人類には早すぎた御使いが恋姫入り 二十三話 |
曹操SIDE
凪が消えた。
その報告を聞いた時、私はあの娘がどこに行ったのか簡単に想像できた。
凪は流琉と一緒に一刀が自ら選んで連れてきた武将の一人。彼を想う心が将としての自分の立場に勝ったのだろう。
でも、そんな彼女の行動よりも私たちを驚かせたのは、彼女が帰って来ないということだった。
今ここの連合軍、その気なればいつでも彼女を連れ戻すことはできる。
けど、流琉の時は泣きつく彼女を無情に帰らせた一刀が今回は凪をその場に居させた。
この事実が一刀の心に何かの変化があったことを意味しているのだとしたら…それは私にとって吉に出るのだろうか、凶と出るのだろうか。
凪の親友の真桜と沙和は驚きながらも彼女のそういう選択を尊重する様子だった。
だけど、凪と違ってあの二人は一刀がそれほど注目していなかった。
最悪の場合、この事件で三人が分かれる結果になるかもしれない。
他に衝撃を受けた人には桂花が居た。
彼女も一刀の影響を沢山受けた者の一人。
黄巾党の事件で一刀が居なくなったことを真っ先に気づいたのも桂花だった。
桂花が凪のような選択をするかと言われればそんなはずはなかったけど、とにかく桂花も彼が凪を受け入れたとされる現状に衝撃を受けていた。
だけど凪と桂花の違いは、惹かれた対象の違い、地位の違い、責任の重さの違い。
桂花が同じことをするとは思えない。
一番心配になるのはやっぱり流琉だった。
最初に聞いた時は皆が居る前で「どうして私はダメで凪さんは…!」と言っていた。
この事件で一番傷ついたのは流琉でしょうね。なんだかんだ言って流琉のことを心配していた一刀は、こうなることを予想していたのかしら。
……そして私。
私自身はどうなのでしょうね。
なんともない、とごまかすには心の奥の何かがその答えを拒んでいる。
この連合軍に来て、一度だけ、連合軍の初めての会議の時にだけ彼の顔を見た。見ただけで、声一つもかけなかった。
それが今になって考えると少し後悔している。結局私たちがこの軍内で話し合っていることは、単なる私たちの憶測ばかり。
本当の彼の口から出た言葉は少ない。
そして今回凪のことがあってその事実が更なる不安を呼び起こした。
もし一刀が変わったとしたら?
私が見てきた一刀の姿が既に過去のものだとしたら?
一刀を見ていない時間が長くなるほど、一刀から身も思いも遠くなっていく。
悔しいことは、そんな私と離れている彼の興味はどんどん私から離れていくというのに、私の彼への興味はどんどん増すということ。
「華琳さま」
そして、私は水関を落とした翌日である今、連合軍会議場に来ていた。
お供させているのは桂花と春蘭。
桂花は麗羽に会うことが嫌で出来るだけ諜報などの仕事に回していたけど、彼女の頼みもあって秋蘭に一時的に任せて来ることを許した。
流琉も一刀が来ることを目当てに付いてきたい言ったけど、心的に弱っている彼女に一刀を見せることは危険だと判断した。
「華琳さま」
「うん?ごめんなさい。聞こえてなかったわ」
秋蘭からもらってきた綿で耳を塞いでいたら桂花の声が聞こえていなかった。
「あなたも要るかしら。綿」
「いえ、結構で『おーっほっほっほっほ』……お願いします」
ふふっ、可愛いわ、桂花。
「所で何?」
「はい、水関を落とした直後の劉備軍の様子ですが、少し変な事件があったらしいです」
「というと?」
「詳しい情報は判りませんでしたが、何やら内部で揉め事が起きた様子です」
「揉め事…ね…その中心に一刀が居たって?」
「確証はありませんが、簡単に想像できます」
確かにその通りね。
ということは、彼はまだ劉備軍に完全に定着していないと取るべきなのかしら。
彼のような人間を快く受け入れられる集団はそうはないはずだけれど、でもそれはつまり一刀がこっちに戻ってくる可能性もまだ残っているということ。
でも、一刀が持っていたあの絶縁状、どこから始まったものかまったく証拠が糸口が掴めない。
もう彼と口論した方が早いかもしれない。今日は彼と直接話し合う覚悟で来ている。
だから、早く来なさい、一刀。
私が知っているあなたなら、こんな所で身を隠すはずがないわ。
さあ、私の前に現れなさい、一刀。
孫権SIDE
「よし、決めた。今日の会議は蓮華を行かせるわ」
