世界を渡る転生物語 影技13 【牙】
[全1ページ]

 ポレロさん、フォウリィーさんに挟まれて……まるで本当の家族のように一つのベッドで川の字になって寝た翌日。

 

 そんな二人に挟まれつつも、俺はいつも鍛錬の時間になったのを感じ、そっと布団を抜け出そうとしたところで─

 

「……ん、早いわねジン。もう朝?」

 

「おはようございますジン君。例の修練ですか?」

 

 俺の動きに反応したのか、二人もまた目覚めの時を向かえ、俺に微笑みかけながらそう尋ねてくる。

 

「おはようございます。はい、これからやるんですけど……一緒にやりますか?」

 

「ふふ、ええそうですね。私もあの魔力の流れには興味がありますから……よろしくお願いします、ジン君」

 

 そうして顔を洗った後、三人で一緒に外に向かい……俺の日課である早朝の鍛錬を三人で行う事になった。

 

 フォウリィーさんが、俺と一緒に防御・回避・攻撃の基本型を練習するのを見て驚くポレロさんではあったが、では自分も、といって一緒に基礎の一連の動作に付き合ってくれる。

 

 やがて、それらが一通り終わると─

 

「なるほど……ジン君が歳不相応に強い経緯が垣間見えた気がします」

 

「イメージとしては血流らしいのだけれど……未だにうまくいかないのよねえ」

 

「確かに。纏えるようにはなりましたが……しかし、これだけでも十二分に【魔力】の質が違いますね」

 

 基本的に放出しかしていなかった魔力に流れという指向性を与える事に四苦八苦するポレロさんではあったが、やはり【((魔導士|ラザレーム))】という稀有な存在である為、徐々にこつを掴んでいく。

 

 フォウリィーさんもまた、は以前からの修練でいくらか循環が形になりつつあり、時折ポレロさんを励ましつつも、【((影技|シャドウ・スキル))】打倒という自身の目標が出来てからは余計に魔力鍛錬を入念に行うようになっている。

 

 俺自身もまた、自分の魔力鍛錬・気力鍛錬を丁寧に行いながら、ポレロさんとフォウリィーさんにイメージアドバイスを入れつつ、どうにか自分の体の周囲に魔力を纏い、維持出来るようになったポレロさんを見届けて一連の基礎を終える。

 

 そしていつものようにフォウリィーさんと協力し、朝食を作っている最中。

 

「ふ〜……やれやれ……ただいま」

 

ー『おかえりなさい』ー

 

「ああ、これはおみやげだよ。一緒に食べようじゃないか」

 

「ありがとうお父様」

 

 家の玄関が開き、オキトさんが大分疲れた様子で【((呪符魔術士|スイレーム))協会】の会合から帰ってきた。

 

 手にもった包みをフォウリィーさんに渡しつつ、ポレロさんと一緒にテーブルにつくオキトさん。

 

 丁度オキトさんも来たのだし、とキッチンから盛り付けられて運ばれていくパンとスープの洋風朝食と、オキトさんのお土産であるケーキ。

 

 オキトさんの『いただきます』にあせて食事が始まり、おいしい朝食に舌鼓を打つ中、今回の会合はどうでしたかと尋ねるポレロさんに答え、ポレロさんが【((魔導士|ラザレーム))】であり、行政執行官であることも絡んでわりとつっこんだ【ソーウルファン】の進入経路と、なんらかの画策を行っている事実とその対策として挙げられた出来事などが話し合われていた。

 

 そして─

 

「そういえば……ジン君の【((魔導士|ラザレーム))】の適正を見るとかいっていたけど……どうだったんだい? ポレロ君」

 

「ええと……やはりというか……なんというか。ジン君は【((魔導士|ラザレーム))】になりましたよ」

「ブフッ、ゴホッゴホッ」

「お、お父様ーーー?!」

 

 自分がいない間に、ポレロさんが俺の【((魔導士|ラザレーム))】適正を見るという話を聞いていたのか、その話を聞きながら紅茶を含んだオキトさん。

 

 頬を掻きながらあっさりと俺が【((魔導士|ラザレーム))】に到達したことと、到達した経緯などをポレロさんが告げると、その言葉に思わずむせてフォウリィーさんに背中をさすられるオキトさん。

 

「は、はは。そうかそうか。いやはや……なんというか、ここまでくるともう流石という言葉しか思い浮かばないよジン君」

 

「はい。……まあ、それについてなんですが─」

 

 それに引き続いて、俺が【((魔導士|ラザレーム))】に連なるのを拒否したという事実を伝えると、驚きと共に顎に手を当てながら俺に理由を尋ねてきた。

 

 俺は素直にポレロさんに話したことをそのまま、心のままに吐露すると─

 

「……そうだね。ジン君の考えは正しいといえるだろう。史上最年少の【((魔導士|ラザレーム))】、か。我々なら歓迎するのだろうけど……敵対者にとっては年端も行かない子供がそうなったと知れれば、誰かに利用されないとは言い切れないからね。特に昨今の【ソーウルファン】の動きからいくと……危険だ。……ポレロ君、もしこの件に関し、リルベルト様からご不満が上がった際は……私が責任を負う、と伝えてくれるかいか」

 

「オキトさん?!」

 

「お父様……」

 

 目を閉じて俺の考えを反芻した後、俺の考えを理解し、あまつさえもその言葉に反論が出るならば自分がその責を受ける、と言ったのだ。

 

 俺とフォウリィーさんがオキトさんの発言に驚いていると─

 

「……いえ、心配には及びませんよ。元々、【((魔導士|ラザレーム))】の座に連ねるとしても、年齢を鑑みて歳相応になってから発表する予定だったのです。それに……陛下は懐の広いお方。必ずご理解を示してくださいます。陛下は……この国の民のため、心を砕かれる方なのですから」

 

 真剣に俺を庇おうとするオキトさんに涙腺が緩みつつも、その言葉を否定し、王女ならば問題はないと告げるポレロさん。

 

 フォウリィーさんに涙目が見つかり、抱き締められる中……朝食を終える俺達。

 

 後片付けをし、オキトさんとポレロさんがお茶を飲む中、不意に思い出したかのように─

 

「ああ……先ほどの話のお返しという訳でもないんだけど……会合の帰りにジン君の様子を伝えにジェイクのところに寄ったのだけど……どうもあの子が、【((影技|シャドウ・スキル))】がこのリキトアの国境付近から【キシュラナ】へと向かっているらしいという情報を貰ったよ。強さを求める彼女の真摯な姿勢は買うけど、【四天滅殺】を犯すことだけは勘弁してほしいものだね」

 

ー『!!』ー

 

 という、フォウリィーさんにとっても、俺にとっても非常にタイムリーな爆弾発言をしてくれたのだ。

 

「キシュラナ……」

 

 その言葉を聴いて、片付けを終え、手にもっていた紅茶のカップに視線を落としつつ、呟くフォウリィーさん。

 

 そんな様子を心配そうに眉を潜めながら見守るポレロさんと、その様子に悟ったのか、フォウリィーさんに真剣に問いかけるオキトさん。

 

「フォウリィー。私は彼女に負けたことに悔いはない。お互い納得の上の勝負だったのだからね。だが……君はそれでもいくのかい?」

 

「……はい、お父様。これは……私自身に対するけじめなんです」

 

「フォウリィー……」

 

 説得するように呼びかけるオキトさんではあったが、答えるフォウリィーさんの声は決意と覚悟に満ちていた。

 

 そんなフォウリィーさんと約束を交わしたものの、心配そうに見つめるポレロさん。

 

 そんな心配そうな二人を見て、俺もまたここでお世話になった恩義を返すために─

 

「……それなんですけど……オキトさん、ポレロさん。俺もフォウリィーさんについていこうと思っているんですけど……」

 

「え?! ちょっとジン?!」

 

 心配そうにフォウリィーさんを見つめる二人にそう言葉をかけると、二人とフォウリィーさんの驚愕の視線が俺に集中する。

 

「おお……そうか! ジン君が!」

 

「! これは……よかった。これで安心ですね義父さん」

 

「ああ! すまないジン君。フォウリィーの事、頼んだよ」

 

 少しの間呆然としてた三人だったが、オキトさん達はすぐにその言葉の意味を理解すると同時に安堵の表情を浮かべる。

 

 え? え? と右往左往するフォウリィーさんを置いて、俺に信頼を寄せる二人が笑顔で俺にフォウリィーさんを頼みつつ、俺の両肩に手を置いて微笑みあう。

 

(ここまで心配されるだなんて……フォウリィーさん愛されてるなあ)

 

 二人の心配具合と、俺に対する信頼にちょっとほっこりしつつ─

 

「……ええ、心配されているのは分かるのよ? ええ。でも……なんでこんなに納得がいかないのかしら……」

 

 かなり複雑そうな顔で顎に手を当てて考え込むフォウリィーさんの呟きが耳に届いた。

 

(そんな細かい事気にしちゃだめだよフォウリィーさん! 愛されてるんだから!)

