名家一番! 第十五席
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(あれ? なんで、こんな所に兵士が……)

 

兵士が木簡の束らしきものを脇に抱え、民家の前に立っていた。

 

戦後処理の作業が集中しているのは、広場の救護所と城内だと説明を受けていた為、その光景を目にした瞬間、違和感を覚える。

 

全ての作業が完了し、帰宅したのだろうか?

 

兵士が戸口から声をかけると、中から若い女性と三歳ぐらいの男の子が、手を引かれて出てくる。

 

二人は何か言葉を交わしているが、ここからは少し距離があるため二人の会話の内容までは聞き取れない。

 

(母子? それとも、姉弟? ……いや、そんなことより)

 

女性の今にも倒れそうな、蒼白の顔色が気になった。

 

その表情を部外者の俺が盗み見ているのは、何かいけない気がした。すぐにでも、ここから立ち去るべきだ。

 

 

 

――部外者? ――本当に?

 

 

 

 だけど、俺は目を離せないでいる。足を動かそうとしない。心臓が早鐘を打ち始め、息苦しい。

 

女性は、一枚の木簡を震える手で受け取ると、胸元に強く押し当て、泣き崩れた。

 

男の子は、どうして女性が泣いているのか、理解できないのだろう。裾をしきりに引っ張る。

 

無言の問い掛けに対し、彼女はその小さな体を抱擁し、嗚咽を漏らし続けた。

 

 

 ○  ○  ○

 

 

 その一部始終を見て――、

 

「ぐっ……!」

 

――血の匂い、断末魔、地に伏す屍体、見るに耐えない血なまぐさい情報。

 

今までどこか、フィルター越しのように知覚していたのが一転、火で真っ赤になるまで炙ったナイフで、脳に刻み込まれていくようだった。

 

路地裏に駆け込む。反射的に両の手で口を抑えたが、指の隙間から漏れ出してきている。

 

「おぇ……ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!」

 

胃の腑からせり上がってきた嫌悪感の塊は、とても抑えきれるような量と勢いではなく、派手に地面にぶちまけてしまう。

 

えずく度に喉が焼けつくようだ。

 

口から鼻に入ったのか、うまく呼吸ができない。それでも胃はお構いなしに、中身を押し出してくる。

 

涙と鼻水とよだれが入り混じった液体を垂れ流す。

 

口と鼻の中が酸っぱい臭いで満たされると、その不快感によって、また吐き気をもよおしてしまう。

 

苦痛に喘ぎ続ける一方で、ずっとこびり付いていた疑問が拭き取られ、頭の中は徐々に明瞭になっていた。

 

“戦を見届ける責任がある”などと言っておきながら、 “死”を正面から受け止めることを頭のどこかで拒んでいた。だから、戦況を冷静に眺めるなんて真似ができたのだろう。

 

しかし、“遺族の泣く姿”という、目を逸らすことができない結果を突き付けられ、ようやく己の身勝手さと愚かさを理解すると、戦場が生み出す不快感、自身に対する嫌悪感が混ざり合い、瞬く間に膨れ上がり噴き出した。

 

「……っっ……ぅげっ」

 

吐しゃ物の中に固形物が混じらなくなっても、吐き気は収まらず、胃液だけが口から流れ出てくる。

 

この苦痛は治まらないのでは、ろくでもない思いがよぎりかけた時、温かく柔らかな感触が、俺の背中をさすってくれた。

 

触れた瞬間、それが誰なのか分かった。前にもその無骨な手で、俺の不安や恐れを拭い去ってくれたから。

 

振り向き、もう大丈夫だと言ってあげたかった。

 

だが、逸る気持ちに身体がそう都合良く追いつくわけもなく、しばらく路面に吐き出し続けてしまう。

 

 

 

  ○   ○   ○

 

 

 

 胃の中身だけでなく、気力と体力も一緒に吐き出てしまったのか、頭を持ち上げるのも億劫だ。酷い顔色をしているのが、鏡を見ないでも分かる。

 