「何を馬鹿なことを言っているんだ、馬鹿雪蓮」
このお姉さまは一体何を馬鹿なことを言っているだろうか。
「ちょっと、人を馬鹿呼ばわりなんて酷すぎるでしょう。ちゃんと考えて言ってるのよ」
「ほお、ならその考えとやらを話して頂けるでしょうか。孫伯符殿」
冥琳が厳しい目つきで暢気な姉さまを睨みつけた。
こういう時姉さまの思惑なんてたかが知れているというか、恐らくあんな息苦しい所行きたくないという気持ちも、その考えとやらに入っていることは間違いない。
「簡単よ、少しは蓮華にも他の軍の人たちの顔を見ておくべきたと思ってね。社会勉強ってわけよ」
「にしては荷が重すぎます。ここは連合軍と言って、大陸の諸侯のほとんどが集まってる場なのですよ?」
「だからこそいい機会じゃない。こんな機会滅多に、いえ、ここ以来はもう二度とないかもよ」
「……」
私は私のお姉さま、孫伯符を尊敬する。
お母様が居なくなった孫呉をここまでまとめ上げたのはお姉さまと冥琳だった。
二人が居なければ、私たちは今でも孫呉の再見なんて夢にも見れないただの豪族の一つ、いや、それ以下になっていたであろう。
でも、お姉さまが居るおかげで、今こそ袁術の客将という立場に居るが、いつか袁術から独立し、また孫呉の遠大の夢に向かって走ってゆくことができるだろう。
私はそういうお姉さまのためにも、孫呉のためにも、私にできる全力を尽くすつもりでいる。
「ほう、ならお前が天幕の奥側に隠しておいたお酒は、決して私が蓮華さまと一緒に軍議に行かせている間祭殿と一緒に呑むためにおいたものではないというわけだな」
「そうそう、あの酒凄く楽しみにして……なんで知ってるの?」
「知らなかったわ。適当に言っただけです」
冥琳の顔がみるみるうちに怖くなっていく。
さすがお姉さまの旧友、お姉さまの考えが丸見えね。私も大体感づいていたけれど……そんな自分が悲しいわ。
「お姉さま……」
「ちょっ、蓮華。恐いわよ?その顔」
「なんでいつもそう大事な時に私欲に目が行くのですか!孫呉の命運がかかった大事な場面なんですよ。お酒なんかのために未熟な私に軍議なんか行かせてどうするつもりですか!」
「お酒なんかじゃないわよ!荊州の匠が作ったすっごく高級なお酒なのよ!」
「どうでも良いです!」
あぁ、もう…こんなお姉さまと話していると私がしっかりしなくちゃと思いつつも、それでもお姉さまに及ばない私が凄く腹立たしくなる。
「はぁ…わかった、雪蓮。軍議では私がちゃんと蓮華さまを補佐しよう。その代わり、頼むから他の将たちは巻き込まずにやってくれ。軍の士気に関わる」
「分かってるわよ」
「分かって居ないものなら後ほど蓮華さまと一緒に呑むはめになるからな」
「分かっていますので勘弁してください」
ところで、何故かお姉さまは私とお酒を呑まない。
私も別にお酒が好きなわけでもないし、呑むこともあまりない。
だけどあんなに酒好きのお姉さまなのに、私にお酒を勧めたことは一度もない。
なんでだろう。
「では蓮華さま、参りましょう」
「ええ。思春」
「はっ」
そういう疑問を隅に置いて、私は冥琳と護衛のための思春を連れて軍議場へ向かった。
・・・
・・
・
軍議場には既に多くの諸侯たちが集まっていた。
私たちは水関の攻撃にて先発に居た。劉備軍が華雄隊と戦っている間、私たちは速やかに関を占領し功を上げた。
「蓮華さま、分かっていらっしゃると思いますが、今回我々がこの連合軍にて目的としていることは、我が軍の名を上げるほかもう一つあります」
「わかっているわ。袁術でしょ?」
そう、それだけでは足りない。
いくら功を上げたところで、袁術が私たちの前を立ち塞がっている限り、私たちの未来は暗い。
だから私たちは、この戦いで最小限の被害で功を上げると同時に、袁術軍に最大限の無駄な被害を与えなければいけないのだ。
この軍議にて、そうなる風に状況を進めていくことが、私がやるべきことだ。
「所で、まだ軍議は始めないのか」
「何も劉備軍の劉玄徳がまだ来ていないようですね。彼らは私たちと共に今回の戦いで最も功を上げた軍です」
「劉備軍……ね…」
「…何か?」
「いえ、なんでもないわ」
姉さま達には言わなかったけど、姉さまと冥琳が劉備軍と同盟を結んでいる間、劉備軍所属のある男が私の前に現れた。
