<短編>Infinite・S・Vestige 3 |
1 代表者観客席
学年別トーナメントは各学年とも白熱した試合が繰り広げられていた。
とはいえ各国の代表者たちの眼鏡にかかる生徒とのいうのはほんの一握りである。
それと共に自国の代表候補生やそのISがどこまで力を発揮しているのか、そのデータ鳥も彼らの仕事であった。
さらに今年はそれら以外にも彼らには目的があった。「織斑一夏」と「紅月飛鳥」の二人の男のIS操縦者である。
十年前にセンセーショナルな登場をしたISであるが、それには致命的な欠陥があった。それはIS学園が女子高であるのが証明しているように、女性にしか扱えないというものだった。さらに数に限りがあるとはいえその力は当時の兵器をたった一機で捻りつぶすことができるくらいのものだった。
モニターに映し出されているトーナメント表はその二人の試合が近いことを示している。
『紅月飛鳥・ラウラ・ボーデヴィッヒVS織斑一夏・シャルロット・デュノア』
代表候補生である二人と数少ない男の操縦者二人のタッグマッチ。各国の代表たちだけではなく、IS学園の生徒たちもまたその試合に注目を寄せていた。
放送委員の女子生徒のアナウンスが響き渡る。
いよいよ目玉の試合が始まろうとしていた。
2 選手控え室 Aパート
ここはいくつかある選手控え室の一つである。そこにはISスーツに着替え終わっている織斑一夏とシャルロット・デュノア、本名「シャルル・デュノア」の姿があった。
二人の表情には程よい緊張があるだけで、気負いというものは見られない。
対戦相手が相手であるために気合の入れすぎという不安もあったがシャルロットから見て一夏は普段どおりの様子であるようでホッとしていた。
「いよいよだね……」
シャルロットの言葉に一夏は小さく笑みを浮かべて頷く。僅かな緊張が一夏が言葉を口にするのを遮る。
相手の一人であるラウラ・ボーデヴィッヒからは相当な敵意、殺意を向けられていた一夏。その理由を知っており、決して無視できることではないということを理解していた。
全ては自分の責任だと言えればいい。
しかしそれを決してよしとしない者がいた。彼の姉である織斑千冬だ。
しかしそれをまたラウラが認めない。お互いにお互いの主張を認め合おうとしないためにいつまで経っても解決しない問題だ。
ラウラが千冬のことを慕っているのは知っている。一夏も彼女がIS操縦者の卵を育てるよりもある程度育っている雛を育てた方がいいのではないかとも思っていた。それはラウラが言うようにドイツにもう一度行ってもいいのではないかと。
しかし千冬はそれを断っている。
その理由は明らかにされていないが、彼女なりの考えがあるのだろう。
だがそれが帰ってラウラに焦りを与えたのかどうか。同じクラスメイトであり、中学の時の同級生である「セシリア・オルコット」と「鳳鈴音」の二人を攻撃するという奇行に走らせた。
彼女たちも代表候補生としての力とそのISの力があったために二人がかりでラウラのことを退けることができたが、ただひとりで候補生二人を相手にしたラウラの実力は無視できるものではなかった。
「確かに次の対戦相手二人は今までの誰よりも強いと思う……」
「だよな……セシリアと鈴のペアを破ったんだから、な……」
「以前はボーデヴィッヒさん、その二人に負けたんだよね?」
「ああ、流石に候補生二人相手は厳しいだろ?」
「……でも、簡単には負けなかったんだよね。それだけの実力があるってのは侮れないよ」
「なら今回の勝利は? 今回はひとりじゃなかったけど……」
「飛鳥だよね。確かにあれはどう見てもタッグバトルじゃなかった……でもお互いのポテンシェルが高いからできた勝利だね。ほとんどゴリ押しだったけど」
一夏たちが箒のペアと戦う前に行われたもう一つの目玉の戦いだった。
開始と同時に以前の敗退の汚名を返上するためか飛び出していったラウラ。ひとりで戦おうとする彼女に対して以前は急造のコンビネーションだったのでギリギリ勝利できた二人は訓練で鍛えていたのだろう見事なコンビネーションでラウラのことを翻弄した。
