Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)8巻の4 |
第4章 依頼
目を開くと、景色がボヤけていた。そして、目の前には、銀色の髪の青年が、剣を杖にして体を預けている。しかし、次の瞬間、青年を支えていた刃は、ガラスのように崩れた。
「・・・・ニア、悪い。壊しちまった」
青年の口元に笑みが浮かぶ。その口から、紅い筋が流れ、地面に零れる。
そして、青年は、糸が切れた人形のようにゆっくりと、倒れてきた・・・・。
わたしは、ベッドで跳ね起きると、自分が、汗を流しているのに気づいた。
「・・・・夢? はぁ?、朝からすごい、嫌な夢見ちゃったなー」
わたしは、ベッドから降りると、カーテンを開けた。外はまだ薄暗く、辛うじて街の景色が観えるくらいだった。
「あんな夢見ちゃったから、もう一度寝直すのは無理・・・・そうだ。久しぶりに朝練、使用」
そう決めると、わたしは、早速制服に着替えた。
「あれ? リリ、こんな朝早くどうしたの?」
部屋を出ると、そこでばったり、お母さんと出くわした。
わたしのお母さん”マリア・マーベル”は、魔連の局員で、南地区の《局長》である。ちなみに、お姉ちゃん”ルナ・マーベル”は、お母さんの部下で、《副局長》だ。
「お母さんこそ、どうしたの?」
「私は、ちょっと喉が渇いただけ」
「そうなんだ。わたしは、早く目が覚めたから、朝練に屋上へ行くところ」
すると、お母さんは、笑みをこぼした。
「へぇー、なら、ちょっと待ちなさい。私もついて行くから。偶には、私が教えてあげるわ」
「本当に!?」
お母さんと魔法の練習するなんていつ以来だろう。早起きはするものね。
お母さんが支度するのを待って、わたしたちは、屋上へと向かった・・・。
○
「―――もっと、背中に意識を集中しなさい。魔力を背中に集めるイメージよ」
「はい!」
わたしは、言われた通り、意識を集中させる。すると、《マナ》の光が少しずつ背中に集まってきた。しかし、すぐに、弾けて消えてしまった。
「きゃ!?」
わたしは、弾けたことに驚いて、座り込んでしまう。その姿にお母さんは、苦笑いを浮かべた。
「まだまだ、イメージが弱いわね。やっぱり、貴女の歳で《羽化》は、まだ早いのかも、ね。ルナでも、モノにしたの十五の時だし」
「でも、2回発動できたんだから。出来ないはずは無いと思う。わたしだって《巫女》の血を引いてるんだから」
「・・・・そうね。すぐには、無理かもしれないけど。貴女ならできるようになるわ」
そう言うと、お母さんの雰囲気が変わった。そして、背中に膨大なマナが集まる。
「・・・・きれい」
次の瞬間、お母さんの背中から、幻想的な羽が具現化した。
「本来、魔導師は体内にマナを蓄積して、使うもの。だけど、私たち《巫女》は、さらにこの羽の力で、外にも貯めることが出来るわ。簡単に言えば魔力の《タンク》ね」
すると、お母さんの羽は、朝の冷たい空気に溶けて消えた。
気づけば、日の光がビルの隙間から顔を出していた・・・・。
○
「―――出張?」
朝練を終えて、家に戻ると、お姉ちゃんが朝ご飯の支度をしてくれていた。朝食を食べているわたしに、お母さんは、予定を告げた。
「そう、今日から一ヶ月、家を空けるからよろしく、ね」
「ずいぶん急だね」
わたしは、パンに一口かじる。
「本来、私も行くべきなのでしょうが・・・・」
お姉ちゃんが、申し訳なさそうな表情を浮かべる。そんなお姉ちゃんに、お母さんは、呆れたような表情を浮かべた。
「言ったでしょう。今回の作戦の指揮は、私が取らないといけないの。それに、副支部長の貴女が居てくれるから、私が出動できるんだから」
「ですが―――」
「それに、この任務は、私が長年追っているものに近づける。戦争の裏に絶対あの組織が関っているはずなんだから」
すると、お母さんの表情が真剣なものに変わった。
「だから、これは私たち古株が受けないといけない。貴女の様な新しい時代の若者には、関らせられないわ」
「それでも、私は、事件の当事者でもあります。あの事件の危険度は、把握しているつもりです」
