Fate/ViVid 01〜現界
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<<登場人物紹介>>

高町ヴィヴィオ

…St.ヒルデ魔法学院中等部在学中の、心優しい格闘少女。

 古代ベルカの聖王女・オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローン。

 

アインハルト・ストラトス

…ミッドチルダ北部の聖王協会系の高校に通う、物静かな格闘少女。

 古代ベルカ世界の王の一人・クラウス・G・S・イングヴァルト直系の子孫。

 

ラインホルト・フォード

…元時空管理局員。

 

ミレイ・コトミネ

…聖王協会のシスターらしい。

 

トウコ・アオザキ

…ミレイの客人。

 

オリヴィエ・ゼーゲブレヒト

…古代ベルカの聖王女。"最後のゆりかごの聖王"。

 

クラウス・G・Sイングヴァルト

…古代ベルカの国・シュトゥラの王。"古代ベルカ最強の『男』"。

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――――((英霊|サーヴァント))。

 それは、過去・現在・未来の英雄と呼ばれた人間が、その死後に人々の祈りを受け「英霊の座」に導かれ、永遠不滅の存在となったものである。言い方を変えれば、人の夢の結晶とも表せる。

 彼らは聖杯戦争が始まると、聖杯の持つ強大な力によってマスターとなる魔術師と「契約」し、マスターと共に殺し合いの渦中に身を投じる。

 もちろん、彼らは無償でマスターの指示に従うわけではなく、彼らもまた、聖杯の持つ「願望器」としての力に用がある。

 それは例えば、祖国の救済であったり、永遠の命であったり、想い人の復活であったり、果ては転生や、君主への忠義を尽くすこと、聖杯を手に入れることそのもの、という者もいる。

 人を超えたヒトである彼らは、新たなる戦……聖杯戦争の先に、何を見出すのか――――。

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―――新暦八十三年二月 St.ヒルデ魔法学院 中等部―――

 高町ヴィヴィオの体付きは、同年代の女子のそれを遥かに上回る。

 いわゆるマッチョという体型ではないのだが、かと言って華奢なガラス細工、と表現するはいささかたくましすぎる。

 また、その動きの端々に見られる癖は格闘家の持つ独特の物であり、見る者が見れば、彼女が格闘技―――ミッドチルダで最大の競技者数を誇るストライクアーツの選手だと一目で分かるだろう。

 だが彼女はそれを驕ることなどせず、日々高みを目指し修練に励んでいる。格闘技だけではない、あらゆる道で褒められるべき精神であろう。

 なぜ、彼女はストライクアーツを練習しているのか。

 クラス替えのある新年度の自己紹介後、彼女はたまにそう訊かれる。

 訊かれてすぐはどこか気恥ずかしそうに「え、えーっと……」と口ごもったりもするのだが、すぐに顔を上げ少しばかり大人びた笑顔で、彼女はこう言う。

「私、ママみたいにいろんな人を助けたいんだ」

 中学生が言うと、どこか絵空事のように聞こえるその響きも、彼女が言えばなぜか不思議と説得力がある。……それは恐らく、彼女自身が「救われた」側の人間だったからだろう。

 八年前、ミッドチルダ全域を震撼させた「ジェイル・スカリエッティ事件」。その事件において、その出自から彼女は、首謀者であるジェイル・スカリエッティとその一味によって誘拐され、巨大な魔導機械の「部品」とされてしまったことがある。

 その際に彼女を救い出し保護したのが、母である高町なのはだ。

 高町なのはは、僅か九歳からその類い希なる魔導の才覚を発揮し、瞬く間に「エース」、そして「ストライカー」へと上り詰めた、まさに管理局きっての「エース・オブ・エース」である。

 血が繋がっているわけではないが、そんな母を誇らしく、愛おしく思っているヴィヴィオはその背を追いかけている、というわけだ。

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「リオ、コロナ!」

「どうしたのヴィヴィオ」

「なになに?」

 放課後、ヴィヴィオが旧友であるリオ・ウェズリーとコロナ・ティミルの元へと、机の間を縫って駆け寄る。その肩には、うさぎ型ぬいぐるみに偽装をしている彼女の((魔導補助端末|デバイス))、セイクリッド・ハート―――通称クリスが乗っている。

