ゲイム業界へようこそ!その41 |
(あんたどこから来たの?)
マジェコンヌの言葉を聞いた途端、俺はまるで息が詰まったかのように感じた。上手く呼吸が出来ない。そう、俺はあいつの言葉から動揺を隠せないでいたのだ。
マジェコンヌは俺がこの世界の人間でないことをほぼ間違いなく把握している。奴を見てみれば俺が動揺していること対して、面白がってからなのか顔の表情に薄ら笑いを浮かべている。全く気持ち悪いったらありゃしない…クソッタレが!!
「ふ〜ん。まぁお前がどこから来たのかは別に大したことじゃない。今の私の言葉に動揺しているお前を見るに、大体察することが出来るからな。」
「…それであなたは一体どうしたいと考えてるのですか?」
「別にお前をどうかしたいわけじゃない、今のところは。」
それじゃあ今後の俺の取る行動によっては、どうこうしちゃうわけですか。
それにしても、まさかもうマジェコンヌに目を付けられるとは思っても見なかった。これで俺は迂闊な行動が出来なくなったわけだ。ネプテューヌやノワールの手助けをしたいと考えていても、それはマジェコンヌの障害に十中八九なり得てしまうだろう。そうなったら俺は間違いなくマジェコンヌから妨げと認識され、何かしら被害を被ることになる。こうなってしまうと面倒極まりない。
「とりあえず今日はお前の顔を見に来ただけだ…といいたいところだが、少し気が変わった。」
「?」
「お前で少し憂さ晴らしをさせてもらおう。」
武器をどこからとも無く取り出し、マジェコンヌは突如として鋭利な刃で俺を襲い掛かって来た。いきなりの奇襲であったため、俺は武器を出すが衝撃で大きく後ろに吹っ飛ばされた。痛っつぅ〜〜、さすがにラスボスを張っているだけのことはある、防御していても肉体に反動を受けているな。これでは防御することすら危うい!
「アイエフ、すまんが奴を止めるのを手伝ってくれ!」
「もちろん分かってる!アイツのことは私も嫌いだもの。後、街に戻ったらあなたのことしっかりと教えてもらわよ?」
「約束しよう!街に戻れたらな!」
そう言って俺は武器を改めて握り締め直した。相手は原作主人公ネプテューヌと何度も道中で戦闘を行い、最後にはラスボスとして立ちはだかったマジェコンヌ本人。少しでも気を抜いたらやられる。
(変身)
一瞬の眩い光に包まれて、俺はレッドハートへと変身した。2本の剣でマジェコンヌへ速攻を仕掛ける。俺の変身姿にやや驚いていたようだが、そんなこと関係無いといった具合に、俺の攻撃は剣で軽く弾かれてしまった。俺は舌打ちと共に大きくバックステップをして、マジェコンヌから間を取る。クソッ!そう上手くは行かないか!
「ふん、なかなかやる。それに面白い格好までしてるな。」
「お褒め頂きありがとうございます。でもこっちは好きでこんな格好になってるんじゃないんですよ。」
「あれ?レンって好きでその格好してるんじゃないんだ?」
「当たり前だ!誰が好き好んでこんな恥ずかしい格好になるか!」
アイエフの素の言葉に対して俺はやや大きな声で返答した。緊迫した戦いの中でこんな会話をするとは、さすがネプテューヌクオリティーと言ったところかッ!!