 

 目の前で二人がよかったよかったと連発しているので、直接フォローできずに心の中で応援しつつ─

 

「しかし……彼女に追いつきたいというのなら早めに出たほうがいいかもしれないね。彼女は国境付近の強いと噂の腕自慢を倒して歩いているそうだから……急げばまだ間に合うかもしれない」

 

「……【((影技|シャドウ・スキル))】殿は、ご自分の立場が分かっているのでしょうか……まったく」

 

 オキトさんがジェイクさんから聞いた話を統合し、早めに出れば間に合うかもしれないと告げ、ポレロさんが珍しく【((影技|シャドウ・スキル))】の行動に愚痴を零す。

 

「そうですね、それなら……午後には出たいわ。いけるかしら? ジン」

 

「わかりました。フォウリィーさんと鍛えた家事スキルは伊達じゃありませんよ〜!」 

 

「ふふ、期待しておくわね? それじゃ私は荷造りをしてくるわ」

 

「……フォウリィー、荷造りを終えたら私のところへ来なさい。渡したいものがあります」

 

「お父様? ……はい、分かりました」

 

「お昼に旅立ち、ですか……これは急がなければなりませんね。すいません、少々立て込んだ事情が出来ました。今すぐに失礼させていただきます」 

 

 こうして急速に動き出した事態。

 

 ポレロさんが慌しく外に出ると、【((門|ゲート))】を作ってジュリアネスへと戻っていき、俺は俺で自分の荷造りの為に、カイラから貰ったバッグの整理と、ポレロさんから貰ったプレゼントの整理を行いに部屋へと入る。

 

 ここに来て減ったものと、逆に増えたもので再びバッグが一杯になりながらも、俺はすぐに使うような薬草・薬品系を上に、すぐには使わないものを下へとバッグに詰め込みなおしていく。

 

 やがて、自分の準備が終わり、お昼ご飯の準備と共に【((影技|シャドウ・スキル))】に追いつくまでの間の食料等、旅に必要なものを揃えていく。

 

 そんな中、フォウリィーさんが自身の荷造りの後でオキトさんの部屋へと入り……しばらくした後、大事そうに掛け軸のような大きさの、恐らくは【((広域殲滅用特殊大型符|大アルカナ))】であろう呪符を抱えて出てきた。 

 

 俺はそれを見た瞬間、自分で思いついた事を実行するべく、昼食を並べた後でバッグから【高速呪符帯】を一枚取り出し、オキトさんに渡すべく書斎のドアを叩く。

 

「ん? どうしたんだい? ジン?」

 

 どうぞ、という言葉を聴いて部屋に入ると、俺に持たせるための呪符なのか、呪符の束を整理していたオキトさんが顔をあげる。

 

「はい……実はこれを」

 

 と、俺は丸まっていた【高速呪符帯】をオキトさんに手渡し、オキトさんはその【高速呪符帯】を見て驚く。

 

「! これは?!……しかしなぜ私に?」

 

「今までお世話になったお礼と、御守代わりです。【呪符・蒼焔】をどうにか使えないかと思って、カウンター型の自動防呪符にしてみたんです。この丸の部分に血をつけると、その人の危機に反応して、あの蒼焔が結界のように張り巡らされるというものになっています」

 

 帯状の【呪符・守護蒼焔】を丁寧に広げて確認した後、俺の目の前で自分の指を切り、中央にあった契約部分に血をつけてみせるオキトさん。

 

 オキトさんの血に反応して呪符の【魔力文字】が淡く輝き、再びくるくると丸まってオキトさんの手に収まる。

 

「ふふ……そうか……。また……私を守ってくれるというのだね。 ……ありがとう、ジン」

 

「あ、う……いえ……」

 

 【((呪符魔術士|スイレーム))】の先達たるオキトさんに失礼かなとも思ったのだが、オキトさんが大事な宝物を貰ったようにそれを懐にしまいながら、俺に目線をあわせるように膝をついてしゃがみこみ、両肩に手を置いて微笑むオキトさん。

 

 そして……旅立ちの際に言うべき言葉がもう一つ。

 

「……今まで、長い間お世話になってしまって、すいませんでした。呪符を教えてくれてありがとうございます。ここでの出来事は一生……わすれません」

 

 いつのまにか自分の家のようにして過ごしていたこの館での思い出。

 

 それを思い、俺の頬から伝う涙。

 

 なんだか泣いてばかりだなぁ……と思うものの、俺の考えとは裏腹に、俺の思いで溢れる涙は留まる事を知らない。

 

「何を言っているんだいジン。 それはこちらもだよ。……もう、しつこいぐらいかもしれないけど……私を助けてくれて、本当にありがとう。私も今までのことは忘れないよ。だって私たちはもう……」

 

 そんな俺を抱き締めて優しく背中を叩きながら、その胸にある思いを込めて─

 

「『家族』なんだから」

 

 そう、俺に告げるオキトさん。

 

 いつでも帰っておいでといいながら、俺が泣き止むまでの間、ずっと俺を抱きしめながら背中をポンポンと叩いてくれたのだった。

 

 やがて……どうにか気持ちの整理をつけ、泣き止んだ俺が昼食の用意が出来た事をつげると、お礼をいいつつもオキトさんがそっとその手をさしだしてくる。

 

 俺はその大きな手をぎゅっと掴み、一緒に書斎を出て……キッチンまでの短い道程を二人で歩く。

 

 そんな中。心のそこから嬉しそうな、実に機嫌のいい笑顔を見せてくれたのが、俺の印象に焼きついたのだった。

 

 そして荷造りを終えた荷物を玄関先に出し、昼食を取り始める俺達。

 

 他愛もない話から、少しさかのぼっての思い出話等。

 

 取り留めのない話を続けていた俺達もやがて昼食を終え……荷物を背負い、二度目の旅立ちの時を迎える。

 

ー空 間 開 門ー

 

 そんな俺達の目の前に、空間が捻じ曲がって扉が開き現れるポレロさん。

 

「ふう、間に合いましたね」

 

 その優しげな顔に微笑みを浮かべつつ、俺達の目の前に立つポレロさん。

 

「帰ってすぐ、聖王女リルベルト=ル=ビジュー様に謁見し、事の顛末を報告いたしました。まあ……【((魔導士|ラザレーム))】の栄誉を断る際には大層驚かれていたのですが……」

 

 そして【((魔導士|ラザレーム))】の栄誉を蹴った理由を陛下に尋ねられた際、ポレロさんが俺の言葉をそのままお話したらしい。

 

 その言葉に再び驚いた表情をしながらも、頷いて優しく微笑み……それならばと陛下が、その栄誉代わりにポレロさんに持たせたものがあるのだとか。

 

 そういって懐から取り出したのは……金糸の刺繍が入った、黒塗りの書簡。

 

 その書簡の筒の上部を空け、中から丸まった書状を取り出すポレロさんが、その書状を広げて俺に見せる。

 

 そこに書かれていた内容は─

 

ー『告 この書簡を持ちし者、ジン=ソウエンを聖王女が御名において保障し、この書状をもって身の証とする。 聖王女 リルベルト=ル=ビジュー』ー

 

ー『…………え?』ー

 

 ごしごしと目を擦り、フォウリィーさんとシンクロしながら二度見。

 

 それでも尚信じられずにポレロさんに尋ねる俺。

 

「え、えっと、これは?」 

 