憔悴し俯いたまま横目で窺うと、吐き気が収まるまで俺の背中をさすり続けてくれていた人物は、吐しゃ物に砂をかけてくれていた。

 

彼女は後始末が終わると、

 

「ほれ。これで口ゆすげよ」

 

水筒とハンカチを渡して、俺の横に座った。

 

「ありがと……悪いな、猪々子。こんな後始末させちまって」

 

腹筋に力を入れようとすると、万力で締め付けられるような痛みが走る為、消え入りそうな声で礼を言う。

 

「別にいいって。前に言ったろ? 酔っ払いの相手は、麗羽さまで慣れてるって」

 

「それでもだよ。ありがとな」

 

 

 ○  ○  ○

 

 

 しばらく休息をとったことで、ようやく口を利く余裕と体力が戻ってきた。

 

水筒に口をつけ、残留していた不快感を洗い流し、猪々子に尋ねる。

 

「猪々子、仕事に戻らなくても大丈夫なのか?」

 

介抱してもらっておいて、あんまりな言い草かもしれないが、下っ端の俺でさえやることが山のようにあったのに、総大将だった猪々子がここに長く留まっていては、不味い気がしたからだ。

 

いや、待てよ? 実際に動き回るのは俺達下の人間で、上の者は指示するだけで意外と暇なのかもしれない。

 

そんな考えが脳裡をよぎったが、

 

「んだよぉ〜。サボってたのは、一刀もだろ?」

 

即、否定されてしまう。

 

「失敬なっ! 俺は、ちゃんと休憩の許可をもらいました」

 

この答えが予想外だったのか、猪々子は“えっ”と口にする。

 

「大方、一向に減らない仕事に嫌気がさして、隙を見て抜けだした――そんなところだろ?」

 

「そ、そんなことないよ!? 今だって仕事中だし」

 

どもってるし、目が泳いどる。そんな動揺しながら言われても、説得力なんか無いっつーの。てか、一刀“も”って、言っちゃったしさ。

 

「…………」

 

俺が戻りなさいと言って、素直に聞くとは思えないし、介抱してもらった恩義もあるし――、

 

「――まぁ、そういうことにしとくよ」

 

ここらが、妥当な落とし所か。

 

「フフン、わかればよろしい」

 

上手く言いくるめてやったと、大変ご満悦な猪々子の顔を見ていると、苦笑が漏れてしまう。

 

もう少し、他人の腹の内を探る術を身につける必要があるんじゃなかろうか? とも思えるが、コイツはこれでいいのかもな。

 

「んで? その仕事ってのは?」

 

「よくぞ聞いてくれました! それはなぁ――」

 

つい先程までどん底だった気分は、猪々子のペースに巻き込まれ、いつの間にか普段の調子に戻っている。

 

ただそこにいるだけで、周りの人間を明るい気分にしてくる。人を疑うことを知らない、猪々子だからできることだ。

 

猜疑心がこの先必要になるのならば、他の人間が補えばいい。

 

「――今回の戦の、一番の功労者を労いに来たんだ、よっと!」

 

「うっぷ……!?」

 

不意に背中を強く叩かれ、酸っぱいのが少しこみ上げたが、なんとか飲み込む。芽生えかけた猪々子への畏敬の念も、危うく今の一撃で吹き飛んでしまうところだった。

 

猪々子が貸してくれたハンカチで口を拭い、一呼吸入れてから話しだす。

 

「……功労者って、俺?」

 

「一刀のお陰で、“怪我もなく” 快勝できたんだ。お前以外にいないだろ?」

 

 

 

『おーい、猪々子! 怪我とかしてないかぁ!?』

 

 

 

 驚きと喜びで一瞬言葉に詰まるが、どうにか喉から絞りだす。

 

「……聞こえてたんだ?」

 

てっきり、俺の声は周囲の喧騒に掻き消されていたと思っていたが、ちゃんと届いていたらしい。

 

「自分の真名を聞きこぼす程、朦朧きてねーよ」

 

「それなら、何か反応してくれたら良かったのに」

 