そこに割って入ったのが飛鳥だった。
邪魔をするななどというとても味方に言うような言葉ではないものを吐いたラウラ。もはやタッグマッチではない戦い。
完全に一対二の構図が出来上がっていた。
セシリアと鈴にとっては普通なら有利であるはずのその戦い。しかし個人の力が強い二人のどちらかを野放しにしても必ず二人にダメージが与えられる。
だからといって一対一になれば確実にAICを持っているラウラの相手にはならない。
いくらセシリアのISである「ブルーティアーズ」のインターフェイスである自立機動兵器があってもセシリア自身が攻撃されている間はどうしても攻撃に移れないという弱点がまだ完全には改善されていなかった。
候補生ほどでなくとも確実に実力をつけてきている飛鳥も舐めてかかれば候補生とはいえ危険であった。
コンビネーションも何もない戦いであったがそれでもセシリアと鈴にとっては二人の個人の実力というのは厄介なものだった。
拮抗した戦いになったが最後はゴリ押しで飛鳥とラウラのペアが勝利を収めていた。
当然飛鳥はともかくラウラはその勝利を嬉しくは思っていなかった。泥臭すぎるこんな勝利で千冬のことをドイツに連れて帰ることなどできないと思ったからだった。
「だからって俺達だって負けるわけにはいかないよな」
「当然だよ。負けるために試合に出るんじゃないんだからね。やっぱり狙うなら優勝だよ」
両手をギュッと握り締めて気合を入れているシャルロット。
今は男の名前を使っているが一夏とここにはいない飛鳥は彼女が女の子だということはすでに知っていた。
だがまだみんなに知らせる勇気を持てないでいるシャルロットはそれを隠していて、知っている二人はそれを秘密にしていた。
今回二人がペアを組んだのはこのように控え室にいるときにシャルロットが女の子だとばれてしまう危険性があったためだ。
一夏か飛鳥のどちらかとペアを組めればその危険を回避できたシャルロット。しかし彼女がその話を出す前に飛鳥がラウラにトーナメントのペアを申し込まれた後だったのだ。申し込まれた本人も信じられないという表情をしていたのを二人は覚えている。
突然頭の上から声がかかる。上からアナウンスの声がかかったのだ。どうやら二人ので番がいよいよ来たようだ。
お互いに視線を合わせ、頷く。
絶対に勝とう。そう二人は声を合わせ言い、控え室を後にした。
3 控え室 Bパート
一夏たちのいる控え室とは別の場所。
一夏たちの控え室には偶々誰もいなかったが、この控え室にはいくつかのペアも使っていた。しかしどうしたわけか皆端の方に固まるようにしている。
彼女たちの視線の先には赤と黒のツートンのISスーツを着ている飛鳥と黒のISスーツを着ているラウラがいた。
しかし二人とも一言も声をかけず黙って目を瞑っているか、黙って視線を下に下げているかのどちらかだ。
時々どちらかが視線を向けるが声をかけず、すぐに視線を逸らす。
他の生徒たちからも声をかけられる雰囲気ではなかった。
ひとり、またひとりと適当な理由を述べてその場を離れていく。取り残されるわけにもいかないというように慌てて走り出す女子生徒もいる。
いつの間にか二人しかいなくなったこの控え室。
しかし二人にとっては好都合だった。お互いに言っておきたかったことがある。最初に口を開いたのはラウラだ。
「おい紅月飛鳥、分かっていると思うが織斑一夏は私が倒す……邪魔はしてくれるなよ?」
「あぁ? なんだよいきなり。まさかひとりであいつの相手をするつもりか?」
「当然だ。あんな奴に私が負けるはずがない。いや、負けるわけにはいかない。お前は残った方をやれ」
「……勝手に言ってくれるよな。あいつらがお前の戦いに真正面から乗ってくると思うか? 一夏だけならそうかもしれないけど、これはタッグマッチだ。以前の二の舞になるかもしれないぜ?」
「……私が負けるとでも? ふざけたことを――」
「その慢心が前の敗退だろ? お前候補生で軍人のわりに馬鹿なのか?」
「っ! なんだと、貴様!」
命令するように言うラウラ。実際にドイツの黒ウサギ隊においては隊長をしていたためにその言葉には鋭さがあった。
