真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 第二十三話 This boring rock
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                                  真・恋姫†無双異聞〜皇龍剣風譚〜 

 

                                   第二十三話 This boring rock

 

 

 

 

 

 

「えぇい!!」

 顔良こと斗詩は、穏やかさを残した声に気合を込め、金光鉄槌で怪物の((鎖鋸|チェーンソー))を薙ぎ払った。

「うりゃあ!隙アリだぁ!!」

 

 怪物が体勢を崩した瞬間、文醜こと猪々子が、狐の様な俊敏さで、怪物のガラ空きの胴に斬山刀を横薙ぎに叩き付ける。

「グ、ギィィィ!!?」

 怪物は、俊敏に仰け反って躱そうとするものの、大きく踏み込んだ大剣の刃の切っ先は怪物の外骨格を捉え、真一文字に引き裂いて、そこから鮮血を溢れさせた。

 

「へへん!どんなもんだ、ってな!」

 猪々子は斬山刀を振り戻し、改めて肩に背負う様にして構えながら、愉快そうに笑った。斗詩が猪々子に示した策、それは、『自分達の役割を、いつもと逆にする』事。

 即ち、斗詩が前面に出て敵と打ち合い、猪々子がその隙を衝いて急所に攻撃を叩き込む、と言う戦法だった。

 

 これは、鋼鉄の塊に更なる補強を施した斗詩の金光鉄槌の耐久力を頼みとして、敵の強力な鎖鋸を封じ、猪々子斬山刀による斬と突で、敵の防御を切り裂くと言う作戦でもあった。無論、怪物の武器とて、ただの工業製品の流用などではない。

 油断をすれば、如何な鋼鉄の塊とて切り裂いてしまうであろう。しかし、それは、“対象がじっとしていれば”、の話である。

 

 斗詩は、武器と武器がぶつかり合う瞬間に金光鉄槌の角度を僅かに変え、絶妙の加減で“((往|い))なし”ていた。これにより、自身が常に高速で回転している怪物の鎖鋸は強い反発力を以って弾かれ、否応なく、大きく体勢を崩す事になったのである。

 

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 そして、阿吽の呼吸でその隙を付いた猪々子の斬撃により、怪物の身体には、今や三筋の大きな傷痕が刻まれていた。

「次の次でキメるよ、文ちゃん!!」

「応、まかしとけ斗詩!!」

 

 怪物の動きが鈍ったのを好機と見た斗詩が、怪物から視線を逸らさずに叫ぶと、猪々子も同じ様に怪物を睨み付けながら、股を割る程に低く、腰を落とす。

「((哈|ハ))ァァァ!!」

 斗詩は、金光鉄槌を腰に抱え込む様に構え、鐘木で鐘でも衝くかの様に、怪物の胴に向かって突き出した。

 

「グギィィィ!!」

 怪物が、((拳闘士|ボクサー))の様に両手を揃えて地面に踏ん張り、どうにかそれを受け止めると、怪物の両腕の鎖鋸に、メキメキという不気味な音と共に無数のヒビが広がっていく。

「そりゃぁあ!!」

 怪物が、余りの衝撃で完全に動きを止めた一瞬、猪々子は凄まじい速度で怪物に突進し、揃えられた怪物の両腕に、振り上げた斬山刀を叩き付けた。

 

 ((忽|たちま))ち、手首から先を断ち切られた怪物の両腕から鮮血が迸り、怪物の憤怒とも悶絶とも付かぬ叫び声と共に、辺りに降り注ぐ。

「ま・だ・ま・だァァァ!喰らえ、斬山刀―――斬山斬!!」

  猪々子の裂帛の気合と共に放たれた剣閃が、怪物の身体を袈裟切りに縦断する。瞬間、猪々子は大きく後ろに跳躍しながら叫んだ。

 

「今だ!往け、斗詩ぃ!!」

「右手に天国、左手に地獄……光に、なりなさぁぁぁい!!」

 猪々子の攻勢の間、呼吸を整え、精神を集中していた斗詩の必殺の一撃が、虚ろに空を仰ぐ怪物の瞳の上に炸裂した―――。

 

