Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)8巻の5
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第5章 巫女の力

 

 

 小雨が降る中、わたしとリニアは、集合場所に急いだ。

 

「あっ、リリちゃん、リニア」

わたしたちの姿に気づいたポピーちゃんは、こちらに視線を向けた。

「ポピーちゃん、エミリアさん、やっぱり帰ってきてないの?」

「うん、連絡もとれへん」

現在場所は、マンション前。

数時間前、わたしは、ポピーちゃんから連絡を受けた。内容は、ポピーちゃんの姉、エミリアさんの行方が分からなくなった、とのこと。その連絡を受けてからわたしたちは、学園を早退し、すぐに現地に向かった。

「それで、理由はァ? 朝、一緒に居たンだろうがァ」

「そ、それは・・・・」

その言葉に、ポピーちゃんは急に言い淀んだ。その行動にわたしは、不自然さを覚えた。

そう言えば、ポピーちゃん、今日なんで遅くなるって・・・・もしかして。

「ポピーちゃん、”午前中の用事”って、一体なんだったの?」

「!」

そのとき、ポピーちゃんは、目を見開いた。どうやら、確信だったようだ。

しばらく、下を向いていると、ポピーちゃんは、顔をあげる。

「・・・・二人とも、《巫女》って知っとるか?」

「!?」

「巫女ォ? なんだそりゃ?」

リニアは、意味が分からなかったようだけど、わたしは驚いて、固まってしまった。

 だけど、それに気付いたリニアが、わたしを睨みつける。

「・・・・おい、リリ、テメェも何か知ってるみてェだなァ」

「う、うん」

わたしは、頷くしかなかった。そして、説明する。

 《巫女》

 それは遠い昔、まだ世界が一つの時代、空の都市と行き来するために建てられた塔を護る使命を与えられた者達を言う。文献では、建てられた柱は7本。世界が分離した現在は、3本だけ残っている。しかし、残った3本の柱はどれも役目を終えており、空の都市への道は閉ざしたままである。そして、現在に残る《巫女》は、本来の役目を終え、今は少し特殊な能力を持った魔導師の呼称である。

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「それでェ?」

「《継承の儀》のときの衝撃で、ウチ、気絶してもーたんよ。その間に、お姉がどこかに・・・・」

「そのキを失っていたのって、どのくらい?」

「? 10分くらい」

それなら、タクシー呼んでも難しい。徒歩も、エミリアさんの体では、あまり遠くへは移動できないはずだ。

 そうなると・・・。

「・・・・誰かが連れて行った」

そのとき、リニアは、ポピーちゃんの両肩を掴んだ。

「ポピー、玄関の状態はァ?」

「い、いつも通りやったけど」

「それじゃあ、来たのは知り合い―――ン?」

すると、リニアは、ポピーちゃんから、手を離すと、ポケットから携帯電話を取り出した。どうやら、なにかのメールが届いてみたいだ。

 わたしは、気にせず、ポピーちゃんに向き直る。

「監視カメラは?」

「管理人さんに頼んだんやけど。今、壊れてたみたいで、映っとらんかたんや」

「壊れてた?」

わたしは、横に立つマンションを見上げた。

 ポピーちゃんの住むマンションは、南地区でも、トップクラスのマンション。そんな高級マンションのセキュリティーが、そんな雑な訳がない。もし、壊れていたなら、すぐに修理されるはずだ。

「・・・・マジかよ」

「どうしたの?」

携帯電話を凝視してリニアに、わたしは視線を向ける。すると、リニアが、ディスプレイをわたしたちの方へ向けた。

 そこには、人が移っている画像が映し出されていた。

「コイツだ。ポピーのネェちゃんを連れ出した、は」

「えっ?」

「まさか」

その画像には、エミリアさんとルーさんが車に乗っている場面だった。

 

                       ○

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 現在、俺は、対象の研究施設に乗り込んでいた。

 