猪々子は、いやぁー、と照れくさそうに頬を指で掻く。

 

「そうしたいのは、やまやまだったんだけどさ、部下からはしゃぎ過ぎるなって、事前に言われてて……」

 

さっきは自重したが、今後は将軍に指図する選択肢を入れておいても、いいかもしれない。

 

「まぁとにかく、今回の功労者は策を考えた一刀だから」

 

そう言ってくれたが、手放しには喜べなかった。

 

「元々あれを考えたのは別の人で、俺はそこに少し味付けしただけだしなぁ」

 

釣り野伏。戦国大名、島津義久が考えたと言われている伏兵を用いての、敵を包囲殲滅する戦法。

 

昔、自分の遠縁の先祖が、有名な戦国武将だということを祖父から聞かされ、興味を抱き調べたことがあったが……人生、どこで何が役に立つか分からないものだ。

 

まぁ、それはさておき。

 

「俺の無茶な提案を練習もしないで成功させた、猪々子と兵隊さん達の方が、評価されるべきだと思うんだけど?」

 

俺の問いかけに対して、それは無い、と猪々子は言い切る。

 

「兵士は、上のどんな無茶な命令でも即実行できるよう、調練をいつも積んでるからな。できて当然の事をこなしても、評価はされねぇよ。

一刀は謙遜するけどさ、姫みたいに色々な事を知ってても、肝心な時にその知恵を使えなかったら、意味なんかねぇと、あたいは思うけど?」

 

自分の上司に対して、さらっと毒を吐くね、この子は。

 

「その点、一刀は上手くやったんじゃねーか。もっと、素直に喜べよ」

 

「う……ん……」

 

「っかー! 男のくせにしみったれた顔しやがって。

 ひょっとしてあれか? ゲロ吐いたこと、まだ気にしてんのか?」

 

俺の歯切れの悪い返事が、気に入らないのか、にじり寄ってくる。

 

甘美な髪の香りと僅かな汗の匂いが混ざり合い、淫靡な芳香を放つ。鼻腔がそれを吸い込んだ途端、度数の強い酒を一気に煽ったかのように、頭が熱を帯びる。

 

匂いの発生源は、自身が男を惑わす強力な媚薬だということに全くの無自覚のようで、さらに顔を近づいてくるのだから、質が悪い。

 

「そんなもん、戦の最中に吐かなかっただけでも上出来、上出来!」

 

会話の流れ上、色っぽい展開になるわけがないと分かっていても、こうも接近されると、自然と鼓動が速くなる。

 

男の性って、悲しいねぇ……。

 

このおいしい距離感を維持するかどうか若干悩んだが、高なった鼓動を鎮める為、後ろ髪を引かれつつも、猪々子から距離を少し取る。

 

「あ、いや。気にしてるのは、そこじゃなくてですね……」

 

「あ? じゃあ、何だよ?」

 

「実は――」

 

 

 ○  ○  ○

 

 

 戦の最中での心境。さっき見た光景と、それに対する自身の反応の変化を猪々子に説明する。

 

俺が話している間、「ほー」とか「へー」など相槌をうつだけで、珍しく話の腰を折ること無く、最後まで聞いてくれた。

 

そして今、話を終えて反応を待っている。

 

「「…………」」

 

場を満たす沈黙。時間にしたら二、三分程度だろうが、猪々子といる時は常にどちらかが喋っていたから、この静けさはどうにも落ち着かない。

 

慣れない雰囲気に居心地の悪さを感じ始めた頃、猪々子が小さく息を吸うのが、聞こえた。

 

「……お前、面倒臭い奴だなぁ」

 

「面倒臭い?」

 

オウム返しをしたのは、猪々子の感想に腹を立てたわけではないし、慰めの言葉をかけてもらえると、期待していたからでもない。

 

猪々子ならば、もっと厳しい言葉で叱咤してくると思っていたからだ。

 

「一刀は死んだ人間によって、自分の態度が変わるのが、嫌だってんだろ?」

 

「多分、そうなんだと思う……」

 

「その反応が当たり前で、当たり前のことをあれこれ悩むのは、時間の無駄じゃね?」

 

なるほど。それで“面倒臭い”か。

 

「戦が終わった後は、皆こういう気持ちなのか?」

 

「ほとんどの奴は、そーだと思うぜ?」

 

あたいも勿論同じ、と言い、猪々子は言葉を続ける。

 

「だってさ。今日あたい達が殺した連中は、剣も握ったこともない奴らから、食べ物やら金目の物やらを根こそぎ剥ぎ取るような外道共だぞ?