「今日、二人ともトレーニングセンター行ける? アインハルトさんがテスト終わったから、久々にスパーやるんだっ」

 ヴィヴィオの肩で、クリスがヴィヴィオの型の真似をしてみせる。

 デバイス、というと単なる機械のように聞こえるが、クリスのような偽装を持つタイプは、自らの意思でその一部を動かしたりもできるのだ。

「あー、ごめんっ。私今日は急ぎの用事があるんだ」

「そっかー」

 リオが手を合わせてそう言い、ヴィヴィオとクリスは次にコロナの方を向く。

「コロナは?」

 だがコロナはコロナで、えーっと、と顎に指を当ててから、

「ごめんね、私もブランゼルのメンテナンスがあるの」

 そう申し訳なさそうに言った。

「うぅ……残念」

 ヴィヴィオがしおしおと机に手を付いた。ちなみにクリスは、そんなヴィヴィオの頭を撫でてみたりしている。

「ほんっとにごめん! アインハルトさんによろしく言っておいて!」

「また今度、誘ってね」

「うん………」

 リオとコロナは、そう言うと教室を出て行ってしまった。

「……ひとりでいこう」

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 少しだけ気分が落ち込んでしまったが、それでも同門の徒であるアインハルト・ストラトスと、毎日欠かさなかったスパーリングはかれこれ半月振りだ。胸の鼓動は、充分に高鳴る。

「うん! リオとコロナが居ないってことは、それだけアインハルトさんと勝負できるって事だよね。二人には悪いけど、凄く楽しみになってきたっ」

 ヴィヴィオのガッツポーズに併せて、クリスも喜ぶようにポーズをとる。

 そしてトレーニングセンターに着いた彼女は、早速センター前でお目当ての女生徒を見つけた。

「アインハルトさ〜ん!」

 こちらに気付いたアインハルトは、いつも通り少し鋭い、けれど威嚇するわけではない眼差しでこちらを見、手をにぎにぎとした。ついでに彼女の肩にいるトラ状偽装型デバイス・アスティオン―――通称ティオも、「にゃー」と鳴く。

「お久しぶりです! って言っても、何度かお電話してましたけど……」

「ヴィヴィオさんもクリスも、元気そうで何よりですね。まぁ立ち話もなんですから、中に入りましょう」

「はいっ」

 アインハルト・ストラトス。

 現在、ミッドチルダ北部にある教会系の高等学校に通っている彼女は、前述の通り、ヴィヴィオと師を同じくする格闘家である。

 ストライクアーツとは違い、真正古代ベルカの((覇王流|カイザーアーツ))を受け継ぐ彼女は、出会った当初はいわゆる「ストリートファイター」だった。

 しかし、ヴィヴィオやその師であるノーヴェと出会い、拳と拳をぶつけ合う中でその絆を深めていった彼女は、現在はがむしゃらに強さを求めることもなく、切磋琢磨しお互いに高めあえるような関係を築くことができた。

「それにしても、ヴィヴィオさんはもうすぐ受験では? 誘っておいてではありますが、勉強の方は……」

「う…………だ、大丈夫ですよ?」

 声を詰まらせ、明後日の方を向くヴィヴィオ。

「感心しませんね、と言いたいところですが、私も我慢しきれずにペンを手にトレーニングしてしまいましたし、おあいこですね」

「アインハルトさんもだったんですね……」

 彼女も自分も、やはり根っからの格闘馬鹿なのかな、と思うヴィヴィオだった。

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「それではヴィヴィオさん」

「はいっ」

 合流してから四十分後、午後四時三十分。

 準備運動や型の練習を終え、二人は練習用リングにて向かい合う。

「久々ですし、時間とかどうしましょっか」

「そうですね………時間は通常通り。基礎体力強化以外の魔法と大人モード無しの、一本勝負で行ってみましょう」

「わかりました!」

 お互いにルールを確認し、リングの待機線まで下がる。

「それじゃぁ……」

「クリス、ティオ、お願いします」

 二人の言葉で、リングの中央で待機するクリスとティオが、カウントをスタート。

 3。

「………」

「………」

 2。

「……………」

 近くで練習していた他の利用者も、二人の並々ならぬ闘志に引かれたように、集まって来た。

 1。

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「にゃー!」

 0!