「・・・・結局、空振りみたいね」

そう、この施設にターゲットは、居なかった。

 現在、俺たちが居る場所は、東地区にある工場地帯の一角、車の製造工場だ。しかし、それは、工場の上の部分をさしており、真下、地下は、別のものだった。

 バイオ研究

 生態操作が行われていた。辺りを見渡すと、所々、デカイカプセルの中で、ホルマリン漬けされた動物が、浮いている。

 そんな中、俺は、持っているPDAにデータの転送作業を行っていた。そして、次に、角度を変えて見渡す。

 多くの警備兵が壁に床に転がっており、ピクリとも動かない。壁にも所々返り血が付着しており、リリなんかが見たら気絶しそうだ。

そんなことを考えていると、不意にランが身体を寄せてきた。

「ところで、アンタは、何人殺(や)った?」

「・・・・ゼロだ。言っただろ、ターゲット以外は、極力殺すなって」

俺は、呆れながら返事をした。すると、ランは、俺から離れる。

「そんなこと、初めてだから、加減が難しいわよ。それに、お前が教えてくれた。《強化》だっけ。あれの使ってみたかったし」

「はぁ〜」

道中、教えたのが裏目に出たようで、俺は、盛大にため息が漏れた。

『・・・・解析終了。どうやら、場所は、間違ってないようね』

すると、インカムからミュウの声が聞こえてきた。

「まあ、これだけの防衛をとってたんだからそうだろ、な。だが、ホシは?」

『今探し中、少し、解析に時間が掛かるかも』

その言葉に、俺は、笑みを漏れた。コイツは、この手のことに対して“できない”とは言わないからだ。

「頼むぜ《シーキャット》」

『任せなさい。それと、一つ、貴方に報告があるわ』

「?」

俺は、PDAとサーバを繋いでいたケーブルを抜き、退散準備に取り掛かる。

『今、貴方のお友達が大変そうよ』

「・・・・なに?」

俺は、自分でも分かるくらい怪訝な表情を浮かべた。

『ポピーって子のお姉さんを探しているわ。今回、私達のターゲットの婚約者。表向きは』

「それはまた、お前の“お友達”も間が悪いわね」

俺は、フェンランの言葉を否定できなかった。俺も納得したからだ。

 アイツらと知り合ってから、トラブル続きな気がする。

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「状況は?」

『私があげた画像を手がかりに、南地区を血眼になって探しているわ。手がかりは掴めてない様だけど』

その言葉を聞いて、俺は、感心した。

「よく、俺たちのナビをしながら、アイツらの動向を調べられたな?」

すると、ミュウは、うれしそうに言う。

『《ウィザード》だからね。貴方たち《魔導師》とは、別の事象を持っているもの』

底知れないミュウの言葉に、俺は、苦笑いを浮かべるしかなかった。

「それで、アイツら、今どこに?」

『PDAに位置情報を送るわ』

俺は、三人の位置を確認する。

「よし、合流するぞ。それと、シーキャット、裏でのことを教えてくれ」

そして、すぐに出口へと足を進めた。

 

                      ○

 

 雨の中、小一時間走り回っていたポピーは、とうとう足を止めた。

 雨は、始めのときよりも激しくなり、どんどん体力を奪っていく。あのあと、町中で画像を見せて、回ったポピーだが、手がかりは一向に掴めていなかった。

「お姉、なぜ、ウチに内緒でいったん?」

相手は婚約者、でも、あの画像を見て、そんな楽しそうな感じは、全然しなかった。そうすると、理由が浮かばなかった。

「そーいえば、朝からおかしかったなー」

ポピーは、急に、《継承の儀》のことを思い出した。

 もちろん、姉の身体が悪いのは知っている。そして、エミリアは、余命の宣告された月よりも一ヶ月長く生きていた。だから、いつその日が来てもおかしくない。

「覚悟はとうの昔からできとる」

ポピーには、悲しい気持ちは、無かった。そんなことは昔に、決意していたからだ。

「よう、そんな所に居ると風引くぜ」

ポピーは、顔上げる。そこには、銀色の髪をした漆黒を纏った青年が立っていた。

 

