第二十五話:衝撃の事実
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「それでは皆さん、15年度の修学旅行が始まりました。

この四泊五日の旅行で楽しい思い出を一杯作ってくださいね」

 

『『『『『『『は―――――――い♪』』』』』』』

 

賑やかな少女達の返答と共に始まった修学旅行。

ネギが修学旅行中の注意事項などを説明しているその時、サイとエヴァはもう既に退屈なのか居眠りを始めていた。(ついでにウサギ人形版のさよはちゃっかりバッグから覗いていた)

まあ、サイの場合は退屈ではなく身体がやけにダルい事から寝ているだけだが。

 

ちなみに本来なら修学旅行の時に居ないサイ、エヴァ、茶々丸は6班に組み込まれる事となった。

これは学園長が『いざと言う時に制限が無く動けるように』と言う意向により、裏を知っている刹那とサイと同じような存在であるザジの居る班に入れたのである。

尚、この班分けにサイに恋心を抱いている連中が異議を唱えたのは言うまでもない。

 

「麻帆良学園の修学旅行は班ごとの自由時間も多く取ってあり楽しい旅になると思いますが・・・。

その分、怪我や迷子や他の人に迷惑をかけたりしないよう一人一人が気を付けなければいけません。

特に怪我には気を付け・・・あぶっ!?」

 

そこにタイミング良く後ろから来てネギを轢く売り子のカート。

微笑ましく笑う少女達・・・頭の良い子の筈だが、何処と無く締まらない子供先生であった。

 

 

ネギの注意事項の注意事項の説明が終わり、各々が新幹線の中で目的地に到着するまで自由となった。

3−Aの生徒達は賑やかであるが故、読書をしたりカードゲームで遊んだりと様々な事をしている。

尚、サイとエヴァはそれらに興味を持たず睡眠中なのは言うまでも無い。

 

・・・いや、正確に言えば爆睡しては居ない。

修学旅行へと行くまで、到着後、そして帰るまで二人は表面上は気を抜いているように見せても内面は決して気を抜く事は無いだろう。

事実、サイの場合は疲れたような表情をしていながらもバッグの中に入れてある七魂剣の柄を握っており・・・エヴァは秘密裏に茶々丸に周囲の警戒をさせていたのだ。

 

決して心休まる事の無い“戦場”と言う世界を生きて来た二人。

サイとエヴァにとっては世界は違えど、穏やかな時など少しも感じる事が出来なかった。

勿論、追われる事の無くなった今であってもそれは決して変わる事は無い。

 

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「・・・ちょっと、アンタ大丈夫なの?

顔色が滅茶苦茶悪いわよ、もしかして乗り物酔いでもしたのサイ?」

 

そんな寝ようとしながらも寝られないらしいサイに声を掛ける後ろの席の明日菜。

彼女は口は悪いし直ぐに手が出るようなタイプの性格だが、意外に面倒見も良い性格をしている。

朝から気分の悪そうな表情をして目を瞑っているサイが気になったのだろう。

 

「何でもねぇよ。

大方、麻帆良から外に出た事ねぇから興奮して寝れなかったのが原因だろ。

その内眠れるから、そうすれば気分も良くなって来るさ」

 

サイはそう言うが実際は逆だ。

新幹線に乗って約一時間以上経つというのに、気分は良くなる所か逆にどんどん悪くなっている。

寝ようと目を閉じても一睡も出来ず、身体のダルさがどんどん強くなっているのだ。

内心、一体何があったのかと疑問に思う程に。

 

そしてこう言う状況とは悪い状況が続けば続くもの。

頑張って寝ようとサイが目を瞑り、美空やらココネやらシャークティから教わった『羊を数える』事をした次の瞬間―――

 

『『『『『『『きゃ、きゃああああああああ!! か、カエルぅぅぅぅぅ!!!!』』』』』』』

 

・・・と、少女達の悲鳴のようなものが響いた。

 

「チッ・・・クソが、何なんだかね全くよぉ・・・」

 

目を見開いて周りを見た瞬間、サイは唖然とした。

何故か3−Aの生徒達の居る車両に大量のカエルが発生していたのだから・・・。

 

「てか、オイ・・・何だこのカエ・・・『きゃあああっ!? さ、サイどのぉぉぉぉぉ!!』・・・ルはって、グオッ!?」

 

サイがカエルが大量発生している事に唖然としたその時。

器用にサイの首に抱きつく一人の長身の人物が居た―――まあ、口調を聞けば解るだろうが楓である。

身を縮こませて手足をサイの取り立てて大きくも無い身体に絡ませてカエルから逃れる為の無理した姿は色々と無茶している事を覗かせる。

ちなみに楓は忍者の癖にカエルが苦手なのだ・・・楓を抱きつかせたまま倒れないサイも凄いと言えば凄いのだが・・・。

 

「オイ、離れろ忍者馬鹿!!