「だったら尚更、娘の貴女を連れて行くわけには、いかないわ。あー、この話は、終わりよ。せっかくの娘2人とのモーニングが不味くなるわ」
そう言うと、お母さんは、いつもの調子でカップに口をつける。
「それよりも、リョウは? あれから連絡無いの?」
「う、うん」
わたしは、首を縦に振って返事をした。そのとき、少し自分のトーンが落ちているのに気づく。
リョウくんと連絡が途絶えてから一週間。始業式の日から取れなくなってしまった。
最後に交わしたのは、ポピーちゃんのマンションにリョウくんから電話が、掛かってきたとき。
○
『―――一週間、学園休むから、サクヤさんに伝えといてくれ』
「休むって、急にどうして!?」
わたしは、急な電話に声を上げた。しかし、電話越しのリョウくんは、落ち着いている。
『昔の仲間の頼みで、な。ちょっと、やらなきゃならないことができた』
「なら、わたしも―――」
『無茶言うな。お前、俺と一緒に居ても辛いだけだろ?』
その言葉が、わたしの胸に突き刺さった。そして、怒りと悲しさが混じったような感情が浮かび上がってきた。
『まあ、すぐに戻って―――』
「・・・・知らない」
『はぁ?』
マイク越しからリョウくんの間の抜けた声が聞こえた。
「もう知らない! 一週間でも一ヶ月でも、行けばいいよ!」
『おい、リリ!』
リョウくんの驚く声が聞こえたけど。わたしは、一方的に通話を切ってしまった・・・・。
○
「はぁ〜」
わたしは、通話の内容を思い出してため息が漏れた。そして、わたしは、机の上の携帯電話を覗く。
すごい自己嫌悪
そう思うと、もう一つため息が漏れた。
四日前・・・・
現在、俺は、なぜか机の前に座らされていた。
ダンテの依頼を受けてから、俺は、作戦の日時までミュウの部屋で待たされていた。その間、ただボーっと過ごしていた訳じゃない。なぜなら・・・・。
「・・・・なぜ、スラムに来てまで、コイツらと遭遇しないといけない」
そんな愚痴を零す理由は、目の前にあった。それは、教科書の束だ。
「学生なんだから当たり前よ。私が誘った所為で、留年なんてされたら、あの剣術バカに指されかねないもの」
その愚痴を、モニターを覗いていたミュウが答えた。それは正論だろう。だが、納得いかない。
「別に生きていくのに、こんなもの必要ねーだろ」
すると、ミュウがこちらに振り返った。
「手が止まってるわよ。それに、学んでいて無駄ではないわ」
そう言うと、ミュウは、席を立ち、俺の横に座った。そして、俺のノートを覗き込む。
「・・・・ここの数字間違ってる。式も目茶苦茶。貴方、絶対授業聞いてないでしょ」
「・・・・」
さすがに、正解だとは言えなかった。その表情で分かったのか、ミュウは、呆れたようなため息をついた。そして、一冊の教科書を取る。そして、迷わず目的のページを開いた。
「・・・・はい、この式を使うのよ。あとは、出た数字をもう一つの数式に当てたらできるわ」
「・・・・・・・おっ、できた」
答えを確認すると、本当にできていた。あまりに簡単にできたのでさすがに驚いた。
「というより、なんで数式が載ってるページが分かったんだ?」
俺は、すぐにその疑問が頭に浮かんだ。しかし、ミュウは、目をそらす。
「・・・・昔、見たからよ。一般教養は、どの科も同じものを使うから」
「えっ、じゃあ、お前」
「元生徒、レベルの低さにがっかりして、三ヶ月で中退したけど」
その言葉に、俺は驚くと同時に色んなことが納得できた。
だから、俺は、自然と言葉が漏れた。
「・・・・今は、引きこもりか。人としてのレベルは、お前も低い―――」
その瞬間、ミュウは、持っていた教科書の角で俺の顔を殴る。
「別に良いでしょ! この間、歩いたせいで靴擦れが痛いんだから」
「・・・・普段から歩かないからだ」
う、うるさい、とミュウは、俺を睨みつけてきた。
てか、分厚い教科書って武器になるな。
俺は、デコを摩りながら。
「それで、あの女、“フェンラン”のこと調べたか?」
「まあ、調べるほどじゃなかったけどね。それよりも、私は、貴方が彼女を気にしていることの方が驚きだわ」
そう言うと、ミュウは、俺に一枚の電子盤を差し出した。俺は、それを受け取ると、目を通す。
