第八話〜オブリビオンゲート・前編〜
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 キャンプへと足を踏み込む少し前に、一人のウッドエルフが街道を全力で走っていく姿が見えた。

 何やら叫び声をあげていたが、よほど恐ろしいことでもあったのだろう。

「(まともに逃げておるのはあやつぐらいか……)」

 街の住人と思われる人々が、街道沿いにキャンプを敷設して居るという時点で、街が機能しなくなっている、あるいはまだ敵に制圧されているかのどちらかだろうことは想像がついた。

 近場のアルゴニアンの女性を捕まえて話を聞いてみるが、彼女は街は滅ぼされたと悲しそうに語るばかりだった。

 故郷を失った、そうした人々が纏う空気を帯びている。

 マーティンという修道士について聞いてみるが、どうやらキャンプには居ないらしい。

 無事に逃げられたかどうかも怪しいだろうと言っていた。街に取り残された人を助けに行くことも出来ず、衛兵はキャンプと街の間に待機して居るらしい。

 だが……。

「(いくらなんでも、これで終わってしまうような出来事ではなかろう。その衛兵達に話を……聞いてみるか)」

 クヴァッチへ続く、崖に作られた蛇行した道を登るうちに、滅ぼされたという言葉が大げさでも何でもない事がはっきりしてきた。

 城壁はそこかしこが崩れ、哀れな姿を晒していた。街道側に、クヴァッチを隔離するように作られた木柵が並んでいる。

 果たしてどの程度の効果があるのかは定かではないが、ないよりはマシとばかりに並べて簡易のバリケードを構築していた。

 作ったのはおそらく町の外へ出た衛兵たちだろう。これだけのことが出来るというのなら、それなりに頭も人望もある隊長がいるのだろう。

 周囲の木々は立ったまま焼けたものが多くみられ、町の外にも火があふれたことがわかる。

 ちらりと崖の下にあるキャンプを見て、よくあれだけの人が生き延びたものだと思う。

 街によっては全滅していてもおかしくはなかっただろう。

「(優秀な、衛兵たちなんじゃろうな)」

 クヴァッチの正門へ続くのであろう道を進むと、地面に異様なオブジェが乱立していることに気づく。

 見たこともない、獣の牙を、より異質にしたような何かが大地から生えている。

 赤黒く染まっているそれは、一見して乾いた血のように見えるが、どうやら違うらしい。

 おそらくそういう材質なのだろう。

 地獄というものが存在するとしたら、その一部を無理やり現世に持ってくればこういうふうになるのかもしれない。

「……なんじゃ、あれは?」

 ようやっとクヴァッチの正門が見えてきた、その道の先に、別種の門のようなものが存在していた。

 赤い光を帯びて、その門の向こう側はよく見えない。直感的に、あれが居世界につながっているのだろうと確信する。

「まさか……あれが、皇帝の言った、オブリビオンの顎?」

 そう表現するに的確だろうと思える見た目を、それはしていた。

 これが、旅の目的なのだろうか?