つうか無茶させんじゃねぇ!! く、首が折れるっつうんだよこの馬鹿が!!!」

 

そう言いながらも強引に片手で現れたカエルを近くに居た古の持つエチケット袋に投げ込む。

とんでもない離れ業だが、サイならばこの程度は当然の事だろう。

例え調子が悪いにしてもだ―――

 

「あ――――――――――っ、鳥が――――――っ!?」

 

カエル騒動が収まって直ぐにネギの悲鳴のような声とサイの横を飛び去っていく燕のような鳥。

どうやら命を持たない『式神』と呼ばれる存在のようだが・・・口に封書のような物を咥えていた所を見ると、どうやらあれは学園長がネギに託した親書だろう。

 

「あんの馬鹿、何やってんだ!!」

 

だが奪われたにしても、式神を使う術者の手に渡る前に取り返せば良いだけの事。

サイ自身は抱き付いている楓が居たが、その程度なら問題ないと思い式神を追おうとした・・・。

だが、抱きつかれてる事によって身体が重くて動かない。

 

「なっ!? チッ、おい忍者馬鹿、早く放せこの野郎が!!!」

「カ、カエル、カエルは・・・カエルは嫌でござるよぉぉぉぉ!!!」

 

カエルに怯える楓が確りとしがみ付いているが故に追う事が出来ないのだ。

しかしこれはサイにしてみればおかしな事、サイは例え茶々丸が全力で抱きついていたとしても今の式神に追いつけない様な軟な鍛え方はしていない筈。

なのに今、楓にしがみ付かれた状態で重くて動けないとは一体どういう事か?

そんな事を考えていた所に真名が近寄るとサイに耳打ちする。

 

「(心配ないよサイ、先ほど刹那がネギ先生のフォローに回ったからね)

・・・で、それは良いにしてもだ―――貴様は何時までサイに抱き付いている心算だ楓!?」

 

真名が何時までもしがみ付いて怯えている、ある種の『役得』状態の楓に怒鳴る。

それに併せて他の所からも声が上がった・・・。

 

「そうアルヨ、楓!!

さっさと離れるアル!! 寧ろワタシもサイに抱き付きたい位アルのにぃぃぃ!!!」

 

「あ、あああああ、あの、その―――・・・え、えっと、あの―――・・・」

 

「何をやってるですか、全く・・・」

 

「・・・・・離れて」

 

「てか、どうでも良いからさっさと退け阿呆共がぁぁぁぁ!!!」

 

何気に天然タラシなサイ。

この様な熾烈な攻防はネギが親書を(刹那のお陰で)取り戻してくるまで続いた。(尚、上から古、のどか、夕映、ザジの順、最後のはサイがぶち切れた台詞)

ちなみにネギが戻ってきた際、何気に何処からとも無く某侍少女の殺気の様な念が飛んで来たのは言うまでもない。

さらにもう一つ―――

 

「ちょっとサイ、何やってんのよアンタ!?

ほら皆もさっさと席に戻りなさいよ、他のお客さんに迷惑でしょうが!!」

 

「そ、そうですよ皆さん!!

さっきも注意事項で言ったじゃないですか、他の人に迷惑かけちゃいけません!!!!」

 

何故か機嫌の悪い明日菜とネギであった。

ちなみにサイの大騒ぎの真っ最中、エヴァどこか首を傾げる様な事をし、茶々丸は時々シャッターのような小さな音を立てながら際の方を見つめていたそうだ。

 

・・・さらにこれはついでだが。

 

「ら、ラブ臭があちこちから!? 一体誰が誰に対しての!?