 カウントがゼロになるのとほぼ同時に、二人がリング中央に向かってダッシュする。

 始めにヴィヴィオの拳がアインハルトの胴めがけて繰り出される。

 が、アインハルトにとってその一撃は予想の範疇だったらしく、少ないステップで百八十度反転。そこからヴィヴィオの腕を掴み、一気に背負い投げの体勢をとる。

 ヴィヴィオもされるがままではなく、放り投げられたあと中空で体を捻ることにより器用に体勢を変え、その勢いで回し蹴りを放つ。

 アインハルトはそれを体をほぼ真横に倒してかわし、無防備に背を向けるヴィヴィオにラッシュをしかける。

 一方着地したヴィヴィオはステップによる後退で一撃目を避け、続いてくる二撃目以降は、全てを掌で捌く。

 少しの間その応酬が続いたのだが、埒があかないと判断するや否や、アインハルトは一気に後退。ヴィヴィオも片足を後ろに下げ、得意なカウンターの準備をする。

 対するアインハルトはそれを見切ってなお、次の一撃に力を込める。

 なぜカウンタータイプのヴィヴィオに対して、アインハルトは真正面から挑もうとするのか。その答えは単純明快に、彼女の型―――足先から練り上げた力を拳足から出す「断空」は、カウンターを使われてもその上から相手に深いダメージを与えるからだ。

(ヴィヴィオさん、確かにトレーニングばかりしていたようですね。微塵も衰えを感じません)

 だがなにより、このお互いの全力を出した真っ向きっての勝負が、アインハルトには楽しいのだ。

「………」

 クリスが、アスティオンが、観衆が見守る中、二人が踏み出すために足に力を込め―――――

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「!?」

 突如として起こった大きな破裂音に、二人が、いやこの場にいたほぼ全員が、不意を突かれた。

 続いて一瞬の間を置いて照明が消え、次第に呼吸が苦しくなる。

(これは、火災……いや、爆発………!?)

 極端に悪い視界の中、アインハルトは感覚でアスティオンを見つける。

「にゃーっ」

 アスティオンがアインハルトの胸に飛びつき、彼女はアスティオンを得たことで補助魔法を効率よく作動することが出来た。

「……ふぅ」

 なんとか少し落ち着いたアインハルトは、そのまま矢継ぎ早にアスティオンに指示を出す。

「ティオ、重呼吸補助、ガス対策システム、視界補助アクティブ。武装形態」

「にゃっ」

 アスティオンがそう一声鳴いたかと思うと、アインハルトの体が薄緑の光に包まれ、次の瞬間には変わった出で立ちをした彼女がそこにいた。アインハルト・ストラトスの武装形態である。

 トレーニング用のジャージとは違い、魔導士の使う((戦闘防護服|バリアジャケット))や騎士の使う騎士甲冑に近い、戦闘用の衣装だ。

 これを装着することによって、バリアジャケット・騎士甲冑と同じく様々な状況(火災やガス漏れ事故など)に瞬時に対応することが出来る。また、彼女の武装服は装着者の魔力を補助し、体の動きを極力阻害しないような構造になっている。まさに彼女のための防護服だ。

「ヴィヴィオさん! 大丈夫ですか?」

 一通り自身の体のチェックを済ませると、まずアインハルトはヴィヴィオを探した。

 完全に照明が落ちたのならば、まだ視力補助で視界の明度を上げることは出来る。しかし先ほど懸念したとおり、火災が起きたのだろう。空気があまり循環していないこの部屋には、既にかなりの量の煙が充満している。視力補助にも限界があった。

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「う………」

「! 大丈夫ですかっ」

 彼女は足下に人が居ることにギリギリで気付いた。危うく踏んでしまうところだった。

「ティオ、魔力セーブ二段解除。この部屋全体に呼吸補助を!」

「にゃぁ!」

 躊躇うことなく、彼女はそう言った。魔力の消費が増えるが、今目の前で苦しむ人を放って置くわけにはいかない。

(まずい、さっとスキャンしただけなのに、喉の火傷と打撲、捻挫がこんなに……一体何が…………)

