Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)8巻の3
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第3章 スラムの王

 

 

 しばらく歩いていると、俺は、現在、無駄にデカイ建物の前に着いた。

 

「ここか? 俺を招待した奴がいるのは」

ちなみに、ここにたどり着くまでに、何回も襲撃さ、そのたびに退けてきた。補足するが、動けなくなるようにはしたが、殺してはいない。

「それにしても、私も一緒なのに襲撃が多かったわね。一応、幹部なんだけど」

「こんなところで、組織なんて作っても知ってる奴のほうが少ないだろう。現に、俺じゃなくて、お前ほしさに襲ってきた奴らばっかりだし」

俺は、頬についた血を服の裾で拭く。あーあ、服にも血がべったりついてやがる。

「ヤダヤダ、ここの男って。体目当ての奴しかいないんだから」

「こんなところに、デートスポットがあるなら知りたいぜ」

ミュウは、ゲンナリしたように愚痴を漏らした。それを俺は、苦笑いで答えた。

「それに、だったら護衛つけろ。一応、幹部なら部下がつくだろ?」

すると、ミュウは呆れたような表情を浮かべてきた。

「余計危ないわよ。ここの奴らが、私のような非戦闘員の言うことなんて聞く訳ないでしょ。最悪、リョウにも会えなかったでしょうね」

「”ウィザード”も現実世界じゃ、ただの”人”だな」

「そういうこと、だからボディーガードよろしく、ね」

「甘えんな。そんな契約、入ってねーよ」

俺は、建物の中へと歩を進める。後ろの方でミュウが、薄情者、と言っていたが無視だ。

『(リョウ)』

んっ、念話?

俺はニアからの念話に集中する。

「(なんだ?)」

『(大丈夫? ここに来たときから貴方、少し様子が変よ)』

「(変? どこがだ?)」

自分では、いつも通りなんだが。

『(さっきの戦闘でも、いつも以上に動きが軽かったし、何より“目が冷たかった”。まるで、人を斬ることになにも感じないような)』

「(気のせいだろ? 現に殺してない)」

『(それならいいけど。少し昔の貴方を思わせる部分があったから)』

ニアの言葉に、少し昔の自分が頭を過ぎったが、すぐに流した。

「(・・・・・・)」

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俺は、自然と笑みが漏れた。

「それより、ニア、気づいてるか? ここに入ってから空気が変わったぜ」

俺は、会話を切るようにニアに問いかけた。

『・・・・本当、私でも分かる。建物の中に魔力反応があるわ。しかも、大きいのがいくつも。スラムにも魔導師が居るってこと?』

「どんな奴らが集まってるか、想像できないからなー」

ニアもそれ以上、聞いても無駄だと感じたようだ。

「密談は、終わったかしら」

すると、先ほどまで黙っていたミュウが隣に並ぶ。

「気づいてたのか?」

「《魔力》がないからなんとなく、ね」

そうしていると、扉の前についた。その扉の横に一人、鶏頭の頭の男が立っていた。

 さっきの雑魚とは、ケタ違いの強さを感じる。

「姐さん、お務めご苦労様っす」

すると、そいつが声をかけてきた。

「ご苦労様。デルタ、中にいる?」

「はい、ですが、ゼータさんと話中っす」

「なら好都合ね。入らせてもらうわ」

ですが、と鶏頭が、こちらを睨みつけてきた。

 そりゃそうだろう、見ない奴を簡単に通したら見張りとして問題だ。

「いいのよ。この子は、デルタに頼まれて連れてきた子なんだから」

「そ、そうっすか。分かりやした」

それだけ言われ、鶏頭は、急いで扉を開けた。俺たちは、部屋の中に移動する。

「・・・・妙なことしたら、ぶっ殺すからな」

すれ違いざま、鶏頭は、ドスを効かせた小声で俺に言ってきた。俺は、それを鼻で笑う。

「いつでも来い。唐揚げにしてやる」

俺は、そのまま部屋にはいる。

 部屋に入ると、二人の男がいた。

「ミュウ、少し遅かったな。手こずったか?」

「ここに着くまでに大群に襲われたのよ。デルタ、貴方の差し金じゃないわよね?」

ミュウは、デスクの向こうの大男、デルタをジト目で睨みつけた。

 そのとき、俺は、高そうな椅子に座っているデルタを見る。

 どうやら、コイツがボスだな。それにしてもゴツイな。体格ならじーさんに引けをとらねー。

 そして、もう一人、壁に背中を預けている奴を見る。

 アイツも相当できるな。

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 ソイツは、さっきからデカイ《殺気》を出して、こっちを威嚇していた。だけど、俺は、気付かないフリをすることにした。