くっ、この私とあろう者が・・・ラブ臭の出ている場所がばらばら過ぎて特定出来ないとは、不覚!!」

 

周囲から放たれるラブ臭なるものの所為で暴走している娘が一匹居たのであった・・・。

 

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「サイ、お前何かあったのか?」

 

騒ぎが収まった後、席に戻って来たサイにエヴァがそう声を掛ける。

彼女の疑問は当然だ、本来ならサイは先ほどのような揉みくちゃの状態になっても脱出して真っ先に親書を取り戻してネギ辺りに苦言を呈していた筈。

だが・・・今彼女が見ているサイは、いつものサイとはまるで別人のように見えた。

 

「・・・いや、何もねぇよ。

だがおかしいんだ、この新幹線ってのが目的地に向かって進む度に、何だか身体が重く感じてな。

こんな事、今まで一度も無かったってのに・・・」

 

「・・・待ってくださいマスター、サイさん。

マスター、先ほどからサイさんの身体に異常が無いか調べさせて頂いて居ますが・・・この状態は何と言うか、明らかに不自然です」

 

サイの言葉を遮るかのように語る茶々丸。

彼女のその一言にエヴァは茶々丸の方を向いた。

 

「どういう事だ、茶々丸?

私やサイに解りやすいように説明しろ」

 

実はエヴァ、朝からサイの不調に疑問を抱き調べていたのだが・・・。

サイは元々『能力無効化(アビリティキャンセラー)』を持っている為か魔法で調べる事は叶わず、仕方なく機械による能力計測が可能な茶々丸に様子を見張るように言っていた。

そんなこんなで新幹線に乗ってから今まで茶々丸はサイのデータを計測し続けていたのである、本来ならば調べる事も不可能な筈なのに。

その茶々丸が『不自然』などと言うという事は一体?

 

「ハイ、実はこの旅行が始まった時から何かの違和感を感じて常時サイさんの能力データを計測していたのです。

ですが麻帆良から離れれば離れる程にその身体能力や魔力のような力、サイさんの言う所の『法力』の数値が低下し続けて居るようです。

・・・この様な症例は今まで見た事がありません」

 

そこでエヴァはある事に気付く。

かつてサイに話を聞いた際に『俺は記憶が無くて世界樹っつう馬鹿デカイ樹の近くの森に倒れていた』と。

そしてその事と茶々丸のデータにサイの衰弱を見て、ある一つの仮定を立てた。

 

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「・・・おい、サイ。

確かお前は今まで一度も麻帆良から出た事が無かったと言っていたな・・・?」

 

「あぁ? あぁ、そうだが? それがどうかしたのか?」

 

さも当然の如く返すサイにエヴァは『成る程な・・・』と一言だけ呟きながら何度か頷く。

すると一度の逡巡の後、意を決したかのようにエヴァが信じられない説明をし始めた。

この現在のサイの状態が一体どういう事なのかを。

 

「・・・サイ、これは仮定に過ぎん。

仮定に過ぎんが、多分これがお前の体調の悪さの理由だろうと私は思う・・・心して聞け」

 

真面目な表情で呟くエヴァにサイも真面目な表情に変わると続きを促す。

 

「お前は確か世界樹の近くの森に倒れていたと言っていたな? しかも記憶を無くした状態で。

そしてお前の生まれた世界は言うなればこの世界ではなく、多次元世界・・・平行世界とでも言うべきか? この世界であって、別の世界で生きていたとも言っていた。

という事は多分、お前は方法は解らないが世界樹を媒介にしてこの世界に“召喚された”とでも言うべきだろう」

 

そこで一度言葉を切るエヴァ。

彼女が思っている通りならば・・・これ以降、サイにはいつもの様に戦わせる訳には行かない。

意を決したかのように続きを語りだした。

 

「故に、世界樹と言う存在がお前をこの世界に召喚した媒介ならば―――

麻帆良から離れれば離れる程、お前の体調が悪化していく事にも納得が行く。

つまり本来ではこの世界に存在しない異質な力である法力は麻帆良の世界樹の魔力をお前自身の身体で変換していたという事だ。

まあ、簡単に言えば今のお前は―――普通の人間と左程変わらない状態と言う事になる」

 

「な・・・ん、だと・・・?」

 

確かにこのエヴァの言葉は仮説に過ぎない。

しかし、これ程に筋の通った『仮説』は言うなれば『事実』と同義だろう。

己に起こった事の深刻さか、それとも他の事にショックを受けているのかは知らないが・・・愕然とした表情になるサイ。

 

―――そんなサイにエヴァは静かに続けた。

 

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「サイ・・・お前、今回の事から手を引け」

「あぁ!? どういう意味だキティ!?」

 

