とある学園の蹴球少年ーー天才と呼ばれた少年
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とある学園のグラウンドの片隅で一人の少年が現在行われているサッカーの試合を眺めていた。

鮮やかな茶髪に端正な顔立ち、そして特徴的な赤と青のオッドアイを持つその少年はどこか思い詰めたような表情で試合を眺めている。

彼もまたサッカー選手なのかと思いきや、エセホストのような格好を見る限りとてもサッカー選手には見えない。それどころかスポーツ等とは無縁のように見える。

 

「よぉ、また来ていたのか。神鬼少年」

 

名前を呼ばれた少年、神鬼大和は後ろを振り返る。

金髪に赤い目そして黒い服に全身を包んだ青年、桜小路影虎が意味有り気な笑みを浮かべていた。

 

「…何か用かよ」

 

「いやな、グラウンドの外に見覚えのある顔が見えたから来てみたんだよ」

 

「そッかよ。そりゃあわざわざ御苦労なこったァ。指導者が試合ほったらかしでこんなとこに来てもいいのかよ?」

 

明らかに歳上の影虎に生意気な口を利く大和。彼の頭の中には目上の人は敬うという常識は存在しないし彼自身もする気はない。

 

「本来ならダメだな。だが、未来のうちのエースが見に来ているとなると話は変わる」

 

「またその話か…。言った筈だァ、オレはもォサッカーはしねェ。今日来たのもハッキリと断りにきたんだよォ」

 

大和は吐き捨てるように言った。常に敵意剥き出しの目をしている彼だが今回はいつも以上に鋭い目をしている。

 

「まだ引きずっているのか、あのことを…。何度も言うがあれは事故だ。それも試合中のな。誰もお前を責めないしあいつだってお前に責任はないと言っているだろ。お前がサッカーをやめる必要は……」

 

影虎がそこまで言って大和は彼を睨み付ける。年齢からは考えられないその鋭さに影虎は思わずたじろいだ。

 

「テメェに、オレの何がわかる…! オレはサッカーで、大好きなサッカーで人を傷付けた。アイツの選手としての命を奪ったんだ! こんなオレにサッカーをやる資格なんざもォねェ…」

 

大和はクルッと影虎に背を向けるとグラウンドを後にする。

その寂しげな背中を影虎は、ただ見詰めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー『天才と呼ばれた少年』

 

「ただいまァ…」

 

自宅の扉を開け、大和は帰宅の挨拶をする。玄関には練習用のトレーニングシューズや試合用のスパイス、さらにはサッカーボールが整理されて置かれている。このことから彼がかつてサッカー選手であったことが容易に想像できるだろう。

 

「そォいやァ撫子と百は試合だったなァ…。帰りは遅くなるとか言ってたっけなァ」

 

大和は玄関からリビングに入る。

彼の両親は世界的な会社の社長だ。その影響からか、彼の自宅は妹二人、計画三人で住むにはあまりに大き過ぎる家だった。

 

(無駄にデカいってのも考えものだなァ…)

 

そんなこと一人思いながら大和は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。ペットボトルのキャップを開け、水を一口含むとテーブルの上に何やら数枚の書類が置かれているのが目に入った。

 

大和はミネラルウォーターを冷蔵庫に戻すと一番上の書類を手に取る。書類にはとあるサッカー強豪校の入学案内の文字が印刷されていた。その下の書類も全て別の学校からの入学案内ばかりだった。

 

大和はそれら全てを掴むと中を開けることなくゴミ箱に捨てる。来年中学へ進学する大和にはこういった書類が毎日のように届く。それも全てサッカー強豪校から。彼の実力を高い評価している証拠なのだが大和からすれば不愉快で仕方がない。

 

(どいつもこいつも御苦労なこった。オレなんかに構ってる暇があんならもっといい選手見付けてくるんだなァ)

 

そうは言っても同年代で、大和以上の逸材はいないというのが世間共通に認識だ。

小学4年で中学生の主力として君臨、小学5年では中学のエースとして活躍しチームに数々の栄光をもたらすなど数十年に一人の逸材と称された天才プレイヤーが大和だった。その溢れんばかりの才能は世界をも魅力し彼の元には世界の名立たるビッグクラブからの獲得オファーが殺到したのが二ヶ月前だ。

だが彼はある事故が原因でサッカーをやめた。当初は前向きに考えていたオファーも全て断り、彼はピッチに別れを告げたのだ。((エル・ニーニョ|神の子))とまで称された天才は自らそのキャリアに幕を閉じたのだ。

 

(悪ィが、オレがこの先スパイスを履くことはねェよ。さっさと諦めてくれねェかなァ…)

 

そんな願望を胸に抱きながら、大和はこれから帰宅するであろう妹達の為に夕食の準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ここはサッカー強豪校の秀英学園高等サッカー部のスタッフ室。

部屋の椅子にはサッカー部のコーチ兼戦術係の影虎、そしてその前に高等サッカー部監督の岩見祥吾が怪訝そうな表情で座っていた。

 

「どうだ影虎、あの馬鹿は釣れそうか?」

 

「可能性は限りなく低いな。今日も大和に会ったが復帰する気はまるでない。ハッキリ言って望み薄だ」

 

祥吾は深い溜息を吐くとコーヒーを一杯口にする。黒い液体の味に劣らないほど、彼の顔を限りなく渋い表情だ。

 

「今のうちの戦術を完成させるにはどうしてもあいつが必要だ。初等からあいつを見ているが大和以上にうちの戦術に合うFWは世界中探してもいない」

 

「確かにな。だけど監督、ここまできたらもうそろそろ代役を見付ける必要もある」

 

影虎の忠告に祥吾はまた怪訝そうな表情をした。

 

「なら、代役はどこにいる。常闇のパスに反応し、尚且つ華芽のクロスにドンピシャに合わせられるFWが他にいるか?」

 

影虎は黙り込む。そんなFWは世界中探しても大和しかいない。学園都市最強のスリートップ、((三本の矢|スリーアローズ))の真ん中を務められるのはやはり大和しかいない。

 

「大和がサッカーをやめて、うちの最大の武器である破壊力は格段に落ちた。((三本の矢|スリーアローズ))は三人が揃って始めて意味のある戦術だ。一人でも欠ければなんの意味もない」

 

「そんなことは俺だってわかってる。だけどこのまま大和に執着すればチーム作りに支障が出るぞ」

 

祥吾は頭を抱えた。昔から大和は頑固だったがここまでのものとは思わなかった。

 

「…常闇と華芽は説得したのか、大和を」

 

「したさ。だけど、全くの無駄だったよ。華芽で振られたならもう何をやっても無駄だと思うが…」

 

「とにかくギリギリまであいつを説得しろ。どうしてもダメなら俺も次の手を打つ」

 

そう言い残し祥吾はスタッフ室から出て行った。一人残された影虎もまた頭を抱えながら大和を説得する方法を考案するのであった。

説明
数十年に一人の逸材と称された天才サッカー少年、神鬼大和。
確かな将来を約束された彼は、今サッカーをやめていた。
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とある科学の超電磁砲

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