第二十四話:孤独の苦悩
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「・・・えっと、お主本気(マジ)かの?」

 

「あぁ大マジだ・・・ジジイ、その間は私の力を今以上に制御させてやるから感謝しろ」

 

学園長室に珍しく人影が多い。

サイがネギの秘密を知り、エヴァがサウザンドマスターが生きている事を知り、明日菜がある種の覚悟を決めた次の日の学園長室の光景。

本来はネギが呼び出されただけだったのだが、偶々そこにエヴァとサイと茶々丸が鉢合わせしていたのだ。

 

「しかし・・・お主が自らの力を封印させてまで京都に行きたがるとはのぅ。

どう言う風の吹き回しじゃね? そもそも10年以上も中学生をやっておるからこう言った行事には興味が無いのではなかったかのう?」

 

本来、10年以上も中学生を無理矢理やらされていたエヴァにとって興味の無い話だと学園長は思っていた。

そんな彼女が『別に力封印して良いから修学旅行に行かせろ』などと言えば流石に面食らうだろう。

そう、来週から『京都に行ける』と茶々丸や明日菜が言っていた理由とは麻帆良学園中等部が来週から行く修学旅行の事を指していたのだ。

 

「やかましいわ、ジジイ。

そもそもこの私が・・・『不死の魔法使い』にして『闇の福音』と呼ばれたこの私が直々に『行事中は力を封印して良い』と言ってやっているのだ、それで問題はあるまい?

寧ろそれ以外に問題など何処にある? 実際に私の顔を知る者など殆ど居ないしな」

 

確かにそうだ、エヴァは昔は基本的に幻術を使って別人のような姿をしている事が多かった。

その為、現在の彼女を『闇の福音』だと知っているのは学園長から教えてもらった麻帆良の魔法先生達かナギ達『紅き翼』のメンバーにそれに関係していた一部の本国の上層部位のものだろう。

更にサイとの出会いによって口は悪いが優しくなり、魔法を行事中は封印しても良いと言うのだから問題はないと思われる。

エヴァの言葉に学園長はほんの少しだけ小さく微笑むと大きく頷いた。

 

「まっ、良いじゃろ。

どこぞの誰かのお陰で全てを拒絶していた頃とは全然変わったようじゃしな、楽しんで来ると良い。

その間は此処の結界はわしが更に強化しておくから侵入者の方も心配せんで良いぞい」

 

その言葉を聞いたエヴァは『当然だ』と胸を張る。

壁際に居たサイと茶々丸は話が終わったようなのでエヴァと共に帰ろうとした。

 

・・・と、その時。

 

「あぁ、サイ君。

悪いがのぅ、お主とネギ君にはもう少し話があるのじゃよ・・・良いかの、エヴァ?」

 

学園長の言葉、そこにネギとサイが呼ばれている理由。

その事に心当たりがあるらしいエヴァは『フン、早く返せよ』と一言だけ言うと茶々丸と共に学園長室から出て行った。

 

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「おい、ジジイ・・・用件は何だ?

俺はこれからその『修学旅行』とやらの準備の為にキティ達に付き合わなきゃならねぇんだ。

長ったらしい茶飲み話だったら御免被るぜ」

 

相も変わらず無礼な物言いである。

まあ、もうとっくにそれに慣れてしまっている学園長としては気にせず微笑んでいたが。

だが、そこで急に真面目な顔になると話し始めた。

 

「うむ、実はのう・・・修学旅行の京都行きの件、先方が難色を示しておるんじゃよ。

じゃから京都が駄目だった場合、必然的に修学旅行の行き先はハワイに・・・」

 

「え、えぇぇぇぇ!?

じゃ、じゃあ修学旅行の京都行きは中止ですかぁぁぁ!?

そ、そんな・・・きょ、きょうと・・・きょうと〜〜〜〜・・・」

 

学園長の台詞を遮ると見るからに落ち込んでしまうネギ。

バックにはどんよりとした縦線効果を背負い、大丈夫だろうかと言いたくなる程の落ち込み様である。

―――と、サイが手で学園長の言葉を制するとネギの近くまで歩いていって頭の上にチョップを落とした。

 

「鬱陶しいんだよこの馬鹿。

つうかテメェは早とちりしねぇでジジイの言葉を最後まで聞け、あんまりアホな事ばっかやってっとぶん殴るぞ?」

 

とっくに攻撃しておいて酷い言い草である。

 

「痛っ!? も、もう殴ってるじゃんかお兄ちゃん〜〜〜!!」

「心配すんな、これはチョップだ」

 

完全にじゃれ合う兄弟である・・・いや、兄妹か?