 俺は、ずぶぬれのポピーを見つけると、声を掛けた。

 

 すると、ポピーは、驚き、視線を上げる。

「カイザー君? なんで、ここに?」

「お前を探してたからに決まっているだろ」

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「えっ?」

ポピーは、なぜか間抜けな声を漏らした。すると、ランが笑みを浮かべた。

「ソイツがアンタの”お友達”? なんか弱そうね」

「ラン、そいつはどうかな? 今のポピーは、お前より強いぜ」

すると、ランは、俺を睨んだ。だが、俺は、それを無視する。

「はいはい、やきもち妬かない」

それを聞いた瞬間、ランは、次にミュウを睨んだ。

「黙れ、引きこもり」

「・・・・なんですって」

コイツら、仲悪いようだ。

「カイザー君、あの人たち誰や? 見た感じ只者やなさそうやけど」

気になったのか、俺に質問してきた。それを俺は、苦笑い浮かべた。

「まあ、アイツらのことは置いといて。それより、お前、風引くぞ」

俺は、《防護服》で着ていたコートを脱ぐと、ポピーの肩にかけた。

「そう言えば、お前、傘指してないのに濡れてないわね」

すると、ランが気付いたように訊いてきた。

「それは、これのおかげだ」

《巫女》の加護で”受け流す力”がこれに備わっている。だから、装備者の意思で雨を受け流す。

すると、ポピーは、目を見開いた。

「《巫女》!? じゃあ、その服くれたリリちゃんって・・・・」

「《巫女候補》だ」

あれ、言ってなかったのか?