「おい! 此処で何をしている!」

 突然怒声が飛び、声の方に視線を向けると、そこには一人の衛兵が立っていた。

 鎧は血まみれでそこら中に大きな傷が付いているし、剣はすでに刃が酷く欠けている。

 相当の激戦をくぐり抜けてきたのだろう、満身創痍の出で立ちでありながら、彼の目は死んでは居なかった。

 髪を短く刈り揃え、ヘルムはすでに使い物にならなくなり脱ぎ捨てたのか、汗が目に垂れないように巻かれた布地だけが残っている。

 血が滲んでいるところからすると止血替わりなのかもしれない。

 市民を守る衛兵の勤めを果たすべく、戦い抜いた男だと一目見ればわかる。

 そして、おそらく私も市民と間違われているのだろう。

「貴方は?」

「私の事はどうでもいい! 早く避難するんだ!」

「……そうも言ってはいられない様だけど?」

「マティウス隊長! 新手です!」

 異界の門とおもわれるものを監視していた二人の衛兵が声をあげる。

 門から、新たな敵が現れたようで、二人は弓を構えて応戦を開始している。

「くそっ! 早く逃げるんだ、いいな!?」

「手を貸すわ!」

 バリケードを迂回して、マティウスと呼ばれた男は敵を目掛けて疾駆する。

 私も腰に下げた刀を抜き放ち、バリケードの上を飛び越えて駆けた。

 雄叫びを上げながら剣を振り回すマティウスの腕は大したもので、敵を確実に追い詰めていく。数はそれほど居ないようだったし、その半数はまだ幼いスカンプだった。

 雑兵といってもいいだろう。

 一匹をすれ違いざまに切り払い、もう一匹を片手で捕まえると、ドレインタッチの魔法で体力を根こそぎ奪い尽くす。

 遠距離から二体が火魔法を放ってくるが、身を捻りそれを左右に躱す。

 電撃の魔法を一匹に放ち、その魔法に続いてもう一匹に疾駆する。次の魔法を撃とうとしていたスカンプの喉を切り裂き、電撃魔法を見舞った方を見れば焼け焦げて転がっていた。

