超次元ゲイムネプテューヌ Original Generation Re:master 第19話 |
テラには問題があった。
事実が。
テラはチラチラとネプテューヌを盗み見る。
それもそのはず、彼女が『女神』であることを知ってしまったのだから。
そんなテラの視線に気付いたのか、ネプテューヌはくねくねと両手で肩を抱き、いやに甘い声で答えた。
「んも〜、テラさんってば。興奮したからって朝から私のことばっかり見て悪い子♪」
「な、ち、ちが……! え、えー? 違います……?」
うーんとテラは唸る。
流石に自分の信仰する女神にため口も如何なモノか、
ていうか、自分が今まで女神様に向かってため口だったのも実はまずいんじゃないかと今更ながらに後悔しているのであるが、そんなテラを見て一同は『なにこれ、こわい』と思ったらしく、ぶるっと身震いした。
ともかくとして。
「テラ……。何か悩み事でもあるの?」
テラの異常は何か精神的な病でもあるのではないかと踏んだアイエフはテラにそう問うた。
しかし、テラはううんと首を横に振る。
が、ふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえば俺、今までの大陸の女神様と話してたけどほとんどタメ口だったなー、大丈夫だったのかな、アレ」
そんなテラの言動を聞き、一行は再び『なにこれ、こわい』と思ったらしかった。
しかし、その後にコンパは口を開く。
「ていうか、テラさんに敬語って言う概念があったのが驚きです」
「……どういう意味だそれは」
自分は最近舐められてきているなと少し自分のポジションが危うくなってきたなと危惧したがさして重要な問題でもなかったためにその感情は心の引き出し(上から三十四段目)に仕舞っておいた。
「だいたい、俺だって士官校にいたんだから多少なりの礼儀くらい弁えてるよ。少なくともねぷ子以上に礼儀はあると思う」
「……どういう意味? それ」
ネプテューヌは先程テラがコンパに言ったようなイントネーションでテラに問うがしかしその言葉はスルーである。
「でも、ぶっちゃけて士官学校にいた頃のテラってどんな感じだったの? 私、ちょっと気になってたのよね」
アイエフの言葉に他二人もうんうんと頷くのを見てテラは少し困り顔になった。
「聞いても楽しくないぞ?」
そんなテラの返しに、三人はさして気にもしない様子で答える。
「いいよー」
「聞きたいですぅ」
「お願い」
そんな彼女たちを見てテラは再び困り顔をするとぽつりぽつりと話し始めた――。
†
プラネテューヌ中央士官学校。
そこはプラネテューヌ、ひいては全大陸内でもかなりのレベルを誇る士官校であり、そこでテラはエリートとして育て上げられた。
主として士官校では対モンスター用の戦闘技術、武器の扱い、護身術等の様々な戦闘を考慮した教育が為される。
『戦場に休む暇などない。全てにおいて命がけだ』
と、これがテラの義父である士官校長、及びプラネテューヌ軍中将:ギルバ・アイトの言い分であった。
そのため――、
ドカカッ
テラが長い廊下を歩いていると、頭上から数本のナイフが降り注いだ。
テラはハアと大きな溜息を吐くと、その後に背後から襲いかかる鉄鎌の嵐を払いのけた。
するとテラの背後からガッハッハと豪快な笑い声が降りかかる。
「流石は我が息子だ! これしきの事は顔色変えずやってのける!」
「校長……」
テラは声の主、義父であるギルバ・アイトに呆れたように声を出した。
「いい加減にしてください……」
「何だ? 学校だからと言ってそんな堅苦しくしないでもいつものように『パパ』と呼んでくれていいぞ?」
「呼んでないです、デマを流さないで頂けませんかね……?
