雨の日のシアワセ |
僕はやることがなく自室の窓に近づき、窓越しに空を見上げると、一面の曇り空。今にも雨が降り出しそうな暗い空だった。
でもこの空を見るとあの頃を思い出す。
それは、僕の小さい頃の短くも大きな明るい話。
その日は雨が降っていた。
雨が降っているためか、友達から「遊ぼう」という電話はなかった。
だから僕は自分の部屋のベッドに寝転がり、窓の外の雨が降りしきる世界を眺めながら時間を潰していた。
「雨なんか早く止んじゃえばいいのに…」
雨が好きな人なんてほとんどいない。
そりゃ植物は喜ぶかもしれない。でも、僕らにとったら休日の雨なんて退屈をうむだけだ。…その頃の僕はそう思っていた。
少し不機嫌になっていた僕は窓に背を向けた。
その時、
「どうしたの?」
どこからか優しく包み込んでくれるような女の子の声がした。
「誰…?」
僕は声のした方向。窓の方をむいた。
正直驚いた。窓の外に笑顔でこちらを見つめる女の子がいた。水色のセミロングの髪、湖のように綺麗で深い青色の目。
なんにしろ、こんな雨の中いたら濡れてしまう。そう思った僕は窓を開けて声をかけた。
「こんな雨の中、傘もささずに外にいたら濡れちゃうよ?」
「大丈夫だよ」
だけど女の子はそう答えた。
「と、とりあえずこっちに入って来なよ」
「ありがとう♪」
さすがにこんな状況で話すのも…と、思った僕はとりあえずその女の子を部屋にいれた。不思議にもこんなに雨が降っているにもかかわらず、女の子の体は濡れてはいなかった。
そして女の子は「ねぇ」と続けた。
「暇ならさ、今から私と遊ばない?」
いきなりで少し驚いた。
でも嬉しかった。休みなのに退屈していたのもあるけど、初めて会ったにも関わらず「遊ばない?」と誘ってくれた。
その頃の僕は小さかったということもあって、特に疑問とか疑いとか、まったくもっていなかったから、その女の子の言ってくれた言葉が嬉しくて、
「うん」
僕はそう答えた。
その女の子と遊んでいる時間は楽しかった。お互い名前も聞かず、いろいろ話したり、部屋にあるもので遊んだり。
雨の日にこんなに楽しいことが起こるなんて思ってもいなかった。
でも空から降ってきたその楽しい時間は、やがてまた空へと帰っていく…
時間も忘れ、二人で楽しく遊んでいると、窓から太陽の光が差し込んできた。
どうやら雨雲がなくなってきたようで、窓ごしで空を見上げると、暗い色の雨雲のところどころに隙間があき、そこから青空が顔を覗かせていた。
僕はそれを見て、今度は二人で外で遊ぼうと女の子に声をかけた。
「ほら見て、晴れてきたよ! 今度は外で――――」
「…もう…帰らなきゃ…」
女の子は少し寂しげな表情を浮かべて、僕が言い途中に女の子はつぶやいた。
僕はもっと遊びたかった。
こんな楽しい時間を終わらせたくなかった。でも、なぜかその寂しげな表情を見てから言葉が出てこなかった。
…もっと遊ぼうよ。
心の中でそう思っていたけど口から出てこなかった。
女の子は寂しげな表情のまま開いた窓に近づき、作り笑顔でこちらを振り向き、重い口を開いた。
「また、遊んでくれる…?」
「当たり前だよ! いつでも遊ぼうよ」
僕はその言葉に即答した。
それと同時に女の子の作り笑顔は本当の笑顔に変わった。
そして女の子は光となって、笑顔のまま…窓から空へと消えていった。
僕は気づいた…女の子は雨だった…ってことに。
その頃の僕は女の子が言った、
――また…遊んでくれる?
その何気ない言葉の意味に気づけなかった。
僕は遊んでもらっていたはずなのに、なんで女の子がそんなことを言ったのか。
今考えれば、それはすぐにわかった。
雨のことを好きな人はほとんどいない。だから、あの子は誰かと遊びたかった。
ただそれだけのことに。
今の僕は、もう一端の高校生だ。
こんな話を友達にしても信じてくれる人なんて大抵いないだろ。
そんなの夢だ。幻だ。なんて言われることもあった。
でも、そんなことはない。
僕はこの話が本当だと言い切れる。
なぜなら、今でもまたこうして雨が降ると、
「ねぇ、遊ぼ♪」
また、あの時と同じ女の子が、
僕のところに来てくれるのだから。
説明 | ||
オリジナルの超短編小説です 『雨の日は嫌なことだけではないだろう』 という想いでこの作品を書きました☆ |
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