怒りを露にしながら自分を見るサイにエヴァは何処までも冷静に語る。

 

「法力が無く、力さえも制御されてしまっているお前では“役立たず”だ。

そんな中途半端な状態で戦いに介入されても迷惑でしかない、だから今回はお前は手を出すな」

 

・・・確かにそうだ。

冷たい言い方かもしれないが、今回は“遊び”ではない。

何処から、誰が、どんな手を使ってくるかも解らないような状況下で、ほぼ人間と変わりないサイが居ても危険なだけ。

 

さらにもう一つ、サイは今までの戦い方を垣間見れば解る事だが。

彼は驚く程に自分の命や自分の身を軽んじているような戦い方ばかりしている。

エヴァと戦った時、酒呑童子の力を持つ魂獣・テスタロスと戦った時、エヴァとネギの一騎討ちの終わり際に乱入して来た化物から明日菜を護った時も然り。

まるで贖罪ではなく断罪を望む咎人のようにボロボロになり、その度に一種の冬眠状態になって法力で強引に傷を治すと言う事を続けていた。

 

だがそれは、法力という存在が在ったからこそだ。

現在のように身体に少々残る程度の法力で魂獣解放(スピリッツバースト)などすれば、忽ち法力が枯渇してしまう。

そうすればどうなるかも解らない、そんな状態でエヴァはサイに戦わせたくなど無いのだ。

 

・・・もう二度と、失わないと決めたが故に。

 

そんな裏に隠されている想いに気付いたのか気付かないかは解らない。

しかし、エヴァに向かってサイは小さく呟いた。

 

「キティ、済まねぇ・・・」

 

呟きを終えると静かに自分の座席で目を閉じるサイ―――その言葉の意味は一体どちらの意味なのか?

いや、どちらの意味なのかはエヴァンジェリンが良く解っている・・・短い間だが、サイの性格は少なくともそんじょそこらの小娘達よりも痛い程に理解出来ていた。

そう、彼の過去を知ってしまったその時から。

 

「・・・チッ、大馬鹿者が・・・」

 

答えなど聞く必要は無い、最初から解っていた。

例え身体がボロボロになろうとも、例え人と変わりない状態になったとしても、サイは決して選んでいる道を曲げないと。

その道の行く末で己が朽ち果てようとも、最後まで笑って信念を曲げない頑固な漢だと言う事も。

・・・そして、何処までも限界を超える漢だと言う事も。

 

「茶々丸、修学旅行中はサイに気を配ってやってくれ。

あの馬鹿は誰かが口で言っても、自分の現実を知っても決して曲げる事の出来ない底抜けの馬鹿だからな。

―――まあ、そんな馬鹿だからこそアレに心を許す者は多いのかも知れん・・・桜咲刹那や古菲に長瀬楓に龍宮真名にザジ・レイニーディか、それ以外にも何人か理解出来るが。

あぁ・・・それに近衛木乃香に私とお前が居たか?」

 

エヴァの言葉に茶々丸は答えない。

いや、答えられないと言った方が良いか? 戸惑ったかのように『あの、その・・・』としか言わない茶々丸を見れば。

そんな従者、いや家族の珍しく狼狽したかのような表情を見ながら再びエヴァも目を閉じた・・・。

 

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京都に到着し、映るは見渡すばかりの絶景。

此処は京都の清水寺―――本来は神や仏に能やら舞やらを楽しんで貰う為の場所。

だがいつしかどこぞの人物が言った『清水の舞台から飛び降りた心算で・・・』などという言葉が有名となり、言葉どおり江戸時代に234件もの飛び降り事件が記録されたある意味“迷所”だ。

まっ、それでも実際『生存率が85%』と意外に高いのが驚きだが・・・。

 

それはさておき、この名所中の名所とも言える観光地で3−Aの生徒達は“一部を除き”概ね小学生のようにはしゃいでいた。

 

「いえぇぇぇい、京都ぉぉぉぉ!!」

「おお、これが噂の飛び降りるアレ!?」

「誰か飛び降りれっ!!」

「うむ、では拙者が・・・」

「おやめなさいっ!!!」

「(はあ・・・テンション高ぇなこいつ等)」

 

実に賑やかな連中である。

寧ろこの底抜けの明るさがこのクラスの良い所なのかもしれないのだが・・・。

一方、そんな明るさとは打って変わり、静かに景色を見ている連中も数名程いた。

 

「うむ・・・実に良い。

この古き良き時代の文化、このいかんとも説明しがたい美しい風景、流石は古都・京都と言った所か」

 

『ええ、素晴らしいですぅ!!

