第二十八話:懲りない奴等
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「あ〜、良い天気だねぇ」

 

惚けたようなそんな一言が晴天の空に響く昼、場所は鹿と大仏で有名な『奈良公園』。

『魂鎧装(ソウルアップ)』という力と過去の戦友達との記憶を取り戻したサイは、空を見上げながらそう呟く。

 

「全く・・・ジジイかお前は」

 

横からそう厳しい突っ込みを入れるはサイの喧嘩友達であるエヴァ。

まあ、本人はどう想っているかは解らないが言うなれば最もサイに近いポジションの少女だろう。

彼女自身も口には出さないが奈良の雰囲気を気に入ったのか満足げな表情をしているが。

 

「あぁ? まあ、ジジイかって聞かれればジジイだろ。

何せ俺、700年以上生きてるしな―――外見がガキンチョな理由はまだ良く解んねぇけどよ」

 

前回、かつての戦友達の記憶を思い出した際に彼は他の事もいくつか思い出した。

一つはサイは人間の年齢に換算すれば700歳以上、つまり七百年以上は生きている大妖怪に近い程の九尾だと言う事。

一つはかつて魂獣大帝(スピリッツカイザー)と呼ばれる存在となる為に多くの戦いを経験し・・・その結果、己が大帝となった事。

そして戦友達はもう既にサイの家族と同じく亡くなっているが、サイの心の中に共にいると言う事だ。

 

しかし・・・それ以外は未だに不明のまま。

漠然と『魂獣大帝だった』と言う事は思い出せたが、其処に到るまでの道のりやそれからの事。

更にそもそも何故、サイがこの世界に“少年の姿”で目覚めたのかと言う事など、理解出来ない事は未だ山積みである。

 

だが―――

 

「つうか、テメェもババアじゃねぇかよ。

600年も生きてるんだろ、だったら左程俺と変わらねぇんじゃねぇのか?」

 

「喧しいわ、誰がババアだ誰が!!

私の場合は600年以上前に真祖になってるから身体の成長が止まってるんだ!!

よって私はババアではない、成長しないだけのツルペタ吸血鬼だ!!

・・・って、誰がツルペタだゴラァァァァァァ!?」

 

だが少なくともサイは気にしないだろう。

喧しく賑やかだが・・・退屈する事の無い今の日常を彼はそこそこ気に入っているのだから。

 

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「逆ギレすんじゃねぇよロリババア。

年取っていようが居まいが600年も生きてるんだから外見は別としてババアにゃ変わりねぇだろ?」

 

「だ〜か〜ら〜、ババアと呼ぶなババアと!!

(え〜い全く、こういった部分は本当にナギとそっくりな奴だな・・・人の神経を逆なでする所なんか瓜二つだ!!)」

 

戦友達の想いを胸に、何だかんだで楽しんで生きているサイ。

しかし勿論、そんなサイとエヴァのじゃれ合いを快く思わない者も居るようで。

 

「・・・・・・・(クイクイッ)」

 

相も変わらず無口で無愛想で無感情なザジがサイの袖を引っ張る。

その向かおうとしている先には多くの鹿が居た、流石は知られて居ないが動物好きなだけある。

どうやら『見学に行こう』とでも言わんとしているのだろうか・・・若干、何処と無く背にチワワ(?)の幻影を背負ってエヴァを見ている。

 

―――いや、あれは見ようによっては睨んでいるな。

 

「(・・・ほほう、良い度胸だザジ・レイニーディ)

サイ、行くぞ!! あっちには奈良で有名な大仏殿がある・・・お前は確かそういった物が好きだったよな?」

 

そう言いながら逆に引っ張るエヴァ。

その背にスコティッシュフォールド(猫)のような幻影(ヴィジョン)が見えるのは多分、いや間違いなく気の所為ではないだろう。

ザジの背に見えたチワワとバチバチと今にも火花を散らすかのような勢いである、エヴァの後ろに居た茶々丸もオロオロと明らかに狼狽していた。

 