 そんな連中を手に掛けたことをどうして、気にかけないといけないんだ? 外道共から街を守るために死んでいった仲間の死を悲しむことの何が悪い?

 命の値段が違うんなら、そいつの死で態度が変わるのは、当然なんじゃねぇのか?」

 

猪々子の言うことは、至極当然だ。それに俺自身、連中に殺されかけた経験もある。同情するつもりはない。

 

だけど……。

 

「そんな風に割り切れない、って顔だな?」

 

「……頭では、理解しているんだけどね」

 

命の価値が差別化されている。

 

この世界ではそれが当たり前なのだから、外面を取り繕うような真似、しなくてもいいはずなのに。

 

踏ん切りがつかないでいるのは、“人の命は平等”と常日頃から教えられてきた現代人だからか?

 

「お前のいたとこじゃ、戦は無かったのか?」

 

「戦争は……あることはあったよ」

 

大国同士の大きな戦争は無くとも、紛争や内乱。言葉を色々と変えて、争い自体が無くなることは決して無かった。

 

「なーんか、曖昧な答えだなぁ。未来だと、大した出来事でもないとか?」

 

「そんなことないよ。ただ、俺がいた国は、そういったことは無縁だったから――」

 

「――どこか、他人事だったと」

 

「……うん」

 

日本でも人は毎日死んでいた。けどそれは、テレビや新聞の中の出来事であって、よほど大きな事件でもなければ、数時間も経てば霧散していた。

 

自国で起きている事でも、他人事。遠く離れた異国の地で行われている戦争だったら、尚更だ。

 

「お前、よっぽど恵まれてたんだな」

 

人の死とかけ離れた世界。

 

日本では、いちいち確認するまでもない事だが、そうであればある程、自分がどれだけ恵まれた環境にいたのか気付くことができなかった。

 

「まぁ、そういうところで暮らしてたんなら、生き死に実感が湧かなくても、仕方ないんじゃねぇの?」

 

その通りだった。けど“仕方ない”で済ませてしまうのが、この世界では幼稚な言い訳に思えてしまう。

 

気恥ずかしさを痛みで誤魔化すように、下唇を噛む。

 

「う〜ん。あたいは、一刀や斗詩みたく頭が良くないから、うまくは言えないんだけどさ――」

 

言い過ぎた、と思ったのか、猪々子がばつが悪そうに口を開く。

 

「――死んだ仲間は、どうしたって生き返らない。

 だったら、この先も勝ち続けて、死んだ奴らが無駄死にじゃなかったことを証明する方が、あれこれ考えて立ち止まっているよりも、意味があるんじゃねぇか?」

 

「それが、猪々子の戦の流儀ってこと?」

 

「そんなご大層なモンじゃねぇよ。ただ、その方があたいの性に合ってるってだけ」

 

天気の話でもするような調子で喋っているが、幾度の戦を経験し、数多の死を見てきた猪々子だから、導き出すことができた答えなのだろう。

 

戦友の死を受け入れた上で、前に進む。

 

“死”を正面から受け止めるることができた今だから、それがいかに辛く、また崇高な信念なのか理解できる。

 

「すげぇな、猪々子は」

 

「今頃、そんなことに気付いたのかよ?