私、60年前から麻帆良から出られなかったから・・・うぅ、感動で涙出てきちゃいました』

 

「・・・さよさん、マスターも私も同じです。

私の場合は生まれて2〜3年程度しか経ちませんが、マスターは10年以上もの歳月を麻帆良に閉じ込められていましたので・・・」

 

「ふ〜ん、まあ良い風景じゃねぇか。

これがジジイからの任務が無くてゆっくり見られりゃもっと良かったがな」

 

その人物たちの事は説明するまでも無いだろうが―――

勿論、麻帆良から殆ど外に出た事の無いエヴァ、さよ、茶々丸、サイの事だ。

こいつ等の場合はクラスの連中のように騒ぐよりも、静かに風景を愛でている姿が実に様になった。

・・・流石は外見と年齢が明らかに違う連中である。

 

「さて、サイ・・・次は向こうに行くぞ」

「あぁ? あぁ解った、んじゃ行くとすっかね」

『じゃあサイさん、私またバッグの中に戻ってますね〜♪』

「・・・周囲の索敵は私に任せてください」

 

エヴァに引率されて彼女に付いて行くサイとその後を付いて行く茶々丸、さよはバッグの中に潜り込む。

この状況をエヴァとサイは『友人同士(エヴァの方は幾つもの感情の入り混じった“友情”だと思うが)』と思っているだろうが・・・端から見れば良い関係に見えるのは明白という奴だろう。

 

・・・そんな三人を羨ましそうに見る者がちらほら居た。

 

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「あ〜、エヴァンジェリンさんずるいえ〜。

ウチもサイ君と一緒に見学に回りたいのに〜、イケズやわぁ〜♪」

 

「そうアルヨ!! エヴァにゃんばっかずるいアル!!

サイはワタシの婿殿になる人アルヨ、この浮気者ぉぉぉぉぉ!!!」

 

「むっ・・・何を寝言を言って居るでござるか古?

サイ殿は拙者の旦那様になると前にも言った筈、それを忘れるなでござる!!」

 

「・・・それは聞き捨てならんな楓?

そもそも別にサイは貴様達のモノではなかろう? というか私の物だ、諦めろ」

 

・・・水面下には穏やかにだが、確実に火花を散らしている麻帆良武道四天王の三人。

微笑んでいる木乃香はどうだか解りにくいが、それでも最初の出会いの頃から好意を抱いているのは解る。

更にこの輪に入れなかった連中も何人か・・・。

 

「サイさん・・・。

(はっ、いかん・・・今私はお嬢様を護る為に居るんだ、私情など捨てねば・・・だけど・・・)」

 

「あ、あううう―――・・・サイさん―――・・・」

 

「のどか・・・頑張るですよ・・・。

(のどかはサイさんに好意を持ってるのですね・・・全く引っ込み思案ですから。

・・・でも何故でしょう? エヴァンジェリンさんとサイさんの姿を見ていると無性に何か・・・)」

 

「(・・・な、何でサイとエヴァちゃん見てるとこんなに苛々するのよ!?

そりゃあサイは私の命助けてくれたし、時々渋かったりするけど・・・わ、私には高畑先生が!!)」

 

多種多様に色々な事を考えている連中だ。

まあ、その中でも自分の気持ちや意味に気付いていない奴も居るようだが・・・。

尚、そんなサイやエヴァに気にもせずに声を掛ける奴らも居る。

 

「お〜い、サイ〜。

私も一緒に行って良いか? 勿論、マクダウェルさんと絡繰さんが良ければだけどよ」

 

一人はサイにとって口喧嘩友達とも言える、性別を超えた友情を育む少女である千雨だ。

別に取り立てて断る理由も無く、さらに茶々丸のレーダーでも周囲に敵が居ないと言う事が解っていた為かサイは頷いてから答える。

 

「ケッ・・・物好きな野郎だな、勝手にしろや」

「へっ、じゃあ勝手にさせてもらうぜ」

 

そう言うと千雨はサイ・エヴァ・茶々丸(+さよ)のグループに合流した。

と言うかお前、班別行動は良いのか? まあ・・・ネギ(の本当の性別を知らず)に色ボケしている班長と共に行動するのは嫌だったのだろう。

更に、サイの袖をくいくいと引っ張る者が約一名。

 

「・・・・・・・」

 

無表情で無感情、まさに人形のような人物であるザジ。

だが、その手はサイの制服の上から羽織っている着物のような上着の袖を掴んで引っ張り続けていた。

 

「んだザジ、向こうの阿呆共に付き合いきれねぇでこっちに来たのか?」

「・・・・・・(フルフル)」

 

首を横に振っている所を見ると理由は違うのだろう。

それを見たサイはそれ以上はあえて理由も聞かずにザジに向かって呟いた。

 

「んじゃ、お前も俺らと一緒に見学すっか?