「よう、久しぶりだな。リョウ」

俺は、デルタという男に視線を戻す。デルタは、口元に笑みを浮かべている。

「・・・・どっかで会ったか? 初対面だと思うが」

俺の記憶の中には、こんな濃い顔の男は居ない。

「こうやって顔を合わすのは初めてだな。だが、俺は、お前が奴を殺すところを遠巻きに見ていた」

その言葉に、俺は、デルタを睨みつけた。

「・・・・別に、気に入らないから殺しただけだ」

その瞬間、デルタは声を出して笑いだす。

「はっはははははは、イイぞ。俺が思った通りの男だ」

「なんか知らねーけど。勝手に気にいるんじゃねよ。俺は、アンタに好かれたくねー」

そのとき、不意に後ろの扉が開いた。

 俺は、すぐに振り返る。そこには、二人の男女がいた。

「父さん、なんだい用って・・・・んっ? カイザー」

「・・・・ファイ」

俺は、昔の顔なじみの名前を口にした。

 また面倒な奴が現れやがった。

 この”ファイ”という男は、俺がスラムに住んでたときに、よく突っかかってきた奴だ。どうやら、俺が、気に入らないらしい。面倒なので無視していたが。

 そんな奴より、もう一人の女だ。

 見た目、歳は俺とあまり変わらないだろう。けど、纏っている殺気が、そこの端に居る奴と同等ぐらいだ。

 それに、コイツから、濃い血の臭いがする。

「なんだい、カイザー、帰ってきてたのかい? 水臭いなー、ミュウも一声をかけてくれれば、一緒に迎えに行ったのに」

「貴方と一緒に行動したら、身の危険を感じるわ。貴方、リョウに対抗意識持ってるから、何されるか分からないもの」

「昔の話だよ」

「それで、本題は?」

俺は、無駄話を切るため、デルタに視線を向ける。

「せっかちな奴だ」

「まず、俺は、なんのために呼ばれた? ミュウからは、お前に会ってからだっていわれたが」

「お前に受けてもらいたい依頼がある」

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「依頼?」

俺は、怪訝な表情を浮かべる。

「俺が魔連に所属してるの知っていってんのか?」

「ああ、だが、今回は《政府》が関ってる」

「政府? どういうことだ?」

ますます、訳が分からない。

「スラムと魔連とでは、お互い”不戦条約”があるだろう」

「それは、主に俺の部隊と魔連の奴らとの取り組みだ。スラム全体には、当てはまらない。現に、スラムの馬鹿が、街から女を攫ってるのは、お前も知っているだろ」

「まあ、なんどか、な」

すると、デルタは、楽しそうに笑う。

「それにしても、なんで、政府の連中がここの連中を? スカウトな訳がねーし」

「簡単だろ?」

デルタは、試すように俺に言う。

 戸籍すらないスラムの住人を、生い立ちを重視するエリート集団《政府軍》が引き入れるわけが無い。

まあ、そう考えると、思い当たることは一つだろう、な。

「実験動物」

「正解だ。そうだ、ここの奴らは、この世に居ない存在だ。だから、消えても誰も何も思わない。自分さえ生きていれば、それでいい」

「だったら、なんで政府軍に喧嘩を売る?」

「そんなことは、決まっている」

デルタは、席を立つと、俺の方へと歩み寄る。そして、俺を見下ろし、顔近づけた。

「俺の土地へ無断で侵入したんだ。ケジメをつけさせないと、舐めらるだろうが」

その答えに俺は、本気で呆れた。

「・・・・失礼しました、スラムの王。だけど、俺は帰るぜ」

それだけ言うと、俺は、出口のほうへ振り返った。

「いいのか? お前のダチも関わっているんだぞ?」

「・・・・どいうことだ?」

俺は足を止め、振り返る。そして、デルタの口から思いがけない言葉を聞く。

「―――それで、どうする?」

「・・・・分かった。この話を受ける」

「では、作戦開始は後日伝える。それまで、お前には、部屋を用意してやる」

「いらねーよ。俺は、ミュウの部屋で寝る。俺の信用なんてここじゃあ、全然だからな。何されるかわからねー」

「それは助かるわ。護衛がほしかったし」

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そう言うと、ミュウはファイを睨んだ。

「そんなに警戒しなくてイイだろう? そんなお子様より、僕の方が、数倍役に立つと思うよ」

「絶対に嫌」

ミュウは、舌を出してファイを拒絶した。それを見たファイは、やれやれ、と仕草をする。

「それじゃあ、今日は、他の子に相手してもらおうかな。例えば、この間《スコーピオン》に狙われた子とかいいかもね。彼女、可愛かったし」

すると、ファイは、俺に向かって、嬉しそうな笑みを向けた。そして、その瞬間、ミュウの目が見開いた。俺は、ファイを睨みつける。

「・・・・おい、どういうことだ?」

「え、なんのことだい?」

ファイの言葉に、ミュウは、明らかに不自然な反応した。俺は、それでほぼ確信した。

 すると、ミュウが苦虫を噛んだような表情を浮かべた。

「・・・・黙っててゴメン。アイツが、スコーピオンのリーダーをそそのかしたのよ。リョウ・カイザーを追い込むには、彼女、”リリ・マーベル”を襲えば手っ取り早いって」

「・・・・なるほど、な」

