ゲイム業界へようこそ!その39
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「イレギュラー…。」

 

 

 

今の私に分かることはこれくらい。力が弱っているせいもあって、イレギュラーの存在が男か女か、私達の敵か味方かすら分からないでいる。

 

 

ネプテューヌさん達の方はどうやらイレギュラーの存在と既に接触したみたい。特に彼女達に害を与えているようには見えないけど、安心するにはまだ早いかもしれない。

 

 

不確定要因の影響力…、やはり気になる。今度それとなくネプテューヌさんに聞いてみるとしましょう。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

今、僅かだがこの世界に歪みを感じた…。この感覚はイレギュラーの存在がこの世界に入ってきた時と同じ。別のイレギュラーなのでしょうか?

 

 

 

どうやら遊んでいる暇はないようです。急いでネプテューヌさんと連絡を取ってみないと。

 

 

どうかイレギュラーの存在が私達と敵対しないことを願って…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

クエストを達成した俺とノワールは現在二人でデート…もとい街の店を見て回っているところだ。お昼はジャンクフードで軽く済ませ、再び二人で仲良くお店巡り。はぁ〜、今の俺ってすっごく充実してるよなぁ、幸せ過ぎる〜。

 

 

隣を歩く女の子は俺が原作をプレイする時に画面の外から何度もその姿を目に焼き付けておいたノワールご本人。二次元の彼女は綺麗な黒髪に凛々しくも優しげな瞳を持ち合わせ、プレイ側だった俺を魅了していった。そんな彼女が今、縁があってかはたまた不慮の事故からか俺の隣を歩いてくれているのだ。あらためて考えれば恐ろしく可笑しな話である。ただ俺でもこの状況は間違いなく幸運ではあっても、不幸には成りえないことくらいは分かる。それほど俺はラッキーなのだ。

 

 

 

確かに俺は神様の不手際から元の世界での人生を終えたしまったわけだが、それでも新たにスタートしたこの二度目の人生は一度目より遥かに充実しているように思える。不謹慎かもしれないが俺はある意味死んで良かったのかもしれない。もちろん、俺を生んでくれた親には大変申し訳ないと思っているのだが。

 

 

ただ、死んで良かったと思えるのは、神様の権限で「超次元ゲイムネプテューヌの世界へ来ることが出来れば」が大前提の話だ。死んだ後、特に何も起こらず天国か地獄に連れて行かれるのでは絶対に嫌だ。そうだとしたら、俺だって死んで良かったなんて思わない、思う訳無い。

 

 

 

まぁ結局のところ俺はこの世界に来れて幸せというだけなんだ。タラタラと何を話していたんだか知らないが、そこだけ分かってもらいたい。そして「誰に分かってもらいたいのか」と俺はそこで自問自答してみる。(オイオイ!)

 

 

 

「何ニヤニヤしてるの?」

 

 

 

「俺は幸せ者だなって再確認してたんだよ。」

 

 

 

「ふーん、まぁよく分からないけど、私も今なんとなくだけど幸せだと感じてるわ。」

 

 

 

「ならお互い幸せ者だな。」

 

 

 

「ええ、幸せって素敵ね。」

 

 

 

そんな他愛もない話をしながら俺達は次の店へと向かったのだ。さて、次は雑貨屋でも行こうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(幸せか…。うん、私は今幸せだわ。)

 

 

 

レンとの会話を反芻している私。最初はレンが奇妙なくらいニヤニヤしてて少し気持ち悪かったけど、理由を聞いてみればほんの些細なことだった。

 

 

彼はどうやら現在顔の表情にでるほど幸福であるらしい。しかしその「幸福」である理由は一体何なのだろうか?デパートでの店の品揃えの豊富さ?美味しい食べ物?それとも…私と一緒にいられて?ハハッ、それは自惚れかな、私。

 

 

でも私の幸せの理由は「彼と一緒にいられる」ということ、多分それだけみたい。細かく説明してみれば、「レンと一緒にクエストに行くこと」、「レンと一緒に買い物に行くこと」、「レンと一緒に夕食を食べること」など理由が出てくるけど、要約してしまえば「レンと一緒に何かをすること」というだけなのだ。そう、今の私は彼と一緒にいるだけ幸せな気持ちになれるの。

 

 

 

雑貨屋に到着。店に入ったら少しだけ分かれて行動しようとレンに言われてので、現在私は入り口近くから店の売り物を見ている。そんな中でも私は少し時間が経つ度にレンの姿を目で探していた。そして、彼を見つけてその度にホッとしている私…ハァ、重症ね…。