「・・・・雰囲気がなんとなく、俺に似てんだよ。昔、マリアさんに拾われる前の俺に」
「なるほど。そういえば、あったばっかりのとき、貴方もあんな感じだったかもね」
それだけ言うと、俺は、再び情報に目を通す。
ファイとは腹違いの兄弟
ファイトスタイルは、投剣術と素手での打撃。
スラムには、9歳から住んでいる。
「分からないのは、魔力値が計測されているのに、それを戦闘で使わない。だから、使用属性、使用方法は、分からないわ。でも、今の今まで、生き残ってるんだから、同じ女でも化け物ね」
「戦いに《魔力》だけがすべてじゃない。他に色々な方法がある」
そう答えると、俺は、電子盤をミュウに返した。ミュウは、それを受け取る。
「また《気》のこと? 悪いけど、オカルトは、専門外」
「無意識に《魔法》を使っているかもしれねーな」
「戦闘記録もあるわよ」
電子盤を操作すると、ミュウは、俺に返した。
すると、そこには、動画が流れていた。
スラムの住人とフェンランが、言い争っているシーンだ。すると、建物からゾロゾロ、フェンランを囲むように集まってくる。
画面上には、十人。すると、フェンランは、不意に目の前の奴ぶっ飛ばした。
それが開始と、集まった奴らが一斉に、フェンランに襲いかかる。
だが、フェンランは臆することなく、次々と潰していった。それは、圧倒的だった。
「結果は、フェンランは、無傷。襲った奴らは全員、土の中」
そう答えると、ミュウは、俺から、電子盤を取り上げた。
「どう? 興味の方は」
「・・・・見た感じ、コイツは、ただ《強さ》を求めてるだけだ。だけど、昔の俺って言ったのは、間違いだな」
「どうして?」
「不器用」
「・・・・なにそれ?」
ミュウは、怪訝な顔で俺を見てきた。だけど、俺の意識は、もう後ろの扉に向いていた。
「まあ、すぐに分かる。あちらさんは、俺に興味があるみたいだし」
「へっ?」
次の瞬間、ドアが蹴破られた。そして、そこから現れたのは、噂の女だ。
「は〜い、暇してる? 悪いんだけど、相手してくれないかしら?」
そう、フェンランだ。俺は、振り返り、姿を確認する。
そこで、アイツの右頬に、血がついているのに気付いた。
その不自然なつき方から、どうやら、返り血のようだ。
「お前に会ってから、狩に行っても、あまり面白く無くて、ね。どうしてかしら?」
「しらねーよ。それより、無駄に敵作ってると、あとが大変だぞ」
「別に良いわ。その方が、一々こちらから出向かなくてすむし」
俺は、ため息が漏れた。そして、確信した。
「・・・・なるほど、な」
「それで、付き合ってくれんの?」
「・・・・分かった。戦(や)れそうなところに案内しろ」
「リョウ!?」
すると、ミュウは、驚いた声を上げた。だけど、俺は、それを手で制止した。
「心配するな。俺は、死なない」
それだけ言うと、俺は、フェンランに近づく。そのまま、フェンランと俺は、部屋から出た。
その姿を見送ったミュウは、疲れたため息をついた。
「あの子はまったく・・・・って、あれ? これって―――」
そのとき、ミュウは、リョウの腰になくてはならないものを見つけてしまった。
○
ミュウの部屋から出て、少し歩くと、一つの部屋の前についた。だが、その部屋は、見るからに普通の部屋じゃない。
「牢獄。いや、拷問室か」
「誰にも邪魔されそうにないでしょ?」
「そうだな。じゃあ、始めようぜ」
俺たちは、お互い、壁の端へと距離を取る。
フェンランは、太もものホルスターから、ナイフを一本取り出した。
「それで、お前は、抜かなくていいの?」
「何をだ?」
そう答えると、俺は、両手を上げた。その瞬間、フェンランの表情が怒りへと変わる。
「ふざけるな! 私に勝つ気あるの!」
「別に、ふざけてねーよ。お前を屈服させるのに武器なんていらない」
「殺してやる」
フェンランは、地面を蹴り、一瞬で俺との距離を潰した。そして、その勢いのまま、ナイフを突き出す。刃が俺の肉に突き刺さる。
そのとき、フェンランの目は、驚きを隠せなかった。
「なっ!」
「っ! なあ、質問なんだけど。お前、なんの為に戦ってんだ?」