それより、いつもいつも俺をつけ回して……暇なんですか?」
そう。
先程のトラップも彼の仕業であった。
彼はテラの行く先々にこのように時には命にも関わるようなトラップ(例えば毒霧を散布させたり)を度々仕掛けてくるのだ。
「面白いことを言うな! 俺の言い分を忘れたか?」
「忘れてないです。――ですが、あまりにやりすぎです」
いくらテラが上官に対して忠実に動くと言っても流石にコレは限度があった。
まあ、それも当然のことであったが。
「ていうか、何時までそんな変なキャラになってるんですか? いい加減に止めてくれないと鳥肌が立ってきました」
テラはそう言って身震いする。
ギルバはクスリと薄く笑い、先程とはまるで違ういかにも厳格そうな顔つきになる。
「こうやって表情、人間を作るのも時によっては大事なことだぞ、息子よ」
「……だから、せめて学校にいるときくらいは息子は止めてください。あくまで私は一士官生で、貴方は上官なんですから」
こういうところはなんら変わっていないんだよな、とテラは内心でそう呟き、がっくりと肩を落とす。
「まったく、お前は堅いな。少しくらい笑ってみたらどうだ?」
「……あまり感情が出ては任務に支障を来す恐れがあるので。用がないのなら失礼いたします」
テラはそう言って一礼すると淡々と彼の元を去っていった。
そんな彼の背中を悲しそうに、本当に微かではあるが、悲しそうにギルバは見ていたのだった――。
†
「ホント楽しくなかったねー……」
「だから言っただろ……」
ネプテューヌの言葉にテラは目を細めた。
「へぇ〜、士官学校ってそんなだったですか。なんだか看護学校と真逆です」
「まあ、確かにコンパを見てれば看護学校がどんなのかって大体の予想はつくけどね……」
コンパの言葉にアイエフは苦笑でそう返した。
しかし、コンパはその意図するところが読めずにキョトンと小さく首を傾げた。
「ていうか、テラさんってお父さんが居たんだ」
「まあ、義父だけど。小さい頃……って言ってもほんの数年前だけど拾って貰ってな」
それで今に至るわけと付け加えてテラはコーヒーを流し込んだ。
「それならいつか会ってみたいですね。ご挨拶でも〜」
そう微笑むコンパの言葉を聞き、ネプテューヌとアイエフもガバと立ち上がり、身を乗り出す。
「私も! 私もご挨拶するよ!!」
「そうよね! もしかしたらこの先にお世話になるかもしれないし!!」
二人の勢いに押されてテラが少し後退りながら、しかし彼女たちは一体何処に父に引きつけられたのだろうと思い、テラは心中が?でいっぱいになる感じがしたのだった。
☆ ☆ ☆
クエストのために一度、一行はギルド都市へと足を向けた。
相変わらず血の気の多そうな者達が闊歩しているが4人ももう慣れてしまったのか、平然とその中を同じく闊歩していた。
が、しかし、この日は勝手が違っていた。
一行がクエストを受けようと掲示板の張り紙を見ていたところで先から協力者であるフィナンシェが息を切らせて一行の元に駆け寄ってくる。
「ん、どうしたんだ?」
「はぁっ……はぁっ……あ、の……」
「とりあえず落ち着きましょ。話はそれから」
アイエフの言葉にフィナンシェはすーはーすーはーと大きく深呼吸をして息を整える。
それから切羽詰まったように大声を張り上げて一行に伝えた。
「実は、過激派ギルドが中央協会に襲撃を仕掛けてきたんです!」
「な……!」
「前々から不穏な動きはあったのですが、先日の女神様が席を空けられたのを見計らってか細工をしていたようで……」
フィナンシェは大慌てで一同に現在の状況を説明する。
「私は皆様に事をお伝えしようと、女神様を連れて逃げようと思ったのですが、頑として聞き入れてくれなくて……それでネプテューヌさんやテラさんに説得をと思いまして」
「え、私?」
「え、俺?」
この2人だいぶ似てきたなー、とアイエフは呆れを通り越して感心を覚えた。
「はい、お二人の説得なら女神様もきっと動いてくれるのではないかと……」
「待って待って。なんでこの2人が女神様の説得なんか……」
そんなアイエフの言葉を遮ってフィナンシェは口を開く。
「ホワイトハート様はネプテューヌさんをライバル視しているようですし、もしかしたらと思います。それに、テラさんなら――」
「え、なんでそこは言葉を濁すわけ……?」
まったく事情の飲み込めていないテラを4人は侮蔑の視線を向けた。
そんな状況にテラは泣きたくなった。
しかし、一行はそんなテラをさしおいて以前の抜け道を使い中央協会へと急いだ――。
