明日に向かって撃て! 【ウルトラセブン】 |
【ウルトラセブン】
♪ ジングルベ〜ル ジングルベ〜ル ♪…………
今俺は、サンタクロースである。
駅前スーパーでサンタクロースに、扮しているのである。
小南探偵事務所に持ち込まれたミッション。
ミッションとは・・キリスト教の布教ではない。映画でもない!
それは、万引きに目を光らせること!
久し振りに喫茶“憩い”へ行くと、緑ちゃんは休みだった。内心がっかりしている俺
にマスターが持ちかけたのである。
「小南さん、暇やろ?」
「いえ、暇ということはないです。和登さんの屋敷内の仕事もありますし」
「どやろ、警備のバイトなんやけど、年末だけやさかい」
「警備ねぇ。ま、犯罪に目ェ光らせるっちゅうことでは探偵仕事といえなくもないです
よネ。分かりました。マスターがどうしてもとゆうんやったら断れませんわ」
「いや、どうしてもとゆうわけやないんやけどな・・」
という訳で・・・要するにサンタクロースに扮しての客寄せだったのだ。
クリスマスは冬休みである。子供連れが多く、小さい子は必ずといっていいほど近づ
いて来てぺたぺたと触りまくる。
「あんなァさんたさん、あんなァきょうナぁぷれぜんとナぁ、まってんねんでェ〜」
「あ〜しゃんたしゃんやぁ〜、しゃんたしゃぁ〜ん、うっとこにもきてやぁ〜、じぇ〜っ
たいやでぇ」
「ホォッホォッホォッ、いい子にしてないと貰えないんだぞォ〜」
クリスマスケーキの四角い箱が積まれている。その横にスゥィーツ類の冷蔵庫。
緑ちゃんはどんなんが好きなんか聞いとけばよかった、と思いながらチラと中をのぞ
いて立ち去ろうとした時、目の端で捉えた母子。
女は俺が立ち去ろうとする様子をうかがっているみたいだ。チラチラと視線を送って
くる。どうしたものかと迷ったが、人を疑ってはいけない。が、気になって振り返ると、
ちょうどその場面を見てしまった。ケーキのパックを自分の持っていた袋に入れたのだ。
まだ万引きだと決めつけてはいけない。その場を離れて女を目で追いかけた。
どうかレジを通ってくれますように!
警備をしているからといって犯罪者を作りたくはない。未然に防ぎたいものだ。俺の
監視不十分でそれができなかったのだ。いンやまだ分からない。
どうかレジを通ってくれますように!
女は子供の手をひいてレジを通らず、足早に出口へと向かった。
フゥ・・・
仕方がない。俺は外に出たところで女に声をかけた。
「奥さん、その袋の中、ちょっと見せてほしぃんですが」
女の顔がこわばって血の気が引いたかと思うと、次第に泣きそうな表情に変わってい
った。男の子は母を見上げるとつないでいる手に力を込めて、怖い顔で睨みつけてきた。
「一緒に事務所まで来てもらえますか」
事務所の机の上に袋の中身を出してもらった。いちごショートケーキの2個入りパッ
クがただひとつ。
赤い帽子と白い髭を取った。
「このケーキの代金、はろてませんね」
はい、消え入りそうな声で答えると、女は子供を見やって、うなだれた。
「すみません」
「なぁ〜んや、おっちゃん、サンタさんとちごたんか・・・おかぁちゃん、なんであや
まってんのん?」
「え? ちょっとな」
男の子はポケットから何かのフィギュアを取り出すといじり始め、俺の方に突き出し
た。
「♪セブンセブンセブン、テペト星人をやっつけろ! 立てウルトラセブン! 我らの
ヒーロー悪い奴をやっつけるんや! シュワッチ!」
「ワー、やられた〜、といきたいとこやけど・・ぼうず、いくつや?」
「ぼうずやない! 浩や」
「浩、ウルトラセブン、って古いもん持ってるんやな」
「お父ちゃんにもろてん」
「今時もう売ってへんやろに」
「お父ちゃんの机のひきだしから、もろてん」
「そりゃ、黙ってくすねたってことやないんか」
「どうせお父ちゃん、もうおらんさかい」
「おらんのんか、悪いこと聞いたな」
「お父ちゃんなぁ、女の人とどっかに行ってしもてん」
「これ浩! 余計なことゆうんやない!」
母は息子を睨みつけた。
「しやから、もうサンタクロース、こえへんのんや」
泣き出しそうな声になっている。
「すみませんでした。これお返しします。どうか見逃してもらえませんやろか。もう二
