が当たってやるかよっ!」

反撃の為にシールドエネルギーは温存しておきたいのだ。一発ぐらいは仕方がないがそう二発も三発も当たってたまるか。

残り時間は一分を切った。大したダメージにならないのを承知で相手の動きをここで乱して怯ませておこうと思い、ビットとライフルの巧みな切り替え射撃を掻い潜る。

「オラァァァッ!!!」

ビットが動けばライフルによる射撃は行われない、ライフルで射撃をすればビットは動かない。今この瞬間は彼女はライフルに意識を集中させている。よって、左手では撃ちにくい角度・・・つまりは右の後ろ側からストレートをお見舞いする。それも一発だけではない、ビットに彼女が意識を切り替えるその時まで何度でもだ。

「無駄な足掻きをっ!!墜ちなさいっ!!」

五発ぐらい打撃を連続で加えたところでビットが動き出す。残り三十秒・・・初期設定でのこれ以上の攻撃は終了だ。後は一次移行後に全てを賭ける。

ビットがやけにしつこく追尾を行うがもはやかまってはいられない。セシリアと距離を縦に取り俺はアリーナの限界高度まで上昇を開始した。初期設定でのギリギリの速さで動いているのでいくら負担が軽減されていても自然と顔が歪んでしまう。

「くぅ・・・・・・!」

奥歯を噛み締めて叩きつけられるようなGに堪える。我慢だ、我慢・・・その先には一発逆転のチャンスが待っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「一夏は何をっ・・・?」

彼のハラハラする戦いぶりを見守っていた箒は不安げな面持ちで試合を撮影しているモニターを凝視して呟きを漏らす。

「・・・さあな。ただ闇雲に上昇しているのではなく、あいつにもあいつなりの考えがあって上昇し続けているのだろう」

「ブレードを一切使っていないのにも何か思惑があるんでしょうね」

「まあ、浮かれていなくて何よりだ。真面目に取り組んでいる姿勢は評価する」

あいつは調子に乗るとすぐに左手を閉じたり開いたりするからな、と千冬は続けて独り言を言う。そこへ真耶が妙に食いついた。

「へぇぇぇ・・・。さすがご姉弟ですねー。そんな細かいところまで把握しているなんて」

「あ、あれでも一応私の弟だからな・・・・・・」

「あれー、照れてるんですかー?照れてるんですよねー?」

「・・・・・・・・・」

ゆらりと動いて即ヘッドロックを千冬は炸裂させた。

「痛たたたたたた・・・痛気持ちイイッ!!」

「感じるな馬鹿。それと私はからかわれるのが嫌いだ」

「もうちょっと強・・・・・・い、いえ、わかりましたから、離してくださ―――いっ!?」

狭いモニター室でギャーギャー騒ぐ真耶を気にもかけずに箒はまだモニターを見つめていた。胸を抱えるように組んだ腕の先の手が強く握り締められ制服の袖にシワをつくる。

(一夏・・・)

表にに出さなくとも箒は心の内で一夏の無事を静かに祈った。

―――そしてその時、彼の駆る『白式』に待ちに待った≪変化≫が現れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

『フォーマット及びフィッティングが完了しました。確認ボタンを押してください』

・・・ついに来た、この『白式』が正式に自身だけのモノとなる瞬間が。俺は約三十分間耐えきった喜びのあまり確認ボタンを押してすぐに思わず安堵の溜息を漏らした。

よく見ると先程までの工業的凹凸は消え失せ、光の粒子が弾けると共に滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的なデザインへと変化していた。武装についても『雪片』から『雪片弐型』へと名称が変わり聞いていた通りのスペックデータが表示されている。

だが、注目すべきところは別にあった。場所は右脚の太腿から下部分・・・・・・二つの歯車のようなものとそれに付属するように取り付けられたブースターらしきものがあるところだ。恐らくこれが最終調整と称して追加された武装なのだろう。

「『ハイロゥ・コンダクター』・・・そうか、『蹴る』ためだけの武装か」

二つのギアがお互いに逆に回転することにより電気エネルギーが帯電し文字通りの電撃攻撃(蹴り)が可能となるようだ。そのままでも十分扱えるみたいだが折角なのでシークエンスを進めていた『瞬時加速』と併用して扱うことにする。