そんな二人に、特に勘違いしているネギに学園長は説明をする為に声をかける。

 

「コレコレ、喧嘩は止めなさい。

それにネギ君、まだ京都行きが中止となった訳ではないぞ。

唯、先ほど説明した通りに先方がかなり嫌がっておってのぅ・・・」

 

「先方? 京都の市役所とかですか?」

 

先方と言う言葉の意味が解らず、取り合えず市役所などと言ったものが難色を示していると思ったネギ。

しかし学園長は首を横に振ると、この麻帆良と京都にある“ある関係”の説明を始める。

・・・ちなみにサイが興味無さそうに欠伸をしていた。

 

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「いや、うーむ・・・何と説明すれば良いやら。

難色を示してきた先方と言うのは『関西呪術協会』と言ってのぅ。

実はわし、此処(麻帆良学園)の学園長と『関東魔法協会』の理事も兼任しておるのじゃが、関東魔法協会と関西呪術協会は昔から仲が悪くてな。

今年は一人、魔法先生が居ると言ったら修学旅行での京都入りに難色を示してきおったんじゃよ」

 

手短に説明すると、日本は東西で魔法と呪術と言う二つに分かれている。

東は学園長が理事を務める『関東魔法協会』と呼ばれる一般的な魔法使いが属す組織。

そして西は『関西呪術協会』と呼ばれる呪術師や陰陽師に式神使いなどと大別される者達が属す組織が存在する。

 

この二つは昔から考え方が違う事により対立していた。

まあ正確に言えば関西呪術協会が一方的に関東魔法協会を毛嫌いしているとも言えなくもないが・・・。

学園長も、そして関西呪術協会の長もそのような関係を改善したいと努力しているようだが効果は成されていないのだ。

 

「え? そ、それじゃあ・・・ボクの所為って事ですか!?」

 

京都行きが自分の所為で駄目になったのではないかと思い落ち込むネギ。

しかし学園長はゆっくりと首を横に振ると続きを話し始めた。

 

「フォッフォッフォ、まあ聞きなさい。

わしとしてはもー喧嘩は止めて西と仲良くしたいんじゃ。

その為にネギ君は特使として西に行って、この親書を西の長に渡して貰いたい」

 

そう言うと学園長は封書を取り出して机の上に置く。

更にネギに・・・いや、此処からは寧ろサイに伝えるように説明を続けた。

 

「道中で西の妨害があるやも知れんが、向こうにもこちらの『魔法の秘匿』と同じような制約があるから生徒達や一般人に迷惑や危害及ぶような事は“基本的には”せんじゃろうが。

―――ネギ君には中々大変な仕事になるじゃろ・・・どうじゃな、やるかね?」

 

ネギは一度サイの方を見る。

頭の良いネギだ、此処にサイが居ると言う事は多分自分をサポートさせる為にサイにも情報を聞かせたのだろうと言う事は解った。

受けるか受けないかはネギの気持ち次第となるだろうが―――

 

「やりてぇならやりゃあ良い。

一応、面倒だがフォローぐらいはしてやるからよ」

 

サイのその言葉を聞いて一度目を閉じて考えるネギ。

自問自答の末、彼女・・・いや彼は親書を手に取ると答えを出した。

 

「解りました、この任務お引き受けいたします。

任せてください、学園長先生」

 

その目は何処と無くサイの目に似て、真っ直ぐで何処と無く輝いて見える。

そんな初々しいネギの姿をまるで孫を見るかのような目で見ていた学園長は一つ言い忘れた事を思い出した。

 

「おぉ、そうそう。

ネギ君、京都と言えば孫娘の木乃香の生家があるのじゃが―――

実はわしは良いのじゃが、アレの親の方針での、魔法の事はなるべくバレない様に頼むぞい。

・・・まあ、サイ君の場合は言うまでも無いようじゃがの」

 

「は、はい、わかりました」

「・・・フン、当然だ」

 

ネギはそう言うと大切そうにスーツのポケットに親書をしまう。

サイの場合は元々裏に関係ない者を巻き込むのを嫌うのか一言呟いただけだった。

二人の返事を聞いた後、学園長は言う。

 