彼はとても不思議な、悪く言えば怪しげな感じの男だったが、妙にもその不審な動きから私は何の威脅も感じなかった。
もちろん違和感はあったが、それでも彼のことを警戒しようとは思えなかった。
ただ、一つ気になることは彼が私に言ったこと、
『孫仲謀、君はこの戦で何を望む。この大陸で何を望む。親友と肉親を失いながらそれほど君が求めるものは何だ』
その答えは、ある意味とても簡単なことだった。
だけど、彼はそれ以前に『私』自身に視線を注目させた。
そう、今私が望んでいるものは孫呉の栄光。だけど、それは本当に私が求める何かなのか。
孫呉の栄光は今まで孫家の誰もが望んでいた、そんなもの。軽くはないけど、至極単純で、曖昧な目標。
君主であるお姉さまには分からないけど、私には何をどうすればそれが孫呉の栄光に繋がるのか分からない。
分かる必要もないとまで思っていた。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
今までそんな悩みもしていなかった私は、孫呉の姫として失格なのではないか。
孫呉のために尽くすと口では言いながら、本当は何もやっていなかったわけではないのか。
その質問が、そんな思いを作り出してずっと私の頭の中でざわめいていた。
「…冥琳、劉備軍に居る怪しげな男に付いて知っているかしら」
「怪しげな男…見たことはありませんが、聞いては居ます。天の御使いとか言われているようでしたが」
「天の御使い」
「遅れて申し訳ない」
その時、私の目に何か見慣れたものが映っていた。
白い服を羽織っているその姿。
でも、以前見た人とは違っていた。
まるで別人のようなその姿を見て、私は驚かざるを得なかった。
二度目にあった彼は、以前見た時の怪しげな様子も不審な感じもなく、
とても凛々しくて神々しい何者かのようにそこに立っていた。
朱里SIDE
水関陥落の翌日、私は今軍議場に向かっています。
ですけど、私の隣に居るのは私たちの君主、桃香さまではなく…
「そう緊張することはない、孔明、雲長」
「!」
「約束しよう。今日この軍議場は、我が軍の独舞台だ」
私も、反対側の愛紗さんも、
今までとはまったく違う北郷さんの姿に未だ慣れずに居ました。
話は昨日の夜に遡ります。
・・・
・・
・
愛紗さんとの事件がある程度収まった所で、愛紗さんは自分から北郷さんに謝罪しに行くと桃香さまに言いました。
桃香さまもそれを嬉しく思って一緒に行こうとしたのですが、さっきの事件で北郷さんもまだ心を落ち着かせる時間が必要だと進言したので、北郷さんに会いに行くのは少し後にしたのです。
でも、驚くことに日が暮れて暗くなる頃、夕食にした時(私たちの戦の時には、たまに一人か二人が仕事で外れることがなければ将は皆揃って食べますが、その日は皆集まっていました)、その人が現れたのです。
「皆集まってるようだな」
最初は皆それが誰なのかパッと判りませんでした。
だって、いつものあの人の姿は、背筋が曲がっていて、手はいつも袴に突っ込んでいて、目には深いクマができていて、全体的に不気味な雰囲気が漂う、そんな姿だったんです。
「あ、一刀さん、もう大丈夫なの?」
そして、桃香さまがそう言った時、そこに居る全員驚愕しました。
いえ、冗談のつもりではなく、本当に誰も気づかなかったのです。
「……大丈夫と言える状態ではないが、大事な話があったのでな」
「にゃにゃっ、本当にお兄ちゃんなのか?」
「待て、何かの間違いではないのか」
「これは驚きだな。まるで別人だ」
「あわわ……」
私も思わずはわわという声が漏れましたけど、それ以外に何も言えなかったのは、それは本人が変わったその姿よりも桃香さまがそれを瞬時に見抜いたことを驚いたからでした。
「早く座って、今皆でご飯食べる所だったから」
皆の驚きとは関係なく、席から立って北郷さんの手を掴んで自分の近くの席に座らせました。
普段の北郷さんなら、そんな桃香さまの行動を拒否するはずなのに、この北郷さんは素直にその手に引っ張られて桃香さまの隣に座りました。
「……っ」
「どうしたの?」
「さっきの事件で少し怪我をしてな」
「え?大丈夫なの?」
「大丈夫だ、ありがとう」
「「「「「!!」」」」」
誰ですか、この人は!