「ふふ、いわゆる身分証ですよ。ほら……ジン君が、自身の身元を証明するものがないといっていたでしょう? 国を渡り歩く際には、身分証があったほうが有利ですしね。それを【((魔導士|ラザレーム))】の適正前に告げていたので、どうやら用意をしてくれていたようですよ。 ……尤も、まさか国公認どころか陛下直々のサイン入りだとは思いませんでしたが……ま、まあこれを示せばこの守護四国では大抵どうにかなると思いますよ?」

 

 場合によっては国賓でね。と、優しい微笑みを浮かべるポレロさん。

 

「え? あ、はい。……え〜っと、逆に目立ちませんか? いろいろと」

 

「あ、あはは……まあそこらへんは言い含めておけば大丈夫だと思いますよ。……この身分証からいけば、ほとんど国賓みたいなものですけどね……」

 

「ま、まあほら! 国境のことを考えてなかったわけだし、これで国境の際の手続きの手間が省けると思えば……ね?」

 

「あ、う、うん。そうだね。ありがとうございます、ポレロさん! わざわざ届けてくださって」 

 

「ふふ、気にしないでください。……あ、そうそう。陛下が『いずれ時間を見て聖王都ジュリアネスに顔を見せに来て下さいね』と、おっしゃっておいででした。そちらに都合のよろしい時にジン君を迎えにいきますね。あと、これもジン君へのお小遣いだそうです」

 

 そういって追加で懐から丈夫な皮で出来た、重そうな包みを取り出すポレロさん。

 

 言い忘れていたが、この国ではGPという貨幣単価が存在しており、GPの額に応じて貨幣の材質が違う。

 

 1GP 銅。

 100GP 銀。

 10000GP 金。

 1000000GP 白金。

   

 となり、大体1〜5GPで一食が食べれるし、一日20GPもあれば普通に暮らせるのだという。

 

 そして、俺がお小遣いといわれてポレロさんから渡された、俺の両手にあまるレベルの皮袋には─

 

「……え〜っと、多すぎ、ませんかね?」

 

「うわ〜……まあ、リルベルト様も王族だからね〜……」

 

「あ、あはは……大分ジン君の事が気に入っているみたいだねえ」

 

 こっそりと、オキトさんからもお金を1000GPほど旅費で貰っていたのではあるが……。

 

 その皮袋の中には、銀の輝きどころか金の輝きが混じっていて……正直子供の手に余るレベルだった。

 

 困惑しながら、ポレロさんのほうを見ると─

 

「陛下の御心使いですから、遠慮せずに貰ってあげてください。……というか、もらってください! ただでさえ【((魔導士|ラザレーム))】をお断りしているんですから、せめてもの心付けだと思うのです! お願いします!」

 

「や、そんなに必死にならなくても?!」

 

「あ、あはは……あなたも中間管理職だものね……」

 

「……わかる、わかるよポレロ君! 今度の休み、二人でまた飲もうじゃないか!」

 

「……義父さん……!」

 

 なにやら、通じ合うオキトさんとポレロさんを置いて、それならばときっちり腰のポーチへと仕舞い込む俺。

 

 書簡もまた、バッグに厳重にしまいこみ、再び背負い直すと同時に、フォウリィーさんがオキトさんと抱擁をし、そしてポレロさんと抱擁と口付けを交わす。

 

 その流れで俺もまたオキトさん、ポレロさんと抱擁を交わした後─

 

「いってきますね あなた お父様」

 

「ああ、気をつけて。……何も命の取りあいではないんだ。決して……命を粗末にしないように」

 

「ええ、無事に、とはいかないかもしれませんが……必ず私の元へ戻ってきてください」

 

 そう、ポレロさんとオキトさんがフォウリィーさんに声をかける。 

 

「ジン君……フォウリィーの事を頼んだよ。君自身も、決して無理をしないように」

 

「ええ、誰が欠けても幸せというものは……その文字がかけて辛いものになってしまいます。ですから……その命を一番に思ってください」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

 丁寧に礼をしながらも、俺達は手を振りながら─

 

ー『いってきます!』ー

 

ー『いってらっしゃい』ー

 

 二人で一路、以前俺がここまで来た道を引き返すかのように国境沿いの街道を目指し、ポレロさんとオキトさんに見送られながら家を後にする。

 

 俺達が見えなくなるまで見守るオキトさん達に時折振り返って手を振りつつ、俺達はその歩みを進める。

 

 過ごした日々と、まだ見ぬ国。

 

 そして【((影技|シャドウ・スキル))】に思いを馳せながら。

 

 

 

 

 

 やがて、夕暮れと共に夜の帳が下りる中。

 

 俺達の視線の先には─

 

「……懐かしいわねここは。ジェイクおじ様は元気なのよね?」

 

「え? あ、うん。って、ジェイクさんと知り合いなの? フォウリィーさん」

 

「ふふ、ええ。あの方は昔からお父様と親交が深い方だったのよ? 私もよく相手をしてもらっていたの」

 

 そんなフォウリィーさんとジェイクさんの関係を聞きながら、俺達はあの【((商人の止まり木|パーチ・マーチャント))】の扉を開く。

 

 商人達のキャラバンらしき人々がジョッキ片手に乾杯を告げ、カウンターでは傭兵達が食事をする賑やかな店内。

 

「いらっしゃいませ〜! 【((商人の止まり木|パーチ・マーチャント))】へようこそ! お食事ですか?」

 

「ええ、二名。カウンターで頼むわ」

 

「畏まりました。こちらへどうぞ〜!」

 

 以前訪れた時はいなかったウェイトレスの女性に案内され、俺達はカウンター席へと足を運ぶ。

 

「……ほう! 久しぶりに見る客人と、つい先日みた客人だな。いらっしゃい、お嬢さん。ご注文は?」

 

 そんな俺達を出迎える渋い外見、渋い声。

 

 相変わらずビシっと服を着こなすマスター、ジェイクさんが俺達を見て目を細める。

 

「もう……お嬢さんはやめてくださいよジェイクおじ様」

 

「お久しぶりですジェイクさん。今日はご厄介になります」

 

「ふふ、失礼した。懐かしくてついな。そして……久しぶりだなジン。オキトから話は聞いたぞ? ……よかったな。今日は例の件が解決したことによって千客万来なのだ。騒がしくて悪いが、楽しんでいってくれ」

 

 そういってフッと笑いながらフォウリィーさんと俺に飲み物と、鳥のもも肉を焼いたものに野菜の付け合せとパンを添えた夕食を出してくれるジェイクさん。

 

「あ、そうだ……こんな日に何なんですけど……例の話ってまだ生きてますか? 一晩だけとめていただきたいんですけど」

 

「無論だ。ただ……この人数なのでな。残念ながら一部屋だけしか用意できんが……いいか?」

 

「もちろんです! ありがとうございますジェイクさん!」

 

「え?」

 

 俺とジェイクさんの会話についていけず、呆けた顔をするフォウリィーさんに、俺が事のあらましを説明する。

 

「え〜?! 【((暴猪|ボールボア))】の肉って……あ〜んもう、ジンってば家にも少し残してくれていてもよかったじゃないのよ〜」

 

「あ〜……ごめんなさい……そんなにいい肉だって知らなかったもので」

 

 お金がなくて【((暴猪|ボールボア))】の肉を代価とした、と話すと、その内容に驚きをあらわにして悔しがるフォウリィーさん。

 

 どうやらフォウリィーさんも食べたことがないとの事で、一度食べてみたかったのだとか。

 

 俺が少し理不尽さを感じつつも、素直に頭を下げて謝っていると─

 

「ふふ、相変わらずだなフォウリィーは。ほれ、少しだけなら端肉がある。これで我慢しろ」

 

「え?! ありがとう! ジェイクおじ様♪」

 

「やれやれ……現金なところも変わらんな……」

 

 ジェイクさんがそんな俺達を見ていたのか、干し肉にして保管してあった【((暴猪|ボールボア))】の端の肉を串にさし、あぶったものをフォウリィーさんに差し出す。

 

 それをキラキラした瞳で受け取りつつ、おいし〜♪といいながらかぶりつく横で、俺とジェイクさんが顔を見合わせて苦笑する。

 

 やがて、ウェイトレスさん達の注文を聞いて忙しそうに働くジェイクさんを横目に俺達は食事を終え─ 

 

「あ、そうだジェイクさん。今回はちゃんと払えるお金もあるので……情報が欲しいんですけど」

 