「そっか、それなら、あの魔力量も、うなずけるわ」

「まあ、それは、本人にな、今は、お前だ」

「・・・・ウチ?」

俺は、ポピーを覗き込む。

「お前、今、探すの諦めようとしたろ?」

「!?」

確信をつかれたようにポピーの瞳孔が開く。

「それでいいのか? お前は、姉の最後から逃げるのか? 今まで逃げてきたように―――」

「なら、どうせぇいいうねん!」

すると、ポピーは叫んだ。

「どうせ、あと少しの時間や。自分の好きなように死なせたらええやろ!」

「・・・・それが、お前を助ける理由でもか?」

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「・・・・なんやて? 今、なんてゆーた!?」

俺は、ポピーに詰め寄られたまま、話を続ける。

「契約内容は”拒否すれば、妹の命はない”だ。脅しの定型文だな」

「そんな・・・・なんで、そないな脅しに従たんや? ウチなら自分の力で―――」

「3歳でも?」

「!?」

「知らないのも仕方ない。でもな、過去より今だ」

そして、俺は、ポピーの両肩を掴んだ。

「今度は、お前が守る番だ。残った時間は、少ししかないかもしれない。それでも、まだ間に合う」

すると、ポピーの頬に雫が流れた。

「言ってくれ。お前の口から。そのために俺達はここに来た」

「・・・・たい」

そして、ついにポピーが、耐えていたものをもらした。

「会いたい! もう一度、お姉に会って話がしたい!」

それを聞いた瞬間、俺は、ポピーから手を離し、後ろの二人に視線を向ける。

「依頼追加だ。これから、ポピーの姉奪還も作戦に組み込む。ミュウ」

「もう場所は、分かってるわよ」

待っていたかのようにミュウは、すぐに答えを返してきた。

「よし、ラン、行くぞ」

「指図するな」

ランは、悪態つくと、俺のあとに続く。

「あとは頼む」

俺は、ミュウにポピーを頼むと、目的地に足を向けた。

「リョウくん?」

すると、前方に、リニアとリリが立っていた。

 俺は、そのまま歩みを進め、その横を通り抜ける。

「待って!」

「?」「?」

俺とランは、リリが叫んだことを気にして足を止めた。

「この間、言えなかったこと。これが終わったらお話させて」

「・・・・」

俺は、振り返える。そして、リリに向かって笑みを浮かべた。

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「わかった。終わったら、メシでも食いに行く」

そう言うと、リリは少し笑みを零した。すると、リリの横に居たリニアが何か企んだような笑みを浮かべる。

「なに、マジになって言ってんだァ? 告白でもすンのかァ?」

「へぇ? ・・・・え、え、えーーーーー!」

その言葉を聞いた瞬間、リリの白い肌が一気に赤く染まった。

「し、しないよ」

リリが、リニアに慌てて抗議している姿に、俺は、苦笑いが漏れた。

「じゃあな。リニア、あんまり、リリをイジめんなよ」

それだけ言い残し、俺は、目的地に向かって地面を蹴る。それにランが続いてきた。

 

 わたしは、ポピーちゃんと合流したが、なんだか探すとき以上に、今、気持ちが疲弊している。

 

「たく、テメェには、驚かされるぜェ」

「リニアが、変なこと言うのがダメだと思う」

わたしは、抗議の視線をリニアに向ける。しかし、リニアは、真面目な表情をしている。

「そのことじゃねェ。あの、リョウによく話しかけられた、なァ」

「えっ、どうして?」

わたしは、リニアの言っている意味が分からず、聞き返した。

「気付かなかったかァ? リョウの野郎、なんか雰囲気が違ったァ。抑えてたけどなァ」

抑えてた? わたしには、分からなかったけど。

「それ、里帰りした所為かしらね。あの空気にあてられたかもしれないわ」

その声に、わたしは、ニット帽をかぶっている女性に視線を向ける。

 この人、たしか病院でリョウ君と・・・・。

「・・・・その声、テメェ、この間の電話の奴」

リニアは、何かに気づいたのか、女性に詰め寄る。しかし、その女性は、呆れた表情を浮かべた。

「はいはい、訊きたいことはアト。今はそこのお店で着替えを買って、ホテル行きましょ。そんな、濡れねずみだとカゼ引くわよ」

女性は、近くのお店を指して、リニアに制止を求めた。すると、リニアも納得したのか、立ち止まる。

 そう、わたしとポピーちゃん、リニアは、傘をささずにポピーちゃんのお姉さんを捜索した。そのため、着ていた制服は、ビショ濡れで気持ちが悪い。だから、その提案は正直嬉しいけど。

あのお店、高級ブランドショップなんですけど。

 とても、十三歳の子供のお財布で事情では、到底買えるお店とは思えない。

 しかし、ニット帽の女性は、そんなことを察してか。

「お金のことは気にしなくていいわ。あれくらいのお店なら、商品買い占めるぐらい余裕だから。早く選びに行くわよ」

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涼しい顔で言った。

 わたしは、この女性何者だろう? と本気で驚いた・・・・。

 

                       ○

 