・・・何故か愛玩動物なのはこの際気にしないで置こう。

 

さらに・・・その姿を見て少し離れた場所でペンギンのような幻影を出している少女が一人。

その少女を団子を持って追いかけながら可愛らしい何処かで見た事があるようなカメの様な幻影を見せるおとぼけ少女が一人。

ついでに確か好みのタイプはオジサンだった筈の少女がサイのその姿を見て不機嫌そうに大股でどこかに向かう。

それらは未だ自分の気持ちが理解出来ていない少女達であった。

 

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だが、同じ班内とその友達達に多かれ少なかれ好意を寄せられている筈の漢はと言うと―――

 

「・・・・・・?」

 

「むっ、サイが居ないだと!? 奴め何処に行った!?」

 

「・・・マスター、先ほどサイさんならザジさんとにらみ合っている時にすり抜けて何処かに向かわれましたよ。

『両方から引っ張られて裂けたら冗談じゃ済まねぇから戦略的撤退でもするわ』とか言っていらっしゃいましたけど・・・」

 

そう、サイはもう既に面倒な状況となる前に脱出していた。

その事にエヴァが憤り、ザジが寂しげにし、茶々丸が再びオロオロとしていたのは言うまでも無い。

 

更にこの後―――

実はのどかだの古、楓、真名だのがサイと共に奈良見学をしようと画策(のどかの場合はパルと夕映がだが・・・)していたが。

自分の好きな大仏などを見れてはしゃいでいたネギの事をすっかり忘れていた事によりネギが迷子になってしまい、探し回った事によって奈良公園の自由時間が終わってしまった事は説明しなくても良い事だろう・・・。

(ちなみに美空は隅で笑顔のままに放たれる殺気の応酬に萎縮して涙目で震えていたそうだ・・・)

 

そして物語はついに、血を血で洗う修学旅行二日目の一大イベントの少し前の時間へと続く。

 

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「ったくよぉ・・・ネギの馬鹿はもうちっと周りに目を向けられんモンかね?」

 

そうブツブツ言いながら廊下を歩くサイ。

夕食の時間は既に終わり、誰も入っていない事を確認してネギに先に風呂に入らせた後に早めに風呂に入り、そして今は一日目に侵入者の襲撃があった事を考慮して散歩がてら周囲の見回りをしていた。

 

実はサイは学園長からのもう一つの頼みで学生ながら暴走するであろう3−Aの生徒達の静止役も任されている。

本来いつも騒ぐ学生達を見張る役が出てくれた事により、先生達も少しは気が楽になったようだ。

・・・例えそれが(外見のみ)中学生の生徒でも。

 

「やれやれ・・・まあ、ガキ共が寝るまでまだ時間はあるしな。

取り敢えず屋根にでも登って周囲の確認でもしておくか―――刹那の言った通り式神使いなら、簡易結界の張ってあるホテルの周りで何か動きがあるだろうし」

 

まあ、少なくともあの『フェイト』とか言う人物が襲撃をかけて来たら関係ないだろうが。

あれは間違いなく、最強クラスの魔法使いのエヴァに迫るほどの実力者だと手合わせしてサイは理解していたのだから。

 

「さて、んじゃ登るか。

・・・ん? アレ、あのパイナップルみてぇな髪型の奴は確か・・・」

 

樋を伝って屋根の上に登ろうとしたその時、ふと視界の端に蠢く不振な影を見つけた。

いや不振ではないな・・・赤い髪をパイナップルのように後ろで束ねた髪型の人物、サイが知る限りの人物ならそれは一人しか居ない。

その人物が潜んでいる場所の近くに見えるのは、先ほどまでサイやネギが入っていた温泉の浴場だ。

 

「・・・何やってんだパイナップル女」

「うわあっ!? (ガッシャ〜〜〜〜ン!!)」

 

忍者の隠行の術ばりに足音一つ立てずに陰に居た人物の肩を叩くサイ。

当の人物は人が居るとは気付かなかったのだろう、騒々しい音を立てて転がり出て来たのは3−Aの生徒の一人―――

 