 

 

 

この気持ちが何なのかくらい私でも分かる、だって馬鹿じゃないもの。

 

 

 

私はレンに恋をしているのだ。それも自身でも驚くくらいに重度の。

 

 

彼にばれないために表面上は隠してるけど、本当は気を抜いたら直ぐに顔が真っ赤になるだろうし、声もうわずっちゃう。彼の顔も見れないかもしれない。

 

それに私は少し前にレンのことを変態呼ばわりしているのに、自身はレンの体に触れてみたいと思ってさえいるのだ。これではどっちが変態さんなのかしらね…。

 

 

 

「ハァ…。」

 

 

溜め息さえ自然とこぼれしてしまう始末、ほんと重症ね。

 

 

私はこれ以上彼に何を求めているのだろうか?好きという気持ちを告白すれば良いのだろうか?それとも体と体で触れ合って……って、わわわっ私は一体何を!!?お、落ち着くのよ私、大丈夫、私は健全な女の子。変な気持ちは抱いてないわ!!……でも、もし万が一、億が一よ?レンに迫られでもしたら、私は…。

 

 

 

「そろそろいいか、ノワール?」

 

 

 

「ひゃ、ひゃい〜!!?って、レン!?い、いきなりこんなに近づいてびっくりするじゃない!?」

 

 

 

「えっ、あっ、あぁ…すまんかった。」

 

 

 

「いいわ…もう気にしてないから。」

 

 

 

ボ〜としててレンがいたの気付かなかったわ…。それに悪気のないレンに思わず怒鳴っちゃったし、はぁ…サイヤク。後でちゃんと謝らなくちゃ。

 

 

 

 

 

その後二人一緒に雑貨屋を一通り見て回って、店を後にした私はさっきの怒鳴ってしまったことをこの場でもう謝ってしまおうと思った。このままレンと仲が悪くなってしまったら絶対にイヤ!さっきまでは隣で歩いていたのに今では私の体一つ分後ろを彼は歩いている。この間だけ彼と私に"距離"が出来てしまっているのだ。それが凄く淋しくて心苦しい…。もう人の目とか気にしてられないわ、早く謝ってしまおう!

 

 

 

「あ、あの「なぁ、ノワール、ちょっといいか?」え、ええ。」

 

 

 

私が咄嗟に振り返って声を出した時、ちょうど発したレンの声とタイミングが被ってしまい私の声が遮られてしまった。思わず彼の言葉に同意してしまう。

 

 

レンは何を言い出すのだろう?こんな時は本当に悪い予想しか頭に浮かんでこない。しかもそのどれもが似た予想だらけ。

 

 

 

(パーティを抜けるよ、俺。)

 

 

 

イヤ…。それだけはイヤ…!

 

 

目頭が熱くなってくる。頭も働かなくなっていき、視界がぼやけてくる。彼に私の表情を知られたくなくて、咄嗟に頭を下げてしまう。

 

 

もう私は彼無くして生きられないのかもしれない。それほど私にとって彼は必要不可欠な存在となってしまった。そんな彼が今私から離れてしまったら…。

 

 

 

頭を下げて彼の言葉を待っている私。怖くて苦しくて私は目と口を閉じていた。それからしばらく彼が言葉を発した。

 

 

 

「コレ、受け取ってくれないかな?」

 

 

 

「へっ?」

 

 

 

彼の言葉が理解出来なくて、私はレンの方を向いた。彼は私へ何か入っている小さな紙袋を渡してきていた。どうやら目をつぶっていたので気付かなかったみたい。

 

 

 

「受け取って…いいの?」

 

 

 

「もちろん。ノワールのために用意した物だからな。」

 

 

 

「開けてもいい?」

 

 

 

「ああ、開けて確かめて見てくれ。」

 

 

 

私は受け取った紙袋をゆっくりと開けていく。そこに入っていたのはリボンだった。そのリボンは黒を基調とし、薄く青色で模様が装飾されてるものだった。

 

 

 

「リボン…。」

 

 

 

「ああ。俺がノワールに何かプレゼントしようとさっきの雑貨屋で見つけた物だったんだ。」

 

 

 

「な、なんで…?」

 

 

 

「本当は前の街探索の時でも何か買って渡したかったんだけど、その時はお金持ってなかったからなぁ。今回はクエストの報酬とかで多少の余裕が出来たらやっと買えたんだ。それ、黒を基調としてるから綺麗な黒髪のノワールには似合うかもと思ってね。」

 

 

 