「ま、まさか・・・その姿は一次移行(ファースト・シフト)!?あ、あ、あなた・・・今まで初期設定の機体で戦っていたというの!?」

「ああ。てっきりそっちには連絡行っていると思ってたけど・・・その驚き方じゃ、全く知らされていなかったみたいだな」

自分でも初期設定の状態でよく負けないでいられたなと感心してしまうほどだ。・・・さて、いつまでも感傷に浸っている場合じゃあない。反攻の狼煙を上げさせてもらおうか。

―――瞬時加速のフルチャージ完了。ハイロゥ・コンダクターの回転率許容範囲内、蓄積エネルギー基準値を突破。瞬時加速及びハイロゥ・コンダクターの併用攻撃パターン・ワンの起動をしますか?

「・・・はい、しかねえだろ。もう、逃げるのは止めたんだからな」

迷わず『はい』と『いいえ』と二つある内の前者を選択する。その刹那、電流が右脚を流れるように走り光り輝いた。

 

 

 

ターゲットロックオン完了、瞬時加速(イグニッション・ブースト)発動。最大出力で相手へ飛び蹴りをぶつけてみせる。

「・・・んんっ、もう!太陽が邪魔で狙いが定まりませんわ!」

接近する合間にもセシリアによる迎撃は行われる。・・・が、太陽を背にしていたことが幸いしたのかハイパーセンサーで位置は特定できても視界を邪魔されている為に狙いが上手く定まっていなかった。チャンスとばかりに只の的と化したビット二機を巻き込んで破壊し突き進む。

「―――うおおおおおっ!!!」

自分で言うのも何だが今の俺の姿はまるで一つの稲妻、いや、流星の如き凄まじさがあった。それでいてなお加速は続き何時の間にかセシリアから僅か三メートル付近まで迫る。そして声を荒らげ力の限り叫んだ。

「ぶっ飛べえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

渾身の蹴りはセシリアの胸部と腹部のちょうど中心目掛けて命中し後方へと彼女を吹き飛ばした。しかし、この時点で自身の残りのエネルギーは約400。まだ追撃は続行可能である領域にあった。

そこで俺は進化した『雪片』を右手に通常の加速で怯んで体勢を立て直せずにいるセシリアの背後へと回り込む。

「もう一撃ぃ・・・!!」

白式のワンオフ・アビリティーである≪零落白夜≫を発動させた状態で背中を横一閃し斬り抜ける。予想が正しければこれで両者共にシールドエネルギー残量は200前後となったはずだ。再度距離を取り相手の出方を窺う。

「何て機動性ですの・・・っ!加えて素人であるはずのあなたがそれを使いこなせているとは・・・・・・」

何の冗談だと言いたそうな顔で引き攣った笑みを浮かべるセシリア。プライドを向こうも持ち合わせているのは嫌でもわかった。

「悪いな、俺は何事も中途半端に取り組みたくはないんだよ。IS学園に入学したのは強制されてのことだったけれど、やる事になったからには最後までやり通す。・・・それが俺の決めた此処での生き方だ」

「・・・っ!」

時間も押している。次に構えを取り攻撃へ移ればもう話す時間はないだろう。負けるか勝つかはこれで決まる。

先に動いたのはセシリアであり彼女は残されたビットを操り洗礼された動きで射撃を再開した。

「(常識的に考えて彼女はまだ切り札を残しているはず。だとしたら、それが何であるかに俺の全てがかかっている――――!!)」

一週間で覚えただけの少量の知識と技術を総動員し精神を研ぎ澄ませる。感じろ・・・ビットの発射音、ライフルから飛び出すレーザー音、スラスターの駆動音、そしてセシリアの息遣いと狙いを。

こちらの切り札たる雪片のバリア破壊モードを封印した状態でちょこまかと動き回るビットの軌道を瞳を閉じて予測する。一面黒の世界では白い塊の何かが次の行動へ移らんと忙しなく動いているのが見えた。

「そこだっ!」

カッ、と目を見開き最短ルートで目標のビットの移動先へ先回りする。本体にはバリアは付いていても分離した個体には守る術すべはない。一気に詰め寄ってまずは片方を斬り捨て、振り返り際に手にしていた雪片を回転を加えて真横に放り投げる。