 そういって俺は、オキトさんから貰ったお金の中から、銀貨を一枚取り出してカウンターに置く。

 

「……ふむ、きちんとそういう事も学んだのだな。しかし……お前からはまだ金は受け取れんよ。……何の情報が欲しいんだ?」

 

 そういうと、俺の出した銀貨を俺に押し返しながら顔を寄せてくるジェイクさん。

 

「……【((影技|シャドウ・スキル))】の動向を教えて欲しいんです、ジェイクおじ様」

 

「……! …………成程、な。ジンは付き添いで……本命はフォウリィーだったか。 ……ふむ……オキトはそう言うことは気にせんだろう? と、いっても……その目は無駄だな。ふふ、そういう頑固なところはオキトそっくりだなまったく」

 

「も、もう! おじ様!」

 

 その問いにフォウリィーさんが答え、一瞬驚いた後に納得し、あっさりとフォウリィーさんの目的を看破するジェイクさん。

 

 オキトさんそっくりと言われて照れるフォウリーさんを再び二人で顔を見合わせ苦笑した後─ 

 

「まあ、口止めはされていないからな。俺も彼女から直接『【四天滅殺】を犯さないで戦える場所』と、『【((影技|シャドウ・スキル))】の名を聞いて挑む強者には情報を流すように』という二つの伝言を貰っている。俺が掲示した場所は……ここだ。丁度クルダとキシュラナの国境付近に位置する場所に、そういう決闘にはうってつけの廃れた遺跡があるんだ。地元の人もあまり寄り付かず、歴史的価値も薄い。そして何より広い場所なのでな。周りの被害も出にくいであろう事からここを進めさせてもらった。何人か腕利きが情報を聞きにきたし、まだ二日程度だから……恐らくはまだここにいるだろう」

 

「…………」

 

「ありがとう、ジェイクさん」

 

「何……挑むのであれば万全を期したほうがよい。部屋は先ほど教えたな? 早めに休むといいだろう」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。……ごちそうさま、おじ様。ひさしぶりに料理を食べられてうれしかったわ」

 

「……また、食べに来い」

 

「……ええ、必ず。いきましょ? ジン」

 

 そうジェイクさんに挨拶をしながら、酒場二階の宿へと足を運ぶフォウリィーさん。

 

「……ジン、頼んだぞ」

 

「はい、わかってます」

 

 厳しい顔の中に心配そうな色を浮かべるジェイクさんに頷きつつ、俺はフォウリィーさんの後を追って部屋へと向かう。

 

 簡素な木で出来たベッドに、太陽の香りがするやわらかい布団と毛布が二つ置いてある部屋へとたどり着いた俺達は、早速荷物を下ろして明日の私宅を始める。

 

 俺はあらかじめ結界や治癒系統の術式を選抜して容易し、フォウリィーさんは攻撃系の呪符と……【((広域殲滅用特殊大型符|大アルカナ))】を呪符の上に置く。

 

 ジェイクさんの宿なのでそう言うことはおきないであろうが、一応の準備として結界を敷き、盗難防止に努める。

 

 やがて、俺がベッドに入ろうとすると─

 

「は〜い、ジンはこっちね♪」

 

「え?! ちょ!」

 

 と、有無を言わさず結局抱き締められるままに眠ることとなり─

 

 そして翌日。

 

 外は夜が明けたばかりであり、霧が深く立ち込めていた。

 

 俺はすでにおきているフォウリィーさんと共に昨日用意していた服を着込み、呪符を仕込んでいく。

 

 俺の服は、【((呪符魔術士|スイレーム))】としての姿と実力と姿を隠すために、苦肉の策で蓋付ポケットをいっぱいつけて呪符を収納してある。

 

 紺のノースリーブインナーとスパッツに、深緑の肩なしの腰上までのジャケットを羽織り、胸と腰上の部分にポケットをつけて、そこにも呪符を配置。

 

 両腕の部分にスパッツと同じ素材で縫い付けたホルスタータイプのポケットをつける。

 

 同じ色のハーフパンツを履く。

 

 これもお尻部分と腿の部分にポケットがついている。

 

 スパッツと同系色の靴下を履き、足首付近にホルスターをつけたブーツをはく。

 

 手首付近にホルスターをつけた指穴開きグローブを装着。

 

 腰にポシェットをつけて、リュックサックを背負う。

 

 蒼焔 刃、準備完了! とばかりに気合を入れていると、同じように準備を終えたフォウリィーさんが─

 

「ねえ、ジン。ここ寝癖ってるみたいなの。ブラシお願いしてもいいかしら?」

 

 そういって俺にブラシを手渡してきたので、俺はフォウリィーさんの髪を丁寧にブラッシングしながら、これから先の道を思案し─

 

「んぁ……んっ……気持ちいいわあ……」

 

 ……フォウリィーさん、いろいろ誤解が生じるのでそういう艶っぽい声はやめてください!

 

 朝からなんともいえない気分になりつつ、俺達はこの霧で【((影技|シャドウ・スキル))】がまだその場に立ち止まっている事を願いつつ、相変わらずバリっと服を着こなすジェイクさんに挨拶を交わして【((商人の止まり木|パーチ・マーチャント))】を後にした。

 

 そうして記憶した道筋を歩くこと数時間。

 

 未だ晴れない霧の中、おぼろげに映る遺跡らしき折れた塔がぼんやりと影で捉えられる。

 

「ん、あれね? 以外に遠かったわね〜」

 

「そうですね。まだ霧が晴れていないから、移動してないといいんですけど─」

 

 遺跡に寝泊りをしているのかは不明だが、腕試しの名目でここにいる【((影技|シャドウ・スキル))】ならば、と歩みを進め、塔が徐々にその影を大きくしてくる。

 

 いよいよ眼前に遺跡が影となって見えるようになった頃。

 

「──ジン!」

 

「うん。……先客がいたみたいだね。……すごい、殺気だ」

 

 それは、まだ遺跡に到達していないというのに感じられる……圧倒的な威圧感と、純粋なまでに相手を打倒する意思の篭った気迫。

 

 その名は殺意。

 

 その気迫は殺気 

  

 誰かが既に【((影技|シャドウ・スキル))】と戦っていることを察知した俺達は、互いに頷きながら遺跡目指して走り出す。

 

 木々を避け、フォウリィーさんと共に森を走り抜ける中。

 

 俺はいつものように気配感知を使い、【((影技|シャドウ・スキル))】の方向を探ろうとした瞬間─

 

「フォウリィーさん、ストップ!」

 

 その気配感知の中に感じた複数の気配に、俺はフォウリィーさんの手を掴んで立ち止まらせる。

 

 俺の指示に従い、木に手をかけて体を抑制し、急停止をした俺達の目の前に─

 

ー一 矢 突 刺ー

 

 俺達の足を狙ったのであろう、クロスボウに番えるボルト矢が突き刺さる。

 

 油断なくリュックとバッグを木の根元に下ろし、小型の結界を張る俺達の目の前に─

 

「……へえ……。気づくとはねえ」

 

 木陰から、クロスボウを手に出てきたのはー

 

 無精髭を生やし、皮鎧のあちこちに黒い染みをつけた中年の男。

 

「よお、はじめましてお嬢さんたち? いけないねえ、こんな視界の悪いときにこんな森に入っちゃあ……大変な目にあうよお?」

 

 そんな言葉を口にして歪な笑みを浮かべつつ、不意に指をならす男。

 

「へっへっへ」

 

「いい獲物だぁ」

 

 すると……俺達の周りを囲うように、その男と似たり寄ったりな格好の男共がその手に剣や斧など、武装した姿で現れる。

 

「俺たちはここらを縄張りにしている盗賊集【牙】ってもんだ。おとなしく身包みおいていくんだなあ〜……もっとも……」

 

「こんな上玉、逃がすなんて手はありませんぜお頭」

 

「ええ、そうですぜ! 楽しむだけ楽しんだら……売り飛ばしちまえばいいんですからねぇ!」

 

「ちげえねえ!」

 

ー『へっへっへっへ!』ー

 

 全員が全員、俺達を囲んだことで優位に立ったと下卑た笑みを浮かべ、既に俺達を抑えた後を夢想して勝利の笑みを浮かべる。

 

「あら……ずいぶん手荒なデートのお誘いね? だけど……」

 