こんな時に、場違いなセリフだが、俺は、訊かずにはいられなかった。
「・・・・私が誰よりも強いことを証明する為に決まっているでしょ」
「・・・・そう、自分に言い聞かせてんだな」
「なに?」
俺の即答した。
「お前は、怖いんだよ。誰からも相手にされないのが」
「バカなこと言うな!!」
フェンランは、刺さったナイフを抜くと、そのまま振り上げて、勢いよく振り下ろした。俺は、それを左腕で受ける。
辺りに鮮血が飛び散る。だが、フェンランの攻撃は止まない。抜いては刺し、抜いては刺しを繰り返す。
俺は、致命傷だけは避けた。
「私は、誰よりも強い!! 王の器だ!! 恐怖なんて感じる訳がないだろ!!」
「っ! 嘘だな。“狩”と言って、暴れるのも自分より強い奴を探すため。自分のすべてをぶつけられる奴を、自分のすべてを認めてくれる奴を探しているだけだろ」
「黙れ!」
「ぐっ! 戦闘が終わった後、不意に見せるさびしそうな顔、あれが、お前の本性だ」
そう、俺は、あの動画を見たとき、気付いた。俺とコイツとの違いを。コイツは、人の温もりをまだ知らない。ずっと、一人だったんだろ。そこが、俺との違いだ。
「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ!」
なおも刺し続けるフェンラン。そのとき、一瞬だけ、目の前が黒くなった。
ヤベ、血、流しすぎた。
「殺す! 殺す! 殺す!」
「否定するなら―――」
フェンランが振り下ろした腕を、俺は、残っていた力で掴む。そして、フェンランを引き寄せた。
「なんで泣いてだ?」
引き寄せた勢いで、俺は地面に倒れた。もう、起き上がる体力も残ってない。
だけど、まだ意識はある。
「安心しろ。人が持つ、”孤独”なんて、誰もが持っている恐怖だ」
「・・・・私は違う」
「そうだな。王様だもんな。だけど、な」
王様も人間だ。
その瞬間、フェンランの動きが完全に止まった。やっと、大人しくなった。
「だけどな、今日からは違う。お前の上は、俺だ」
フェンランは、顔を上げた。その瞳は、俺の瞳を捉えている。
「私に負けたくせに」
「負けてねーよ。俺は、生きている。それに、お前を泣かして、動きを止めた。だがら・・・・」
ヤベ、眠くなってきた。
「俺の勝ちだろ」
「・・・・もう、勝手にしな。やる気が失せた」
「じゃあ、決まりだ。今日からお前は俺の・・・・も・・・・のーーー」
そのまま、俺は暗闇へと落ちた・・・・。
○
朝起きると、キッチンには、朝ご飯が用意されてあった。
「おはよう、お姉」
「おはよう、ピーちゃん」
ウチは、テーブルの上を見渡した。焼き魚に漬物、白いご飯に味噌汁。
もろ、和食の朝ご飯やな。
ウチのところへお姉が泊まってから一週間。お姉は、毎日ご飯を作ってくれている。最初は、断ったんやが。強情な性格から、聞かんので、コッチが折れた。
「いつも、おおきに」
「なんや、改まって。実家におる時は、ウチが、いつもやっとたがな」
「今は一人暮らしやから、誰かに作ってもらうことがないんや。調子くるうねん」
「そんなもんか?」
ウチは、席につくと、料理に手を付ける。
やっぱ、うまいわー。
「それで、そろそろ聞かせてくれんの?」
「ん?」
ウチは、ここ数日引っかかることを追求した。
「ウチにホンマは、なんのようできたんや?」
「・・・・ホンマ、ピーちゃんにはかなわんなー」
お姉の表情が険しくなる。
「実は、ホンマの用は、アンタに力を引き継いでもらいにきたんや」
「力? まさか、風の―――」
「そや」
ウチは、一瞬、驚いたけど。すぐに納得した。
「ウチは、いつ死ぬか分からん。その前に、アンタにこれだけは、渡しとかんとイケン思うって、な」
「お姉」
だけど、お姉は微笑んだ。
「そないな顔せな。ウチが今も、ここにおんのは、奇跡に近いんやから。多分、未練がそうさせとんのやろ」
「なら―――」
「アカン、そないなズル、許されへん」
お姉は、ゆっくりと首を横に振る。そして、ゆっくりと席を立った。
「ほな、始めよか」
「・・・・わかった」
