嘘 |
新学期を迎えたその日は、春を迎えたにしてはとても寒かった。
ブレザーの下に着たセーターを突き抜け、早朝の湿気を帯びた冷気が俺の肌を刺す。
「……しかし、新学期早々学校に一番乗りか。 上着を着てくれば良かったな」
俺が通常はあり得ない時間に登校するのには理由がある。
前日の夜、朝比奈さんからSOS団の部室に来るよう熱烈にお願いされたのだ。
ハルヒから命令を押しつけられた時以上の一生懸命なお願いに、応えないわけはいかないだろう。
おかげで毎朝恒例の妹の襲撃を避けられたから、少なくともムダではなかったかな。
俺は新クラスの掲示を無視しつつ、運動靴を持ったまま部室へと向かう。
後ろから朝比奈さんがチョコチョコと様子を見ているのには気付いていたが、あえて声は掛けなかった。
「ういっす、おはよう」
誰も居ないと思い声を掛けたつもりだったが、部室の中には長門が座っていた。
「……おはよう」
「よう、いつもこんな時間から来ているのか?」
「……今日は特別。 ……・話を聞いて欲しい」
「どうしたんだ?」
長門は本をパタリと閉じ、俺の目の前に立った。
何か強いオーラのようなものを感じ、微動だにできない俺の目をとらえて放さない。
「……好き」
「……え?」
長門は背伸びをして俺の両頬を捉え、そのまま口づけをした。
あまりの事態に微動できないでいる俺の舌を吸い、口内を犯される。
俺の目を見つめたまま、名残惜しそうに上唇から離れた。
「……今のはエイプリルフールの冗談」
俺は軽く目眩を覚え、眉間を抑える。
……この宇宙人は何を言い出すのか? 根本的にエイプリルフールを勘違いしているのか?
「長門」
「……何?」
「実はエイプリルフールには決まりがあってだな、騙した相手に協力して、皆を騙す必要が有るんだ」
「……そう」
「そろそろ皆が登校する時間だな。とりあえず手を繋いでクラス発表を見に行こうか」
「……了解した」
手を繋いで部室から出ると、朝比奈さんが真っ赤な顔をしてドアの前にへたり込んでいた。
……エイプリルフール関連は朝比奈さんに聞いたのだろうな。
「おはようございます、朝比奈さん」
「お、おはようございます……」
「じゃあ、俺たちは先に行きますね」
「は、はい」
腰を抜かしたままの朝比奈さんを放置し、俺は長門と手を繋いだままいろんな所を歩き回った。
流石に一日中やっただけあって、俺たちは学校公認のカップルとして認知されたようだ。
「……おかしい、皆私達の関係を冗談だと思っていない」
「まあ、俺も冗談だと思っていないが」
「……あなたは私を騙した」
「俺も完全に騙されたから、おあいこだろ?」
「……卑怯」
「嘘から出た真ということわざがあってだな……」
おわり
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