(小声)・・・ジジイから聞いてると思うが、木乃香やらネギの持ってる手紙やらを狙ってる奴らが居るからな。 寧ろ裏の事情を知ってる奴が近くに居る方がこっちも動きやすい」

 

「・・・・・・♪(コクコク)」

 

無感情、無表情の彼女にしては実に珍しく、笑顔の様なものを見せて頷く。

それを見た者は多分、実に珍しいものを見れたと驚くだろう。

 

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そしてこの後・・・。

関西勢の嫌がらせとも取れるような事がサイ達の見学中に続く。

 

例えば―――

 

「なっ、お、落とし穴〜〜〜〜!?」

地主神社の『恋占いの石』に仕掛けられたカエル入りの落とし穴に委員長とまき絵が落ちたり。

 

「なっ!? 滝の上にお酒がぁぁぁ!?」

音羽の滝の『縁結びの水』に酒が流されており、それの所為で約大半の生徒達が酔い潰れてしまったりと散々であった。

 

この悪戯なのか妨害なのかイマイチ解らない行為にアホらしくなってため息を吐くサイ達。

・・・ちなみにサイに好意を持つ何人かがこの酒入りの滝の水を飲んでいたが、古とのどかはダウンしたが楓・真名は全くと言って良いほどピンピンしていたそうだ。

(尚、美空も飲もうとして口に含んだようだが、変な味を感じて直ぐに吐き出したらしい)

 

「・・・アホじゃねぇのか、これやった奴ら?」

 

そんな弱々しいサイの一言は騒動の賑やかさの中でかき消されたそうな。

 

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「えぇ!? 変な関西の魔法団体に狙われてる!?」

 

夕方、ホテル嵐山に入ったサイら3−Aの修学旅行一行―――

ちなみに酒飲んで爆睡した連中はネギが理由を考え、エヴァと茶々丸とサイと明日菜とザジがそれぞれの泊まる部屋に投げ込んでおいた。

 

「うむ、そうだ。

まあ正確に言えば狙われているのは坊やの持つジジイの書いた『東からの親書』だがな」

 

道中起こった事を不審に思った明日菜がネギを問い詰めると、代わりに近くに居たエヴァが説明をする。

そして今まで起こった不可思議な事が『関西呪術協会』と呼ばれる連中によって引き起こされている事や奴らの狙いがネギの持つ親書であると言う事も説明した。

・・・尚、学園長から昔聞かされた『木乃香の力を狙っている』と言う事は一応秘密にしてある。

 

「私や茶々丸やサイは坊やがその親書を西に届ける為の補佐を託されたと言う事だ」

 

「成る程ねぇ、エヴァちゃんや茶々丸さんが居るから何となくそんな気がしてたのよね。

やれやれ、また魔法の厄介ごとか・・・」

 

「ご、ごめんなさい・・・明日菜さん」

 

ため息を吐く明日菜だが直ぐに元通りになる。

まあ彼女は彼女なりに自分が望まないにせよ戦う為の力を手に入れてしまった。

故にその力をどう使うべきかを考えれば、今回のような事態の時などだろう。

 

「良いわよ、そんなに謝らなくても。

それにサイやエヴァちゃんの力を疑ったりする訳じゃないけど何があるか解らないんでしょ?

だったら頭数を少しでも増やしておいた方が良いじゃない、違う?」

 

その優しい言葉に感動して瞳を潤ませるネギ。

一方、短い間とは言えサイに力の使い方を身体に叩き込まれて来た事を知るエヴァも頷く。

・・・この旅では殆ど(約九割)の魔力が封印されているエヴァにとっては味噌っかすでも頭数が居ないよりましなのだ。

何せ、頼みの綱であろうサイは麻帆良から離れてしまった事が原因で殆ど力を発揮出来ないのだから。

 

と、そこで今まで黙り込んでいた存在感の薄いカモが口を開く。

 

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「あの・・・これはおれっちの勝手な推測なんすが・・・。

明日菜の姐さん、桜咲刹那って奴が怪しいんだ・・・なんか知りやせんか?」

 

「えっ、桜咲さん・・・?