縦横無尽に襲い掛かってくるマジェコンヌの攻撃を避けるため、時には体を大きく捻り、時にはサイドやバックにステップして俺は逃れていた。反射神経をフルに使い紙一重で避ける、なんともギリギリな戦いだ。俺とアイエフが場合に応じて、同時に攻めたり交互に向かったりと応戦しているが未だにまともなダメージを与えられないでいる。やはりマジェコンヌ相手に二人では分が悪いのだろう。
ジリ貧な戦闘がいくらか続き、俺はマジェコンヌの残りライフを見るため、相手の上部分に見えるステータスを確認した。ライフは…オイ、まだ10分の1程度しか削っていないのかよ!?ガードブレイクまでは後半分くらい、しかしガードブレイクしたところで一体どれだけのダメージが見込めるのだろうか、全く先が見えないでいる。
アイエフの方を見ても、彼女の荒い吐息から疲労が伺えてしまう。そういう俺も最早限界に近かった。剣を構えることすら間々なら無くなってきている。先ほどまで戦闘続きだったのが原因の一つでもあるようだ。今の俺達は連戦でボスを相手するほど強いわけじゃない。しかもそのボスがマジェコンヌだなんて…。
「どうしたんだい?がら空きだよ?」
「なっ!?」
いつの間にかマジェコンヌの接近を許してしまっていたらしい。咄嗟に身構えようとも遅すぎたらしく、俺の腹部に強烈な蹴りが入った。
「がっ、はっ…!」
「おやおや一発喰らっただけでその調子か?随分と貧弱な奴だ。」
反論したくても、腹部にもらった一撃が重かったらしく、声が出せず、呼吸も難を極めていた。剣を握る力も全て失い、「カラン」という音と共に地面へと武器を落とす。立ち上がろうにも足腰も限界のようで顔だけはマジェコンヌの方を見ていた。
現在アイエフが一人でマジェコンヌと戦っているのだが、それも直ぐに決着が着く。一方的なマジェコンヌの攻撃がアイエフを襲い続け、それに対してアイエフはただ防御しているのみ。回し蹴りによる奇襲がアイエフにダメージを与え、それによってバランスを崩したところをマジェコンヌの一撃必殺の如く武器による横薙ぎが彼女へと襲いかかった。防御するも空しく、その攻撃によってアイエフの愛用する双剣が吹き飛ばされ、どうやらこれによって俺達の敗北は確定してしまう。
「くっ…俺達の負けか。」
「私達があんたなんかに負けるなんて…。」
「当然の結果だな。私相手にお前等のようなただの人間では初めから結果が目に見えているようなものだからなぁ。」
何も反論することが出来ず、俺は黙って今後のことを考えた。まず何よりも優先すべき点、それは最低でもアイエフだけはなんとか見逃がしてもらうことだ。理由は明白、彼女は原作のメインキャラなのでネプテューヌのパーティーから絶対に欠けてはならないから。最悪の場合、自身を犠牲にしてでも彼女を助けなければ、おそらくマジェコンヌも生死に係わることまではしないだろうし。
「それで俺達をどうするつもりなんですか?」
固唾を呑んで、マジェコンヌの台詞を待つ。…というか待つほどの時間は掛からなかった。
「別にどうこうするつもりはないぞ?」
「「ハッ?」」
俺とアイエフは互いに拍子抜けした表情でマジェコンヌを見た。敗北した俺達に何もしないだって?理由が分からない、何か裏があるのだろうか?
「あ、あんた一体何企んでるのよ!?」
「企んでいるとしてもお前達に言わねばならない理由はないな。それに最初に言っただろう、憂さ晴らしだと。日頃溜まっていた鬱憤を晴らすためにお前達を叩きのめしてやっただけの話だ。今ここでお前達のようなただの人間をどうこうしたところで大した意味は無いだろうしな。」
マジェコンヌの台詞を聞くにどうやら本当に裏はなさそうだ。態度から見ても今の俺達のことを大した目で見ていない。悪魔で先ほどの戦闘は憂さ晴らしだったらしい。
ほっとして肩から気を抜いた、その途端に先ほどまでの戦闘の疲れが一気にぶり返してくる。俺の生きてきた中でここまで疲労した経験はあっただろうか、いや無いはずだ、断言出来る。だって俺、真性のオタクっ子だし、体力使うことしたがらないし。
アイエフの方は未だにマジェコンヌの方を睨みつけながら気を張っているようだ。最初会った時にいきなり襲われて、今回も憂さ晴らしという意味不明な理由から戦闘を開始したのだ。そんな奴が今更になって敗北した俺達をどうもしないなんて信じれないに決まっている。しかし俺は原作「超次元ゲイム ネプテューヌ」をプレイしていて分かるのだが、マジェコンヌはプラネテューヌ、ラステイション、リーンボックス、ルウィーの四つの大陸をそれぞれ守護している女神達を中心として、その中で特にネプテューヌを目の敵としている。だから言ってしまえばその女神達で無い者には大した興味を持っていないのだ。結果としてマジェコンヌから興味を持たれていない俺達は問題なく見逃されることになる、多分、おそらく…。
