博麗の終  その16
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【識者の思惑と幼子の真心と】

 

 レミリア・スカーレットが、声をあげて泣いている。

 

 少しだけ上を向いた顔からは、ぽろぽろと溢れ出す涙がぽたぽたと滴っている。両腕はだらんと垂れ下がったまま、無警戒で無防備な様を曝け出している。

 

 

 八雲紫は、レミリアに言葉をかけた時からずっと、顔を伏せていた。

 

『今なら誰でも、私でなくとも、致命傷を与えることができるのに』

 

 そんなことを思いながら、ただ時を待っていた。

 

 レミリア・スカーレットが動き出すその時を待っていた。

 

 

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 どれだけ泣き続けるのか。

 

 子供ならば、泣き喚いて感情を発散したら終わりである。レミリア泣き様は幼いようではあるけれど、だからこそ子供ではないのだろう。

 

 

 長かったのか、短かったのか。

 

 ずっと盛大に泣いていたレミリアの声が、ほんの少しだけ小さくなってきた。

 

『動く?』

 

 紫は体勢こそ変えてはいないけれど、いつでも動けるように気持ちの準備はできている。全ての仮定も推測も消し飛んだ今、予想不能な状況には臨機応変に立ち回らねばならない。

 

 レミリア・スカーレットをこの部屋に招き入れた意味を、果たしてもらわねばならない。

 

 紫の行動は、読めない動きをする吸血鬼によって振り回されている。

 

 先読みができない状況は、思惑のある者に厳しい。

 

 

 レミリアは、まだ泣いている。

 

 横たわる博麗霊夢の方を向いたまま、布団の傍で泣いている。

 

 

 レミリアが、泣いたまま動き出す。

 

 八雲紫は顔を伏せたまま、緊張を表に出さないよう努めている。

 

 

『霊夢へ向かうか、私へ向かうか』

 

 吸血鬼化か、怒りか。

 

 

 レミリア・スカーレットは一歩を踏み出そうとして、やめた。

 

 霊夢の方へと身体を向き直して「楽しかったわ。本当に、ありがとう」と、聞き取れないほどの泣き声で言った。

 

 

 そして、ゆっくりと一歩を踏み出した。

 

 

 ままならない足取りで、一歩一歩、障子の方へと向かって行った。

 

説明
親しい者のために泣ける、大切なことです。
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