ウチも席を立つ。いつか、この日が来ることは決まっとた。だから、ウチには迷いはなかった・・・。
○
時間は戻る
休み時間、兵士科を訪れたわたしは、見知った顔を探した。
「・・・・見当たらないなー」
「なにしてんだァ?」
「!」
突如、後ろから声を掛けられ、わたしは、すぐに振り返った。だが、そこに立っていたのは、見知った女子生徒だ。
「なんだ、リニアか。驚かせないでよ」
わたしは、ほっ、胸を撫で下ろすと、訴えるようにリニアを睨みつけた。
「スキだらけだからだァ。もしかし、サブ、探してんのかァ?」
「うん」
「あの野郎なら、昨日からイネェよ。魔連の出張で別世界だァ」
「・・・・そうなんだ」
サブくんなら、何か知っていると思ったんだけどなー。
「ンなことより、テメェ、大丈夫かァ?」
「えっ」
「顔色ワリーぞ」
その原因はわかっていた。兵士科は、魔法科と違って男性比率が高い。《男性恐怖症》である、今のわたしには、キツイのは当たり前。
「はぁ〜、コッチ、来いィ」
すると、リニアはわたしの腕を掴むと歩き出した。わたしは、引かれるまま着いていく。そして、着いた場所は、兵士科の更衣室だった。
わたしは、そこのベンチに座らされると、リニアは、ちょっと待ってろォ、と言い残して出て行いってしまった。
つい、当たりを見渡してみた。
ここに入るのは、初めてだけど。作りは、同じなんだ。
「でも、こんなところに連れ込んで、どうした・・・・まさか?」
人のいない場所、あまり出入りがないところ。
そういえば、リニアって、この間も男子生徒の告白も断ってたし。
「もしかして、リニアは、れ―――」
「ンな訳あるか。ホレ、水」
「あ、ありがとう」
わたしは、差し出されたペットボトルを受け取る。蓋を開け、口をつける。そしたら、少し気分が楽になった。
「ふぅ」
「まだ、頭沸いてるならァ、直してやるけど。どうするよォ?」
「け、結構です。楽になりました」
リニアが、凶器の笑みを浮かべたので、わたしは、全力で拒否した。
「・・・・たく、きちィならオレに頼れ。話ぐらい、オレが訊いてきてやるよォ」
その言葉に、わたしは、リニアに微笑み掛ける。すると、リニアは視線を外した。
こういう仕草が、可愛いだよね。
「そう言えば、ポピーはいねェのかァ?」
「うん、今日は、午前中休み。午後の授業から来るって。朝連絡があったよ」
「へー」
そのとき、スカートのポケットが震えた。わたしは、携帯電話を取り出すと、確認する。
あっ、噂をすれば。
「はい、リリです」
「リリちゃん! 助けて!」
「!」
「・・・・どうしたァ?」
この電話が、事件の始まりだった・・・・。
○
目を開けると、薄暗い天井が目に入った。
匂いからミュウの部屋だな。
俺は、視線を横に向ける。
「っ!?」
その瞬間、身体中に痛みが走る。
そう言えば、刺されたんだっけ?
「あっ、目が覚めたようね」
俺が目を開けたことに気づいたのか、ミュウが近づいてきた。
「どう? 体の調子?」
「・・・・痛み以外は」
「そう、ならよかったわ」
そして、ミュウは、持っていた洗面器を・・・・。
「がっ!?」
顔面に落としてきやがった。
「っ〜」
「痛いのは、生きてる証拠。たく、心配させて。見つけたときは、死んでるかと思ったわ」
「・・・・大げさな」
俺は、体を起こす。そして、自分がミイラになっているのに気づいた。
「《失血死》しかけたのに、よくそんなこと言えるわね」
「割とながしたからな。よく血があったな」
「・・・・私が取ってきた」
その瞬間、正面にフェンランがいるのに気づいた。
ソイツに俺は笑いかける。
「なんで、トドメささなかった? チャンスだったろ」
「そんな勝ち方しても、意味がない」
「なら、生き残った俺の勝ちだな」
「・・・・ボロ雑巾のくせに」
「言えてる」
その言葉に、声を出して笑いそうだった。しかし、ミュウに睨みつけられたので止める。
「でも、びっくりしたわよ。部屋に入ったとき、この子、血が足りない貴方に、自分の血を飲まそうとしてたのには」
「・・・・」
しっかり、止めを刺されそうになっていたようだ。
「足りないから補うのは、当たり前でしょ」
もしかして、天然か?