 幼いスカンプ程度ならば、軽く捌ける程度には復調しつつあるらしい。

「うわああああぁぁぁぁぁぁ!」

 背後から上がる悲鳴に舌打ちしつつ振り返れば、二人居た衛兵のうち片方が血まみれで倒れていた。

 見たこともない、紫色の肌をした人型の何かに襲われている。

 剣を抜いて戦っているものの、マティウスの腕前とは比べ物にならない。

 そのマティウスは別の、紫色の人型の何かと斬り結んでいる。

「後ろは私が行くわ!」

 マティウスに気を散らすなと言う意味で声をかけ、血の力も開放して地面を蹴る。

 注意がもう一人の衛兵に向かっている間に、一瞬で終わらせるべく全身で刀を振るう。

 刃は、肌を少し切り裂いた程度で流された。

 全身全霊の一刀、人間であれば身体の上半身と下半身が泣き別れするであろう鋭い一閃を受けて、この化物は浅く身体を裂かれた程度にしかならなかった。

「なんて硬さ……」

 とっさに距離を取ろうとするが、まだ衛兵が距離をとれておらず仕方なく肉薄する。

 手に魔力を放出し強力な冷気を纏わせる。アイスタッチと呼ばれる魔法で近接戦を挑んでみるが、こちらも効きが甘い。

 相手は手を大きく振り回し、その爪で私を引き裂こうとしてくる。動きはかなり早いが無駄が大きいため、かろうじて躱せる程度。

 並の衛兵には、いや、私でも荷が重い。

 仕方なしにウエストポーチに手を伸ばし、薬瓶を一本取り出す。

 衛兵が少し離れたのを確認し、薬瓶を投げてそれを刀で斬ることで、刃に薬品を塗りつけた。

 わずかに距離を取り、複数の雷撃を一斉に打ち込む、一瞬だけ相手が怯んだのを見て、もう一度一閃を放つ。

 硬い、岩を斬るような手応えとともに、化物の肌が裂ける。

 その直後から目に見えて化物の動きが悪くなり、数秒後には倒れこんでしまった。

 毒の方には免疫が薄いらしく、予想以上の効果だった。

 生命力ではなく、体力、スタミナを奪う毒だが、うまく行ったらしい。

 倒れているうちに止めを刺すことに成功し、血まみれで倒れていた衛兵を確認するが、もう絶命していた。全身は鋭い鉤爪のようなもので切り刻まれた後がある。

 マティウスはちょうど化物を倒し終えたらしいが、折れた剣を手にこちらへと歩いてきているあたり、危ない所だったのだろう。

 周辺には、とりあえず敵の気配は無くなった。

「……ジェサンがやられたか……クソッ!」

 血まみれで倒れている衛兵はどうやらジェサンという名前だったらしい。マティウスは彼の前で短く祈りを捧げる。

 今はそれぐらいしか出来ないのだが、様々な感情の混じりすぎた表情からその心の中を見ぬくことは出来なかった。

「助太刀に感謝する。私の名はサヴリアン・マティウス。クヴァッチの衛兵隊の隊長を務めている」

「私はソマリ、マーティン修道士を訪ねて来たのだけれど、これはどういう状況かしら?」

「どういう状況か、だと? 見ればわかる、我々は街を失ったんだ!」

 やり場のない憤りが、私の問いで溢れてしまったのかもしれない。マティウスは折れた剣を地面に叩きつけて、話を続ける。

「あっという間の出来事だった。我々は一部の市民を街の外へ連れ出すのが精一杯だった。まだ中には人が残っている」

「助けには行かないの?」

「……行けないのだ。あの忌々しい、オブリビオンゲートがある限り」

 オブリビオンゲート、という呼称に誰が名付けたのか疑問に思うよりも、無難な呼称だと思った。

 古の神話に出てくる、オブリビオンの世界とつながっていると言われても、おかしくはないだろう。見たことのない敵も、オブリビオンの世界のディードラ──死とは無縁とされる、人間種族とは相反する存在、大概の場合敵──の眷属だと言われれば納得できてしまう気がする。

「なるほど……敵が現れるゲートに背を向ければ挟撃される。現れる前に突破するだけの力はない、ということね。……どうするつもり?」

 私の問いに、マティウスはジェサンの持っていた剣を拾い上げながら答える。

「我々に出来る精一杯、この場所の死守だ。このバリケードを破られれば、奴らはこの崖下に作られたキャンプにまで押し寄せるだろう」

 進むに進めず、引くに引けず、そういった状況に陥っているというのは理解出来た。

 下がれば市民キャンプが襲われる。

 進むにはゲートが危険極まりない。

 しかし街の中にはまだ取り残されたであろう人々が居るはず。

 この状況では、確かに身動きも取れなくなるだろう。

「マーティン修道士は、無事かわかる?」

「マーティン? ああ、彼のことか。最後に見たときは市民を連れてアカトシュ礼拝堂の方へと向かっていた。無事で居てくれればいいが……」

「なるほど、ね」

 可能性がまだ残っている、というのであれば、皇帝の数奇な運命とやらは間違いなく彼を生きながらえさせているだろう。

 こんなところでディードラ─そう呼称することにしよう─に襲われて死ぬ、などというありきたりな終わり方はしないという、妙な直感があった。

「力を貸すわ」

「……なんだと?」

「力を貸すといったの、私はマーティン修道士に用がある。そのためにはこの状況が邪魔だわ。ゲートをどうにかする手立てはある? それともゲートを無視して街へ突貫してみる?」

「正気、なのか……? 君は唯の……いや……だが」

 私の問いに、マティウスは即座に首を横に振る。私の申し出をうけるべきか迷っているのだろう。同じ事をされれば、誰だって同じ反応をするだろう。

 私の見た目も含めればなおさらだ。だが、すでに私の実力を一度見ている彼は、短い熟考の末に、私の申し出をうけることにしたようだった。

「ゲートをそのままにして街に突撃しても、籠城する者の数が増えるだけだ。ゲートを閉じなくては」

「どうやって?」

「わからん」

 手段もなく、それでもそういったことを言うのに何か理由があるのではないかと次の言葉を待つ。

「敵は最初の攻撃の時に、開門したゲートを閉じている。閉じる方法は確実に存在するはずだ。地面に巨大な残骸が在るだろう。それが最初、今あるゲートとは比べもにならないほど大きいゲートを形成していた」

「なるほど……こちら側から何かしたわけではないのね?」

「そうだ、城壁を破壊し尽くしたところで勝手に消えた」

 嫌な感じだ。

 話を聞く限り、こちら側にはゲートを閉じるような手段は存在しないだろう。それは間違いなく向こう側で何かしたからだと思われる。

「ゲートの向こう側に行くしか無いわね」

「ああ、ゲートを閉じる手段を探るため、中に部下を送ったのだが……未だに帰ってこない。ゲートの中に向かうというのなら、彼らに何があったのかも調べてくれ、何かわかるかもしれない。もしも生きていたら、彼らを手伝ってほしい」