「うむ、では修学旅行は予定通り行う事としよう。

頼むぞネギ君、そしてサイ君・・・」

 

学園長の言葉に頭を下げるネギ。

いざ学園長室からサイと共に出て行こうとすると、サイが口を開いた。

 

「ネギ、悪ぃが先に帰ってろ。

俺はちとジジイに聞きてぇ事があるんでな」

 

その言葉にネギは『うん、解ったよお兄ちゃん』と一言返すと部屋から出て行った・・・。

 

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「フォ? 聞きたい事とは何じゃね?」

 

学園長はネギが去り、一人だけ部屋に残ったサイに問い掛ける。

ある程度サイが聞きたい事は想像が付いていた・・・寧ろ、一見馬鹿に見せているが察しの良いサイなら先ほどの言い方で解るだろう。

 

「・・・とぼけんなジジイ。

さっき言ってたよな? “基本的には”その関西呪術協会って奴らが生徒や一般人には危害加えねぇって。

じゃあ“基本的じゃない奴ら”ってのは一体何だ?」

 

学園長はサイの問い掛けに一度口を閉じた。

少しの逡巡の後、いつもの惚けた口調とは違う重い口調で語りだした。

 

「サイ君、これは君を見込んで話す事じゃ。

実はの、木乃香は先ほども言った通りに両親の意向で魔法の事は一切合切知らされておらん。

じゃがあの娘には皮肉にも強大な魔力が宿っておるんじゃ、それも日本で最大級の魔力がな・・・」

 

思えばサイはおかしいと思っていた。

麻帆良に侵入しようとする者達・・・それは人であれ、化物であれだが・・・その多くは木乃香を狙っていた。

しかもその連中は随分と手誰であり、エヴァや茶々丸や刹那や真名などと共に戦っても梃子摺った事が何度か合ったのである。

・・・たかが『関東魔法協会の理事の孫娘』を攫う程度に、それ程の実力者を使う理由などあるまい。

 

学園長の言葉でサイは大体の事を察した。

本人は気付かずとも持ち合わせている強大な力に対して人間が取る行動とは二つだ。

それは即ち―――『畏怖』か『利用』のどちらかである。

 

「それに、元々ネギ君には言わなんだが・・・。

関西呪術協会の長と言うのは実はわしの娘婿、つまりは木乃香の父親が勤めておるのじゃ。

その婿殿が木乃香が魔法や呪術と言った裏の世界を知って欲しくないという意向でこの麻帆良学園に行かせたのじゃが、その行為を快く思っていない輩もおる」

 

「成る程な、つまりはこういう事か。

この修学旅行を利用して木乃香を攫い、日本最大級の内包する魔力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうとしている馬鹿が居る、と。

チッ・・・何処にでもクソ野郎ってのは居るもんだな、反吐が出るぜ」

 

吐き捨てるように言うサイ。

大方利用され、利用され続けた挙句の果てに最後は用済みとして処分される。

そんな勝手な事を下種の類は平気でするだろう―――気付けばサイの覇気で学園長室の机が揺れていた。

 

「・・・で、俺に何をやれっつうんだジジイ?」

 

大体内容は解る。

いや寧ろ、彼は自分にはそれしか出来ないと思っている。

そんな彼に対して学園長は一瞬だけ悲しげな表情をするが―――真面目な表情のまま言い放った。

 

「木乃香を利用しようとする輩にとって、関東・関西が互いに手を取り合うのは不利じゃ。

よって確実に今回の修学旅行ではネギ君が持つ親書が西の長に届く事を阻止したいじゃろうし、それと同時に木乃香を手に入れようと強行手段に打って出てくる。

その事を利用して、彼奴らを一網打尽にして欲しい・・・方法は問わんよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、サイの目付きが獰猛な獣のように鋭くなった。

そして学園長に最後に一つだけ問いをぶつける。

 

「Dead or Alive(生死は問わない)・・・で、良いんだよな?」

 

また一瞬の逡巡の後―――学園長は静かに頷いた。

 

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「フン、通りで話が長い訳だ。

しかしジジイがお前にそんな依頼を頼むとはな、孫娘を利用されようとしてるのが随分頭に来たようだ。

坊やには親書を頼んだのはせめてもの優しさだろう」

 