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 蒼い流星が、大地を駆ける。その牙を以って、((歪|いびつ))を屠る為に。

 ブシュっと、不気味な音が響いた。

「無駄だ……!」

 蒼き流星―――趙雲こと星―――は、すいと僅かに身を逸らして、飛来した恐るべき溶解液を難なく躱した。

 

 続けざまに二発、溶解液の塊が飛来する。

 星は、それも小さなサイドステップを交えて躱し切ると、僅かも速度を落とさずに、怪物との距離を詰める。溶解液が塊となって飛来する際の大きさ、速度、連射可能な間隔……全ては、麗しき流星の予測の範疇。

 

 最早、彼女を阻むことなど出来はしない。

「ゴゥヴヴ!!」

 怪物が、口惜しそうな声を上げて大きく息を吸い込んだ刹那、星の瞳に、鋭い閃光が疾った。同時に、怪物の溶解液よりも鋭い風切り音が、空を裂く。

 

 一瞬、スポン、という間の抜けた音が響いた後、怪物は驚愕と苦痛が綯い交ぜになったような唸り声を上げて自分の口を抑え込み、その場で不格好な((舞踊|ダンス))を舞い始めた。怪物の口からは、ピンクや((赫|あか))混ざった様な、何とも形容しがたいものが溢れ出て来る。

 それは、逆流した怪物の溶解液が溶かした、“怪物自身”の成れの果てであった。だが、怪物は、この事態が、星が拾って袖に隠し持っていた、何の変哲もない、握り拳ほどの大きさの石によって引き起こされたなどとは、気付きもしなかったであろう。

 

 星は、怪物の溶解液が、木や草は瞬時に蒸発させる程の勢いで溶かし尽くせるのに対し、石や地面は、僅かに溶解する速度が遅れる事を見抜いていた。どの道、溶かされてしまう事に変わりはないが、細い管から凄まじい速度で発射される溶解液を、一瞬でも堰き止める事さえ出来れば十分だ。

 発射の勢いが強ければ強い程、それは逆流する時の勢いに転化されて、怪物の体内を喰らい尽くすのだから。

 

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 竜の名を持つ蝶が、必殺の牙を剥き出しにして、穢れた大地を疾駆する。その瞳には、普段の常に人を((揶揄|からか))っているかの様な、悪戯な光は見えない。

 あるのは、眼前の歪な生物への憐れみと、余りに激し過ぎて返って静かに見える程の、義憤の光。

「我は無敵!我が槍は無双!喰らえ―――趙子竜の一撃を!!」

 

 音をも超える程の速さの一閃が、怪物の胴を切り裂く。

 そうして訪れた一瞬の静寂の後、((散水機|スプリンクラー))の様な音と共に、(それこそまるで散水機((宛|さなが))らに)、怪物の胴から、夥しい鮮血が霞の様に噴出した。それでも尚、怪物は踊り続ける。

 苦しみが増したからなのか、それとも、己が身体を内から((灼|や))くと言う事は、((腸|はらわた))を切り裂かれたのが解らぬ程の苦痛なのか。

 

 だがしかし、その死の舞踏は、不意に終わりを告げる。動きを止めた怪物の身体の中心からは、紅く、赤く、ともすれば禍々しさすらをも感じさせる二本の刃が、隆々と突き立てられていた。

「我が((戦友|とも))を((嬲|なぶ))り殺しにせんとした貴様に、掛ける情けはない―――然るにこの介錯は、貴様を“造る”為に心と誇りを奪われた、名も知らぬ五胡の戦士の為と知れ……」

 

 星は、冷たい瞳で怪物の背中に向かって静かにそう言い放つと、音も無く、その背に突き刺した龍牙を引き抜いて血を払った。未だ冷たい光を放つ紫の瞳に、僅かな哀しみを覗かせて―――。

 

 

 

 

 

 

 風を切り裂き―――いや、断ち切り、蛇矛の滑らかな曲線を描く刃が、幾重もの多彩な軌跡を中空に描いて、怪物に迫らんと咆哮を上げる。掠る、僅かに。

 だが、燕人張飛の代名詞、一丈八尺(約5.6m)もの((間合い|リーチ))を誇る蛇矛を以ってしても、徹底的に届かない。

 