 すくみ上がりそうな己の精神を、頭を振って奮い立たせる。

「仕方ありません。ティオ、ここの壁を破ります。一番壁が薄くて、被害の少ない場所をサーチ!」

「にゃ〜……………にゃぁっ」

 ものの二秒ほどで、アスティオンが空間モニターにホログラフィックサイトを表示する。

「行きます。はぁぁぁぁぁぁ……」

 アインハルトが周りに注意しつつ、足を広げる。

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「覇王、」

「ディバイー…ン、バスター!!」

「えっ」

 アインハルトが必殺の拳を放とうとしたその時、彼女の右三メートルほどの場所から正面方向へ、虹色の光が流れた。

「あれっ」

 我ながら間の抜けた声を出してしまったな、と思っていたのだが、向こうからもそんな声が聞こえてきた。

「アインハルトさんだ! 大丈夫ですかっ?」

 喜んでいるのか慌てているのかよく分からないが、そんな彼女にアインハルトも返事を返す。

「こちらは大丈夫です。ヴィヴィオさんも、大丈夫そうですね」

「はい!」

 言いながら、アインハルトの方へと駆けてくるヴィヴィオ。壁に空いた穴から煙が逃げたことで、少しだが視界が晴れてきていた。

「じゃぁアインハルトさん」

 ライバルと会えた喜びも束の間、彼女たちは互いに真剣な表情になる。

「とにかくまずは、ここにいる人たちの救出です。アスティオン、サーチを」

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「にゃ、」

 アスティオンの返事が、不自然に途切れた。

 何事かと己の肩を見やったアインハルトだが、その目に映ったのは彼女の愛機ではなく、おぞましい目を持った、二つの掌だった。

「―――――!!」

 だが悲鳴を上げる間すらなく、二人の顔にその掌が覆い被さる。

(いけない! これは幻術の…………っ)

 必死にその手を薙ぎ払おうともがくアインハルトだが、気が付けばその頭の中には、呪いの、と付けたくなる呪文がひしめいていた。

―――狂宴の時、業と業がうごめく祭へ、さぁ導かれん―――

 彼女は、意識が遠のくのを感じ、同時に己の不甲斐なさを恥じた。

 この程度の不意打ちにやられ、あまつさえその暗示に膝を屈しそうになっているなど……覇王流の後継者として、恥ずかしい。

 これではヴィヴィオを守れない。かつて遠い記憶で失った、彼女のように………。

 二人の意識が、途切れた。

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 足下にひざまずく二人の少女を前にして、男はため息をついた。

「ふぅ、まさか壁をブチ抜くなんてな。幸い裏手向きの壁だったから良かったが」

 隊章や階級章を引き千切った管理局の制服に身を包み、不敵に笑ったこの男は、ラインホルト・フォードという。

 半年ほど前に管理局を無断退職同然に抜けた彼は、各地のアングラ系魔導師を訪ね、ある儀式の準備を進めていた。

 その儀式とは、数百年もの昔、とある世界で行われた万能の願望器『聖杯』の降霊儀式である。

 最初は『始まりの御三家』が協力して行った降霊だが、聖杯が叶えるのはただ一つの願いのみ。共に世界の元たる『根源の渦』へ至ろうという協力関係は、見るも無惨な殺し合いへと発展。

 以降、この降霊儀式は『聖杯戦争』と名を変え、七人の魔術師が覇を競い合うバトルロワイヤルとなった。

 ここまでで済めば、ただの私闘であり死闘であるだけの矮小な争い・諍いなのだが、この聖杯戦争がただの殺し合いにならない理由が、もう一つあった。

 それが、聖杯の余りある力を持って行われる、『((英霊|サーヴァント))降霊』………過去・現在・未来の英雄豪傑の召喚だ。

「フン、きっちり令呪も宿ったか」

 ラインホルトが、ヴィヴィオとアインハルトの手の甲を見て言った。そこには、ラインホルトが『令呪』と呼んだ不可思議な痣。

 これこそが、サーヴァントを統べ、聖杯戦争の参加者と認められた証であり、また、三度だけ使えるサーヴァントへの絶対命令権の印だった。

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(コイツらに英霊を召喚させ、強そうなほうをオレのサーヴァントにする。そしてもう片方は程良く弱らせて、時期が来たらのさばらせておく。そうすりゃ勝手に死んじまうだろうさ。………はは、なんて頭のいい作戦だ!)