「うん、そうだね残念だけど─」

 

 ゆっくりと袖に仕込まれた呪符を抜き放ち、俺と背中合わせに立つフォウリィーさん。

 

 俺もまた、グローブを握り締めて構えを取る。

 

「もう間に合ってるわ……!」

 

「お呼びじゃないんだよ!」

 

ー炎 斬 殴 打ー

 

 そういいながら、フォウリィーさんが【詠唱破棄】で【炎刃】を発動させ、目の前にいた男を左斬上に炎の刃が切り捨てて炎に包み込む。

 

 俺もまた、一足飛びに踏み込んでアッパー気味に盗賊の腹部を殴りつけ、何が起こったのかを理解できないまま、その男が空中高く打ち上げられていく。

 

「なっ?! 【((呪符魔術士|スイレーム))】だあ?! おい、こいつ等だたもんじゃねえ! 一斉にかかれ!」

 

ー『?! おう!』ー

 

 そんな様子に慌てたように戦闘体制を取り、複数の人数で一斉に襲い掛かろうとする盗賊達。

 

「─フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。其は何ぞ……!」 

「ジン=ソウエンが符に問う。其は何ぞ!」

 

 一斉に飛びかからんと盗賊が纏まって襲い掛かってくる中、俺とフォウリィーさんはその両手に呪符を構え─

 

ー【呪 符 発 動】ー

 

?『我は刃 白い刃』?

 

 俺達の呪符の【魔力文字】が俺達の【魔力】を受けて輝きだす。

 

 そんな俺達の呪符を発動させまいと、盗賊の両手持ちの斧の一撃が唐竹に振り下ろされるのを少し横にずれて避け、地面に突き刺さって土を抉る中、後ろから左薙に振りぬかれる剣の一撃をお礼をするように頭を下げてかわし─

 

ー【魔 力 文 字 変 換】ー

 

?『霞の如く舞い踊り』?

 

 そんな俺の足を打ち抜こうとクロスボウの一撃が俺の足元に放たれるのを、左薙に振りぬかれた剣の腹を蹴り、盾代わりにして矢を弾く中─

 

ー【呪 符 覚 醒】ー

 

?『貴公の敵を切り裂く者也』?

 

ー風 刃 斬 舞ー

 

ー『ぎ、ぎやあああああああああ!』ー

 

 地面に刺さった斧を踏み台にして、空中で回転しながら発動した呪符を振りぬく。

 

 発動した【風刃】は、二振りの刃となって横薙ぎに広がり、木々と一緒に盗賊の体を胸から上下に分かち、風の刃に赤い線が混じる。

 

 やや低い大勢で【風刃】を放ったフォウリィーさんの【風刃】もまた、その威力を遺憾なく発揮し、俺の【風刃】とフォウリィーさんの【風刃】の刃が盗賊団を瞬く間に切り捨てた。

 

「ひ、ひいいいい?!」

 

「や、やべえ! 逃げろおおお!」

 

 そんな様子を見ていた、飛び道具を専門にしていた盗賊達が恐慌をきたして逃げ出す中─

 

「く、くっそおお!」

 

 悪態をつきながら、逃走する先にいる俺に剣を振りかざして突進してくる、先ほど俺達に真っ先に声をかけてきた頭目らしき男。

 

「──【牙】か。その名は─」

 

「死ねえええええ!」

 

ー斬 線 振 下ー

 

 突進の勢いで、袈裟斬に振り下ろされる剣。

 

「──唯の獣にも劣るお前達には……過ぎた名だ!」

 

 まるでスローモーションのように遅いその一撃を避け、それが地面に突き刺さるのを見送りながら、俺はその右拳を固めて─

 

 【牙】と聞いて思い浮かべる……誇り高き【牙】族。

 

 我が友にして師 カイラ=ル=ルカ。

 

 誇りも何もなく、唯奪い、殺すという行為に愉悦を感じているような輩達が、その【牙】という名を名乗っている事の怒りを込めて─

 

ー拳 突 殴 打ー

 

「ご、あ、ああああ」

 

 頭目の腹にカウンターで突き刺さるように炸裂する打撃。

 

 身体がくの字より一の字に近いほどに曲がりながら、何かが砕ける音と手応え。

 

 そして頭目の表情が絶句の表情となって口から血を派手に吹き出し、今までそこにあった力が開放されるように─

 

ー森 抜 吹 飛ー

 

 頭目の身体は森の枝を折りながら、遺跡の方向へと吹き飛んでいく。

 

「お……お頭?」

 

「ひ、ヒイイ! 化物だああああ!」

 

 頭目に付き従っていた残りの盗賊達が、自分の頭がやられたことに恐慌し、武器を投げ捨てて一目散に遺跡のほうへと逃げ出していく。

 

「まったく……どこにでもいるものねえ」

 

「ほんとだね、フォウリィーさん」

 

 互いに顔を見合せて溜息をつきつつ、荷物のほうへと歩き出そうとした瞬間─

 

「あ……れ?」

「──…………」

 

ー『!!』ー

 

 逃げていった盗賊達がふと言葉を零しながら、数歩歩みを進めたかと思うと、その体が肩口から斜めにずれていき、地面に倒れる。

 

 あまりに鋭い……剣の一撃。

 

 俺達はそれを目の当たりにして固まってしまう。

 

「……決闘を邪魔し……あまつさえ人を襲っていたか。さらには自分で闘いを挑みながらも仲間を置いて逃げるとはな……」

 

「まったくですね。このような無粋なやからがこの辺りにいようとは」

 

 よく見ると、先に逃げた飛び道具の盗賊達もまた、その武器を真っ二つに立たれて絶命している姿が木陰から見える中。

 

 遺跡の方向から剣をもった……二人の剣士が現れた。

 

 そして─

 

ー弾 丸 人 身ー

 

 唐突にその横を、まるでボールがはずむようにひしゃげた盗賊の男がバウンドしながら飛んできて木にぶち当たり、その体を横たえる。

 

「──ったくよぉ、手前ら! 人の決闘に水さしやがって……覚悟はできてんだろうなぁ?」

 

 そう言いながら、盗賊を殴り飛ばした先、同じく遺跡のほうから颯爽と現れたのは、前髪が金髪で後ろ髪が茶髪な髪を三つ編にしている少女。

 

「って、んだよ。もう終わってるじゃねえか。お前等、大丈夫か?」

 

「え? あ、はい。大丈夫です」

 

「ええ、問題ないわ」

 

 ニカっと人懐っこい笑みを浮かべながら俺達に話しかけてくる少女の横で─

 

「……ッ」

 

「お師匠様?!」

 

 崩れ落ちるように膝をつく茶髪の剣士さんと、その体を支え、気遣う黒髪ロングヘアーの剣士さん。

 

 よく見ると、少女のほうにはあちこちに剣で斬られたのであろう、斬り傷が。

 

 そして茶髪の男性には、あちこちに傷や打撲があり……一番酷いのはその左目。

 

 斜めに切られて目が潰れ、血を流していたのである。

 

「って、おい! ザル=ザキューレ?!」

 

「ふ……すでにこの身は限界、か……ふふ、邪魔が入ったのものまた天命かもしれぬな。 まして……我等戦いに生きるものが、このような幼子の前で殺される訳にもいかぬ……」

 

 一瞬こちらに視線を送り、目を瞑ってその表情に無念さを浮かべた後……意を決したように少女のほうを見つめるザル=ザキューレと呼ばれた男性。

 

「──我が最強と信じる……【キシュラナ流剛剣((士|死))術】の敗北だ……」

 

ー『?!』ー

 

 驚いたようにザキューレさんを見る少女と、もう一人の剣士の青年。

 

 そして、俺達はキシュラナに入っていないのにもかかわらず、【四天滅殺】の一つがここにいる事に驚く。

 

「ば?! 何いってんだ! お前の刀……お前の【牙】は、まだ折れてねえ! まだ戦いをやめようとしてねえじゃねえか!!」

 

 その言葉に困惑し、自分の拳をザキューレさんに見せて闘気を発し、吼える少女。

 

 しかし─

 

「─よい。二度は言わぬ」

 

 その少女に、静かに目を閉じたまま答えるザキューレさん。

 