武器を捨てたわけではないその謎の投擲はブーメランのように曲がって行き、もう一つのビットを真っ二つにして爆散させた。

「―――かかりましたわね」

俺が意識をビット対処へシフトしていた時を見計らってセシリアは仕掛けてきた。その証拠に今まで姿を現さなかった第三の武装が展開されている。場所的に腰近くの辺りだった。

「ティアーズはビットのみの事を示すのではないのですわ!」

見るからにビットではないモノが二つ撃ち出された。それらは直線的に俺の下へと吸い込まれるように接近している。動けば自動的に曲がって追尾してくるあたり『弾道型』の追尾ミサイルのようだ。

ビットのような対処の仕方は流石に難しそうである。肉を斬らせて骨を絶つ戦法がやはり妥当なのか。

「(いや、発想が単純すぎる。もっと、別の方法が―――――あった!)」

突如として新しい閃きが思い浮かぶ。結果的には自身もダメージを喰らう可能性はあるものの比較的少量で済むだろう。意を決して雪片を構え一発目のミサイルに目を向ける。

そして、間髪入れずにミサイルは爆発し大きな煙を周囲に撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

「・・・やりましたの?」

ミサイルは確かに命中したとセシリアは確信する。倒したかどうかはさて置き様子から判断してそれは真実と言えよう。何かしっくりこないが杞憂だと割り切っていつものライフルを持つスタイルへ身を落ち着かせる。

だがその判断は早計過ぎた。未だ残る爆発の煙の中をよく観察すれば煌めく存在が垣間見えているではないか。されど気づいた時に既にもう遅かった。

「―――隙ありだっ!」

「!?」

一夏は最後の賭けとして瞬時加速イグニッション・ブーストを用いてセシリアへと襲いかかる。・・・それも雪片を持っていない状態でだ。

「武器を捨てるなんて正気ですのっ!?」

「武器?武器ならあるさ・・・・・・コイツがなっ!」

彼の右手にはブレードではなく筒に似た何かが握られていた。言うまでもなくそれは先程の攻撃で役目を終えたはずのミサイルであった。

なんと一夏は雪片を一発目に至近距離でぶつけて直撃を偽装すると共に瞬時加速のシークエンスを開始し、続けてやって来た二発目のミサイルを無理矢理手に収めて確保しておいたのだ。少しでもタイミングが狂えば自滅するというのに彼は平然とやってのけた。

 

「因果応報!」

 

迎撃するセシリアの弾幕を掻い潜り彼女の目の前に一夏は到達する。手中に収められたミサイルは強制的にその先を自分の主人であった存在へ向けられて次の瞬間、彼すらも巻き込んで爆発し二人に容赦なくダメージを全身に叩き込んだ。

 

 

 

 

■試合結果■

 

セシリア・オルコット及び織斑一夏のシールドエネルギー残量が両者とも零になったことにより数値的には引き分けとする。

ただし、織斑一夏の試合終了後の気絶により意識のあったセシリア・オルコットの勝利と判断。

 

―――一夏は奮闘の末、眠るように地に仰向けになって落ち負けた。

 

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原作だと性能を活かしきれていない敗北でしたが、ここでは性能を活かしすぎた故の耐性不足・・・つまりは慣れていなかったせいでの敗北とさせていただきました。

さて、次回予告。

 

稼働時間の差で無理をしすぎた一夏は敗北を素直に受け入れた。しかし、彼の予想とは裏腹に何時の間にやらクラス代表に抜擢されてしまっていた。そして、それは新たな波乱の幕開けでもあった。

次回、『CHAPTER14 混沌日和』

お楽しみに。

説明
VSセシリア戦です。
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コメント
どっからどう見ても電撃を纏ったライダーキックでしたよ…(神薙)
ライダーキックじゃあなくて、ゲシュペンストキックをイメージしたんですけどね(紅雷)
まさかのライダーキックぇ・・・・・・(monnbann28)
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セシリア・オルコット 織斑一夏 東方Project 睦月灯夜 ISジャーナリスト戦記 IS インフィニット・ストラトス 

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