俺は、ジト目で、フェンランを・・・・面倒だからランでいいや。ランを睨みつけた。
「心配しなくていいわよ。ちゃんと輸血パックを使ったから」
ミュウは、すぐに補足した。
「しかし、よくそんなもの手に入ったな」
「・・・・盗んできた」
また敵増やしやがったな。
俺は、苦笑いを浮かべる。
「まあ、ありがと、な」
「・・・・決着をつける前に逝かれたら困るだけよ」
「へー、意外に可愛いところあるんだ」
うるさい、とフェンランは、ミュウを睨みつける。だが、それには凄みが感じられない。
そのとき、ドアがノックされた。
『姉御、 デルタさんがお呼びです。作戦室までお願いします』
「分かったわ。すぐに行く」
ミュウは、ドア越しにやり取りすると、俺に目配せしてきた。
俺は、頷くと立ち上がり、移動した。
○
「ずいぶん、派手にヤられたみたいだな」
「お前の娘、じゃじゃ馬すぎて、大変だったぜ」
俺の姿を見たデルタは、楽しそうに笑った。
「っで、うまくできたか?」
「想像に任せる」
そうかそうか、とデルタは、なぜか一層楽しそうに笑出す。
「それで、仕事の内容は?」
俺は、本題に入るように睨む。
すると、横にいたゼータが、紙を投げてきた。受け取るとそれは、男が写真だった。
「コイツは?」
「・・・・また、大物ね」
横から写真を覗いてきたミュウが、誰かすぐに特定したらしい。
「知ってんのか?」
「元”政府軍特殊武装隊”第二小隊隊長で、今”査察官”ね」
「それで、コイツをどうすればいいんだ?」
「殺せ」
デルタは、簡潔に内容を告げた。どうやら、本気らしい。
「おい、俺も一応政府関係者だぞ。上司を“殺せ”って」
俺は、呆れた表情を浮かべる。
だが、デルタは、それを鼻で笑った。
「義理はねぇだろ?」
「”首輪”はついてんだよ」
事情は、複雑だが、簡単に言えば俺は、政府に人質を取られている。それが”首輪”だ。
「大体、お前が動けばいいだろ? コレぐらい簡単―――」
「政府との条約を忘れたか? 表立っては俺は、動けねぇ。しかし、安心しろ。今回のクライアントは、お前の飼い主だ」
「・・・・マジかよ」
俺は、その言葉に、耳を疑った。アイツが、裏でそんな動きをしてたなんて。
「言うなら、ソイツは、お前らの裏切り者だ。身内の不始末は、身内でつけたいんだろ」
「・・・OK、分かった」
「いい返事だ。それと、研究所も破壊しろ、情報を外部に漏れたらヤバイそうだ」
デルタは、初めから断らないことを知っていたように、笑みを浮かべた。
「分かった。ただし、作戦メンバーは、俺が決める。いいな?」
「いいだろう」
「なら、二人もらう。ミュウとラン」
「それだけか? 建物の破壊もあるんだぞ?」
ゼータは、意外そうな表情を浮かべる。
「それなら、俺の魔法ですぐだ。それに、人数が多いと逆に邪魔になる」
「ほーう、なら、なぜフェンランだ? ゼータの方が動かしやすいぞ」
もっともな意見だ。多分、このおっさん、どこぞの軍人だったのだろう。立ち振る舞いで分かる。
その答えに俺は、後ろに立っているランを差した。
「コイツは、もう俺の駒だ。俺が好きに使わせてもらう」
「なるほど、な」
その発言に、デルタは一層嬉しそうに笑う。
「誰が、お前のモノだって」
だが、さっきまで黙っていたランが、納得行ってないようだ。
「賭けで俺が勝ったろ? だから、お前は、俺のモノだ」
「ふざ―――」
次の瞬間、ランがホルスターからナイフを抜いた。だが、俺は、一気にランとの距離を詰め、壁に体を押し付けた。そして、首へと刃を向ける。
「これで2勝1分け。俺の勝ち越しだな」
ランの目には、驚きがあった。
まあ、さっきボコボコにした奴が懐に入ってきたんだから驚くだろう。
「そういうことで、もらって行くぜ」
「ああ、報酬もそれか?」
「それでいい」
交渉成立、と俺はドアノブに手をかけた。
あ、一つ聞き忘れた。
「そう言えば、ターゲットの名前は?」
その問いをデルタは、両肘をデスクに置いて答えた。
「ルー・ファンファンだ」
説明 | ||
おはようございます。こんにちは。こんばんは。 ”masa”改め“とげわたげ”です。 今作、1年の休載からついに書き終えることができました。 今まで読んでくれた方やこれから読んでくれる方。 簡単でいいので、よろしければ、感想おねがいします。 |
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フラグきたー!! リョウすげぇ。(端っこの) | ||
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