 キン、という澄んだ音と共に剣が鞘へと収められ、ザキューレさんが深い息を吐きながらお弟子さんに支えられ、木を背にして地面に座り込む。

 

「……ザキューレ……」

 

 そんなザキューレさんを複雑そうな顔で見つめる少女。

 

 そして、そのザキューレさんが、感嘆と、憧憬を込めるように一言を言い放つ。

 

「まさに見事。実によき戦いだったぞ、【((影技|シャドウ・スキル))】エレ・ラグ殿」

 

「ッ〜…………」

 

 その一言を聞いて、顔を覆うように頭を左手でコツンと叩くエレ。

 

 そして、その右腕には─

 

 【クルダ流交殺法】の【((修練闘士|セヴァール))】にのみ許される国の刺青。

 

 【((印|シンボル))】。

 

「エレ=ラグ……金髪三つ網……そして右手の【((印|シンボル))】。 【((修練闘士|セヴァール))】………………【((影技|シャドウ・スキル))】。【((影|シャドウ))…………((技|スキル))】ゥウウウウウウウ!」

 

「!!」 

 

 それらを見ていたフォウリィーさんが、ぶつぶつと言葉を呟きながら少女に照準を合わせる。

 

 そしてその結果、その殺気が弾け、その両手に【詠唱破棄】の【炎刃】を発動待機させながら一気に間合いを詰めていく。

 

 その殺気に反応し、咄嗟に戦闘体制に入るエレさんが、フォウリィーさんを迎え撃とうとする。

 

ー【呪 符 覚 醒】ー

 

 両手の【炎刃】が発動し、今まさにエレさんに斬りかかろうとするフォウリィーさんと、それを迎え撃つためにそのその右足を逆風から蹴り上げようとするエレさん。

 

「ああもう……! フォウリィーさん!!」

 

ー手 押 足 止ー

 

ー『?!』ー

 

 俺がそう一喝しつつ、二人の間に入ってエレさんの足の腿を右足で踏みながら止め、左手でフォウリィーさんの右手を、左足でフォウリィーさんの左手を止める。

 

 驚愕した表情で俺を見つめる目の前の二人と、剣士の二人。

 

「フォウリィーさん。貴女が望んだのは正々堂々の一対一の決闘! 今、この怪我をしているエレ=ラグ殿に挑むのにはあまりにも条件が不釣合いでしょう! 気持ちは分かりますけど、頭を冷やしてください!」

 

 そう、驚いたまま固まるフォウリィーさんを真正面から見据えながら話しかける。

 

「あっ……ご、ごめんなさい、ジン……」

 

 俺が手を離し、エレさんの腿から降りながら着地すると、はっとした表情から恥じ入るように真っ赤になってしゅんとうなだれるフォウリィーさん。

 

 なんかかわいいなあ、などと思いつつも─

 

「すみませんでした、【((影技|シャドウ・スキル))】エレ=ラグ殿。二人の戦い場を汚すようなまねをしてしまったこと、平にご容赦願いたい」

 

「え? あ、ああ。いや、気にするなって」

 

 俺がそう頭を下げて謝ると、鼻の頭を掻きながらバツが悪そうに座り込むエレさん。 

 

 どうにか収まった場にほっと一息つきつつ、俺はリュックを抱えてザキューレさんの元へと歩き出す。

 

「……打撲が酷い。目は……後かな。ザキューレさん。傷を見ますので横になってください」

 

「! おぬし、その年で医学の心得があるというのか!」

 

「はい、ある程度ならば」

 

「そうか……かたじけない……」

 

 そういって木から背を外し、森の中の草むらに横たわるザキューレさん。

 

 服を脱がせ、体中にある打撲痕や骨折等の状態を見ながら、俺はバッグを開いて薬草や包帯を持ち出して治療を施していく。

 

 手早く傷口に薬を塗り、薬草で蓋をしていく中─

 

「……何か手伝うことはあるか?」

 

 俺の動きに固まっていたお弟子さんである黒髪の剣士さんが、片膝をつきながら俺に尋ねてきたので─

 

「では、治療の終わった部分を包帯で巻いてもらえますか?」

 

「承知」

 

 俺はバッグから包帯をお弟子さんに渡して巻くように頼むと、俺が薬をつける間に丁寧に包帯を巻いていく黒髪の剣士さん。

 

 やはり武術を収める過程で、ある程度の治療の心得を習っているのであろう。

 

 その手際はなかなかのものだった。

 

 こうして二人で役割分担をし、あっという間に治療が終わり─

 

「ふう……これでひとまずはよさそう、かな」

 

「……すまぬな、通りがかっただけだというのに……ここまでしてもらって」

 

「感謝する」

 

 二人がその生真面目そうな顔に微笑みを浮かべてお礼を受け止め、どういたしましてと答えながら俺はザキューレさんの片目を見つめる。

 

(こっちも……今ならいける、かな? ……まあ、とりあえずは自分で治療できる部分を治すほうが先だな)

 

 横になるザキューレさんと、言葉数少なく話しだすお弟子さんを置いて、俺はひとまずリュックを抱え─

 

「さて、次はエレさん! こっちへ─」

 

「ん? や、あたしはいいって! こんなん唾つけとけば治る─」

「エレさん……?」

「─わーったよ……んな怖い目でにらむなよなあ〜……」

 

 馬鹿な事をいって拒否しようとしたエレさんにちょっと怒気を込めてにらみ、素直に治療を受けさせる。

 

「まったく……エレさんだって女の子なんですから、少しは傷を気にしないとだめですよ?」

 

 そんな注意を促しならがら、目に見える刀傷に薬を塗りながら、ザキューレさんと同じように薬草で蓋をしていく俺。

 

「なっ……」

 

 その言葉になぜか真っ赤になって固まるエレさん。

 

 頬をこりこりと指で掻きながら─

 

「──兄貴以外に女の子扱いされたのって……何年ぶりだろ……」

 

 照れた顔をしながらそっぽを向いてそう呟く。

 

 そんな中、俺の背後に近寄る人影。

 

「……ジンごめんさない……。私としたことがぼーっとしていたわ……」

 

 そこには、申し訳なさそうな顔をしながら、ようやく先ほどの状態から立ち直ったフォウリィーの姿があった。

 

「気にしてないですよフォウリィーさん。さあ、薬塗り終わったところに包帯をまいてくださいね?」

 

 ようやくいつものフォウリィーさんに戻った安心感から、フォウリィーさんに笑顔で包帯を渡しながら、エレさんの世話を頼もうと─

 

ー『?!?!』ー

 

 したところ、ちょっと仰け反るフォウリィーさんと、何故か鼻を押さえてそっぽを向く剣士二人組みとエレさん。

 

「っ〜! なんとか耐えれたわね……相変わらずの破壊力だわ……」

 

 顔を真っ赤にして少しふらふらしながらも、そんな事を呟きながらエレさんの包帯を巻き始めるフォウリィーさんと─

 

「あたしとしたことが……殺れるとこだった……」

 

「よもや……ここまでとは……」

 

「……可憐だ……」

 

(……あれ?! というか、みんな大丈夫か?!)