学園長室で話を終わらせたサイはその足でエヴァの所に向かう。

何せ、この後で美空の買い物やら教会の買出しやらにも付き合わねばならないのだから当然だ。

その道行きの途中にエヴァから遅くなった理由を聞かれ、止められても居なかったので内容を話した。

 

「・・・アイツにゃ、いざと言う時の事は出来ねぇだろ。

それに刹那達に重荷を背負わせる訳にも行かねぇ、真名のあの雰囲気なら“戦場”に行った事あるだろうがな。

だが、んな“汚れ仕事”を中学生やらガキやらにやらせる訳には行かねぇよ。

だから必然と俺の所に回って来ただけだろ」

 

重い事を軽く言うサイ。

学園長も実際は悩んでいないように見えるが、サイにそんな事を頼んだ事は苦悩の結果だ。

だが、上に立つ者とはそのような苦悩を乗り越えて選択を迫られなければならないのが現実である。

事実、学園長はサイのした事により“起こる全ての事に責任を取る”という考えで居る。

 

「フフフ・・・だが、ジジイのそう言った部分に私は共感が持てる。

やれ正義の為だの何だの言っているつまらん偽善者共と違い、大切な者達の為になら喜んで鬼になれるような人物だからな」

 

頷くサイ・・・まあ、学園長は普段はお茶目でいらん事をする人物だ。

それでもそう言った結論を出さねばならない時はしっかりと出し、その上で起こるリスクなどは全て自分が甘んじて受け入れるというのが彼のスタンス。

どちらかと言うと学園長もサイのようなタイプの人間なのだ。

 

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「・・・ん?」

「何だ、どうしたサイ?」

 

ちょうどその時、サイは変わった光景・・・というか変わった人物を見つけた。

それはサイの目線に入った二十メートルほど先に見えるコンビニエンスストア―――そのコンビニに向かって気ままに歩みを進めるサイ。

 

別にコンビニなんぞに用事はない。

気になっているのはコンビニの目の前に所在無さ気にボーっとしている人物が気になったのだ。

 

白くて長い髪、古風なセーラー服。

青白い肌の色で外見年齢だけなら多分、明日菜やら木乃香やらと同じ位だろう。

尚、彼女達と違う所が一つだけある―――それはその少女が“足が無い”のに地面の数センチ上をフヨフヨと浮かんでいる事だ。

 

・・・間違いない、彼女は幽霊だろう。

本来ならそんな存在が見えるだけで人は恐れて逃げるか除霊しようとするか―――まあ、少なくとも良い感情など持ちはしない。

 

しかし、サイにとっては幽霊なんてモノは日常茶飯事だ

そもそも十種族の一つの皇魔族などと言うのは人が恐れる存在みたいな者達なのだから。

だからサイの問いかけも当然の事だった。

 

「よう、こんな所で何やってんだ?」

『ひ、ひゃわぉ!?』

 

真正面から声をかけられた幽霊の少女は驚き大声を上げる。

まあ大声と言っても普通の霊感のない人間には一切聞こえない声なのだが。

 

「五月蝿ぇな・・・つうか、真正面から話し掛けてんだから気付けよ」

 

その声に驚きながらもスタンスを変えないサイ。

すると、狼狽しながらだが少女が話し掛けて来た―――

 

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『あ、え、ええええっと・・・あの、そのぉ・・・わ、私、ですか・・・?』

「あぁ? テメェ以外に誰が居んだよ、此処に?」

 

その言葉に青白い肌の少女の瞳が潤む。

 

『わ、私が・・・私が、視えるんですか・・・?』

「視えなきゃ始めから話しかけてねぇよ」

 

その言葉に薄倖の佳人とも言える少女の声が震える。

 

『わ、私の・・・私の声が、聞こえるんですか・・・?』

「聞こえなきゃ受け答えなんぞしてねぇな」

 

その少女の瞳から一筋の涙が流れ落ちる―――

 

『わ・・・わた、私の・・・私の、こと・・・わかるんです、ね・・・?』

「残念ながら視えるし聞こえるし、おまけに触れられるぜ」

 

いつも通り無愛想な狐の少年は少女の頭を撫でるように優しく手を置いた。

その表情にはいつもとはどこか違い、小さいが優しげな微笑みのようなものも浮かんでいる。

そこから伝わってくるのは確かな感覚・・・はるか昔に失った、久しく感じる事無かった人の温もり。

・・・それが少女の限界となった。

 