「え、あ、うん……」
「………」
愛紗さんが何か言いたそうな顔をしていますけど、さっきの事件もあってか大口は叩けません。
となると、
「はて、北郷殿、少しお戯れがすぎるようだが」
星さんが北郷さんにそう言うと、北郷さんが黒い瞳を桃香さまから星さんに向けました。
「別に遊んでいるつもりはないが……だが、これも以後の策のために必要だった。不愉快でも皆にも耐えて頂くしかない」
「策だと?」
「今さっき起きた事件は、他の軍からの斥候によって見られている。だが、警備があり、そしてその軍の将が皆集まっている場だったため、その詳細を見た者は誰もいない」
「あわわ、一体どういうことですか?」
雛里ちゃんが聞くと、北郷さんあhいつもならありえない行動、つまり『人に自分の考えを分かるように説明』していました。
「他の軍は今日この軍で起きた事件の一連を解っているだろう。特に俺たちが兵を借りた袁紹軍は、ほぼ完璧な情報を持っていると見てもいい。でもそれらは単発的で短絡的で、そしてあまりにも噛み合わない事件だったため、その欠落を自分たちの推測だけでは満足につなげることが出来ない。突然玄徳が城を出て行ったことを始め、関に向かって矢を打ち込んだことや、雲長が玄徳を連れて戻って、その後俺と喧嘩し始め謹慎処分された一連の事件は、それを見た皆にとっては至極当然の流れに見えるかもしれない。でも、他の軍からすると誰一人完璧な情報を持っていない。逆に言えばこっちからその情報たちを偽りの情報でつなげることによって、こっちが有利にできるように話を作ることができるのだ」
「!」
まさか、今日一日のことを、玄徳さまを危険に晒し、自分自身を傷つけることさえも、全て計算されたことだったと……そういうことですか。
「私や桃香さまを貴様の策に利用したというのか」
「…不愉快であれば謝罪しよう、関雲長。だが、決してそれがこの軍にとって損する話ではないことは保証する」
「……」
愛紗さんも文句を言おうとしますけど、いつもと違う反応に調子が狂うのは愛紗さんだって同じのようです。
「それで、偽りの情報ってどういうことなの?」
「簡単なことだ。そのままでは不完全と思われる、いや、完璧だと思う情報でも、それらに情報を追加することでまったく違う情報に変貌する。偽りの情報を組み立てて物語を作ることで、よりこの一連の事件を合理的にし、他の軍の君主たちを騙すのだ」
「それに何の意味があるの?」
「……孔明、分かるか?」
何故か私に話が持ってこられたので、私が代わりに答えました。
「現在、私たちの軍は、連合軍においても弱小勢力です。そんな私たちが水関の最前線に建てられたのは、つまり、私たちにここで潰されて欲しかったとしか思えません。それが今私たちは見事水関を陥落させ、潰されるどころか大きな功をあげています。これは他の強い豪族たちから見るととても不愉快な状況です。そのために、以後にもこのように私たちを無茶な戦いに挑ませ、私たちを完全に潰そうとしてくる可能性が高いです」
「つまり水関を落としたことによって、俺たちの軍は更に危険な状況に陥っているのだ」
「確かに、功は上げるは良いが、このような戦いが何度も続いては危険が多すぎるな。しかもそれをうまく凌いだとしても、結局のところ他の強大な豪族たちから警戒されるばかり」
「子龍の言う通りだ。つまり、水関を落とした俺たちはこの辺りで後ろに下がっている必要がある」
ですけど、私たちはそういう考えを他の勢力に言える程の立場ではありません。もし袁紹さんが次の虎牢関でも私たちを囮に使うつもりだとしたら、私たちにそれに逆らうことはできないでしょう。
「だからこそ、今の俺たちに最も重要なものは、この連合軍において自分たちに利があることができる力、つまり、連合軍での発言力を得ることだ」
「しかし、どうやってそんなことができるようにするんだ。お前の言う通りだと、今の私たちにはそんなことをする力がないのだろ」
「確かに、俺たちにそんな力はない。以後もこの軍でそんな力を得ることは出来ない」
「ならどうするというのだ」
愛紗さんが苛立って言いましたけど、それは北郷さんが回りくどい言い方をするからというよりも、北郷さんは以前のような見る人を苛立たせる顔ではなく、爽やかな笑みを見せながら話しているからだと思います。
桃香さまが男であったなら多分あのようなほほ笑みをしていたでしょうか。
「幾つかの方法がある。この策の良いところは自由度が高い所だ。でも俺が今考えているのは……」
「……え?な、何?」
北郷さんは桃香さまを見つめました。