しかしそれに黙って従うような飛鳥ではない。いつもなら彼女のような相手をする場合は苛立ちを顔に出すが、今はグッと堪える。いちいち反応していてはキリがないとようやくそれを抑えられるようになっていた。
小さく息を吐き、落ち着いてから話をする。
言うかとは思っていたがまさかここまで自信満々に言ってくるとは思わなかった。
少しだけ呆れを見せる。
そんな飛鳥の表情は無視して根拠のない自信を示してくる。どこからそんな自身が出てくるのだろうか。候補生だからか、それとも軍人としてのプライドからか。
しかしそう簡単に引き下がれない。
前のセシリアたちとの試合であるが、あれはあまりにも酷いものだった。まるで子どもの喧嘩のようにもとれる。
このトーナメントがどういう意味を持っているのかを考えるととてもラウラの言うことを承諾することはできなかった。
それに向こうにはラウラと同じ候補生であるシャルロット、シャルルがいる。彼女は比較的冷静な性格をしている。当然やる気を出しすぎてしまう一夏を落ち着かせることだって彼女ならできなくもない。
無鉄砲である一夏であるが乗り始めた当初よりは戦えるようになっている。
とはいえ飛鳥共々候補生たちに比べて圧倒的なまでに搭乗時間も訓練時間も少ない。訓練の質だってそうだ。総合力では勝ち目はなかった。
しかし初心者同然の二人には候補生である二人にはないものもある。それは爆発力だ。予想だにしない行動やひらめきを見せることもなくはない。
想定外な事態になれば候補生であろうとも焦りは禁じえないだろう。
以前も今のような慢心で敗退しているラウラ。その汚名をわざわざ突きつけるようにして言う飛鳥。キッと睨み付けてくるがまったくどこ吹く風だ。
しかし飛鳥は言い過ぎた。余計な一言にラウラが掴み掛かってきたのだ。突然のことに飛鳥は受身の状態にならざるを得ない。
床に叩きつけられ仰向けになり、マウントポジションの状態にされる。
怒りの視線をその眼帯をしていない血のような赤い瞳から向けられる。対して飛鳥もその紅の瞳で睨み返す。
どこから抜き取ったのか軍事用のナイフを飛鳥の首元に突きつけている。いつでも殺せるのだという脅しをかけてくる。この状態だとどうしようもない。力づくでもその要求を呑ませようというのか。
「物騒だな……」
「余計なことを言うとその首が飛ぶぞ?」
この状態を抜け出す術を飛鳥は持たない。一般の高校生よりも喧嘩は強い方だと自負しているつもりだが、相手が女でも軍人相手にはとても敵わない。
顔を背け小さく舌打ちを零す。
それを肯定と受け取ったのかラウラはナイフを納める。
すると控え室の外から足音と会話する声が聞こえてきた。まずいと思い飛鳥は慌ててラウラのことを後ろに押す。その時少しだけ柔らかな感触が両掌に感じられた。
案外簡単に引き下がったラウラの事を無視して立ち上がる。それと同時に控え室の扉が開けられそこから出て行っていた女子生徒たちが入ってきた。
危機一髪と胸をなでおろす。すると頭上からアナウンスが流れてきて、試合が近いことが告げられる。
いよいよかと、条件を呑んでしまったのは気に食わないが今は悔やんでも仕方ないと思う。後ろに突っ立ったままであるラウラに気付き何をしているのかと思いながら向きを変える。そこには下から見上げるようにして睨みつけている彼女がおり、次の瞬間左の頬に痛烈なストレートが放たれていた。
鍛え上げられた拳からのそれはあまりの威力に一瞬だけ意識を刈り取られた。痛みに当然のように膝を折ってしまう。涙目になっている飛鳥を無視してズンズンと怒りを露にしながらラウラは控え室を出て行ってしまった。
ラッキースケベ――どこかで誰かがそう言ったように聞こえた。
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これはIS、インフィニット・ストラトスの二次創作です。 オリ主を含みますので、その辺りもご了承ください。 |
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