「ふん……まったく、厄介な状況よね。こちらの守りは任せるわよ、あとこれをあげるわ。少し身体を休めておきなさい」

「感謝する、また会おう」

 彼に手製のポーションを幾つか渡す。まだそれほど目覚しい効果があるわけではないが、現状では無いよりずっと良いだろう。

 彼に後を任せ、抜き身の刀を構えたまま、私はゲートの中へと身を躍らせた。

 圧迫感などは無く、不思議な、水の中に浮かぶような、あるいは空を飛ぶような、そんな妙な感覚に包まれて景色が歪んでいき、やがて暗転した。

 

 *   *   *

 

「なんじゃ、此処は?」

 酷く赤い色彩の世界だった。空は黒と赤い雲に覆われていて、大地のそこかしこに溶岩が流れている。見たこともない植物は枯れているような状態で、それでも生息していたし、その形状もおよそ私たちの常識には無いような奇怪な形状をしていた。緑はどこにも見えず、あるのは岩と岩肌のような大地。そして何らかの文字の刻まれた石柱が並べられている。

 ゲートの残骸と言われたものと似た形状の、牙か、あるいは爪のような形をした何かがそこかしこに生えていて、そんな世界に、遠目に角柱と牙、あるいは爪の形状を混ぜあわせた建造物と思われるものが屹立していた。

 オブリビオンゲート、まさにその言葉通りだったのかもしれない。言い伝えにあるオブリビオンの世界さながらだった。

 いや、此処がきっとそうなのだろう。そうに違いないと確信できる。

 回りを見回してみるが、衛兵の姿は見えなかった。もっと奥に進んでいるのだろう。

 普通の人間であれば、こんな世界すぐにでも逃げ出したいだろう。きっとこちらに乗り込んだ衛兵も、勇敢なものに違いあるまい。

 岩肌や草陰などに姿を隠し、極力隠密しながら移動する。すべての敵を切り伏せて進むような力は今の私にはないと判断しての事だった。

 目指すべきは最初に遠目に見えた建造物だと判断し、そこに続く道を慎重に進む。

 やがて、道の真ん中にまだ小型のクランフィアが数匹、たむろしているのを発見して私は足を止めた。

 二本足で屹立する、牙と角を持つ爬虫類で非常に足が早い。あの数に見つかれば厄介だと思い石の影から慎重に覗いてみるが、何かを食べるような動作をしていた。

「(あんな道の真ん中に食べるもの?)」

 ひどく、嫌な予感がする。

 一匹のクランフィアが食べる場所を変えるのか立ち位置を変える、そうして覗いたのは剣を持った人間の手だった。

 クランフィア達が頭を動かすたびに、剣を持った手がわずかに動く。それを認識した瞬間、私は飛び出していた。

 血の力の開放もお構いなしで、一匹を切り伏せ、もう一匹を掴みアイスタッチの魔法を発動させる。

 マギカの制御をされること無く、滅茶苦茶に放出された莫大な冷気は瞬く間にクランフィアを凍結させていく。

 途中で掴む手に力を込めてやると、凍りついたクランフィアはバラバラに砕け散った。

 残る一匹が襲いかかってくるのを、ギリギリまで引き付ける。

 そうして射程距離に入った瞬間、思い切り頭を蹴りあげる。めきり、と骨が軋み砕ける感触とともに、クランフィアがあらぬ態勢で吹き飛び、やがて坂から転げ溶岩の中へと落ちていった。

