ゲイム業界へようこそ!その46 |
「到着〜〜っと!さてさて、ここは『ネプテューヌの世界』のどこら辺なのかしら?」
ある森の中に一人の少女が舞い降りた……否、この『世界』に少女は舞い降りた。幼い外見に対し、ロングで明るい金色の髪はどこか周りの人を引き寄せるような神々しさを放っているようだ。その少女の頭部にはどういう仕掛けか分からないが、天使の輪のようなものが二つクロスするようにして浮いている。
「とりあえず街にでも行ってみましょう。そこでまず住人から聞き込みをして…。っとその前に街ってどの方角にあるのかしら?」
頭部だけ見れば偉い人物に見えそうなのだが、如何せんそこから下部はどこか異彩を放っていた。その大きな理由として気になる点は、どうしても目に付いてしまう少女が着ている服装、スク水……しかもまさかの白スク水なのである。凹凸の少ない体を覆う白いスクール水着は一部の人間を大いに卑猥な気持ちへさせてしまうだろう。第三者もまた然りである。
体の各所は基本的に青と白で統一されていて、腰にはスカートのようなヒラヒラした物が装備されており、また装飾されてあるハート型のアクセサリーは少女の可愛らしさをアピールしているようでもあった。
様々な部分で突っ込みたいことが多々あるだろうが、総じて少女は「一目を引く存在」に違いなかった。この外見で一目を引かないのであればそれはもう感性が違うとしか思えない、それ程までにその少女は異彩を放っているのだった。
「グルゥアアアアアアア!!」
「あらあら、モンスターさんの登場ですか?」
「一目を引く存在」というのはどうやら人間だけではないらしい。少女の異彩に引かれたのかそこには体長が5メートル近くある巨大なモンスターがそびえ立っていた。口には獰猛な牙、両手には長く鋭い爪を生やし、筋肉隆々のその肉体はモンスターが強者であることを証明していた。
モンスターの方は既に少女を視線で捉えており、今すぐにでも捕食してしまおうと体制を整えているようだった。それに対し少女はというと、モンスターの登場には大して気にした素振りを見せず、むしろ別のことに悩んでさえいるようなのである。果たして少女のその態度はモンスターへの余裕から来るものなのか、それとも諦めから来るものなのか。
モンスターが我慢ならず少女へと襲い掛かろうとしたちょうどその時、大きな掛け声と共に少女とモンスターの間を割って現れた人物がいた。
「ちょっと待った!!」
そんな掛け声と共に現れたのは、
「絶対絶命の危機に、颯爽とヒーロー参上!ゲイムギョウ界の正義のヒーロー、日本一が来たからにはもう安心よ!」
正義を掲げる一人の少女であった。
突如として現れた少女、その外見は彼女が放った台詞をそのまま表現しており、昔テレビで放映されていたヒーロー物の姿をどこか彷彿させるものがあった………だが胸はぺたんこである。
青い髪にキリッとした青い瞳、首に巻いてある赤いマフラーをたなびかせ、体のラインに合わせたライダースーツを着用する彼女の姿はとても格好が良く、クールなイメージが見て取れる………だが胸はぺたんこである。
モンスターが彼女の登場によって一瞬たじろいだ、それは彼女がまたモンスターと同様に強者であることを証明していた………だが胸はぺたんこである。
彼女の登場に安堵したのだろう、金髪の少女は呟いたのだった。しかしながら、それは少々場違いな台詞であって…。
「助かりました〜♪これで迷わず無事に街に辿り着くことが出来ますね♪」
………………
「結構ここの協会は活気ががあるなぁ。」
それがリーンボックスの協会に辿り着いた俺の感想である。
建物の中に入るとそこには協会の方と多くの来訪者で賑わっていた。ざっと見ただけでも100人はいると思われる。左側の付近を見ればそこにはピアノを中心に子供達が集まり、演奏と共に歌の練習を行っている。また、入り口から入って真っ直ぐ進んだ辺りの所では協会の関係者が何やら住民に演説を行っているようであった。
ところで俺がリーンボックスの協会を見て活気があると思ったのは、ラステイションの協会と比較してである。ノワールを誘うために俺は協会へとその都度訪れていたわけだが、ラステイションの協会では関係者の人を含めても20人を超えることは無かった。協会を比較しただけでラステイションよりリーンボックスの方が活気があるとまでは言わないが、さすがここまでの人数差があると多少なりとも認識してしまうものがある。
協会の場所も把握出来たことだし、別段特に用があったわけでも無い。さっさとここから退出してクエストでも受けに行くとしよう。あわよくばグリーンハートさんを一目見れたら良かったなぁ〜なんて思ったりもしていたが。
「そこのお方、少しよろしいですかな?」
俺が協会の建物から出ようとした時、ふいに呼び掛けられた。振り向いて声の主を見ればそこには厳格と貫禄がある男性が一人。服装から察するに協会の関係者の人だと思うんだが、今さっき協会に来たばかりの俺とお話するようなことなんてあるのかね?