☆ ☆ ☆
「女神様! すぐに来て! もうすぐ過激派ギルドが攻めて来ちゃうんだよー」
そんな緊張感のない呼びかけに応じるのかなとネプテューヌを除く4人は酷く心配になった。
しかし、何というか女神、いやブランはドアを開け、ひょこっと顔を覗かせる。
「……あなた達……。それにネプテューヌ、その姿……」
「あー、前にあった娘だ! 女神様だったんだねー」
そう言ってネプテューヌはブランの頭をよしよしと撫でる。
たちまちブランは額に怒りマークを大量発生させた。
「そ、そんなことより、早く逃げるです、女神様!」
「……知らない。私はここを離れない」
ふいと顔をそらし、再び書庫に籠もろうとする彼女をアイエフとフィナンシェは引き留める。
「ちょ、何考えてるんですか!」
「もう! 無駄に馬鹿力ね! テラ、手伝って!」
「え、あ、うん……」
忘れられていたと思っていたテラは少し嬉しそうな顔をしてブランを担ぎ上げる。
「な、て、テラ!? ま、また力業かどちくしょ――――!!!」
女神ホワイトハートの汚らしい暴言が協会の謁見の間に響いた。
*
地下道を抜ける一方で背後から聞こえる爆音と妙な咆吼にテラは耳を澄ました。
「おいおい、これはモンスターの泣き声じゃねえか?」
「どうせ異端者の誰かがギルドの連中に違法ディスクでも配ったんでしょ、面倒くさいわねー!」
ドカン、と地下道の入り口付近で轟音が響く。
アイエフは向きを変えてカタールを構えた。
「行って! ここで食い止めるわ!」
「じゃあ、俺も残る!」
「駄目! アンタが居ないと出来ないことがあるでしょ……」
「アイエフ……」
しかし、彼らが意図していることはブランの連行であり、決して壮大なスケールの物語とは呼べなかった。
「なら、私が残るよー」
「ネプ子、……頼むわよ」
「了解―!」
ネプテューヌはそう返答し、太刀を構えた。
「行くわよ!」
そんな二人の言葉を背に、残る4人は出口を目指し駆けだしたのだった――。
合流したネプテューヌ、アイエフを連れて一行は一度、自分達の宿屋へと足を向けた。
先程までジタバタと暴れていたブランもすっかり大人しくなっていた。
「モンスターを倒したのは良いけど、次はどうするの?」
「……恐らく、さっきの足止めでブラ――女神様が逃げたことも気付かれたな」
ブランはテラの言葉にこくんと頷く。
「でも、なんで今頃になってギルドの人達は攻撃なんかしてきたです?」
コンパの疑問にフィナンシェは顎に手をやり、思考を廻らせる。
「……確か、ギルドの方々は『魔王ユニミテスの使いが味方にいる』と言っていました。もしかしたら違法ディスクの入手源もそこかもしれないですね」
「ってことは、その使いさえ倒せば、もしかするとあっちの勢いも衰えるかもっていう事ね?」
と、確かに話だけなら理解できるのだが。
問題は――
「どうやってその使いさんを探すの? 呼んだって出てくるとは思えないけど」
そう。
命を狙われると分かって呼んで出てくるとなると相当の阿呆である。
仮に出て行くとすれば――とテラとアイエフはほぼ同時にネプテューヌやコンパを見たが敢えてコメントは控えた。
「なんとか使いだけでもおびき出せないかしら……。挑発文でも出してみる?」
「おー! いいねー! 下駄箱に入れて『放課後に校舎裏で待っています』って書いてみたり?」
それは果たし状なのか恋文なのかいずれにせよだいぶ古風だなとその場の全員がネプテューヌに生暖かい視線を向けたのは言うまでもない。
☆ ☆ ☆
「案外送ってみるモノね、ホントに来たわ……」
アイエフは半ば呆れ気味に先方でこちらに向かって歩いてくる女性を見やった。
見れば、随分とご立腹名様子が見て取れる。
「さーて、4つ送った内の誰の挑発分が当たったのかしら」
と、宝くじでも引き当てるかのように一行は無駄にドキドキと胸を弾ませた。
「おい! ここまで来て魔王の名前をユニバースと書き間違えるヤツがいるかッ!」
「えー? ちゃんとユニミテスって書いてたよー? 見てたよね?」
そう振るネプテューヌをテラはニヤニヤしながら見ていた。
「いや、なんか面白そうだったから間違いを訂正しなかったんだ」
「えー!? 私間違えてないよー」
そう不服そうに言うモノの間違っていたのは仕方がないのでいい加減スルー癖が付きかけている女性に視線を向ける。
「でも、ちゃんと出てきてくれたです。結果オーライですね」
女性はそう喜ぶコンパをあざ笑うかのような態度を見せる。