その手にカメラとメモ帳を携えた新聞記者。

いや、寧ろゴシップネタを掴む事を好むパパラッチのような風体の、人呼んで『麻帆良のパパラッチ』こと出席番号3番の『朝倉和美(あさくらかずみ)』であった。

 

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「いった〜〜〜〜!! もう、脅かさないでよサイ君!! 酷いじゃんか〜!!」

「喧しい、あんな暗がりでおかしな動きをしていたテメェを呪えこの馬鹿が」

 

サイの質問を無視して頭を押さえて呻く朝倉。

驚いた時にどこかに頭でもぶつけたのだろう、それでもカメラだのメモ帳だのを手放さないのは流石と言うべきか?

だがあんな所に取材するような物は無かった筈だが。

 

「所であんな所で何やってたんだテメェ? あそこの先って確か浴場しかなかった筈だがよ」

「ああ、いや〜、ちょっとした“取材”をね・・・」

 

『取材・・・?』その言葉の意味が理解出来なかったサイは首を捻る。

先にある浴場に取材出来る物などなかった筈なのだが、ふと科白の意味をよく考えたサイはある結論に辿り着く。

有り得ないと思いつつも今の状況や隠れてこそこそ何かをしようとしていた事などを考慮し、現状ではそれ以外に理由が思いつかないと悟ったサイは万感の思いを込めて確りと朝倉の肩を掴む。

 

「そうかテメェ・・・其処まで堕ちたか・・・」

「へっ、えっ? ちょ、あれっ・・・何か私、すっごい失礼な事言われてるもしかして?」

 

サイの遠い目付きや肩に篭る力の強さに冷や汗を流すパパラッチ娘。

しかしそれには一切合切取り合わず、サイは溜息を吐きながらゆっくりと首を横に振る。

 

「とうとうクラスの奴等の覗きまでやり始めるとは・・・。

こうなったら一応、クラスメイトとして俺に出来るのは一つだけだ」

 

「ちょ、ちょっと!! 私覗きなんて・・・まあ、確かにしてなくは無いけど・・・。

って、えっ? ちょ・・・何それ!? どっからそんな物出したの!?」

 

いつの間にかサイの手に現れた短刀(七魂剣の通常状態)を目にした朝倉が顔を引き攣らせた。

 

「これ以上犯罪と言う闇に身を落とさんように俺が直々に引導を渡してやるよ。

あぁ心配すんな、痛いのは一瞬だけだ―――あとクラスメイト達にはそれなりに理由は考えておいてやるから安心して逝けや」

 

「ちょ、何真顔で物騒な事口走ってんの!?

え、ちょ・・・ちょちょちょちょちょ、ちょっと待って、振りかぶんないで、肩離して、命だけは勘弁してぇぇぇぇぇ!!!!!???」

 

『ちょ、旦那、サイの旦那!! 落ち着いて、落ち着いてくだせぇぇぇぇ!!!?』

 

久しぶりに聞いたその声に七魂剣を構えていた手を下ろすサイ。

ふと見てみれば・・・其処には本来ならばネギと一緒に居る、この修学旅行では殆ど出番のなかった小動物エロ親父ことアルベール・カモミールが居た。

 

「あぁ? 何でテメェが此処に居るんだ存在自体が害悪なクソオコジョ」

『ヒドッ!? おれっちの存在ってなんなんすかそれ!?』

 

大分酷い事を言っているがサイにとっては当然だ。

何せこのクソオコジョはネギにパートナーを作るなどとのたまい、今まで裏世界に何も関係ないような連中を引っ張り込もうと何度もした輩である。

元々、止むを得ない場合は別としても関係の無い者を巻き込むのを嫌う傾向にあるサイには『害悪』以外の何者でもないのだ。

 

『あ、えっと・・・おれっちが此処に居る理由は話せば長くなりやすが・・・』

 

そう呟いた瞬間、カモの白い身体を握る手が一本。

その手の持ち主のサイは怖くなるような“イイ笑顔”をカモに向けると極めて優しい口調で呟く。

 