『ひぐっ・・・うう、ぐすっ・・・うう・・・うわぁぁぁぁぁぁん!!!』

 

幽霊の少女は泣いた―――何十年もの孤独の中で忘れてしまったものを思い出すかのように。

瞳からは大粒の涙が零れ落ち、顔を覆う白い小さな手の平の間からは嗚咽が漏れる。

半透明のか細い身体を震わせて泣く少女が泣き止むまで、サイは何も言わずに頭を優しく撫でてやっていた。

 

どの世界でもそうだ―――

 

霊とは良くも悪くもその者に定められた運命が終わった後に訪れる“死”と言う存在によって生まれ堕ちた存在。

しかし死者である霊にも心はある、だからこそ自分が死んだと言う現実を知り、現状と言うものを悲観して絶望する。

親しかった者、愛していた者、気付いて貰いたい者の隣に居ても孤独なのだ・・・生者には死者を見る事が出来ないが故に。

本当は生きる存在誰よりも孤独で寂しく、だからこそ誰かに気付いてもらいたいのである。

 

サイの種族、白面九尾はそういった霊達の存在を誰よりも知っている。

そして孤独の苦しみも、気付いて貰えない悲しみも・・・誰よりも痛い程に理解していた。

故に彼は手を差し伸べたのだ、孤独に存在し続ける少女の為に。

 

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「ちったあ落ち着いたか?」

『はい、ありがとうございました・・・私嬉しくって・・・』

 

エヴァと茶々丸の待っている場所に幽霊の少女『相坂さよ』を連れて戻ったサイはそう呟く。

ちなみにエヴァはさよが視えていたらしく、サイが連れて戻って来た所で『・・・良かったな』と一言だけ言葉を送った。

尚、茶々丸にはさよは視えないようだがセンサーには感知出来るらしく、頭を下げていた。

 

聞いた話によればやそは今から約60年前にこの麻帆良で命を落としたそうだ。

しかも死んだ時の事は一切覚えておらず、以来ずっとこの麻帆良で幽霊をやっているらしい。

尚、幽霊の割に幽霊が怖く、最近になってコンビニに行くまではずっと夜の教室で震えていたそうだ。

教室に居ればもっと早くサイに見つけて貰えただろうが、生憎少し前まで体調が悪くコンビニから動けなかった事も合って顔を見合わせる事も無かったのだ。

(まあ原因はサイだが)

 

『それにしても、エヴァンジェリンさんにも私が視えてたなんて驚きです〜』

「まあ、私は体質上の関係で霊感が強いからな」

 

そんな会話を見ながらサイは考える、3ーAとは実に変わり者の多いクラスだと。

吸血鬼やロボットを筆頭に、侍やガンマン、拳法馬鹿と忍者・・・更に日本最強クラスの魔力の持ち主にどう見ても中学生に見えない人物もちらほら。

極めつけは教師が10歳のガキで、幽霊の少女がクラスメイトである―――こんなクラス、世界中探した所でこの麻帆良にしかないだろう。

ついでに言うなれば更に女子校の筈なのに男が転入して来てと、考えるだけで混沌(カオス)だ。

まあ、大方学園長が個性的な連中だけ揃えたと言った所だろうが・・・。

 

・・・と、そこでエヴァがさよに言う。

 

「元々3−Aは、ジジイが何かしらの素質を持った者達を集めたクラスだ。

その内にクラスの連中もお前の事を認識出来るようになるかも知れんな―――まあ、そうなるとそうなるで問題も出て来るだろうがな」

 

『ほえっ? 問題ですか・・・一体何が・・・?』

 

さよは首を捻る。

実際の所、その部分はサイも不安に思っていた部分だ。

 

3−Aと言うクラスは連帯感もあり、賑やかでお祭り好きなクラス。

だが例えば一人が悪ノリしたりすると忽ち暴走してしまう可能性があるのだ。

下手に中途半端にさよが生徒達に見え、そこから悪い方に暴走して除霊するなどと言い出したら目も当てられない。

そうさせない為にはさよが幽霊で居る事をどうにかしなければなるまい。

 

しかし考えても決定的な方法は思い付かない。

・・・その時、今まで黙っていた茶々丸が口を開く。

 

「サイさん、マスター。

あの、差し出がましいかもしれませんが私に一つ浮かんだ事があるのですが・・・」

 

その言葉にサイとエヴァは黙って続きを促す。

 

「一つの方法としてですが、私のように代替ボディを利用するのは如何でしょうか?