 大量のマギカの消失、血の力の効果が切れて急激にだるくなる身体で、足元に視線を向け、すぐに目をそらした。

 その無残さは語るべきではあるまい、だが……名前も知らぬ衛兵は最後まで剣を離さず、戦い抜いたのだろう。

 死してなお手を離れることのない彼の剣だけを拾い上げ、背に下げておく。剣があれば、マティウスならば部下の誰かがわかるかも知れないと判断しての事だった。

 私は再び、建物を目指して進むしか無かった。

 崖の下を、足音を殺してゆっくり歩いている最中、突然何かに足を絡めとられ、そのまま宙吊りにされる。

 植物のツタが私に、意志があるかのように絡み付いていた。とっさに剣で切り払うが、そのままの状態で落下して、絡まったツタの所為で受け身が取れなかった。

 幸いなことに傍にディードラが居なかったから良いものの、戦いの最中だったら致命傷になっていたかもしれない。

 罠かと思ったが、足に絡まったツタを解く中で、唯のそういう植物であることがわかり、近場にあった同じ植物で多少どういう生体なのか確認することが出来た。

 状況次第では使えるかもしれない。

「(いや、流石にこの世界に住む相手には使えぬ、かの?)」

 地の利は向こうにある。それを上回るには可能な限りの準備や、あるいは研鑽が必要となるだろう。

 研鑽はまだ足りないだろうし、準備にしてもクヴァッチがこんなことになっていると思っていなかったため、不十分と言わざるをえない。

 ならば、慎重さと応用を駆使するしかない。

 だいぶ建造物まで近づいてきたところで、奇妙なものを見るようになった。

 この世界の果実なのか、それとも他の何かなのか……。少なくとも植物のようには思えない。

「(どちらかと言えばもっとこう、肉質的な……)」

 その、肉質のかたまりから何か覗いているのに気がついて、それに手を伸ばしてみた。

 盾のようで、魔力の付与もされているらしい。軽く引っ張ってもとれず、肉質の何かに癒着しているようだった。

「ふむ……切り開いてみるかの」

 ナイフを取り出し、肉質の塊に差し込む、時折何か固い小石のようなものに当たる感触とともに、それはあっさりと切り開くことができて、中身がこぼれてきた。

 赤い液体と、砕けた白い小石、そして、どす黒い色に変色した何か……。

 それが、人間を構成するものだと気づいたのは、その中に眼球が覗いていたからだった。

 身体が硬直し、身動きが出来ない。

 何をどうすれば、人間がこんなことになる?

