キツネとカラス
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あるところにキツネがいました。

キツネが森の中を歩いていると、うめき声がします。

まぁ、何かしら。

見るとそこには罠にかかったカラス。

やぁ、そこを行くどなたか。私を助けてはくれませんか。

茂みから、キツネが顔を出しました。

カラスは嘆きました。

今日は全くついてない。罠にかかった上、助かると思ったのに、今度はキツネ! 俺の人生も終わりだ!

キツネは黙って罠をはずしました。

カラスは嫌味を言います。

ごきげんよう、ねえさん。言っておくけど、俺は美味しくないぜ。

ばかね、今あんたを食べたらそれでおしまい。それより、助けてあげたんだから、しばらく私に餌を運んでよ。

カラスは驚きました。

よく見ると、キツネの右の後ろ足がありません。

あんたを食べないって、ちゃんと約束するわ。

 

次の日、カラスは大きなネズミをくわえて、こっそりキツネのところへ行きました。

ねえさん、持ってきましたよ。

あら、本当に来たのね。期待してなかったわ。

やだなぁ、俺たちが不義理な一族だと思われたらたまりません。ねえさんには感謝してるんです。

ありがとう。ねえ、あなた、渡り鳥? ここ以外の世界を、よく知ってる?

キツネは尋ねました。

ええ、ええ、俺は渡り鳥じゃありませんが、気が向けばいろんなところへ行きますよ。

カラスはいろんな話をしました。牛が神様のように扱われている国の話、海に沈んでしまった国の話……。

キツネはだんだんカラスの話がもっと聞きたくなり、カラスも、もっとキツネが喜ぶ話を聞かせたくなりました。

ある日、キツネの仲間が言いました。

おまえ、最近カラスと仲良くしているようだね。

それがどうかしたの。

さっさと食べた方がいい。あいつらは狡猾だ。キツネ一族の顔に泥を塗るつもりか。

めんどりはつぶすより、卵を食べる方がかしこいわよ。

仲間のキツネはそれ以上何も言いませんでした。

 

カラスがいつものように、キツネのために人間の家のそばで、まぬけなニワトリを狙っていたときのことです。

カラスはニワトリなど食べないのですが、キツネは大きな獲物でないと腹は膨れないからです。

家の方からおっかない怒鳴り声が聞こえ、物凄い音とともに鉛のつぶが飛んできました。

よけそこねて片方の翼が吹き飛んでしまいましたが、カラスはぐったりしたニワトリをくわえて、命からがら逃げてきました。

キツネの元にたどり着いた頃には、カラスは息も絶え絶えになっていました。

キツネはびっくりしました。

まあ、どうしたの。

ああ、ねえさん、ごきげんよう。今日の分をお持ちしました。

そんなことより、あなたの傷はなんなの!

俺はもうだめです。もう約束守れません。明日は、かわりに俺を食べてください。

そこへ、キツネの仲間がやってきて言いました。

さあ、食べてしまえ。もうめんどりは卵を生まないぞ。

キツネは意識を失ったカラスの体を前足で抱え、傷をなめてあげながら言いました。

いやよ。

 

その日以来、群れで役立たずの、かたわのキツネは姿を消してしまいました。

おしゃべりでお調子者、群れの嫌われ者だったカラスも姿を消してしまいました。

ただ、伝え聞いた話によると、どこか遠くの森で、後ろ足が片方欠けたキツネが、

これまた翼の片方欠けたカラスを背中に乗せているのを見た動物たちが、わずかにいるそうです。

 

おしまい

説明
2006年頃に書いたものです。大筋は同時期に書いた『絵描きと悪魔』と大差ありません。
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