red fraction 1(spn/2014cd) |
彼は叫んだ。
最初は、囁きに近い物だった。だが次第に静寂を打ち消すがごとく、彼の声は荒々しくなった。
どれだけの時間、同じ言葉を繰り返していたか分からない。やがて喉を痛め続けたせいで声は枯れ果て、最後は、人のなす物とは思えなかった。
あれは獣だった。
涙を流す、世界の全てから見放された獣。
カスティエルは、はるか遠くからそれらの夜が過ぎるのをただ待つことしかできなかった。天使であった力をほとんど失い、枯渇するのも呼吸一つ分程の短さだろう。
獣に寄り添っていた弟も、父親代わりに兄弟を守っていた男も、傍らには居ない。
デトロイトで弟が消えた瞬間から、世界の終末は加速していった。
どんな夜でも明けぬ日は来ない。だがいずれ、沈んだままかもしれない。だからそうなる前に、カスティエルは知りたかった。
彼が、ディーンの声が届く場所を。
「ディーン……」
この声も、彼に届くことはない。
返されない呼び掛けは、すなわち振り子がどちらへ振られたかを示した。
太陽は昇り初め、カスティエルは眼を細める。いつもは空を覆う雲は重く、陽の光を浴びるのも少なくなった。今日は珍しく雲の隙間から僅かばかり朝日が見える。
だがその光は決して、希望たる物としてこの空間を照らそうとしている訳ではない。
天は応えない。己も人間へと堕ちる。
その事実を、ゆっくりと瞬きをする程度で、カスティエルは静かに受け止めた。同じ頃、獣の声無き咆哮は消え、また元の静けさを周囲は取り戻した。
カスティエルは振り向くことなく車へと向かう。
キャンプ・チタクワのリーダーという、皮を被って現れるのを待つために。
またカスティエル自身も、一つの方法しか思いつかない、愚かな覚悟を賭す時間を欲した。
そうして望むは、どの音か。
目覚めよと呼ぶ声がきこえ。
説明 | ||
2014世界での、CD馴れ初め話。こちらではR18を省いて載せます。バッハのコラール4曲目・カンタータ第140番「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」ある一節・いまだ見ずいまだ聴かれぬ妙なる喜び。とはいえ、本編とは全く関係ございません。ニュアンス使用。 |
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