 

 思わず心の中で突っ込みながらも、三人が鼻を押さえる間から見える赤いものを視界に入れないようにして傷の処置を終え、ようやくひと段落して場が落ち着く中。

 

 そういえば名前を名乗ってないことに気がつき、ここでは何だからと遺跡に移動して自己紹介をする事にした俺達。

 

「ジン=ソウエンです。よろしくお願いします」

 

「【((呪符魔術士|スイレーム))】 フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーよ。よろしくね」

 

「知ってるみたいだけど、あたしの名前はエレ=ラグ。第59代 【((修練闘士|セヴァール))】……【((影技|シャドウ・スキル))】エレ=ラグだ!」

 

「【四天滅殺】【キシュラナ流剛剣((士|死))術】師範代 ザル=ザキューレと申す」

 

「同じく同門 ザル=ザキューレに師事する徒弟である、サイ=オーと申します」 

 

 そういって名乗りをあげて、互いに礼をもって挨拶を交わす中。

 

 ふと湧き上がる疑問。

 

「あれ……二人が決闘してたんですよね?」

 

「……そうだ。我が【((牙|技))】と」

 

「あたしの【((牙|技))】。どっちが強いかって確かめたくなって……な」

 

 そう、自分の拳と、剣を見つめた後、静かに視線を交わすエレさんとザキューレさんの二人。

 

 って、おいおい……。

 

「【キシュラナ流剛剣((士|死))術】と、【クルダ流交殺法】が、戦っちゃった訳ですか? 領内侵犯を犯さないようにわざわざ中間地点というグレーゾーンを選んで?」

 

ー『ッ……』ー

 

 俺がそう確認するかのように話しかけると、俺の見つめる視線から顔をそらす二人と、サイさん。

 

 そして頭を抱えるフォウリィーさんと俺。

 

(いや、いやいやいや、これかなりまずいから。【四天滅殺】もろだから! うわ〜……ポレロさんには絶対報告できね〜……)

 

 顔をあげてフォウリィーさんとアイコンタクトをすると、いかにも『無理』という感じで首を横に振るフォウリィーさん。

 

 で、ですよね〜……いかにフォウリィーさんといえど、これはポレロさんには言えないよね……オキトさんいもいえないし……。

 

 そんな俺達を見かねたのか、エレさんが─ 

 

「だ、だってよお。【((闘士|ヴァール))】として……強いやつがいたら闘いたくなる─」

「エレさん……?」

「─はい……スイマセン」

 

 言い訳を並べようとしるエレさんを一蹴して黙らせ、フォウリィーさんと深い溜息をつきつつも、とりあえずこの件はこの場だけの話で、という事に話が纏まる。

 

 そして─

 

「ん? フォウリィーつったっけか。すげえヤル気まんまんじゃねえか」

 

 真っ直ぐにエレさんと向かい合い、闘気をぶつけるフォウリィーさんに八重歯を見せてニカっと笑うエレさん。

 

「……あなた、オキト=クリンスを覚えていて?」

 

「っ! ああ……」

 

 そう、フォウリィーさんから出た名前に、笑顔を真剣な表情に戻して頷くエレさん。

 

「すっげえ強かった。あたしが戦った中でも最高の【((呪符魔術士|スイレーム))】だからな。忘れるわけがねえ」

 

「そう……」

 

 嘘偽りなくそう宣告するエレに対し、気持ちの整理をつけるかのように両目を伏せるフォウリィーさん。

 

 やがて意を決したようにその両目を見開き─

 

「オキト=クリンスは我が師、我が父! 私が師を越えるために……この胸の思いを果たすために。私……【((呪符魔術士|スイレーム))】・フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーは、【((影技|シャドウ・スキル))】エレ=ラグ! 貴女に一対一での決闘を申し込むわ!」

 

 決意を込めた瞳でエレさんを捕らえ、ビシっとエレさんを真っ直ぐ指さしてそう宣言するフォウリィーさん。

 

「へへっ……お前強えな……いい気迫だ。いいだろう! あたしは……第59代【((修練闘士|セヴァール))】・【((影技|シャドウ・スキル))】のエレ=ラグは……誰の挑戦も拒まねえ! その勝負……受け立つ!」

 

 その顔に好戦的な笑みを浮かべ、【((修練闘士|セヴァール))】の【((印|シンボル))】を見せながら握り拳を握り締めるエレさん。

 

 やがて、そんな二人に触発されるかのように、その身に殺気をまとってサイさんがエレさんに近づいていく。

 

 その瞳に覚悟と決意を持って─

 

「……今はまだ貴公には届かぬ……だがいずれ必ず……! 貴公と我が流派の最強をかけて……合間見えようぞ……! この【((牙|剣))】にかけて!」

 

 殺気をみなぎらせるサイさんの気迫を、同じく気迫で返しながら─

 

「ああ……この【((牙|拳))】に誓って!」

 

 その拳をサイさんに向けて笑いかけるエレさん。

 

 やがて暫く睨みあいが続いたかと思うと、その視線を外して振り向き、立ち上がってこちらへと歩いてくるザキューレさんの下へと向かうサイさん。

 

「──では……その決闘の見極めはこのザル=ザキューレが勤めよう」

 

「! お師匠様……」

 

 やや心配そうな瞳で見つめるサイさんに頷いて大丈夫だと返すザキューレさん。

 

 見極めをするザキューレさんと、エレさんの怪我の具合から考えて─

 

「う〜ん、エレさんの怪我の具合だと1週間後ってところだと思いますよ。また一週間後の早朝に、この遺跡での決闘って事で……どうです?」

 

「ああ!いいぜ!」

 

「ええ、わかったわ」

 

「委細承知」

 

 俺の提案に異存ないと頷くエレさんとフォウリィーさん、そしてそれに頷くザキューレさん。

 

 こうしてフォウリィーさんと【((影技|シャドウ・スキル))】エレ=ラグとの決闘が決まり、話が纏まったところで─

 

「さてと……。話も終わったところで……ザキューレさん」

 

「ん? 何か?」

 

 俺に問いかけるような視線を向けるザキューレさん。

 

「……その……潰れた片目の治療をしようと思います。そこに横になっていただけますか?」

 

ー『?!』ー

 

俺は丁度一目につきにくい場所、という事もあり、そして習得したばかりの力でもあるという事で【((魔導士|ラザレーム))】でのザキューレさんの目の治療を行う事にしたのだ。

 

 その突然の言葉に驚愕するエレさんとザキューレさん達、そして─

 

「……ジン、いいの?」

 

「うん、せっかく治せるんだから……ほんの少しだけ力を貸してもらうよ」

 

 それが何を意味するのかを理解しているフォウリィーさんが、心配そうに俺を見つめる。

 

「あ〜、治すっていっても……ヤったあたいがいうのもなんだけど完全にぶっ壊れちまってるぜ?」

 

 ザキューレさんの怪我を見て、バツの悪い顔でそういうエレさんと、その言葉に頷くザキューレさん達。

 

「大丈夫だよエレさん。 ごめん、フォウリィーさん結界を。エレさん、サイ=オーさん、周囲に気配はありませんよね?」

 

「わかったわ」

 

 そういって呪符を四方に巡らせ、更に結界内が見えないように、二重に呪符を起動させるフォウリィーさん。

 

 そして、念入りに確認をするため、俺よりも気配に鋭そうな二人にそう尋ねると、無言で頷くサイさんと─

 

「ああ、大丈夫だけど……何するんだ?」

 

「結界はオーケーよジン」

 

 不思議そうなエレさんと、さっきから無言で横になり、不思議そうな面持ちでこちらを見ているザキューレさんの視線を受けながら、俺はそっと左手の腕輪に右手を伸ばす。

 

 意識を集中し、俺は─

 

ー魔 力 循 環ー

 

ー『!!!』ー

 

 蒼に近い緑色の【魔力】を体に身にまとい、それが腕輪に集約されていく。

 

 俺のイメージに合わせてどんどんと俺の中の【魔力】が腕輪に集められていく。

 

 やがて腕輪が【魔力】を受けて変化し、蔓を伸ばしながら俺の手を包み込み、ザキューレさんの潰れた目へと突き進んでいく。

 

(力を貸してくれ……【((世界樹|ユグドラシル))】……!)

