「もしもの話でもしましょうか」

「君はある時、とんでもない失敗をして

　どうしても受け入れられない結果を招いてしまいましたが、

　それを1度だけリセットできる能力を手に入れました。

　しかし君がリセットするその世界は、どこかで誰かが奇跡的に成功を収めた世界かもしれない。

　新しくやりなおした世界は君の失敗とどこかの誰かの成功を帳消しにするわけです。

　君はどう思いますか？」

「リセットすることは決定事項なんですか」

「だって、誰だってそうするでしょう？」

「でしょうね。どう思うか、ですか。そうですね、まわりくどいと思います」

「話がですか？」

「そうです。

　自分の行動によって見知らぬ誰かが被害を被るかもしれない可能性について話すのに、

　わざわざそんな非科学的な現象を持ち出す必要はないでしょう」

「一つの世界がなかったことになる話は科学的ではないと思いますけど」

「たとえ話ですよね」

「もしもの話ですよ」

「たとえ話をしましょうか」

「もし君の大事な人がナイフで刺されることがない代わりに、

　たくさん人が殺される世界を君が選べるとします。

　君はどう思いますか？」

「どう思うか、ですか。そうですね、

　須藤先輩は悪趣味だと思います」