 服を選んでホテル入ると、わたしたちは、シャワーを浴びて、冷えた体を温めた。

「あら、可愛いじゃない。すぐに決めたわりには、いい選択だったわね」

「あ、ありがとうございます。でも、いいんですか? 高いのに」

「子供なんだから気にしなくていいわよ。喜んでくれるなら、それだけで満足だわ」

わたしは、もう一度お礼を言うと、座っている二人と同じように椅子に座った。

 ちなみに、ニット帽の女性は、ベッドの上に座っていた。

「それじゃあ、簡単に自己紹介をしましょうか。私の名前は”ミュウ”。リョウとは、古い仲よ」

「えーっと―――」

「貴女達のことは知っているわ。情報がバンクから色々見させて貰ったから」

わたしが、自己紹介する前に、止められてしまった。すると、リニアは、ミュウさんを睨みつけた。

「オレの中身も知ってるしなァ」

「一応、私、貴女の命の恩人なんだけど」

リニアの視線にミュウさんは、苦笑い浮かべた。

「それよりも、ミュウさんは、いったい何者なんですか?」

わたしは、二人のやり取りに割ってはいた。すると、ミュウさんは、リニアからこちらへ視線を移す。

「そうねー。世間的には《犯罪者》の括りに入るわね。現に“表向き”は政府から指名手配されてるから」

「え、えっ?」

ミュウさんの予想外の返答にわたしは、目を白黒させて驚いた。しかし、リニアは、睨みつけた。

「なら、“裏”では何してンだァ? 犯罪者にしては、雰囲気がなさ過ぎるぜェ」

「・・・・なるほど、ね。数値を見たとき“キレる”子だとは、思っていたけど。中々、あの子も、いい子に出会っているじゃない」

 そう呟くと、ミュウさんは、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そうね。スポンサーは言えないけど。一応、政府の為の開発も携わっているわ。たとえば、貴女達の持つ《ウエポン》のプログラムAIの基礎とか、時空船のエンジンとか色々ね」

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「それじゃあ、2年前に当時のエンジンを劇的に進化させたニュース、たしか、開発者の名前はでなかったけど・・・・」

「あー、それね。私が政府の依頼で作ったのよ」

わたしは、その言葉に目を疑った。話が本当なら、目の前にいる女性は、歴史的な人物である。

「まあ、大したことはしてないわ。私がやらなくても、誰かが作っていただろうし、ね。そんなことより、何か他の質問にしましょう」

「・・・・ほな、1つ。アンタらがうけもっとる“依頼”ってなんや? ウチのお姉も追加してくれたみたいやけど」

すると、先程まで黙っていたポピーちゃんが口を開いた。

「依頼人は、《スラムの王》。内容は、スラムの住人を使った実験データの消去と係っていた者の捕獲よ」

「そもそも、なンで、リョウがスラムの奴と面識がアンだァ?」

「それは、その子が知ってると思うわよ」

「えっ」

すると、ミュウさんは、わたしに視線を向けた。その瞬間、二人もわたしに視線を向けてくる。

 わたしは、困ったが、隠さず話すことにした。

「・・・・昔、リョウ君をお母さんが引き取った日にね。彼、家出したの」

「それがスラムなん?」

うん、とわたしは、首を縦に振った。

「それで、私がスラムの人に絡まれているときに助けてくれたのが、リョウってこと。まあ、あの頃のリョウは、今より数倍ひねくれ―――」

『大きなお世話だ。それより、ポイントに着いたぞ』

なぜか、リョウ君の声が聞こえてきた。その声を聞いた、ミュウさんは、首に付けていたチョーカーに手を当てる。すると、突如、ミュウさんの目の前にARモニター3つとキーボードが表れた。

 備え付けのモニターじゃなくて、持ち運びできる仮想のモニター。そんなもの見たことがない。

 わたしが、目の前の最新技術に驚いていると、不意にミュウさんがモニターの一つをこちらに弾いた。すると、そのモニターは、わたしたち3人が囲む、テーブルの上で止まった。

 そのモニターには、どこかの研究施設が映し出されていた。

 たしかここって、本島の魔連の研究施設

「一つ貸してあげる。貴女達もライブで見たいでしょ」

そう言うと、ミュウさんは、画面に視線を移した。

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「こちら“シーキャット”、準備はできたわ。今から貴方達の携帯端末に見取り図を送るわ」

そう言うと、ミュウさんは、ものすごい勢いでキーボードを叩き始めた。わたしは、そのスピードにさらに驚いた。

 どう考えても早すぎる。

「はい、送った」

ミュウさんは、わずか30秒たらずで、作業を終えたようだ。

「・・・・ハッキング」

そう、ハッキングだ。わたしは、ポピーちゃんの呟きに内心同意した。

 どうやら、ミュウさんの本職は《ハッカー》で間違いない。

『ビースト1、データ確認』

『ビースト2、届いたわ』

二人のやり取りから、ビースト1がリョウ君、ビースト2が一緒に居た女性だと分かる。

 そう言えば。

「あのー、リョウ君と一緒にいた女性は誰ですか?」

わたしは、思わずミュウさんに向けて質問してしまった。すると、ミュウさんは楽しそうな視線をわたしに向けた。

「気になる? あの子がどんな子と付き合っているのか」

「え、えーと、その・・・・」

わたしは、言い淀むとそれが面白かったのか笑い出した。

「初々しくて可愛い。あの子の名前は“フェンラン”。スラムの住人で、リョウは子の間知り合った子よ。でも、なんで、今回の依頼であの子を呼んだかは不明。リョウが“昔の自分に良く似ている”って言ってたけど。私にはその辺りよく分からないから」