「はい、なんでしょうか?」
「長年この協会で勤めている私ですが、初めて見るお方であったので少々気になりまして。つかぬ事をお聞きしますがリーンボックスの大陸には渡って来られたばかりで?」
「ええ、つい先ほどこの大陸に来たばかりです。」
「そうでしたか。ちなみにどういった用件でこの大陸に?」
「えぇ〜と、ただの観光で来たのですが…。」
俺の返答に協会の関係者らしき人は何を思ったのか「ふむ…」と軽く相槌を打って考え込んでしまった。大陸移動の理由が観光というだけでそこまで可笑しな回答だったのだろうか?
「あの…あなたは一体?」
質問されてばかりで癪だったので、こちらも質問してやったのだが……これは少しミスったかな?男性のモブキャラに名前なんてないだろうし……、いやしかし男性の服装やら立ち振る舞い等を見ると名前くらい設定されていそうな気がしないでもないが…。
「これは失礼したね、一方的に質問しておいて名前を名乗らないなんて。私の名前はイヴォワール、この協会で長年協院長を勤めている者だよ。」
「わざわざすみません、私の名前は煉と言います。しがない旅人をやってます。」
……名前あったんだ、しかも協院長やってるとか。記憶に全くの覚えがないのだけれど、この人実は結構な重要キャラだったりしちゃう?
これは迂闊なことを話せないな、どうやって話を断ち切ろうかね。なんとなくだが悪役のキャラクターの気配がするし、そんな奴に余計なことをべらべらと話す必要も無いし。
「それでは私は忙しいのでこれで失礼しますね、再見(サイチェン)。」
「ああ、またね煉君……って、随分と話が急過ぎないかね!?前話の自己紹介の後にすぐこれとは!」
出口に向けて華麗に退散しようとした俺をイヴォワールが引き止めて来た、俺の作戦一発目は失敗に終わったか。
イヴォワールとの会話を終わらせるために俺が考えた作戦、その第一号「あっ、今から用事があるのでこれで失礼しますね大作戦」だったが、思った以上に奴の相手への粘着率が高いこともあって失敗してしまった。まったく厄介極まりないオッサンだ……そしてサラリと「前話」とかメタ発言もするな!
「これは失礼しました、ですが私も用事が本当にありまして忙しいのです。なので用件があるのでしたら手短にお願いしますね。」
「ふむ、なかなかに手厳しいな君は。しかし、引き止めてしまったものの特に急を要する話があるわけでも無い、何せ私は煉君と今出会ったばかりだ。この出会いをグリーンハート様に感謝しつつ、せっかくなので軽く雑談でもどうだろうか?」
「…雑談と言いましたか、イヴォワールさん?」
「うむ、そうだが?」
「ゆっくり死んでね☆」
そう言って俺は教院長に背を向け、再度出口へ向かったのだ。(ちなみに俺が最後に吐いた台詞は「ゆっくりボイス」にしっかり変換されてある。長年経験を積み重ねたおかげで、俺はあの有名な声を発声することが可能となったのだ!フーーハッハッハ!!)