「この……!!」

 張飛こと鈴々は、苛立ちも露わに間合いを切った。((相対|あいたい))した怪物は、腰を落として大きく((顎|あぎとを))開いた。

 鈴々が横に大きく跳躍するのと同時に、バレーボール大の六つの火球が、酸素を燃焼させながら鈴々に迫る。

 

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「またそれか!?」

 鈴々は、サイドロールと高速のバック転を巧みに組み合わせて六つの内の五つを華麗に躱すと、最後の一つを、蛇矛の刃の腹で((強|したた))かに打ち据えた。燕人張飛の剛腕で打ち返され、凄まじい速さで怪物に向かって打ち返された火球は、しかし、怪物の顔に直撃する事なく、空中で爆散した。

 

 怪物が新たに火球を放ち、空中で打ち返された火球を相殺したのである。

「くぅ〜!今度はいったと思ったのに!!」

 鈴々は、悔しそうに歯噛みをしながら、蛇矛に切っ先を怪物に向けた。燕人張飛をして肉薄を許さない怪物の強さは、この火球と火炎放射の使い分けにあった。

 

 距離を詰めようとすれば、火炎放射による“線”での攻撃が待っている。攻撃時間そのものも長いこれの射程距離は、少なくとも、鈴々の蛇矛よりも二尺から三尺は長い。

しかも、怪物の前面、160°をほぼカバーしうるほど広範囲に展開が可能だった。で、ならばと距離を取ると、今度は火球が飛んで来る。

 

 鈴々の見たところ、一度に連射出来るのは精々、五・六発が限度の様だったが、((再装填|リロード))に掛かる時間が、大体、二呼吸程と速く、鈴々の俊足を以ってしても、弾切れを衝いて肉薄するにはやや時間が足りなかった。

 蛇矛の投擲で仕留める事も考えたが、万が一外した場合、怪物の火球の間合いで丸腰になるのは、余りに危険が大き過ぎる。

 

「(う〜、これじゃ、埒が明かないのだ……イチバチだけど、最初に考えたヤツを試してみるのだ……)」

 鈴々は、一度だけ深呼吸をすると、蛇矛の柄のきっかり真ん中を両手で握り、切っ先を怪物の鼻先に合わせる。((義姉|あね))を傷付けられた―――((義兄|あに))に、任せろと大見得を切ったのだ。

 ならば、張翼徳の意地に賭けても、蛇矛の刃であの怪物を斬り伏せねば、武人としての沽券に関わる。

 

「往くぞ、怪物!勝負なのだ!うりゃりゃあ!!」

 鈴々がそう叫んで、怪物に向かって一直線に((吶喊|とっかん))すると、その姿を見た怪物は、僅かに大顎を振るわせた。怪物の思考に呼応して、身体に内蔵された機関が、((形態|モード))を火球から火炎放射へと移行させる。

 

 禁忌の魔術で造り出された強靭な肉体に超高温の炎が満ち、溢れだそうとしていた。怪物の黒目ばかりの((眼|まなこ))が鈴々との距離を目測し、開かれた大顎の奥に、禍々しい光が灯る。

 そして業火は放たれた。その荒々しい((畝|うね))りが、周囲の酸素もろともに、万夫不当と謳われた豪傑の小柄な体を呑み込んだ―――。

 

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 怪物が勝利を確信し、最後の駄目押しをすべく炎の出力を上げようとした瞬間、不意に炎が逆巻いた。

「うりゃりゃりゃりゃー!!」

 炎の中から、妙に気の抜けそうな、しかし、裂帛の気合を込めた叫びが木霊する。その声の主は、無論、燕人張飛その人であった。

 

 鈴々は、両手に握った蛇矛を高速で回転させ、怪物の炎を((押し返していた|・・・・・・・))のだ。最初こそ、不安定な風切り音を出していた蛇矛は、瞬く間に速度を上げ、高速で走る車のエンジンの様な、低く静かな、安定した音に変わった。