私は超鈴音とハカセの手で造られたボディに、マスターの魔力で擬似的魂を生み出し、それを定着させる事によって生まれたと聞きましたが」

 

確かに、その方法を使えば他の者にも認識して貰う事は可能となる。

だがそれにはクリアしなければならない問題がいくつか存在した―――尚、ちなみにハカセとは言うなれば茶々丸の生みの親とも言える、麻帆良学園中等部3−Aの出席番号24番。

自称“科学に魂を売り渡したマッドサイエンティスト”こと『葉加瀬聡美』の事である。

 

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「フム、茶々丸よ・・・目の付け所は良いな。

だが、それをするには問題が大きいものであるなら2つある」

 

エヴァは茶々丸とサイに聞こえるように説明を始めた。

魔法とは万能のようであり、実は意外と制約の掛かるものが多いのだ―――

 

「一つは魂・・・この場合は相坂さよだな。

相坂さよの魂を物質に宿す事が簡単に見えるが実に難しい。

代替ボディを用意するなら超鈴音なりハカセなりに頼むでも、私が昔取った杵柄で造るのも良いだろう。

しかし・・・存在している魂魄を強引にそう言ったものに融合させる方法は、下手をすれば魂魄そのものが消滅してしまう可能性がかなり高いのだ」

 

言うなれば無から魔法を利用して原動力にするのは出来なくはない。

しかし・・・存在する魂(この場合は死んでから何十年も年月が経ち、一種の精霊の様になっている状態を言う)を物質に宿すというのは魔力によって悪霊化してしまったり、消滅してしまう可能性が実に高い。

・・・せめて幽霊本人自身が簡単に取り憑けるような、位牌のようなものなどでもあれば出来るのだが。

 

するとそこでサイが小さく口を開く。

 

「・・・それについては方法はあるぞ。

俺達“魂獣”には、魂魄を結晶化する“結晶変化(クリスタライズ)”という技術があるんでな。

それを使えばこの幽霊嬢ちゃんの魂魄に負担や暴圧をかけずに結晶石化させれる筈だ、それをキティん所にある人形なりにでも突っ込めば普通に動けると思うぜ。

まあクリスタライズは本来、戦争なんかで志半ばで逝った戦友の魂を自分の魂石に融合させたりする際に使う技法だから危険も無いだろうしよ」

 

確かにその方法を使えば一つ目の方は問題ない。

サイの説明を聞いたエヴァは頷くと、もう一つの方の問題をさよの方を向いてから口に出した。

いや、寧ろこちらの方が難しい問題かもしれない。

 

「もう一つの問題とはな、相坂さよ―――お前自身の問題だ」

 

『わ、私自身の・・・問題、ですか・・・?』

 

言葉の意味が解らずに鸚鵡返しで言葉を返すさよ。

エヴァは小さく頷くと言葉の続きを語りだした。

 

「先ほどの口振りを聞いていれば、お前はどうやら理由も解らぬ内に死んでいたと言う事だ。

本来、志半ばで天寿をまっとう出来ずに命を落とした者とは、自らが成したかった事を成せなかったと言う事で堕ちて悪霊と化す者が断然多い。

まあ、多分お前の場合は何故死んだのかやいつ死んだか、どのような理由で死んだかがあやふやな為に悪霊にはならなかったのだろう」

 

そこで一度言葉を切るエヴァ。

少しの逡巡の後、再び彼女は口を開いた―――

 

「しかし、仮に身体を得た時に何の脈絡もなくかつての記憶が戻る可能性がある。

その所為で今の『相坂さよ』と言う人格とかつての『相坂さよ』と言う人格が混在し、60年前の記憶と今の記憶と言う二つの記憶が存在している事によって均一が取れなくなるかも知れん。

今の『相坂さよ』の人格になるか、昔の『相坂さよ』の人格になるか・・・あるいは二つが消滅し、別の人格が生まれてしまう可能性が無いとも言い切れん。

他にも精神分裂症や・・・最悪、精神が崩壊して廃人化する可能性だって存在している」

 

そこで再び言葉を切ると、エヴァは静かにさよに伝えた。

 

「今の可能性を聞いて、それでもお前が人と触れ合いたいと言う意思が強いなら私は止めん。

サイと私で責任持って何とかしよう・・・それによって起こってしまった結末も、甘んじて受け入れよう。

今日一日、私の言葉を良く考えて結論を出せ。 霊のままであれ、姿を取り戻すであれそれは自由だ。

選んだ答えに後悔しないように確りと考え、答えが決まったらこの先の麻帆良の外れにあるログハウスに来い」

 

『はっ・・・はい!!