しかし、そんな俺の肩を必死になって掴んでくるイヴォワール。どうして奴は俺と会話することにそこまで執着するのだろうか、こっちは面倒事になる前にと思って逃亡を計っているのだが。
嫌々振り返るとそこには半泣き状態のお方が一人。俺は驚いてその理由を聞いてみると、どうやら俺の一方的な態度にイヴォワールは精神にダメージを負っていき、最後の台詞でついに心のダムが決壊してしまったようなのだ。厳格そうに見えて存外脆いお方である。
曰く教院長さんは人から「死ね」との暴言を初めて言われたらしい。今までずっと真っ当で誠実な人生を送ってきたこともあり、その類の言葉を言われた経験は全くの皆無とのこと。俺のような人間とはまた違う意味で凄い人生を今まで送ってきたのであろう。
俺は教院長さんに謝罪し、最後の台詞は本当にそう思って言ったわけでは無いと説明をした。また、先ほどの暴言についても親しいと感じている間柄で使われるジョークであることを説明したところ、教院長さんは「最初は驚いたけど、私は煉君から既にそのような間柄として思われていたんだね。うむ、これはとても嬉しいものだ…。」としみじみと応え、安心と喜悦の表情を浮かべていた。アレッ?俺、もしかして何かマズった?
関係が良好となった?俺とイヴォワールはその後数回の他愛も無い会話をした。そして話に区切りが着いたところで俺の方から「ではそろそろ…。」と言って上手く切り上げることに成功した。
何だかんだであれから30分近くも話してしまったわけだがそんなに悪い気はしなかったな。確かに当初の予定とは大きく変わってしまったが教院長さんと素直に話してみれば、これがまた結構参考になる情報も多く聞けたわけだし。今回のイベントに良し悪しを付けるとしたら「概ね良し」辺りが妥当かと。
挨拶を済ませて出口へ向かう俺に声が掛かった、声の主は………はい、もちろんイヴォワールさん。あれだけ会話したのにまだ話すことがあったのかね……。
「どうかしましたか?」
「煉君はどこ出身なのかね?」
「どこ出身というのは?」
「それはもちろん4つの大陸のどこで生まれたってことだよ。なに、ほんの少しだけ気になってね。」
笑顔で問いかけて来る教院長さん、その質問に他意は含まれていないのだろう。しかし、俺にはこの質問は少々答え辛いものがあった。理由は明白、俺はこの世界で生まれていないから。
この「超次元ゲイム ネプテューヌ」の世界での俺のスタート地点は確かにラステイションで間違いない。ただ、それが生まれた場所かと問われれば答えは「ノー」だ。俺が生まれた場所は日本の田舎の小さな一軒屋、それだけは変わりようの無い結果なのである。しかし、その場合どう答えるべきか?
「どうかしたのかね、少し難しい表情をしていたようだが?」
「あっ、あぁ、すみません。それで生まれた場所についてですよね、私はラステイション生まれのようです。」
結局、話の流れに身を任せることにしました。まぁ…その…、なんとかなるでしょ……。
「ふむ、ということはラステイションの女神ブラックハートを信仰して…、おや、今煉君は「生まれのようです」と答えたみたいだがそれはいったい?」
「えぇ〜と実は……、私記憶喪失なんですよ。気付いた時にはラステイションのダンジョンの中に横たわっていまして。街に辿り着いてからは出会った人達に私を知っているかどうか聞いて回ったのですが、収穫は驚きのゼロ。イヴォワールさんには最初このリーンボックスの大陸に訪れた理由は観光って言いましたよね?本当のところを言えば自身の身元探しが目的だったのですよ。」
俺も話せるものだな…、咄嗟に出た嘘だが結構真実のある話が出来ているみたいだし。それに教院長さんも俺の話を聞いてか先ほどまでの笑顔が打って変わって真剣な表情をしている。
「まさかそこまで深い理由があったとは…。」
「リーンボックスの教院長でもあるイヴォワールさんが私のことを知らなかったと言うのであればこの大陸もハズレかもしれませんね…。」
「煉君、今までの流れから察するに君にはまだ信仰するべき女神が決まっていないのかね?」
「まぁ、そうなりますね。」
「提案なのだが、このままリーンボックスに留まり、この大陸の女神グリーンハート様を信仰してみる気はないかね?それにもし煉君さえ良ければだが、グリーンハート様の護衛役になってもらいたいのだが。」
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