「さて、話はもういいだろう、私も忙しいからな。そろそろ行かせてもらうか。」
「さっさとどっかに行きなさい!この変質者!!」
「口汚い女だ、まぁ言われずとももう行く。最後にそこのお前。」
「お、俺ですか?」
「私は今のところお前をどうこうする気は無い。だが、お前がネプテューヌを手助けし、私の障害となると判断した場合、次に会った時は容赦しない。分かったな?」
「…理解しました、考えておきます。」
俺の言葉にどう思ったか知らないが、マジェコンヌは「フン」という言葉と共に一瞬にしてこの場から消え去った。それ同時に辺りからは静けさが舞い戻ってくる。
アイエフを見てみれば、どうやらやっと気を抜けたらしく、床にぐったりとへたり込んでいる。今回のイベントに関しては彼女に心から謝罪と感謝が絶えない。街に戻ったら必ず何かお礼をするとしよう。
「アイエフ、大丈夫か?」
「ええ、見ての通り体は無事だけど、体力はもう限界。一歩も歩けないわ。」
「俺も立ち上がることすら出来ないな。少し休んでから街に戻るとするか。」
「そうしましょう。後分かってると思うけど街に戻ったら「もちろんだ。俺の出来うる範囲でアイエフに説明するよ。」ならいいわ。」
俺達はその後、十分ほど休憩して街へと向かった。帰る途中で、モンスターと一度もエンカウントしなかったのは不幸中の幸いだったと余談として言っておこう。
………………
街に無事戻ってきた私達はとりあえずクエスト達成の報告をしにアニメイトに向かった。
店長からは「どうしたんだお前達!?ずいぶんと体がボロボロじゃないか!そんなに大変なクエストだったのか!?」とすごく驚かれたけど説明も少し面倒だったし、それとなく返答をして、話をやや強引に終わらせたわ。店長は少し納得いかない顔をしてたけど、「まぁお前達が大丈夫というのなら俺はただ黙って信じるだけだぜ!」と言って了解してくれた。なんだかんだで私達のことを理解してくれている店長には本当に感謝してもし切れないわね、今度アニメエイトに来た時には何かお土産的なものを持ってこようかしら。
無事報告を済ませ報酬を貰った私達はどこか落ち着ける場所を探すことに。
「あんまり人に聞かれたくない話だ。出来るだけ人のいない所で話したい。」
とのレンの要望があるので、私はその要望に叶った場所を一つだけ思いついたので言ってみることにしたわ。
「じゃあコンパの家でいいんじゃない?」
「えぇ!?それだとコンパとネプテューヌに聞かれたりするんじゃないのか?」
「今日はコンパとねぷ子は二人で買い物よ。あの二人は大体帰ってくるのは夕飯頃だし、それまでには話も終わらせれるでしょう。」
「そうかもしれないが…。家主がいないのに勝手に家に入ってもいいのか?」
「レンはそんなに心配しなくても、大丈夫だから。それに、ハイ。これがコンパの家の合鍵。私がいつでも入れるように渡されてるの。」
そう言って私はコンパの家の鍵をレンの顔の辺りまで持ち上げて見せる。「おいおい、どんだけお人よしなんだよコンパ…。」とかレンは呆れてるけど、そこは私も同感。さすがに同じパーティー仲間でもそんな簡単に自分の家の合鍵は渡さないでしょうに。
結局良い場所が他に見つからなかった為、私達はコンパの家で話をすることにした。まぁコンパにはレンを家に上げたって後から説明すれば多分大丈夫でしょう。
コンパの家に到着。さっそく私達は家の中に入って、座れる場所に移動した。それにしても家に入ってから妙にレンの様子がおかしい。何だかソワソワしているみたい。
「どうしたのよ?そんなにソワソワして。」
「あ、あぁ。今までの人生で、女の子の家に上がるなんてイベントが無かったもので…。ははは、情けないですな。」
「あの彼女さん?じゃないんだっけ、ノワールさんの家とかには上がらせてもらったことないの?」
「いや、さすがに無理かな。もういろいろとね…?」
半笑いを浮かべるレンを変に思いつつ、私は「じゃあここに座って。」と小さなクッションを床に置いて、そこに座るようレンを促した。私もテーブルを挟んで向かい側のクッションに座ることにした。
話せる環境も無事に整ったことだし、私はさっそくレンに向かって例の話を振って見た。
「じゃあいきなりで悪いけど、アイツは誰なの?」
「アイツの名はマジェコンヌ。どんな奴か説明する前に少し話しておきたいことがあるんだが。」
「別に構わないわよ。一つ一つしっかり説明よろしくね。」
とりあえずアイツの名前がマジェコンヌだと判明したところで、どうやらレンは前もって話すことがあるみたい。
私は思った以上に知ってることが少ない。これは知識が無いというわけではなく、情報量がという意味ね。一緒に旅をするねぷ子の存在、突然現れたマジェコンヌという変質者、そして今目の前で話すレンのこと。知らないことが多過ぎるの。