「握り潰されて下半身が無くなるのが望みじゃなけりゃ早く解り易く簡潔に答えろ」

『ヒイッ!? ぎょ、ぎょぎょぎょぎょぎょ、御意にございます、サイの旦那ぁぁぁ!!!』

 

直立不動の姿勢で器用に敬礼のポーズを取るカモ。

その後カモの説明に耳を傾けるサイと、その間に地面に座り込んで子供のように泣きじゃくる朝倉が居た。

やり過ぎの感も否めないが、それでも少しは良い薬になったのではないだろうか?

 

まっ、その答えは解らないのだが。

 

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「ふ〜ん、成る程なぁ・・・」

 

極めて軽く、それで居て何処となく怖く感じる表情でサイは静かに呟く。

その感じからはサイが怒っているのか、それとも呆れているのかは理解出来ないが・・・。

 

【切れて良いですか?】

>Yes.

 No.

 

脳内でおかしな選択肢が現れ、それがYesを選択した瞬間―――

 

「あんのクソガキはぁぁぁぁぁぁ!!

何でいつもいつも言ってやってるのに不注意で人に見られるような事してんだオラァァァァァァ!!!

そもそも秘匿するモンなんだろうが、それをホイホイ使ってバラす様な真似すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

此処には居ないネギ・スプリングフィールドに向かってサイはやり場のない怒りをぶつけた。

 

カモから聞いた話を要約するとこうだ―――

本日迷子になった事で己の不甲斐無さを嘆いたネギはそれを挽回しようとホテルの周りの見回りを“いつも以上に無駄に空回りする程に気合を入れて”行い、その際に轢かれそうになった猫を助け、その光景を朝倉に目撃され、更にカモとの会話を聞かれ、挙句の果てには空を飛ぶ所まで写真に取られたそうだ。

この様なアホさに此処でキレずに一体何処でキレろと言うのだろうか?

 

「おいクソオコジョ!! テメェが一緒に居ながら何だその体たらくは、あぁ!?

テメェの価値なんぞ下着ドロか、悪知恵を生かしてネギのフォロー程度しかねぇだろうが!?

その内の一つも確り出来ねぇで何が使い魔だゴラァ!?」

 

『だ、だだだだだ、旦那落ち着いて!!

それにおれっちは一応、仮契約(パクティオー)ってな契約術も使え・・・グエッ!?』

 

カモを掴む腕を握り締めるサイ。

万力のような力が途端にカモの腹にかかり、口から魂のような物が出ているがそんな事は知った事ではない。

 

「サ、サイ君サイ君!!

カモっちが泡吹いてる、泡吹いてるってば!!」

 

「あん!? あ、何だもう気絶しやがったのかよ。

チッ、ド変態クソオコジョが・・・鍛え方が足りねぇんだよ鍛え方がよ」

 

あまりのぶち切れかたにさらっと外道のような台詞を吐くサイ。

握っていた力を緩めて投げ捨てるとカモは運悪く石に頭をぶつけてピクピクと痙攣しながら白目を剥いていた。

・・・コイツも結構散々な扱われ方をするものである。

 

「ん・・・あれ?

そういえばカモっちを知っているって事は、サイ君ももしかして・・・?」

 

朝倉が何を聞きたいのか理解出来るサイは溜息を吐きながら頷く。

正確に言えばサイは『魔法関係者』では無いのだが一々説明するのが面倒臭い。

始めから魔法関係者だと言っておけばこれ以上深い詮索はされないだろう、どうせ魔法の事はバレているのだから。

 

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「・・・で? そう言えばこれからどうする心算だパイナップル頭?」

「誰がパイナップル頭よ誰が!! って・・・へ? これからどうするって?」

 

首を傾げる朝倉に対してサイは殆ど表情を変える事無く淡々と言う。

 

「魔法ってのは秘匿義務って奴があってよ。

一般人に露見して知られた場合は、有無も言わさずにそいつの記憶を奪う事になってるんだが?」

 