 鈴々は、驚愕の唸り声を上げた怪物が、更に炎の勢いを強くした事も意に介さず、大股で一歩一歩、怪物ににじり寄って往く。

 

 炎を押し返して怪物を射程圏内に捉えた鈴々は、それまで自分の正面で回転させていた蛇矛の角度を、上に向けて逸らした。すると、怪物の口から放射された炎は火柱となり、天に向かって打ち上げられる。

 これぞ、彼女の真骨頂。例え相手が何者であろうとも、恐れず、退かず、不退転の意志と類い稀なる武勇を以って、真正面から打ち砕く。

 

 即ち―――。

「突撃!粉砕!勝利なのだぁぁ!!」

 猛虎の咆哮と共に、回転の勢いを利用した蛇矛の刃が、怪物の身体を両断した。

 

 

 

 

 

 

「ガァァァ!!」

「ギィィィ!!」

 二体の怪物が同時に跳躍し、常人ならば触れただけで一溜まりもない、鋭利な爪を振り上げる。が、しかし、着地と共に獲物を無残に切り裂く筈のその爪は、二本の棒に遮られ、中空でぴたりと制止していた。

 

「……笑止!」

 美しい軍神は、面白くもなさそうに嗤ってそう呟くと、二つに分かたれた青龍偃月刀の下半分と、柄下の部分でそれぞれ受け止めた怪物の手首を振り解いた。

 瞬間、怪物二体の巨躯が、無造作に空中に跳ね上げられる。

 

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 愛紗は、空中で体勢を立て直そうと足掻く怪物を睨み付けながら、両手に握られた青龍偃月刀を、腕ごと交差させるように構え直した。

「我が魂魄を込めた一撃―――受けて見よ!!」

 怪物達が、重力に従って落下を始めた直後、対空ミサイル((宛|さなが))らに跳躍した愛紗の両腕が、唸りを上げる。

 

 落下と飛翔がすれ違う僅か一呼吸の間に、愛紗の両腕から放たれた斬と突の数は実に、六十と三。その((悉|ことごと))く全てが必勝の威力を秘め、怪物の身体を切り裂き、穿つ。

 怪物達が、愛紗に僅かに遅れて地面に激突した時には、既に異形は息絶えた後であった。

「これで最後―――か」

 

 愛紗はそう言って、ほぅ、と息を吐いた。周囲を見渡せば、遠く離れて戦っていたメンツの方も、((其々|それぞれ))に決着が付いた様だった。

「うむ。皆、流石だな……」

 愛紗は、僅かに頬を緩めて独り言を言うと、北郷一刀の愛馬、龍風と、掌サイズの小さな獣達の布陣に護られている張三姉妹と部下達の方へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「すっごいね〜!愛紗ちゃん!!」

 天和が、獣達が空けてくれた足場を歩いて近づいて来た愛紗に抱き付きながら、嬉しそうに大声を上げた。

「いや、なに……これ、天和。服が汚れるぞ……」

 照れ臭そうに頬を染めて、張角こと天和をやんわりと引き離した愛紗は、改めて周囲の人々に目を遣った。

 

「地和、人和、怪我はないな?((寥化|りょうか))、兵達に欠員は?」

 張宝こと地和と張梁こと人和が頷くのを確認した愛紗がそう尋ねると、寥化が姿勢を正して報告をする。

「はっ。傷を負った者は私を入れ四人おりますが、いずれも軽傷ですので、問題ありません!」

「そうか。ならば、良かった……」

 

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「ち―――っとも良くないわよ!!」

 愛紗の安堵の言葉を聞いた地和が、頬を膨らませ、不貞腐れた様に叫けぶ。

「ちぃ達の馬車!四頭立てで意匠も内装も特注品だったんだから!!う〜、折角、気に入ってたのにぃ……馬車馬は全部逃げちゃうし、もうサイアクよぉ……」

 

 捲くし立てている内に状況を再認識してしまったのか、塩を掛けられたナメクジの様に萎んでしまった地和の肩を、人和がポンポンと叩いた。

「まぁまぁ、ちぃ姉さん。馬車は、また作れば良いんだから」

「うっわ〜。ケチんぼの人和ちゃんがそんな事言うなんて、お姉ちゃんビックリ〜!!」

 