 

 ザキューレさんの顔の前で左手をかざしながら、俺が心の中でそう念じると─

 

ー【神 力 魔 導】ー

 

 その腕輪の変化した蔓から、光がザキューレさんの潰れた眼の中へと入っていく。

 

 一気に持っていかれる【魔力】に意識を失いかけるも、どうにか意識を繋ぎとめ、自然からもたらされる【神力魔導】を最小限に留めながらも治療を続ける俺。

 

 やがて、俺の目の前で【神力魔導】の力が眼球から瞼・瞼から顔にできた切り傷に光が広がり、発光し─

 

ー【治 癒 完 了】ー

 

 そして、その光が収まると……そこには傷ひとつなく感知したザキューレさんの眼がそこにあった。

 

「……っふう。治療終了です。どうですか?」

 

「……馬鹿な……見える……。見えるぞ……! 私にも見える!」

 

 自分で【神力魔導】の歪みを受け、腕輪が元に戻るのと同時に軋む音を立てて血を流す腕を背中に回して隠しながら……呆然と左目を開き、自分の拳を見つめているサキューレさんの様子を確認する俺。

 

 どうやら、医療の本で人体構成を理解し、イメージしやすくなっていた事が功を奏したようだった。

 

「え……んな馬鹿な……ウッソ……だろ? こんな子供が【神力魔導】……【((魔導士|ラザレーム))】だとお?!」

 

 エレさんの言葉が代表するかのように……驚愕の表情で俺を見つめる3人。

 

「……ええ。ジンは……本来なら12人目の【((魔導士|ラザレーム))】となる予定の子だったの。でも……その若さと、ジン自身が【((魔導士|ラザレーム))】の称号を望まなかった事で、その称号は与えられなかったの」

 

 俺の肩を抱きながら、俺の【((魔導士|ラザレーム))】の経緯を説明するフォウリィーさん。

 

 未だ驚愕さめやらぬ三人は、フォウリィーさんを見つめて話の続きを促す。

 

「……わかっているとは思うけど、これは他言無用でお願いしたいの。断った理由の一つでもあるのだけれど……この歳でこんな力をもってるなんて知れたら狙われる可能性がないともいいきれないもの」

 

 真剣な表情で3人を見つめる俺とフォウリィーさん。

 

 そして、その視線の先では、得心がいったと3人が互いに視線を交わして頷き─

 

 エレさんは【((修練闘士|セヴァール))】のシンボルが入った左手を拳にして胸に。

 

 剣士二人は、剣を抜いて胸の前で垂直に騎士のような構えをとりー

 

 3人はこう宣誓する。

 

ー『この【牙】に誓って』ー

 

 それは、己の魂と技、誇りにかけて誓われた言葉。

 

 闘士にとって尤も大事な【牙】にかけて誓われたその言葉に、フォウリィーさんと安堵の視線を交わしつつ、深々と礼をする俺達。

 

 助けてもらったのはこちらだ、というザキューレさんとの言葉に互いに微笑みあう中─

 

「そうだ、傷の手当のこともある。どうだろう、今日は私の屋敷に来ないか? あまりたいしたものはないが、もてなそう」

 

「ですね、それが良いでしょう。恩人に礼をせぬなど、【((左武頼|さぶらい))】の名折れ」

 

 ザキューレさんがそう提案し、サイ=オーさんが然りといいながら頷く。

 

 そんな突然の提案ではあったが、俺もキシュラナに入りたかったこともあり─

 

「……そうですね。ではお言葉に甘えてご厄介になります」

 

「すいません。御願いします」

 

 無碍にするのも悪いという思いも重なってその招待を受けることにした俺達。

 

「あ〜 あたしは入れねえかも……。せっかくの好意なのに……すまねえ」

 

 その中で一人、自分が【四天滅殺】であることが枷になると、謝って頭を下げつつ、その左手のシンボルに包帯を巻くエレさん。

 

「ふふ、大丈夫ですよ。一緒にいきましょ! エレさん。」

 

「あ?いや、けどよお、って、お、おい!」

 

「いいからいいから」

 

 一人、そういって離れていこうとするエレさんの背をおして、先頭を歩くザキューレさんとサイ=オーさんについていく俺と、そんな俺に慌てふためくエレさん。

 

 そしてそれに微笑みながらついてくるフォウリィーさん。

 

 まてって! と慌てるエレさんに笑いがこぼれつつ、足取り軽く歩む俺達の周りには……緩やかな空気がつつんでいた。

 

 やがて、着物のような服に鎧姿の門番が、ザキューレとサイさんに挨拶をする中、俺達の身分の確認をする事となり─

 

ー『せ、聖王女アルベルド=ル=ビジュー様公認の身分証?!』ー

 

 俺が開いた例の身分証に驚く門番とザキューレさん達。

 

 そして─

 

ー『盗賊団【牙】を殲滅しただとお?!』ー

 

 そんな俺達が【牙】と名乗った盗賊団を倒した、という話で再び騒ぎとなり……俺達はザキューレさん達の家に案内されつつも、やっぱりこの身分証は騒ぎになるんだなあと苦笑してフォウリィーさんと顔を見合わせつつ、【四天滅殺】なのにキシュラナに入ったという事でコチコチに固まってしまっているエレさんを引きずりながらついていくのだった。

 

 

 

 

 

『ステータス更新。現在の状況を表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    7歳

種族    人間?

性別    男

身長    122cm

体重    30kg

 

【師匠】

カイラ=ル=ルカ 

フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー 

ワークス=F=ポレロ 

 

【基本能力】

 

筋力    BB 

耐久力   B  

速力    BBB

知力    S 

精神力   S 

魔力    SS+  【世界樹の御子】補正  

気力    B+ 

幸運    B

魅力    S+   【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識   C

サバイバル  S  

薬草知識   S  

食材知識   S  

植物知識   S    

動物知識   S    

水生物知識  S    

罠知識    A

狩人知識   S    

応急処置   A

地理知識   S  

医療知識   A+  

人体構造   S      

 

【運動系スキル】

 

水泳     A 

 

【探索系スキル】

 

気配感知   A

気配遮断   A

罠感知    A- 

足跡捜索   A

 

【作成系スキル】

 

料理     A+   

精肉処理   A

家事全般   A  

皮加工    A

骨加工    A

木材加工   B

罠作成    B

薬草調合   S  

呪符作成   S

ガーデニング S 

植物栽培   S 

 

【操作系スキル】 

 

魔力操作   S   

気力操作   AA 

流動変換   C     (魔力を気力に、気力を魔力に操作する能力。【((自然力|神力))】解析において習得)

 

【戦闘系スキル】

 

格闘         A- 

弓          S   【正射必中】(射撃に補正)

リキトア流皇牙王殺法 A+

 

【魔術系スキル】

 

呪符魔術士  S   

魔導士    EX  (【世界樹】との契約にてEX・【神力魔導】の真実を知る)

 

【補正系スキル】

 

男の娘    S (魅力に補正)

正射必中   S (射撃に補正)

世界樹の御子 S (魔力に補正) 

 

【特殊称号】

 

真名【ルーナ】   【((呪符魔術士|スイレーム))】の真名。 

            自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。

 

【ランク説明】

 

超人   EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人   S⇒SS⇒SSS⇒EX-  

最優   A⇒AA⇒AAA⇒S-   

優秀   B⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通   C⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る   E⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い   F⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、−はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

呪符作成道具一式 

白紙呪符     

自作呪符     

蒼焔呪符     

お手製弓矢一式

世界樹の腕輪 

衣服一式

簡易調理器具一式 

調合道具一式

薬草一式       

皮素材

骨素材

聖王女公式身分書 New

革張りの財布   New

  

説明
 久々の更新です〜!

 オキト邸からの旅立ちと、次なる人々との出会いという感じになっています。

 相変わらず独自設定が多いですが、読んで楽しんでいただければ幸いです!
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
3868 3677 6
コメント
伝士 蓮示さん、誤字指摘感謝です! こんな誤字まみれの作品ではありますが、今後とも読んで楽しんでいただければ幸いです!(丘騎士)
ラスト所持品リストで誤字発見 聖王女公式(身文書) New 身分書もしくは身分証 ですねぇ また見つけたら報告します(伝士 蓮示)
darkbaronさん、コメントありがとうございます! この呪符の言葉は、そのままのものと、ちょっとアレンジさせたものが混じっています。『貴公』のほうは意図していれましたが……舞い降りのほうは間違ってるかもしれませんね(´・ω・`)調べて修正させていただきます! 今後ともよろしくお願いします!(丘騎士)
白刃?の呪符ですが「我は刃 白い刃 霞のごとく『舞いおどり』 敵を切り裂く者なり」ではなかったでしょうか。うろ覚えなんですが……。『貴公』が入っていたかどうかもちょっと……。(darkbaron)
伊吹 萃香さん、誤字指摘感謝です! 早速修正させていただきました!(`・ω・´)> こんな誤字脱字まみれの作品ではありますが、これからもお付き合いいただければ幸いです!(丘騎士)
誤字報告。。「しかし……彼女に”追いきたいというのなら”早めに出たほうがいいかもしれないね。彼女は〜 → 追いつきたいというのなら〜(伊吹 萃香)
へびひこさん、ありがとうございます! 今後ともお付き合いいただければ幸いです(`・ω・´)>(丘騎士)
毎回楽しみにしています。更新がんばってください。(へびひこ)
タグ
オリ主 カオス 丘騎士 影技 

丘騎士さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com