度としません」
「(グスン)おかぁちゃん・・おっちゃんすみませんでした。おかぁちゃんゆるしてく
ださい。二度とせんように見はっときますよって」
浩は古びた紺色のダウンの袖で涙と鼻水を拭いた。
俺は事務を取っている女性に、ケーキのパックを返して来てくれるように頼んだ。聞
き耳を立てていたらしく、事情は呑み込んでいた。俺はそして、彼女に耳打ちをした。
「エメリウム光線のポーズ、デュアッ!」
俺は両腕を胸の前で構えてポーズをとった。
そうして浩とウルトラセブンのアイ・スラッガーや地球防衛軍の話をしているうちに、
事務員はクリスマスケーキの箱を捧げて戻り、浩の眼の前に差し出した。
「はいこれ、サンタさんからのプレゼント」
浩は眼をパチクリとして母を見た。
「滅相もございません。頂くわけにはいきません」
「久しぶりにウルトラセブンの話ができたお礼です。僕、大ファンでしてん。さ、もう
帰ってよろしい。メリークリスマス!」
ありがとうございます、ありがとうございます、と繰り返し、母は浩の手を握って帰
っていった。浩はケーキの箱を抱え、何度も振り返っていた。
翌日は閉店すると、すぐさまお正月モードに店内を模様替えするので大忙がし。俺も
遅くまで手伝った。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます。今年もよろしゅうにィ」
「こちらこそ」
俺の念願だった。
今俺は、晴れ着を着た緑ちゃんと初詣に来ている。
箕面市瀧安寺は役行者が開き、日本四弁財天のひとつとされるご本尊を持つ。日本の
富くじ発祥の地でもある。駅から箕面ノ滝に向かう道を15分ほど歩くと、箕面山を背
景に箕面川をまたいでそれはある。
今日は富くじがある。大きな木箱に入れられた木札を、蓋に空いた穴から先が尖った
長い木で突き刺すのだ。
お参りした後で富くじに挑戦。
おっ、もんちゃんせんべいをゲット。ここは野生猿の繁殖地である。それの愛称とし
て付けられた名前のせんべい。もみじまんじゅうも名物である。それと紅葉のてんぷら
は、1年以上塩漬けした紅葉の色づいた葉を、砂糖とごまの入った衣を付けてパリッと
揚げたもの。香ばしくておいしい。
ここでは野生猿とはしょっちゅう出くわす。油断していると飲んでる最中の缶ジュー
スを奪われることがある。
「緑ちゃんは何をお願いしたんや?」
「そんなん教えたらご((利益|りやく))なくなるやろ」
話は途切れがちである。
俺は隣を歩く緑ちゃんを、まじまじとはまだ見ていない。
まぶしくて、見るのが照れくさいこともあって、まだ見ていないのである。前を向い
たまま眼玉を右側に寄せると、肩のあたりが目に入ってくる。そこまで、だ。
他の女性の姿は、なにもはばかることなく見ることができるのに。
「コナンさん、クリスマスの日、男の子にケーキ、プレゼントしたんやて?」
「ああ。なんで知ってるんや?」
「そこの事務員さん、うちによう来はるねん・・そんなことして良かったんやろか。情
に流されるんは良くない、思うで。それにそのお母さんケーキもろて、どんな気持ちや
ったんやろ、思う」
セルロイドのお面を売っている出店があった。
ウルトラマンやウルトラセブンがあり、手にしようとすると、
「兄ちゃん、買うんか。買わんのやったらいらわんといてや」
茶色のジャンパーを着たおっさんに言われて一旦手を引っ込めたが、買うことにした。
「ウルトラぁセブン!・・・子供の時のヒーローは、夢もやけど、大人になってもやっ
ぱりヒーローのままなんや」
俺はウルトラセブンになって、いろいろなポーズをとった。
分かってもらえんかもしれんけど、いくつになっても男には守りたいもんがある、と
思う。それを思い出させてくれた浩には、ホントに感謝の気持ちを抱いたのだ。
面を顔に付けて、緑ちゃんを正面から見据えた。
綺麗に装った緑ちゃんはあきれた表情をして、黙って見ていた。
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探偵小南の活躍、かな。第五弾 | ||
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