 妹達の遣り取りを見ていた天和が、心底驚いた様にそう言うと、人和を眼鏡のブリッジを押し上げながら、やれやれとでも言う様に溜息を吐いた。

「当たり前でしょう、天和姉さん。命あっての物種だもの……それより、明日から暫く、姉さんのご飯のオカズ、一品減らすから」

 

「えぇ!?な、何でぇ、人和ちゃ〜ん!?」

「あのねぇ、天和姉さん……」

 人和が、大きな瞳を潤ませて抗議の声を上げる天和に何事かを言い返そうとした瞬間、周りに居た小さな獣達が、一斉に立体を失い、小さな紙切れへと姿を変えた。

 

「……え!?」

 虚を突かれた人和が素っ頓狂な声を上げるのと同時に、大量の紙切れは、音も無く地面に舞落ちる。

「地和、どう言う事なのだ、これは!?」

 その場に居た全員が、呆然として事態を見守っていた中、真っ先に反応した愛紗が、唯一、妖術に精通する地和に質問を投げかけた。

 

「どう言う……って、そんなの……遣い魔が実体を失うって事は、術者が自分から繋がりを断って遣い魔を引っ込める時か……」

「ま……さか……」

 愛紗が、表情が抜け落ちた様な顔で、絞り出す様な声で続きを促すと、地和は、力無く俯いたまま答えた。

 

「うん……術者が“何らかの理由”で、力を供給出来なくなった時……つまり、気絶するとか……その……」

「言うなッ!!」

 愛紗がそう叫んで、一刀が饕餮と共に消えた方向の森に厳しい視線を投げると、それと全く同時に、漆黒の影が悠々とした足取りで、森の中から姿を現した。

 

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「とう……てつ……!?」

 愛紗は漸くそれだけ呟くと、突如として襲いかかって来た猛烈な((眩暈|めまい))を、如何にかやり過ごす事に集中せざるを得なかった。何故なら、“饕餮だけが出て来た”と言う事実そのものが、愛紗達の懸念を肯定するものだったからだ。

 

「これは―――中々、豪華な出迎えだ」

 饕餮は、兜の奥でそう言うと、優雅とも言える動作で周囲を見渡した。その視線の先には、それぞれの敵を倒して愛紗の元へ駆け付けてくる少女達の姿が映っている。

「お前〜〜〜!愛紗と戦うなら、その前に鈴々が相手になるのだ!!」

 

 饕餮は、自分と愛紗達の前に立ち塞がって気勢を上げる鈴々に向かって僅かに微笑むと、((緩々|ゆるゆる))と首を振った。

「いや、手駒も全て失った様であるし、個人的な用事も済んだ……今は、そんな気分では無いな」

「ほぅ―――その“個人的な用事”とは、如何なる内容かな?事と次第によっては、お主の気分の良し悪しに関係なく、我等と剣を交えてもらう事になるが……」

 

 鈴々に続いて駆け付けた星が、剣呑な目付きでそう問うと、同時に到着した猪々子と斗詩も黙って頷き、其々の得物を構えて、鈴々と星の横に並び立つ。その様子を見た饕餮は、悠然とした態度を崩さぬまま、再び首を振った。

「私の用事の内容など、関羽の様子を見れば一目瞭然だろう、趙雲。最も……この豪勢な面子と遣り合いたいと言う気持ちも、無いではない。だが私は、素晴らしい死合いの余韻を楽しみたいのでな。それに……良いのか、こんな所で油を打っていて。急がぬと、“本当に死んでしまうぞ”?」

 

 その言葉を聞いた愛紗が、瞳に僅かな生気を蘇らせて饕餮を見た。

「ご主人様は御無事なのか!!?」

「さてな……少なくとも、私が最後に見た時には、まだ息があったが」

「お前!お兄ちゃんに……お兄ちゃんに何したのだ!!?」

 