「えっ…///」

 

 

 

「まぁ〜なんというか、俺も男だからさ。こんな時くらい見栄を張りたいじゃないか?だからもし良かったら受け取ってくれないか?頼むよ、この通り!」

 

 

 

そう言うとレンは拝むように手を合わせ、頭を下げてきた。そんな彼の気の知れない行動に私の我慢はついに耐え切れなくなってしまった。瞳から零れる涙が頬を伝い、地面へ次々と落ちていく。それでも私は涙を堰き止める(せきとめる)ことが出来なかった。

 

 

 

私は馬鹿だ…。大馬鹿者だ……。

 

 

少し考えれば分かることではないか。私達は二人だけの仲間(パーティー)なんだぞ?それも強い絆を持った簡単に途切れることの無い仲間をだ。

 

あのくらい今までも度々あったではないか。戦闘中然り、夕食での口論然り。何故今更こんなことで思い悩んでいたのだろうか。ううん、もう考えるのは止めよう。そんなことより今は私から彼に言う言葉があるのではないか。

 

 

 

「お、おい!?急に涙なんて流してどうしたんだよ!もしかしてリボンとかいらなかったか?それとも色が気にいらなかったのか?はぁ〜俺ったら安易に考え過ぎてたかなぁ。」

 

 

 

「大丈夫、大丈夫だから…。この涙は悲しくて流してるわけじゃないから…。」

 

 

 

「それならばいいんだけどさ。ならノワールさんよ、せめて笑ってはくれまいか?涙を拭いてさっきの俺みたいにニンマリとさ?」

 

 

 

「ふふっ…そのニンマリ顔はあなただけの特権よ。私は普通の笑顔にしておくわ。」

 

 

 

「はいよ、リョーカイ。」

 

 

 

「レン?」

 

 

 

「ん、どうした?」

 

 

 

「レン、本当にありがとう!私はあなたから受け取ったこのリボンをずっとずっと大切にするから!!」

 

 

 

私はおそらく今までに無い程のとびっきりの笑顔でこう彼に言ってやったの。彼も私の言葉に拍子抜けしつつも笑顔を見せてくれたわ。

 

 

 

よし、私は改めて皆に言わせてもらうことにします。皆って?そんな言葉はこの場に一切不要よ、さぁしっかり聞いてちょうだいね?

 

 

 

 

 

 

「私は今、幸せです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日がだいぶ落ちてきて、子供はお家に帰る時間となった。俺達も今日はそろそろ解散するところだ。

 

 

今日はクエストに行ったり、擬似デートしたりと忙しくも楽しい一日だった。それにノワールのとびっきりの笑顔も見ることも出来たし。いやはや、役得役得。

 

 

 

今は公園のベンチに一緒に座って軽く会話しながらくつろいでいた。目の前にある噴水の周りでは子供達がこんな時間になっても元気に走り回っている。子供の体力ってほんと無限大だな〜。

 

 

 

「今日は楽しかったな。」

 

 

 

「ええ、ほんとに。少しバタバタして忙しかったけど。」

 

 

 

「今度はクエスト抜きにして、初めからゆっくり街を見て回ろうな?」

 

 

 

「うん…。また今度ね。」

 

 

 

「さてと!じゃあ今日は帰りますか!?」

 

 

 

ベンチから飛び跳ねるように俺は立ち上がった。ノワールもそれにゆっくりと続いた。

 

 

 

「それじゃあノワール、また明日な。」

 

 

 

「ええ、また明日ね、レン。」

 

 

 

そう言って俺達は自分の家に向かって歩きだした。さて、明日はどんなことして過ごそうかな?

 

 

 

 

ここで俺は今日街中で聞いた話を突如として思い出した。そうだな、ノワールにも言っておかなければ。俺は彼女の方を振り返り大きな声でこう言った。

 

 

 

 

「のわ〜〜るぅ、言い忘れたけどさ〜〜?」

 

 

 

「まったくそんな声張り上げてどうしたのよ、もう…。」

 

 

 

「明後日にリーンボックスが接近するんだってなぁ〜?俺はその時に一度街を出るから〜〜!それだけだぁ〜、じゃあまた明日〜〜!!」

 

 

 

そう言うと俺はまた家の方角へと向き直し、ゆっくりと帰ったんだ。少し後ろに離れた場所のノワールに顔も合わせず、手だけをブラブラと振りながら。

 

 

 

俺がその言葉をかけた時に起こった、彼女の表情の変化すら気付かずに…。

説明
まぁ皆かわいいんですけどね。
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