 ラインホルトは一人、煙の残るくらいトレーニングルームで歓喜した。が、その熱もすぐに冷めてしまう。

(待て待て待て、落ち着け。早くしないと管理局が来ちまう)

 ラインホルトは脱走まがいの退職の後、元管理局員とは思えないほどの犯罪を犯していた。

 密出入国、詐欺、傷害、強盗、器物損壊……そしてこの日、このトレーニングルームでの爆発騒ぎ。

 まだ指名手配とまではいってないようだが、当然捕まってしまえば彼の聖杯戦争参加はなくなる。

「さて、それじゃぁ―――((起動|アウェイクン))」

 彼が呪文を唱えると、今までひざまずいていたヴィヴィオとアインハルトがあたかも操り人形のように動き、離れた位置につく。

 そしてそれを確認した後、ラインホルトが二人の前にサーヴァント章関与の魔法陣を展開した。

「((口写し|イミテイト))―――素に銀と鉄、礎に石と契約の大公……」

 彼が「((口写し|イミテイト))」と唱えたあと、彼が言うのとそっくり同じ呪文を、二人が唱え始める。まるで((人形|ゾンビ))が((人形|ゾンビ))を召喚するかのようである。

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「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 ラインホルトは、空気が微かに震えるのを感じた。

 

「((閉じよ|みたせ))。((閉じよ|みたせ))。((閉じよ|みたせ))。((閉じよ|みたせ))。((閉じよ|みたせ))。繰り返す都度に五度、ただ、満たされる刻を破却する」

 

 次第に空気の震えが増していく。

 

「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 空気の震えが大きくなるにつれ、今度はヴィヴィオ達の前にある魔法陣が輝き出すのが見えた。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 最早トレーニングルームには暴風が吹き荒れ、魔法陣の輝きは直視するのも困難だった。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――― !」

 

 ラインホルトが最後の詠唱を行ったのとほぼ同時に、光が暴風と共に破裂した。

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「おいミレイ、」

「言わなくても分かってるわ。これだけの排気魔力素……なんでかは知らないけど、一箇所で二人の莫迦が英霊を召喚している」

 街の中心部にあるトレーニングセンターへと向かう、真っ赤なオープンカー。

 運転するのは、車とは不釣り合いな銀髪の修道女―――ミレイ・コトミネ。

 対して助手席で面倒くさそうにしているのは、彼女の『客人』であるトウコ。

 二人は今、『教会』からの連絡を受け、すぐさま車を出していた。

「しかし、私も結構飛ばすがこの速度、まずいんじゃないのか?」

「あぁら、言っても無駄だと分かってるくせに」

「けっ」

 暇つぶしに、と話し掛けるも、ミレイの返答はあまり面白くない。

 面白いものは、最早数百メートルの距離まで近付いた件のトレーニングセンターにあるのだろう。トウコはそう決め付け、黙って流れる風景を眺めることにした。

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 目が覚めた、と思った次の瞬間、ヴィヴィオの目の前には異様な光景が広がっていた。

 座り込んだ自分の目の前、淡く輝く見慣れぬ魔法陣の上に立つ、一人の女性。

「…………」

 毅然とした表情でこちらを見る彼女を、ヴィヴィオは知っていた。知りすぎていた。

 と、呆気にとられて身動き一つ出来ないヴィヴィオに対し、彼女が口を開いた。

「答えて下さい。………貴女が、私のマスターでしょうか」

「……え、えぇっ」

 いきなりわけの分からないことを訊かれ、ヴィヴィオはさらに困惑する。

(マスター? マスターって事は、御主人様? 私が、彼女の!?)