その瞬間、俺の気持ちは、一気に冷めていくのを感じた。そして、真黒なものが湧き上がってくる。

「じゃあ、僕は、行くよ」

ファイが、ドアノブを握る。しかし、そこから動くことはなかった。

「なっ!?」

自分でも何が起こっているの分かっていないファイは、焦った声を出す。そして、ゆっくりと俺は、口を動かした。

「次、リリ、いや、俺の周りの奴に危害を加えてみろ。そのときは、お前を殺す」

ドアノブが小刻みに震える音が聴こえる。すると、デルタは、楽しそうな笑みを浮かべた。

「・・・・コイツは、想像以上の《殺気》だな。ファイが、本能的に動けなくなるほどとは?」

デルタの解説どおり、俺は、ファイに向かって《殺気》を出している。そして、ファイが動けないのは、簡単なことだ。俺に恐怖を感じているだけから。

「どうやら、感覚は、忘れていなかったようだな」

「別に、つかわねーだけだ」

そう答えると、俺は、すぐにそれを納めた。その瞬間、一人、俺に向かって飛び掛かってきた。俺は、すぐに腰の柄を逆手で握ると、一気に太刀を振り抜く。

 そのとき、二つの刃が交差した。そして、どちらも相手の首元で止まる。

「・・・・なんか用か?」

「へー、動きもいいわね。でも、アタシ程じゃない」

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突撃してきたのは、先程、ファイと一緒に部屋にきた女だ。武器を確認すると、握っているのは短剣。

 初動作が早かったから、反応が少しでも遅れたら一突きだった。

「随分と自身があるんだな」

「なら、この場で狩って、証明しましょうか?」

すると、女の口元に笑みが浮かんだ。

「やめろ、”フェンラン”。お前じゃコイツには勝てねぇよ」

「なんですって?」

フェンランと呼ばれた女は、デルタを睨んだ。すると、デルタは、さらに睨み返した。

「俺の言うことが聞けねぇのか?」

その言葉に、舌打ちだけすると、フォウランは、部屋から出て行った。そういえば、いつの間にか、ファイも部屋にいない。

 俺は、ため息を吐くと、太刀を鞘に納める。

「悪かったな。でも、これでコイツが使えるか分かっただろう。そうだろ? ゼータ」

「ああ、正直、子供だとバカにしていたのを謝りたい、な」

そう言うと、壁に背中を預けていた男、ゼータが、俺の方へ歩み寄る。そして、右手を差し出した。俺は、律儀な奴だと思いつつ、その手を握る。

 だが、コイツは、強者のようだ。

「別にいい。いつものことだ」

「それは助かる。ワタシは、無駄な争いは好まないからな」

「話が分かる奴が居てよかったぜ」

すると、ミュウは、デルタに詰め寄り、睨みつけた。

「貴方、あの子を呼んだのは、こうなるのこと予想して、でしょ?」

だが、デルタは、シラを切るようだ。

「考えすぎだ。それはそうと、リョウ。今の女どうだ?」

「? さあ、弱くはないんじゃねーか」

「違う。イイ女か、聞いてるんだ」

「??」

俺は、話の内容が分からず、首を傾げた。だが、デルタは、面白そうな笑みを浮かべる。

「まあ、気に入ったんならくれてやる。なんなら、今すぐ抱いてもいいぞ」

その言葉で、やっと意味が理解できた。というより、サブなら喜びそうなセリフだろうっと、一番に思ってしまった。

 だが、俺は、親のセリフに呆れるしかなかった。

「訊く奴間違えたな。そっちの意味でも俺は、わからねーよ」

「なら教えてやる。女は、男の為にいる。《男女平等》なんぞ、世界をダメにするだけだ。リョウ、この世で一番、強いのオスとメス、どっちか分かるか?」

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その問いに、俺は、何も考えずに答える。

「男」

「そうだ。なぜなら、メスには《武力》が無いからだ。だから、メスは、頭を使う。どのオスにつけばイイ思いができるかを、な。だから、メスは、オスのために居る」

俺は、本能的に、この話題は、早めに切るべきだと思い、動いた。

「覚えておく。もういいだろ? ミュウ、案内してくれ」

「分かったわ。だけど、一言だけ言わせて」

そう告げると、ミュウは、デルタを見上げる。

「デルタ、忠告してあげる。貴方が思っている以上に、女は、賢いわよ。だから、どちらが本当の支配者か、今は、分からないんじゃないかしら」

「ほう、面白い。なら、俺を支配できるか?」

デルタの楽しそうな笑みを見て、ミュウは、すぐに翻した。

「冗談、私の武器は、ここなんだから。武力交渉は、オスにまかせるわ」

そう言うと、ミュウは、自分の頭を指した。そして、俺の腕を掴むと、そのまま部屋の外まで引っ張った。

 

説明
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
”masa”改め“とげわたげ”です。
今作、1年の休載からついに書き終えることができました。
今まで読んでくれた方やこれから読んでくれる方。
簡単でいいので、よろしければ、感想おねがいします。
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