う〜ん、確か木乃香の幼馴染だって聞いた事はあるけど・・・私も話した事無いし・・・。

それにあの二人、一緒に喋ってる所あまり見た事無いから・・・」

 

確かどこかでそんな話を聞いた事がある。

それに最近だが、木乃香の後を付け回し、何かを言おうと手を伸ばしながらもその手を引っ込めるという姿を何度か目撃した事があった。

それによりカモは刹那が京都・・・つまり関西出身だと断定、そして刹那が関西呪術協会のスパイだと断定してしまう。

しかし、此処で今までの彼女なら絶対言わないような言葉をエヴァが言った。

 

「おい小動物、多分それは無いぞ。

桜咲刹那は貴様らが知る由も無いだろうが殆ど毎朝サイの奴に実戦形式の修行を付けて貰っている身の上だ。

桜咲刹那がスパイだったとしたら、真っ先にサイの奴が気付く筈だ・・・なあ、サイ?」

 

エヴァはそうサイが黙って立っていた筈の場所に向かって言葉を飛ばす。

しかしそこにサイは居らず、近くに居た茶々丸に『サイは何処に行った?』と尋ねた。

 

「サイさんは少し考え事があるそうで散歩に出かけられました。

5分〜10分程で戻るそうですので、心配は要らないと言っておられましたが・・・」

 

茶々丸の言葉に苦悩の意味を知っているエヴァは『・・・そうか』と一言だけ呟く。

サイが居なかった事により弁明が出来ず、刹那が関西側のスパイという線が濃厚となっていく中―――

教員のしずながその場所へとやってきた。

 

「ネギ先生、教員は早めにお風呂に入ってしまって下さい。

後ですね光明司さんは学生ですが、他が皆さん女性なので一緒に入る訳にも行きませんので・・・ネギ先生と一緒に入ってしまうようにして頂けますか?」

 

「あっ、はい・・・って、ええええぇぇぇぇぇ!?

お、お兄ちゃんと、ボクが、い、いいい、一緒に、ですかぁぁぁぁ!?」

 

―――まだ数えで十歳とは言え、異性と共に入るのには流石に恥ずかしいだろう。

更に相手は兄の様に慕う人物で更に更に自分の事を女の子だと知っている人物だ、動揺があるのは当然である。

・・・しかし悲しいかな、周囲の者達はネギが女の子だとは知らない。

だからこそ『男同士なら問題ないだろう』と考えているのだ。

 

「え、えっと、えとえとえとえとえと・・・。

ぼ、ボク・・・ボク、先に急いでお風呂に入っちゃいますね、それじゃあ!!!」

 

そんな風に慌てて走り去るネギ。

少年(少女)の後姿を首を傾げながら見ていたエヴァ達だが・・・取り合えず一旦、夜の自由時間まで解散という事で会議は打ち切られたのであった。

 

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さて、これにて新章第二話(第二十五話)の再投稿を完了しました。

今回の話は原作第四巻から始まった京都への修学旅行の始まりの話を描きましたが、如何だったでしょうか?

 

遂に語られた衝撃の事実。

エヴァは【憶測】だと言っていますが、実際の所はそれで正解。

実はサイ君、世界樹を媒介して魂獣界から麻帆良に召喚された存在なのです。

その為か麻帆良(つまり世界樹の魔力範囲内)では世界樹の魔力を法力に変換して阿修羅の如き強さを発揮しますが、其処から離れれば離れる程に力が弱体化してしまうという欠点を持ち合わせています。

必然的に弱体化していく身体能力をサイ自身が内包している量少ない法力で補わねばならない為、現時点では『普通より少しは強いだけの人間』と同じ状態となってしまいました。

 

さて、一体此処から如何にしてサイ君は木乃香を狙う輩達が跳梁跋扈する魔都・京都にて戦いぬくのか?

それについては次回をどうぞお待ちください。

 

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神に匹敵するほどの力を持ち
修羅に匹敵するほどの業を持ちえども
その力、強大過ぎるが故のリスクもまた存在した
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