 英霊召喚……詰まるところの死者召喚を目の当たりにした、という事実を仮に差し引いても、ヴィヴィオが驚くのも無理はない。

 彼女の目の前に立つ者の名は、オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。

 かつて古代ベルカの地において、女性の身でありながら覇を持って和を成した内の一人であり、俗に『最後のゆりかごの聖王』と呼ばれる人物である。

 またヴィヴィオは、彼女の遺骸を包んだという聖骸布に付着していた、彼女の血液からもたらされた遺伝情報によって生み出されたクローン。齟齬はあるが、言ってみれば子孫だ。

 果たしてどこの世界に、自分の祖先を女中使い魔の類などにしたがる者がいようか。それが古代の王女ならばなおさらである。

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「あの……」

 あんまりにもあんまりだ、と言わんばかりの顔で呆けていたせいか、いつの間にかオリヴィエは不安そうな顔でこちらを見ていた。

 そしてオリヴィエの声で我に返ったヴィヴィオは、震える足を叩いて立ち上がり、とりあえず挨拶をしてみた。

「こここ、こんばんはっ」

「え、あ、はい。こ、こんばんは?」

 手を揃えてこれでもかという程きれいにお辞儀をすると、彼女も戸惑いながらお辞儀をしてきた。

 恐らく彼女からしてみれば礼節をわきまえたのだろうが、それはそれ。ヴィヴィオは再び困惑の渦に巻き込まれる。

「あの、それで貴女は私のマスター……なんですよね? 令呪もありますし」

「へ?」

 オリヴィエの指し示す先、自分の手の甲を見ると、はめていたバリアジャケットの手袋の布地から漏れ出るように、うっすらと赤い光が見えていた。

 慌てて手袋を取ると、そこには先刻まではなかった文様―――令呪が確かに刻まれていた。

「な、なにこれ」

「え?」

 二人とも、首を傾げて困ったという表情になる。

 と、

「くっ、クラウス!?」

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 聞き慣れた声が、少し離れたところから聞こえた。

「あれ、アインハルトさん! と、あれは………」

 アインハルトの目の前に立つ、先ほどのオリヴィエと同じようにアインハルトを見下ろす人物。

 ヴィヴィオの記憶では、それはアインハルトの直系の祖先であり、オリヴィエ同様古代ベルカに名を馳せた男、クラウス・G・S・イングヴァルトに見えた。

「クラウス!」

 ヴィヴィオが再び困惑のスパイラルに埋もれようかという時、今度は隣のオリヴィエが叫んだ。

 また向こうのクラウスもそれに気が付いたようで、オリヴィエを見るや否や、

「オリヴィエ!」

 と言って笑顔を見せた。

 が、なぜか二人は、ハッと何かに気が付いた素振りを見せたあと、毅然とした表情でお互いを見た。

「ついに、こうして相見える時が来てしまったのですね」

「えぇ………英霊の座に導かれた時からもしや、とは思っていましたが……」

 ヴィヴィオもアインハルトも、二人が何を語っているのか全く分からない。

「しかしクラウス、今夜は一先ず休戦としませんか?」

「そうですね。どうやら私たちのマスターは、事情が飲み込めていない様子ですから」

 二人は、ヴィヴィオたちのことを話しているようだった。

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 と、その時。ヴィヴィオが突き破った壁の穴から、二人の人影がトレーニングルームに入ってきた。

「!?」

 驚くヴィヴィオ、アインハルトと、構えるオリヴィエ、クラウス。

「何者ですか? ここは聖なる召喚の儀を執り行った場。出来れば今暫くの暇を頂きたいのですが」

 闖入者へと、あえて冷たい声をあびせるオリヴィエ。しかし、その闖入者―――銀髪の修道女は悠然と歩みを進め、そして口を開いた。

「何を言っているのです、サーヴァント風情が。私はこの聖杯戦争の監督者、ミレイ・コトミネ。そしてそこでタバコを吸っている粗雑眼鏡がトウコ。教会からの使者にその言、はっきり言やむかつきます」