『だから、人の個人情報流すなって』

ミュウさんの説明の後、リョウ君のウンザリしたような声が聞こえた。

「あら、私は可愛い子の味方よ。貴方の命令と彼女のお願い、どっちを取るなんて分かりきってるでしょ?」

あっそ、と短く切ると、リョウ君は反論を諦めた。そして、話を本題に戻す。

『それじゃあ、モニタリング頼む。ラン、行けるか?』

『エンジンはとっくに温まってるわよ』

『よし、ミッションスタート』

その言葉と同時に二人は、同時に地面を蹴った。

 

                      ○

 

 機械が無造作に置かれ、幾つもモニターが囲んでいる部屋に一人、佇む者がいた。

「・・・・ついに、手に入れた。これが、《巫女》の魔力か」

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ルーは、自分の手を眺めながら、力の流れを確認する。そして、想像以上のできばえに笑みを零した。

「すばらしい。これさえあれば、俺は、潰すことばできる」

そして、ルーは、傍らで眠る一人の女性に視線を移した。その女性、エミリアは、診療代のようなベッドに寝かされ、目を閉じたままだ。

「お前の働きに感謝している。俺をここまで引き上げてくれたんだからな」

そう言うと、ルーは、自分の《ウエポン》鈎爪型の武器を両手に装備すると、その片腕を振り上げた。

「だからお礼だ。最後ぐらい“婚約者”として楽に逝かせてやるよ」

そのまま、勢いよく、振り下ろした。

しかし、その瞬間、激しい物音と共に一つの影が、その一撃を防いだ。部屋に金属がぶつかる音が響く。その影をルーは凝視した。

「きさま」

すると、その影は口元に笑みを浮かべた。

「婚約者にしては、雑な贈り物だな。そんなんじゃあ、婚約解消されるぜ」

その影の主は、銀色の髪に紅色の瞳、手には《ウエポン》である太刀を持つ青年“リョウ・カイザー”だった。リョウは、そのまま刀を振り上げ、ルーを弾き飛ばす。

「よく、たどり着いたな。実験体を放していたはずだが」

「お前が実験で使ったスラムの奴らか? アイツらには悪いが、消えてもらった」

リョウの返答にルーは、声を出して笑った。

「とんだ悪党だな。人を殺すのに躊躇はないのか?」

「まあ、原型はあったけど、それだけだろ。アイツらは、俺の邪魔をした。だから、斬っただけだ」

話をしている間も、部屋の空気の質が変わっていく。より濃く、そして重い、殺気がたち込めていた。もはや、気の弱い者なら失神し兼ねないほどの密度が部屋を覆う。

「へー、それがお前の《殺気》。さすがに、こんな密度を出せるとは思ってなかったわ」

そのとき、リョウが壊したドアから女性の声が聞こえてきた。リョウは、振り返らずに質問する。

「ラン、もう片付けたのか?」

「ええ、こっちのノルマは達成したわ。あとは、データ回収とソイツを殺したら終わり」

「一応、研究員は?」

「スラムの奴ら以外は、一応、手を抜いたけど。生きてるか、死んでるかなんて知らないわ」

その言葉に、リョウはため息を吐いた。

「やっぱり、部下を持つって難しい、な。先輩、ご教授して貰ってもいいか?」

「残念だが、俺は、人にものを教えるのが苦手で、な。悪いが他を当たってくれ」

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「それもそうだな。アンタは、ここで終わる」

「そうか、なら、俺が、初めて教えてやる」

ルーは、重心を低くし、前のめりに構えた。そして、着ていたスーツが弾けとんだ。

「死の恐怖を!!」

そう叫ぶと、ルーは、獣のようにリョウに飛び掛かった。リョウとの距離は、2m弱。だが、その距離は、一瞬で縮まる。