目を細めてサイが朝倉を睨むと、彼女の顔面が一気に蒼白していく。

更に無言で黙ったまま見ていると・・・ガクガクと朝倉は震えだし始めた。

・・・まあ、これだけ脅しておけば十分だろう。

 

「好奇心が多いのは結構な事だ。

だがな、余計な好奇心って奴はテメェの命を縮める事になるって理解しろや。

じゃねぇとテメェ―――本当に紛争地帯のマスメディアみてぇに『消される』ぞ・・・?」

 

其処まで言い終わるとサイの雰囲気が一気に穏やかな物と変わる。

その変化が理解出来ない朝倉は未だに震え、カモは泡吹いてぶっ倒れたままだ。

 

「まっ、クソオコジョが一緒に居たって事はその馬鹿と何かしら取引でもしたんだろ?

だったらまあ、でしゃばらねぇ程度にやるが良いさ・・・今の言葉を忘れねぇでよ」

 

始めからサイは別に朝倉をどうこうしようとしていた訳ではない。

元々彼は魔法使いではないし、そんな面倒臭い風習に縛られる気も更々無い。

最悪伝わってしまった場合は“穏便に”事情を説明して黙っていて貰えば良いだけの事だ―――身の危険を感じてまで言い触らそうとする輩も居ないだろうし。

そもそも無理やりに記憶を奪うなどという乱暴な手段を取るよりはマシだろう。

 

それに面白半分で裏の世界に首を突っ込む事へ釘を刺す事も出来る。

本来の所サイは関係の無い者を巻き込むのを嫌うと言ったが、それでも『覚悟』があるなら裏に来る事を文句は言わない。

自分の行動に、自分の選択に、そして其処から弾き出される自分の行く末に後悔しないのであればだが。

 

覚悟とは『殺す覚悟』と『殺される覚悟』と言う奴だ。

裏の世界に関わると言う事は言うなれば平穏無事のままで居られる訳ではない。

誰かに命を狙われる事がサイやエヴァと違い日常茶飯事と言う訳ではないだろうが、それでも危険がある事には変わりない。

そんな危険に遭遇した際に自分が死ぬのも相手を殺すというのも覚悟出来ていなければ後悔を背負って野垂れ死ぬだけである。

 

曰く『撃って良いのは自分が撃たれる覚悟のある奴だけだ』と“某仮面の皇子”が言っていたように。

 

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「あぁ・・・そうだ、一つ言い忘れてた」

 

サイのその言葉に半泣き状態であった朝倉が肩をビクッとさせて彼を見る。

すると彼は悪びれる様子もなく、意地悪そうに笑いながら告げた。

 

「さっきテメェ斬ろうとしたの冗談だから安心しろ。

アホオコジョが出てきた時点で大体の事は察してたからよ、んじゃな」

 

背を向けて手を振りながら去っていくサイ。

何の事か一瞬理解出来なかった朝倉だが、サイの言った言葉の意味を理解した瞬間・・・天に向かって叫んだ。

 

「冗談って・・・私冗談で殺されかけたのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

そんな叫びが鳴り響いた後、朝倉は力無く疲れたように項垂れた。

そして彼女は何か悪巧みを思いついたように笑うと、ホテルの部屋の方へとカモを連れて戻っていった。

此処で止めておけば更に後悔しないで済むと言う事を気付かぬままに。

 

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サイが再び周囲の見回りに戻り、ネギと合流してこめかみを拳でグリグリした後―――

二人は意外にも共にホテル周辺の見回りの為に仲良く廊下を歩いていた。

 

「しっかし・・・バラすなとは言わねぇが、もうちっと周りに目を配れ馬鹿。

あのパイナップル頭(朝倉)にバレたって事は、情報網を駆使して世界中にバラされるぞ?