解りました、確りと考えて結論が出たら行かせて頂きます!!』

 

さよのその言葉を聞き終わるとサイとエヴァ、それに茶々丸はさよに別れを告げながら踵を返す。

この日から約5日間、さよは一人でエヴァの言葉やサイの言葉を良く考えて自分なりに答えを出した。

 

そして、修学旅行の当日の朝―――

 

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「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ・・・眠ぃな全くよ」

 

「そりゃそうだよサイ君。

シスターに聞いた話じゃ、今日の朝方まで一睡もしてないんでしょ?

全く、そんなに京都行くのが楽しみだったって訳?」

 

朝っぱらから電車のホームで不景気面で欠伸をしているサイ。

美空が朝に教会にサイを迎えに来た際、シスターシャークティからサイが昨日から一睡も出来て居なかったと聞かされた彼女は、小さく困ったように微笑む本来なら麻帆良の魔法先生達でも見た事の無いような師匠のような姉のような女性の表情を初めて見た。

どうやらサイとの出会いや家族のように共に過ごす生活が、少しずつ良い意味でシャークティを変えているのだろう。

 

「んん・・・? あぁ、まあそんな所だ」

 

いつも通り相手が誰であれ無愛想に言葉を返すサイ。

最初の出会いの頃からエヴァ達やシャークティ&ココネに次いでサイを見て来た美空にとってはもう珍しくも無い。

面倒臭がりで無愛想・・・だがその実は、人知れず優しさを見せる人物だと知っている故。

だからこそサイと同じように無愛想でダウナーな己の妹分も、厳しくも優しい姉貴分も家族のように彼を想う様になっているのだから。

 

「皆さん、おはようございま〜〜〜〜〜〜〜す!!」

 

丁度そんな浮かれたような嬉しそうな子供の声が響く。

勿論声の主は3−Aの担任である子供先生こと、ネギ・スプリングフィールド君だ。

元々京都のような寺や仏閣巡りが好きで、しかも京都に行けば父親の事を少しでも知る事が出来るかもしれないと言う思いがネギを年相応にはしゃがせていた。

まあ何せ一日前はまるで小学生の初めての遠足の如く興奮して寝れていなかったのだから。

 

「・・・ったく、五月蝿ぇガキだな。

アイツ、テメェが教師だっての確実に忘れてやがるな・・・」

 

「まあまあ、良いじゃんか。

ネギ君も年齢考えればはしゃいでて当然の年頃なんだからさ」

 

『そうですよ、サイさん。

可愛らしいじゃないですか、それにサイさんだって楽しみにしてたんでしょ?』

 

知らない誰かの声が響き、美空は疑問に思って辺りを見渡した。

しかし近くにはサイと自分以外の誰も居ない・・・ふと横を見ると、サイが背負っていたゴルフバッグのような物の中に手を入れて『何かを押し込んでいる』様な姿が映る。

 

「ん? 何やってんのサイ君?」

 

「いや、何でもねぇよ・・・それより班毎に分かれるんだろ?

だったらさっさと先に班に分かれておいた方が良いぞ、あのトンじまってるネギじゃ不安だからな。

生活指導の先生になんぞ苦言を言われたくねぇだろ?」

 

サイの言葉に笑いながら『あはは、そうだね〜』と言いながら自分の班の方へと向かっていく美空。

彼女が遠くに行き、近くに誰も居ない事を確認したサイはバッグの中に突っ込んでいた手を離す。

 

そこから出て来たのは可愛らしい服を着た一匹のウサギの人形だった。

 

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『もう、何するんですかぁサイさん!!』

 

「・・・何するんですかじゃねぇよこのアホ。

テメェ、人形が喋ってる所見られたらどうするんだ馬鹿野郎?