 リョウは、振り下ろされた左手を、正眼に構えた太刀で受け止める。その瞬間、あまりの上からの圧力で、リョウが立つ地面が割れる。

 さっきのように弾き返せない。

 続けざまにミドルキックが飛んでくる。だが、リョウは先程、攻撃を受け止めた衝撃で防御が遅れた。左の脇腹にルーの靴が食い込む。衝撃で、リョウは、右に吹き飛ばされてしまった。そして、リョウは、重い音を発てて、身体を壁に打ちつけた。

 ルーは、着地すると自分の力に高揚した。

「ははははは、最高だ! 巫女の力とはこれほどのものなのか! 《強化》の魔法でこんなにも力がだせるなんて想像以上だ!」

だが、とルーは、言葉を止め、自分の体の変換を確認した。戦闘前と比べ、明らかに筋肉の量が増え、見た目が変わり果てていたからだ。

「やはり、体の変換は抑えられなかったか。まあ、自我が持てているだけマシだろう」

その姿に、ランは、凝視した。

「さすがに、驚いたわね。もう、人間じゃないじゃない」

「そこのお前も来るか? それともこちらから行こうか?」

ルーは、ランを視界に捕らえた。すると、ランは太もものホルスターから、ナイフを取り出し、構える。

「・・・・手を出すな」

その瞬間、崩れた壁から声が聞こえてきた。そこに立っていたのは、先程、吹き飛んだリョウの姿だった。

「ほう、簡単に飛んだと思ったが、やはり、当たる瞬間、自分で跳んでいたな」

だが、見るからにリョウは、ダメージがあった。しかし、それ以上に、リョウの体に変化があった。

「おい、お前、なんだその痣は?」

リョウの姿に、ランの表情が驚きから、恐怖へと変わった。その原因は、リョウの体中に黒い痣が浮かび上がっているからだ。

 痣は、何かを縛るかのように浮かび、リョウに纏わり付いている。

「・・・・やっぱり、か。二ア、この痣、お前が俺に施したんだろ?」

リョウは、理解したように呟いた。

『ええ、貴方が幻獣に呑まれないようにね』

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すると、その問いに、太刀のAIであるニアが答えた。

『一定量、幻獣の魔力が溢れると、力を抑える術式になっているわ。だけど、あまり長い時間、その状態だと危険よ』

「アイツに喰われちまうからな」

それだけ言うと、リョウは視線をランに向ける。

「おい、ソイツは俺の獲物だぞ。お前は、さっきたらふく食ったろ」

その言葉に、ランは、構えを崩し、苦笑いを浮かべた。

「・・・・好きにして。化け物同士、殺し合いなさい。私はパスするわ」

リョウは、その返答を聞くと、次にルーに視線を移す。

「それじゃあ、最終ラウンドを始めようぜ。お前も俺も、長期戦は無理だろ」

その問いに、ルーは、楽しそうな笑みを浮かべる。

「そうだな。俺もまだ、力に馴染んでない。余り引き伸ばすと、暴走する恐れがあるからな。決着を早めるか、な!」

返答した瞬間、ルーは、地面を蹴って、リョウとの距離を詰める。その勢いのまま。右手を横なぎに振るう。だが、その攻撃は、リョウの体をすり抜けた。

 ルーは、驚き、目を見開く。

 リョウは、相手の右側に回りこむと、すぐさま横一文字に太刀を振る。

「ちっ」

リョウは、思わず舌打ちをした。刃は鉄にぶつかったような音を発てて、止まったからだ。

 《硬化》の魔法、自分の肉体を硬くし、防御力を上げる魔法。全体をバランスよく上げる《強化》と違い。《硬化》動きが鈍るので対人戦では、あまり使用されない。

 だが、瞬間的に使うには、効果は抜群だ。

「いい動きだが、まだ甘い」

ルーの左手に装備された鈎爪が、リョウの目の前に迫る。リョウは、とっさに左足で、ルーの膝裏を蹴ってバランスを崩す。すると、ルーの攻撃は鈍り、リョウは鈎爪をかわした。