けど、いくらあたいが凄いからって、惚れても無駄だぜ? だって、あたいは――」

 

「――斗詩ひとすじだから、だろ?」

 

俺に台詞を先に言われて、少し意外そうな表情をしたが、

 

「そういうこと」

 

すぐにニッと笑い、つられて俺も笑ってしまう。

 

 

 ○  ○  ○

 

 

 ひとしきり笑い合った後、猪々子が尋ねる。

 

「んで? 一刀はどうするんだ?」

 

“どうするか”か。それは、以前から決めていた。

 

だが今日までの俺は、覚悟が足りなかった。現実を知らなかった。

 

見栄えだけを取り繕った、筋金が入っていない刀身。たった一戦で、地鉄が鍛えられたとは思えないが、それでも言葉にしたい。

 

俺がこの申し出をしたら、彼女はどんな顔をするだろう? 何故だか、あまり驚かないような気がするんだよな。

 

「俺は――」

 

 

 ○  ○  ○

 

 

 少しよろめきつつも自分の足で立ち上がり、服についた砂を払う。体力は依然萎えたままだが、四肢に気力が巡り始めているのを感じる。

 

「それじゃあ、戻りますか」

 

「え〜〜。別に、あたいがいなくても問題無いと思うけど……」

 

「“え〜〜”じゃないでしょ“え〜〜”じゃ。

 猪々子じゃないと、判断できないこともあるだろうし、そろそろ戻らないと、さすがに不味いだろ」

 

「長く引き止めたのは、一刀だろぉ」

 

うぐっ! それを言われると辛い。

 

「俺の所が片付いたら、そっちの手伝いに行けるよう、上の人に頼んどくからさ、な?」

 

「へいへい。わかりましたよーだ」

 

気の抜けるような声で返事をし、歩き出した猪々子の横に並ぶ。

 

なるべく早く戻るべきなのだろうが、今回の戦の功労者だ。仕事場に戻るまでの道中に雑談するぐらいの我侭は、許されるだろう。

 

「けど、猪々子もハンカチ……じゃなくて、手拭いとか持ち歩くんだな。

ちょっと、意外だったよ」

 

その一言を聞いた猪々子が、立ち止まる。

 

いつだったか、寝癖をつけっぱなしにしていて、袁紹に小言を言われている現場に出会したことがあった。

 

それ以降、俺の中で猪々子は、身だしなみに対して無頓着な女の子、という認識だったのだが、気分を害してしまっただろうか?

 

「ああ、それね」

 

俺の手に握られているハンカチを一瞥しただけで、再び歩き出した。どうやら、怒ってはいないらしい。

 

「あたいは、服の袖でなんかで拭えばいいと思うんだけさ。

 姫が“淑女たるもの、手拭の一枚も常備していなくて、どうしますの!?”って、口やかましくって」

 

声色を変え、なよび姿をとる猪々子を見て、思わず吹き出してしまう。

 

「ぷっ! 何それ。袁紹の真似?」

 

「あれ? 似てなかった?」

 

「ビミョーな出来だったな」

 

「えー!? 結構、似てると思うんだけどなぁ……」

 

悔しそうに唇を尖らせているところを見ると、今のモノマネ、猪々子の中では鉄板ネタだったらしい。

 

(面白かったけど、似てはいなかったな)

 

俺の評価を気にしないよう、努めて明るい声で話し出すのが痛ましい。……ちょっと、悪いことしたかな?

 

「けど、麗羽さまの言うことも、たまには素直に聞いとくもんだねぇ。

 貰ったのはいいけど、ずっと使わず入れっぱなしにしてたけどさ、こうやって役に立ったんだから」

 

厚意を無下にしたくなかったから黙っていたが、ハンカチから立ち上っていた、妙な匂いの原因が分かったよ。

 

「ちゃんと“洗って”返すから」

 

「別にいいよ。麗羽さまから貰ったやつだし」

 

俺の牽制のジャブに合わせた、猪々子の強烈なカウンター。不用意に手を出したことを後悔。

 

袁紹から貰った物なら大切にしないと、駄目だろ。さっきからなんか、袁紹の扱い酷くない?