「劉備軍の君主は水関から放たれた矢によって傷を負った」
「…え?」
「玄徳が陣を出て水関に向かったのは事実。でも、矢を自分から打ったわけではなく、打たれたとする。そしてそれで衝撃を受けた劉備軍は必死に君主を助けたものの、これ以上戦いができる状況ではない。そのために以後の戦いでは後衛に回って補給部隊の護衛などの仕事に回せて頂きたい、と言えばどうだろう」
「…なるほど」
水関の地理的な構造上、地上で矢を打つことは不可能。そのあり得ない情報を納得いける情報に変えると同時に更に流れとして正しい偽りの情報を混ぜることで、こっちが思う通りの位置につけるということですね。
「朱里、どうなのだ、今アイツが言ったこと。うまくいくのか?」
「…多分、出来ると思います。確か桃香さまが矢を打った直後、愛紗さんが急いで桃香さまを回収したのでしたね」
「回収って…まぁ、そうだけど」
「それなら尚、そういう偽りの情報が利に叶ったものに変わります。少し不安な所は、愛紗さんと北郷さんが戦っていた時に桃香さまがその場に居たことぐらいですけど」
「然程問題ではない。言った通り、誰もあの時のその場面を確かに見た者は居ない。将の皆が集まっている所悠々と密偵できるものは居ないからな。それに、実際あの時玄徳は少し落ち込んでいた。詳しく見てなければ、それが傷を負ったせいだと思わせることぐらい可能だ。曖昧な情報を筋が通るな嘘で塗りつぶすことで完璧な嘘が完成するというわけだ」
「そうですね。確かにそうなるとすれば…後衛に下がりたいという私たちの意見が通ることでしょう」
最小限の被害だけで、一番美味しい所だけを持って行って安全な所で戦況を見る。完璧な構図です。
まさか最初からこの構図を考えてこんなことを……。
「あの、でもそうなると、私は負傷したことになるよね。今ここでこうしていても良いの?」
「…今日の玄徳は冴えているな。話が早い」
そして北郷さんは立ち上がりました。
そして、突然座っている桃香さまを持ち上げました。
「ひゃあああ!!」
「しばらくはお前は負傷して休んでいることにする。当分部屋から出てくるな」
「ま、待って!せめて自分で歩いて行くから」
「自分で歩ける程なら負傷したとは言えない」
はわわ……誰も唖然すぎて止めることも出来ません。
「明日の軍議は俺が代理として出よう。補佐には孔明と雲長が適任だな」
「待て、あまりにも突然すぎるだろ」
「すまないが、悠長に説得している程時間がない。今はただ、俺を信用してくれとしか言えない」
「っ……」
「そのために二人には俺の補佐として軍議に付いてきてもらうんだ。俺が何か他の企みがあると思われればいつでもこの頸は渡す」
そう言って北郷さんはそのまま桃香さまを連れて外に行きました。
「ちょ、ちょっと一刀さん、恥ずかしいよ。なんで誰も止めないの?誰か替わってー!」
最後に桃香さまのそんな声が聞こえましたけど、他のことがいろいろありすぎて皆それどころじゃなかったようです。
・・・
・・
・
というわけで、今日、私と愛紗さんは北郷さんと一緒に軍議場に来ました。
桃香さまは雛里ちゃんや他の皆が順番に面倒見(というのは建前で万が一でも部屋から出てくることがないように監視)をしています。
北郷さんの言う通りうまくいけば、私たちにはこれからの戦況を見ながら、私たちに有利なことが何かじっくりと考えられる時間が与えられます。
しかし、北郷さんがこの全てを水関に来る前から計算して考えたものだとしたら、この人はどれだけ私の予想を越えた化物なのでしょうか。
この人を敵に回すとしたら、私は桃香さまを支えることができるのでしょうか。
そんなことを考えていると、ただ北郷さんのことを頼もしい仲間、とばかり思うわけにもいかないのでした。
つづく
オマケ-その頃凪は…
「それでは、私は外に居ます」
「待て、凪」
「はい?」
「傷を負った人間に一人でお湯で洗えというつもりか」
「……え?」
「手伝ってもらおう」
「えええ!!?」
・・・
・・
・
「じゃあ、行ってくる」
「………」
「…凪?」
「………」
「返事がないな…。疲れてるか」
「か、一刀様の……は……はうぅ…///////」
※何もやましいことは起きていません。
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最近手が進まなくて困ってます。 困りましたね。 |
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