修学旅行に連れてってやる代わりに誰かが居る時は黙ってろって俺やキティと約束しただろうが。

それをテメェ、何を冒頭からいきなり破ってんだオイ?」

 

ウサギの人形はお冠といった感じでサイに言う。。

ちなみにこのウサギの人形、正体は修学旅行の日より5日前に出会った幽霊の少女『さよ』である。

 

約五日間、考えに考え抜いた結果。

さよはサイとエヴァに『人と触れ合える生き方』という答えを出した。

それによりサイがさよの魂を結晶化させ、エヴァが己の持てる技術を利用して人形のボディを作るという事にしたのだ。

唯、修学旅行に明日から行ってしまうという事でさよの代替ボディを造るのは修学旅行後ということに。

 

その際、サイと同じく麻帆良から一歩も出た事の無いさよが修学旅行に行きたがる。

なので『人が居る時は黙っていろ』という約束の元、サイがエヴァ宅の彼女お手製の人形の中から何となく合いそうなウサギの人形を貰って、その中に結晶化したさよの魂を組み込んだのだ。

よって此処に居るウサギの人形は言うなれば“さよ本人”と言っても間違いではない。

 

『だって〜、退屈なんですよ〜。

折角、サイさんやエヴァンジェリンさん以外にも見て貰えるような状態になったってのにぃ〜』

 

「・・・だったらもうちっと我慢しろ。

人が居ねぇ時なら喋るなとは言わねぇから普段の人の目がある時は黙ってろっつうの。

全くよ・・・こちとら徹夜明けで眠ぃんだ、これ以上余計な事で・・・ッ!?」

 

まだもう一言、二言文句を言おうとしたサイ。

だが急に目の前・・・視界が歪む様にぼやけたのだ。

 

『ほえっ? どうしたんですかサイさん?』

 

しきりに目を擦るサイを疑問に思ったのだろう。

さよは気になって声を掛けるが―――サイはいつも通りの表情に戻ると呟く。

 

「いや、何でもねぇ。

まあ俺もこの修学旅行ってのを楽しみにしてたからな、興奮と昨日一睡も出来なかったのが効いてるんだろ―――身体もダリぃしよ。

あの新幹線ってのに乗ったら一眠りするから、キリの良い所でそれとなく起こしてくれ」

 

『あっ、はい、解りました♪』

 

そう言うとフラフラしながら3−Aの生徒達が集まっている場所に向かう。

『珍しく興奮の所為で疲労が溜まったのか?』・・・そんな事を思いながら、寝れば直るだろうと考え。

 

―――だが、これは疲労ではない。

実はサイの“ある事情”が、この状態を引き起こしていた。

それにサイが気付くのはまだ先だという事をサイ所かエヴァすらも気付いていない。

 

サイの不調、木乃香を狙う関西呪術協会の者達。

数々の思惑の裏で暗躍し、己が望みを果たさんとする者達が居る。

この修学旅行という一大イベントの中で、サイはその脅威に立ち向かい・・・そして新たな力を得る事となるのだが、それを知る者はまだ居ない。

 

空は雲一つ無い晴天―――

しかし、その行く末は未だどうなるのかさえ解らないのであった。

 

-12ページ-

 

再投稿第二十四話、物語の流れとしては山場の一つである『京都修学旅行編』第一話目が遂に再Upされました。

一足早くさよちゃんとの出会いを書いてしまいました・・・原作では麻帆良学園祭の辺りなんですけどね。

 

孤独は人を変えます。

誰に自分を見て貰う事も、語らう事も不可能な現実―――それがどれだけ辛いものか感じた事のない普通の人間には理解しがたい事ですよね。

誰かと触れ合いたい、誰かと話したい、一緒に笑いたい、一緒に泣きたい・・・普通過ぎるが故に、まるで空気が存在している事を人がありがたく感じる事が無い事と同じように。

 

至極単純で、ごく当たり前で、それ故に誰もが其処まで強く願わない願い。

しかしだからこそ、失った人物はその尊い願いが叶う事を強く願うのでしょう・・・原作のさよちゃん見てそう感じました。

 

私の作品は結構不遇な現実を生きて来た人物にスポット当てる事が多いようです。

では、物語の最後の方に一抹の不安のようなものを感じながら、今回はこれにで失礼とさせて頂きます。

 

説明
人は独りでこの世に生を受け、そして独りで死んで行く
それが現実であり、変える事の出来ない真実
しかし死して尚、長き孤独の淵に居た者にとっては―――
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