 だが、それでリョウは動きを止めない。右足を軸に体を捻ると、そのまま回転する。

 鳳凰流奥義《孤魔》

 その回転の勢いを使い、ルーの背中に刃を斬りつける。だが、またしても、ルーの体に傷はつけられなかった。

「はぁああああ!!」

だが、リョウは、力を絞り、ルーの体を吹き飛ばした。

 ルーは、すぐさま体制を立て直す。

 しかし、間合いを開けたことで、リョウは、一気に魔力を溜めることができた。

 魔力を刃に集中させる。刃は熱を帯び、銀色の魔力を放つ。

「ふざけるなぁああああ!!」

ルーは、リョウの攻撃を阻止するため、距離を詰めた。

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 ルーの右手が突き出される。その瞬間、リョウは地面を蹴った。突き出された鈎爪が左頬を掠める。懐に入ったリョウは、その勢いのまま、刀を横一文字に振る。

「《プロミネンス》!!」

すると、高温に熱せられた刃から銀色の光の線が放たれた。

 そして、その光は、ルーの《硬化》を突き破った・・・・。

 

 倒れたルーを見下ろしていた俺は、インカムのスイッチを入れた。

 

「こちらビースト1、対象の撃破を確認」

『こちらシーキャット、了解。保護対象は?』

ミュウの返答を聞くと、俺はすぐに診療台に眠る女性に近づいた。そして、首筋に手を当てる。

「・・・・生命反応有り。だが、弱いな。救護班を至急要請だ」

『了解(ヤー)。もう、着いたようね。今そっちに、魔連の局員と救護班が向かっているわ。早くしないと見つかるわよ。後処理は任せなさい』

「頼んだ。ラン、離脱するぞ」

「データ回収OK。分かったわ」

返答を聞くと、俺は、すぐに携帯端末で脱出ルートを確認する。そして、すぐに足を向けた。

 

 病院の待合室の椅子に座っていると、看護士に呼ばれた。

 

 ウチは、病室のドアの前で一呼吸する。そして、ドアをノックした。

『はい、どうぞ』

すると、中から声が返ってきた。ウチは、ドアを開けて部屋に入った。そして、ベッドの上に人物を見つめた。

「ウチ、案外しぶといやね。まだ時間が残ってるみたいや」

そこに居た血色が無いような白い肌の女性は、ウチに向かって笑みを浮かべた。その姿にウチは、唇をかみ締めた。しかし、噴出す思いは止められなかった。

「なんでや、なんで、あないな男の言いなりになったん? 告発すれば、何とかなったやろ!」

しかし、お姉は微笑んだ。

「無理や。契約成立後、ウチには監視がついた。だけど、なんとかアンタに危害を加えんように考えた。」

「もしかして、この世界の学園を進めたんは―――」

「なにも事情を知らん、アンタをウチから離すためや」

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その返答を聞いた瞬間、ウチの中で何かが崩れた。

「だから、何で自分なん! 体の弱い自分より、ウチの方がマシやろ!」

その問いに、お姉はすぐに返答した。

「当たり前やろ。ウチの可愛い妹に、体イジらすなんて、死んでもさせとうないからや」

その言葉を聞いて、ウチは我慢できず、お姉の胸に飛び込んだ。そして、大泣きした。溜めてたもんをすべて吐き出すように。

 その間、お姉は、やさしくウチの頭を撫でてくれた・・・・。

説明
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
”masa”改め“とげわたげ”です。
今作、1年の休載からついに書き終えることができました。
今まで読んでくれた方やこれから読んでくれる方。
簡単でいいので、よろしければ、感想おねがいします。
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