「おい誰が粗雑だ、誰が」

 言うなれば粗雑なのは当のミレイ本人なんだろうな、と失礼なことを考えたと焦るヴィヴィオ。気配だけで察する限り、ミレイは心を読むことぐらいやってのけそうだった。

「それはご無礼を。私は古代ベルカの、」

「真名を言ってよいのかしら。一応、私が教会の使者という保障はなくてよ」

 ここでどっちかにしてほしいな、と思ったのは、ヴィヴィオだけでなく、ミレイ以外のこの場の全員だったのは言うまでもない。が、

「そうですね。確かに真名を告げるのは得策ではありません。……初めまして、ミレイ・コトミネさん。サーヴァント、ライダーです」

「はいお上手。そこの筋肉ダルマ、貴方は?」

 どうやら筋肉ダルマとはクラウスのことらしい。

 言われた当のクラウスは、若干引きつった笑みを浮かべつつ、

「私はラ、ランサーです……。此度の聖杯戦争、つつがなく進みますよう、監督役殿の手腕にご期待申し上げます」

「ん。サーヴァントはこんなもんね。それじゃ、次は……」

 そう言ってミレイが見たのは、ヴィヴィオとアインハルトだった。

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「そこの二人、まずは何を考えてこんな距離で召喚をしたのか、聴かせてもらいたいわね」

「え、いやあの、私たちにもなんのことだかさっぱりなんですが……」

 ここで取り繕っても仕方がないので、ヴィヴィオは正直に告白する。

「はい?」

 コレにはさすがの彼女も驚いたようで、厳しい眼光が少し揺らぐ。

「え、じゃぁ何かしら。貴女たちは召喚直前に令呪を授かって、そのままなし崩し的に召喚してしまったって事?」

「いえ、そういうわけでもありません」

 立ち上がったアインハルトが、ミレイの言を否定する。

「私たちはスパーリングの最中、何者かに襲われたのです。そしてそのまま暗示をかけられ、それからは記憶がありません」

 アインハルトの分かりやすい説明に、ヴィヴィオも頷く。

「………………」

 ミレイはこの事実に、完全に呆れているようだ。目と口を丸く開いて、処理能力を超えて停止したコンピュータのようになっている。

「なるほどね、合点がいったよ」

 唐突に、ミレイの後ろで暇そうにしていたトウコが口を開く。

「その変質者だかなんだかが暗示で召喚させて、小娘二人が目を覚ましたから逃げたんだな。さっきから妙な気配がしてたんだ。もうこの建物からは出ただろうがね」

 そう言ってトウコが見たのは、ヴィヴィオたちの後ろ―――この部屋の出入り口の方だった。

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「うぅ、顔も覚えてないし、どうしよう」

 小娘、と言われたことよりも、犯人が逃げたことがより一層ヴィヴィオを落胆させる。

 そして、もしまた同じことが起きたら………また何の関係もない人々を巻き込んでしまうのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。

「はぁ。こんだけ面倒な事ってあるかしら」

「お前の好きな状況だろ」

「私は遠目から見るのが好きなの。面倒なことには関わりたくないのよ」

「あの、」

「はい?」

 放って置かれていたアインハルトが、胸に抱える疑問に耐えきれずに口を開く。

「私たちは、その、何かの事件に巻き込まれているのでしょうか」

「あー」

 ミレイがことさら面倒くさそうな顔をする。

「今日はもう疲れたわ。貴女たち、明日の夕方にエルセアで一番大きな聖王協会に来なさい。そん時説明するわ………」

「は、はぁ……」

 うなだれたミレイがそう言い、今度はオリヴィエたちに向かって喋る。

「それからサーヴァント共、アンタたちまだ仮契約だから、明日の夕方までは一切戦闘禁止。防衛戦とその出来損ないマスターの保護だけは認めるわ」

「はい」

 言うだけ言った、という具合に、別れの挨拶もなしにミレイは出ていった。トウコは最後に、四人に一瞥をくれてからミレイを追っていった。

「…………」

 部屋の中には、四人だけが残された。

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―――生まれたてのマスターと、それに仕えるサーヴァント。彼女らの出会いは、果たして幸か不幸か、正か邪か。狂宴の時は今、始まりの鐘を打ち鳴らす―――

説明
ようやく本編。今度は続くと良いな(ぉぃ
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リリカルなのは Fate TYPE-MOON クロスオーバー 二次創作 

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