「落ち着け鈴々……!」

 今にも爆発しそうな怒気を滾らせた鈴々の肩を力強く抑えたのは、隣に居た星だった。

「星!?何で止めるのだ!あいつは、お兄ちゃんを……!!」

「奴の話が本当なら、我々に戦っている暇などない!落ち着いて考えろ!!」

 

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「流石の冷静さだ、趙雲」

 鈴々が、凶暴な唸り声を上げながらも渋々と頷くのを確認して腕を放した星は、素直に関心した様子の饕餮に視線を戻した。

「だが―――解せぬ事もある。どうして貴様は、我等と遣り合うつもりも無いのに我等の前に姿を現したのだ?」

 

「他意はない。ただ、一度は名乗った相手に、辞意も示さず立ち去るのは気が引けただけの事……」

「信じて……良いのだな?」

 暫くの間、逡巡した星が眉に皺を寄せてそう問うと、饕餮は小さく頷いた。

「無論だ……さっさと行くがいい。私としても、北郷一刀にこのまま死んで欲しくはないからな」

 

 饕餮がそう言うのと同時に、大人しく事の成り行きを見守っていた龍風が、星達と饕餮の脇を猛然とすり抜けて、森の中へと姿を消した。

「―――どうやら、あの馬の方が、事の優先順位を正しく理解していた様だな……では、失礼する」

 饕餮はそう言って右手を胸の前に置いて一礼すると、少女達に背を向けて、緩やかな足取りで林道を歩き出す。

 

 そうして、背後に少女達の切羽詰まった声を聞きながら、漆黒の偉丈夫は何時しか染み出した闇にその姿を溶かし、やがて、消えた……。

 

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                                   あとがき

 

 

 はい、今回のお話、如何でしたか?

 最近では、異例の早さで更新出来、作者としても嬉しい限りです。GWに休みが取れたと言う事もありますが、やはり戦闘シーンは、出来るだけ間隔を置かずに書いた方が、勢いが無くならずに済むだろうと思うので、二重の意味で良かったです。

 

 さて、今回のサブタイ元ネタは、

 

 This boring rock/ JERRY LEE PHANTOM

 

でした。

 現在はTHE BEACHESと言うバンド名で活動しているんですが、高校生の頃にこの曲を聴いて、イントロ初っ端からビンビンなピアノとドラム、シリアスかつキャッチーな歌詞、ソウルフルなボーカルなどにガッツリ打ちのめされ、延々聴き続けていたものです。

 

 興味のある方は、是非、曲名とバンド名で検索を掛けて下さればと思います。

 今回は、それぞれの恋姫の戦い方作者なりに考えた演出にしてみたつもりですが、どうだったでしょうか?支援、ご感想など、励みになりますので、お気軽に頂ければと思います。次回からは、漸くバトル以外の話が書けそうです。

 

 では、また次回、お会いしましょう!!

 

説明
 どうも皆様、YTAでございます。
 今回は、かなり早く更新出来、本当に良かったです!
 愛紗千里行編のバトルもラストスパートになりました。いや、長かった……。

 では、どうぞ!!
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コメント
たこきむちさん おぉ、もしかして、最初から読んで下さったのですか!?ありがとうございます! (YTA)
追いついた!(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
さむさん 直で都に帰ろうか、ワンクッション置くべきか……今、そこら辺で迷ってるんですよねwwwタイミング的に、もうそろそろ出さなきゃいけない人もいたりするので……。(YTA)
西湘カモメさん 正直、饕餮の正体を書く段になったら、設定資料をお気に入り限定にしないといけないと思ってます。それ位、色々と謎のあるキャラです。斗詩は、もう技の名前からして……ですからねwww(YTA)
ようやく帰ってきたと思ったら東奔西走してちっとも居つかないし、挙句死にそうな怪我をして担ぎ込まれてくるわけで……留守番してた恋姫たちはどう出るのかな。(さむ)
其々の戦いの決着がついて、漸く都へ帰還ですか。一刀の容体を見たら大騒ぎの予感・・・。饕餮は馬苦とは思えない真摯な姿に本当は何者?な疑問が。あと斗詩の必殺技は、ガオガイガーのゴルディオンハンマーの掛け声だよな。(西湘カモメ)
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