私は知ってどうこうしたいと考えているわけじゃない。ただ、ほんの些細な情報でも知ってるいるのと知らないのではいざという時に全く違う。それだけで対処方法が大きく変わってくるのだから。
今目の前にいるレンは私の勘なのだけど、何か多くのことを知っている気がするの。それも私を含めたねぷ子、コンパの3人にとってとても重要なことを。
レンが情報を提供して良い範囲で構わない。構わないから、レンには教えられる情報を、全て、しっかりと、教えて欲しい。
「アイエフはロールプレイングゲーム(以後ロープレ)をしたことがあるか?」
「ハッ?あなたは何を言って「大事なことなのでもう一度言おうか?」…あるわよ。それが一体どうしたのよ?」
「ロープレは基本的なシステムとして、主人公となるメインキャラクターが仲間を引き連れて数々のモンスターを倒し、レベルを上げていき、最終的には魔王などの凶悪な敵であるラスボスを倒して平和を取り戻す。これが殆どのロープレの軸となるだろう。」
「まぁ普通はそうでしょうね。」
「ゲームをプレイする俺達は、画面の中の主人公とその仲間を巧みに操り、ある時には強敵を倒し歓喜し、またある時には大事な物や仲間を失い絶望したりもする。」
「プレイ側にとっては極当たり前のことね。でもその話が一体に何に結び着くっていうの?」
「…アイエフはさ、この世界がどこか似ていると思わないか?」
「似てるって一体何によ?」
この時、私は彼の質問に対して、既に一つの解答が出来上がってたのだが、どうしてか答えることが出来ずにいた。そしてその解答が正解である場合の一つの予測が薄っすらと頭を過ぎる。まさか、ありえない、そんなことを何度も反芻しても、疑問が晴れることはなかった。
私は本当に知って良かったのだろうか?今更になって悔やんでいる私がいる。私は確かにレンから情報を提供して欲しかった、そこは今でも揺るがない。だが、彼が私に伝えようとしている情報は、私が考えていたようなものとは次元が違ったのだ。甘かった、私はまるでモンブランのように甘過ぎたのだ。怖い、彼の次に発する言葉が怖い。
それでも。聞きたくないと思っている私の心の一部はそれでも「聞いてみたい」と感じている。私はどこまで貪欲なのだろうか?
「…やっぱり止めるか、この話。」
「え、えっ!?ど、どうして?」
「だってアイエフさ、体震えてるぞ?」
「!?」
気付かなかった。私は知らずのうちに震えていたようなのだ。理由は間違いなく、知ってしまった時の恐怖から。私の震えからレンは、私が知ることに怖がっていると気付いてしまったから教えるのを止めようとしている。
「俺のこれから話そうとしている情報はさ、はっきり言ってアイエフ達が知らなくても全く問題無いことだ。むしろ俺が思うに、知らない方が身のため、という知識の部類に入るかもしれない。」
「……。」
「アイエフは薄々感ずいていると思うんだ。だから恐怖している。」
そう言った後「アイエフはほんと賢いからな。」とレンは半笑い気味に付け足した。こんな時じゃ全く笑えやしないわ…。
でもそんなレンの顔を見てどこか気分が落ち着いた私がいる。
彼の話を聞きたくも聞きたく無くもある。しかし、もしも仮に聞かなかった場合だ。私はこれから先平然と暮らしていけるのだろうか?おそらく無理。聞かなかったことを後悔して、毎日のように「レンの教えようとした情報」について悶々と考えるようになってしまう。それではこれから先、ずっと息苦しい生活が続いてしまう。そんな生活、私なら参ってしまうわ。だから、彼の話を聞いてそれから後悔しよう。そして、後悔しながらも私なりに必死になって足掻いてみよう。その方が絶対にいい、その方が私らしいから。
「大丈夫だから、話を続けて。」
「本当にいいのか?まだ体が震えてるぞ?知るのが怖くて震えてるのな「いいの。それでも知りたいから。」…了解。」
私は軽く笑顔作って、レンの話を促した。彼もどうやら私の気持ちを察したようで話をそのまま続けた。
「さっきも話したがこの世界がどこか似ていると思うだろ?もう話の流れから気付いてかもしれないが、そう、ゲームの世界にだ。」
「……。」
「しかし、似ているからと言って、じゃあこの世界はゲームの世界なのかと問われれば普通の人ははっきりそうだと断言なんて出来ないだろう。」
「だが、酷かもしれないが、俺はあえて言わせてもらうよ。」
「……!」
「この世界はゲームの世界なんだ。」
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最近はラノベを買い漁ってる作者です。 ガガガから出版されている「人生」ってラノベが面白いです。イラストもすっごく良いです。良かったら手にとって立ち読みしてみてください |
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