 ぼたぼたと溢れだした血は水たまりとなって広がり、その領地を広げている。

 この形状で生きているわけはないと思うが、理性がそんな風には働かなかった。

 吐き気を抑えて、その場から、その人間の成れの果てを視界に入れないようにした。

 オブリビオンの世界、私達とは違う価値観と法則に支配された世界。

 こんな世界に、もう一秒だって居たくはない。

 先ほどの慎重さを完全に削がれ、私は自然、普通に道を進み始めていた。

 数匹のディードラを道中で屠り、建造物の前にほど近い道へと至ったところで、今度はディードラが現れなくなった。

「(妙じゃな……この周辺は気配がまるでない……)」

 明らかに戦うに適した、あるいはそれを考慮に入れているような地形でありながら、ディードラの姿は見えない。

 何かあると直感するが、それでもまだ私の理性や集中、感覚といったものは正常に戻りきっていなかっただろう。

 左側から何かが外れる音がして、とっさに視線を向ける。

 何か、両の手のひらの上に乗る程度のサイズの物が中に浮かび、高速で回転していた。

 それがどういう性質のものなのか、理解こそ出来なかったものの直感に従って距離をおこうとする。

 直後、その謎の物体はそのサイズからは考えられないほどの爆音と爆炎を巻き起こし、その身の破片をまき散らした。

 その爆風と熱波はやすやすと私を吹き飛ばし、巻き上げられた私は、破片から身を守るのが精一杯で受け身すら取れず岸壁に叩きつけられた。

 爆炎と破片によるダメージ、そして叩きつけられた衝撃と、そこからの落下のダメージは思いの外大きかった。

「(つ、ぅ……自立式の爆弾、か……見た目以上の威力じゃった、の……)」

 手から離れて転がり落ちた刀に手を伸ばしながら、そのまま身体は動かさずに回復を待つ。

 しばらくすれば、ディードラの斥候のようなものが確認に現れるだろう。その時まで体力を温存しておく必要が有る。

 体の状態、特に四肢に力を入れて確認し、大事ないことを確認する。

 しかし、しばらくそのままの状態で待ってみたものの、ディードラが様子を見に来るといった気配は一向に訪れ無かった。

 身体がある程度回復したところで身を起こす。零れた血が地面にわずかに赤いシミを作っていた。

 近くに気配は感じない。

 翌々考えてみれば、街一つ滅ぼす大軍が居るはずのゲートの内部が、こんなに静かなわけもない。

 違和感がある、だがその正体がはっきりとしない。

「(妙じゃな……もしや、奴ら判断に困っとるのか?)」

 オブリビオンゲートの内部に、逃げ惑う人間を引きずり込んだことならば何度もあるだろう。

 しかし逆に、相手が武器を持って乗り込んできたというのは、予想外だったのかもしれない。

 だとすれば、そこが突破口になるかもしれない。

 微かな気配を感じて顔をあげると、遠隔地から火球の魔法が飛来してきた。

 身を捻りそれを避けると、魔法を撃ってきたディードラはすぐに物陰に姿を隠してしまった。

「(なるほど、直接出てくる手合いが少ないのはそういうことじゃったか……、こりゃ、早いうちにどうにかしないと、手がつけられなくなりそうじゃな)」

 何か考え違いをしている気がしないでもないが、今それを考えるべきなのかの判断がいまいち定まらない。

 とりあえず身体を起こし、先ほどのトラップに注意しつつ、更に先へと進むことにした。

 途中目についた、異界の植物をふとした思いつきで採取してみる。

 この世界の生物にはあまり有効ではないかもしれないが、外に戻れば使い道があるかも知れない。

 道は段々と、建造物のようなものが増え始めていた。

 幾分荒い作りではあるが、壁のようなものもこしらえられている。

 元からあると思われる建造物に比べて、随分と新しい印象をうけるそれらは、建築様式にしても少し違うように見受けられた。

 その奥の道には溶岩だまりのような場所がいくつか存在し、その上で業火が燃え盛っていた。

 小柄なクランフィアが一体だけで駆け寄ってくる。足を狙って刀を一閃し動けなくして、業火の中に生きたまま投げ込んでから更に先、最初に目をつけた建造物、巨大な塔を目指す。

 背後からクランフィアの断末魔が聞こえたて、それ以降クランフィアの姿を見ることは無かった。

 

 多少の迷路のような構造の壁の群れなどを超えた先に、やっと塔の入り口が見えてきて、小さく息を吐く。

 三時間ほどは掛かっただろう、見た目の距離よりも随分と時間がかかったのは、かなりの迂回を強いられたことと、道中に出てきたディードラの影響が大きい。

 建物の前に見張りぐらいは居るだろうと、物陰から伺ってみると、案の定何やら巨大な人影が見て取れる。

 遠目だからそのサイズや種族などはまだわからないが、私の三倍ほどの体躯だろうか?

 誘い出してみるかと思い、電撃の魔法や冷気の魔法を打ち込んでみるが、反応が鈍い。

 手持ちに弓もない事を考えると、近づくしか無かった。

 ある程度近づいてわかったことは、その門番らしき人影は、普通の種族ではなかったということ。

 その巨躯を構成しているのは、おそらくこの世界の岩石だろう。不思議な色合いで形作られ、目も鼻も口も存在しない、ただ形状だけを人間に模してある。

「(ゴーレムか、厄介じゃな……)」

 魔力を込めて作られたゴーレムは、作られた素材により特性が変わる。知っている素材であれば対応も可能だけれど、それが自分たちの知らない素材であると対応を手探りにならざるを得ない。

 倒す手段には二つあり、もっとも原始的かつ確実なのは物理的な破壊。

 そして、もう一つがゴーレムを形成し、命を宿している魔力をすべて吹き飛ばすこと。

 しかし、先ほど数度魔法を打ち込んでもさしたる反応を見せなかったところを見ると、魔力をすべて吹き飛ばすというのは無茶、無謀に分類される気がする。

 しかし、あの岩のゴーレムを物理的に破壊することも不可能のように思える。

「(どうしたものかの……剣で切れるような代物でもないじゃろうし……)」

 入り口を前に足止めを喰らい、しばしどうするか考えることとなった。

 

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予定投稿日より一週間ほど遅れてしまいました。これからパソコンの再構築始めるので次回も少し遅れるかも知れません。
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