まあ、エロオコジョが口利きしてくれたから良いものをよ」

 

「ううっ・・・ごめん、お兄ちゃん。

でもボク、轢かれそうになった猫を放っておけなかったから・・・」

 

涙目になるネギの頭を乱暴に撫でるサイ。

最初の頃は同じ位の身長に見えたサイも、記憶を少しずつ取り戻して能力を復活させていく度に大きくなっていく。

本来ならそんな急激な成長に誰もが疑問を持つ筈なのだが・・・認識阻害の能力か何かが効果を表しているのか、誰もが疑問に思わない。

現在では最初の頃に比べて10cm以上も身長が伸びていた。

 

「馬鹿、泣くんじゃねぇよ。

その猫助けたってのはテメェで選んで、テメェで進んだ道だろ?

だったらその選択に後悔すんじゃねぇ・・・そもそもお前が助けなきゃその猫は死んでたんだ、寧ろ選んだ道をテメェ自身で誇れ」

 

乱暴な言動だが、それでもネギの行動を褒めている様にも見える。

魔法の秘匿とやらは大事な物であろうが、そんな物の所為で助けられるものを助けなければサイは間違いなくネギを軽蔑していた。

父親のような風になる事を望む少し泣き虫の少女のした行動は間違った事でない事をサイは理解していたのだ。

 

どんな時でも厳しく、遠回しにしか褒められないのはサイの悪い癖だ。

しかし、そんな不器用な優しさを理解出来ている者達にとってはそれもサイの個性の内だと言うだろう。

 

実際、ネギもそんなサイの不器用さを何となく理解出来ていたのだから。

だからこそ髪が乱れるのも気にせずに嬉しそうな表情をネギはしているのだ。

 

「さて・・・んじゃあそろそろお前は寝ろ。

俺はもうちっとこの辺の見回りしてから部屋に戻るからよ」

 

「あ、うん解ったよ。

でも気を付けてねお兄ちゃん、何だかおかしな雰囲気がこのホテル内でさっきからするんだ。

刹那さんが“式神返しの結界”ってのを強化してくれたから、関西呪術協会の刺客じゃないと思うんだけど」

 

そう言い終るとサイの言いつけ通りに部屋に戻るネギ。

帰り際に少し離れた所でサイに向かって笑いながら手を振っていた。

サイもネギの言葉通り周囲から感じるおかしな殺気のようなものの存在が何なのかは解らなかったが、取り敢えず気にせずに見回りの続きを始めるのであった。

 

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さて・・・その周囲で感じるおかしな殺気の正体とは。

それは実は先程泣き出すほどにサイに脅かされた朝倉がその百分の一でもサイに恐怖を感じさせる為に、そしてカモの場合は私利私欲(+ネギの為)で思いついたある企画が原因であった。

 

その企画の名は―――

 

『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生&サイ君とラブラブキッス大作戦』。

 

そしてこの企画の中で朝倉とカモは知る事となる。

サイという人物を本気で怒らせたらどうなるのかと言う事を。

しかしそれを知らぬ今の時点では、二人の冥福を祈る事しか出来ないのであった―――

 

・・・朝倉、少しは懲りろよ。

 

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第二十八話の再投稿完了しました。

―――さて、遂に朝倉&カモによる彼女等の私利私欲の為の修学旅行の一大イベントが始まります。

狂乱と恐怖の祭典の幕開けを此処に宣言しましょう。

 

『サイとネギの唇を奪わんと欲する者達は数知れず。

海千山千の猛者達が血で血を洗う乱戦・・・其の中で狙われたサイ達は一体どのようにして生き残るのか!?

 

ヤらなければヤられる。

この戦いの後に人は一体何を見出すのか?

少女達の死亡遊戯の結末を、其の眼で確りと見届けよ―――』

 

 

・・・ま、どんなに格好良く書いても快楽と享楽に身を任せてるだけですけどね。

しかもちゃらんぽらんに見えて意外とお堅いサイの堪忍袋の尾が一体何処まで持つのかが見物ですけど(笑)

 

説明
世の中には言っても解らぬ輩が居る
言っても解らぬ輩には、何を言っても無駄なのか?
ならばすべき事は、唯一つ―――
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