 

猪々子は、俺の非難するような視線にまるで気付いていないようで、話を進めていく。

 

「っていうか、一刀がそのまま持っとけよ。

 使わないあたいが持ってるよりも、その方が良いだろ?」

 

「そりゃ、ヤバいだろ! 主から賜った品物を黙って他人に譲ったりしたら……」

 

「大丈夫だって! 麗羽さまには、あたいから上手く言っとくからさ」

 

自信満々で言い切っているが、その“上手く言う”ビジョンが、全く思い浮かばないんだよなぁ。

 

……不安は多々あるが、珍しく出している猪々子のやる気を削ぐのも可哀想だし、お言葉に甘えさせてもらおうかね?

 

「わかった。それじゃあ、袁紹が戻ってきたら、お礼を言わないといけないな」

 

「その時は、あたいも付き添うね」

 

「そうしてもらえると、助かるよ」

 

……袁紹か。ここを発ってから、そんなに日は経っていないはずなのに、もう何年も会ってない気がする。

 

今どのあたりにいるんだろう? 相変わらず無茶言って、斗詩を困らせているんだろうなぁ。

 

二人の顔を思い浮かべながら、日が落ちて間もない、鉄紺色の空を仰ぐ。

 

夜の闇が辺りを包み、民家から徐々に灯が漏れ出す。人の営みが創り出す灯が、とても暖かく愛おしい。

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あとがき。

 

皆様ご無沙汰しておりました。濡れタオルです。

……なんか、いっつもこんな挨拶ですね。では、めでたい報せを一つ。

 

うどんさんが書かれている魏ルートafter『あの想いと共に』が復活っ!

http://lisereaend1234560.blog.fc2.com/

 

華琳との会話の後、消滅したかに思えたが、意識を取り戻した一刀が立っていたのは荒野の上だった。

直後、賊に襲われるが趙雲・稟・風の三人に助けられる。

初めてこの世界に飛ばされた時とまったく同じ展開に自分が振り出しに戻ったことに気付く一刀。

今度は、自分が消滅せず華琳を泣かせない結末にしてみせる。

一刀の孤独な戦いが始まった……。

 

『あの想』は、TINAMI内の作品ではないのですが、私が恋姫のSSを書くキッカケとなった思い入れが強い作品でしたので、恋姫好きが多く集うこの場で紹介させて頂きました。

話の大筋は原作の魏ルートと同じなのですが、展開ががまるで読めません……。

何を言っているのか(ry

要するにすごく面白いということです。はい。

 

あ、自分の作品について全然喋ってないや。

自分で書いておいてなんだが、15話は……くどいなぁ。

一刀を覚悟完了させるためとはいえ、なんだかなぁと、思ってしまいます。

次回辺りで黄巾編を終わらせたいとは思っていますが……どうなることやら。

 

ここまで読んで頂き、多謝^^

説明
改行していないのに、やたらと行間が空くのは何故なんだぜ?

15話です。
相変わらずのスローテンポ。

よろしければ今回もお付き合いください。
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コメント
>>゜゜ (Д )さん お褒めいただき、ありがとうございます。無事、更新出来ましたのでよろしければ読んでやってください。(濡れタオル)
>>XOPさん 大変お待たせしました。愛想を尽かしてなければ、続きを読んでやってもらえますか?(濡れタオル)
もう更新はないのでしょうか?袁紹√で面白い作品はなかなかなか無い中非常に面白い作品でしたので期待していたのですが・・・(゜゜ (Д ))
・・・・・・・・・続きはまだですか〜?!(XOP)
>>PETITさん 支援ありがとうございます。次も楽しんで頂けるよう頑張ります。(濡れタオル)
支援させていただきました。続きを楽しみにしています。(PETIT)
>>XOPさん 修正しときました。いつも報告ありがとうございます。(濡れタオル)
よだれが入り交じった液体を→混じった(区別できない場合は「混じる」):横目で伺うと→窺うと:鼓動が早くなる→速く:(XOP)
>>ZERO&ファルサさん 面白いので是非! ……けど、『名家一番!』のことも時々でいいので、思いだしてください(´・ω・`)(濡れタオル)
お久しぶりです!おすすめ読んでみます。(ZERO&ファルサ)
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