「ふん。確かにホワイトハートに逃げられたのは誤算だったが、今ここで長きにわたるお前との因縁も断ち切らせて貰う!」
これで彼女との戦闘も何度目か。
戦いの最中だというのに、テラはそんなことを思っていた。
いや、それよりもだ。
テラの胸の内に広がる高揚感、とでも言おうか。
こうして、己の命が危険にさらされているほどにそれは膨れ上がり、今にもテラの心臓を引き裂いて外に飛び出してしまいそうなほどになっていた。
嬉しい
ぞくぞくする
――と。
そんな思いがテラの胸の中で縦横無尽に駆けめぐっていた。
ナイフを振り下ろす度にそれは無数に昇華され、そして天に消えていくように――。
今までに感じていた後ろめたさ、苦しみ、そう言ったモノが一歩、また一歩踏み出す度に消えていく。
そんな感覚がテラにとって、溜まらなく嬉しかった、心地が良かった。
――しかし。
別の思いもあった。
テラが、ブランからネプテューヌが女神であると言われたときに抱いた、嬉々とした感情。
それさえも消えてしまうのはテラにとって、悲しくもあった。
武器を振るたびに忘れていってしまいそうになる、あの感情。
テラには溜まらなく寂しかった――。
†
「おぉーい」
少年は窓から外に向かって声を掛けていた。
広がる平原の彼方へ、捜し物をするように。
しかし、目的の者は見つからないか、もう一度すうと息を吸って少年は声を張った。
「おぉーい! 飯だぞ、飯――!」
少年の声と共に漂う香ばしい匂い。
それを嗅ぎ付けてか、少女はふらふらと覚束ない足取りで平原の彼方からやってくる。
少年は嘆息し、窓から飛び降りて少女の元へと駆け寄る。
「何やってんだ……」
「いやー、遊び疲れたー」
少女はそう言って自身の体重を少年に預けた。
少年は少し戸惑いつつも彼女を背負い、屋敷へと足を向けた。
――。
食卓にはいつものように豪勢な料理が続々と並べられていた。
そんなリッチな雰囲気とは真逆に少女はだらだらと涎をたらして、料理に舌鼓をうっている。
そんな彼女を横目に少年は傍らの、一際小柄な少女に視線を向けた。
彼女もまた、同じようにパクパクと料理達を次々と口の中に放り込んでいた。
見回せば彼の周りには4人の少女と一人の女性がとても楽しそうに、『家族』のように食卓を囲んでいた。
少年はそれを一瞥し、薄く笑うと、自分もまた同じように数々の料理手を伸ばしていったのだった――。
*
『運命』。
信じるとするならば、少年は迷わずそれを呪っただろう。
何故、自分達がこんな最悪の中に閉じ込められなければならなかったのか、と――。
しかし、次第にそれは無くなっていった。
呪うべくは運命ではなく、世界と彼女たちであると。
彼女たちを知らなければ、己はこんな苦しい思いをしなくて済んだのだと。
彼女たちを巡り合わせた世界を
――呪った。
曖昧であった。
何故、自分達が戦わなければならない、と。
その場にいた全員は思っていたはずであった。
それでも、戦い続けた。
最愛の『家族』同士で。
本当は止めたかったのかもしれない。
否、止めたかったのだ。
しかし、それは叶わなかった。
結果として、彼は傷つき、そして彼女は失った。
それに彼女たちは後ろめたさを感じていただろうか。
いや、きっと感じていなかったのだろう。
『感じられなかった』のだろう。
虚無より出づる、戦闘欲。
……いや、きっと『使命』であったのだろう。
使命、すなわちそれは運命であった。
結局、それは運命を呪う形となったのだ。
彼は運命を呪わざるを得なかったのだった。
『世界だったんじゃないのかよ!』
『ずっと一緒だって、約束したのに……』
『待てよ! 逃げるなよ!!』
『置いていかないでくれ!!!』
「結局、一人だったんじゃないか……」
「『家族』だって思っていたのは俺だけだったんだ……」
少年は悲しくそう呟いた。
女性は、悲しそうに見ていた――。
†
女性は忌々しそうに表情を歪める。
「く……。何故私がこんな……!」
「何度来たって私は負けないよー!」
ネプテューヌは太刀を振りかざし、勝ち誇ってそう言い放つ。
女性は暫し、一同を睨んだ後、小さく舌打ちしてその場を静かに去った。
「……テラ?」
アイエフはテラの様子がただ事ではないことに気付き、声を掛ける。
「あ、うん……、何でもない。――何でもないから……」
テラは、か細くそう言った――。
AWAKING……?
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