ちびっこマスター! そのいち |
−召還せいこう!−
…告げる。
汝の身は我が下に
我が命運は汝が手に
聖杯の寄る辺に従い
この意
理に叶うなら応えよ―――――!
神秘の呪文と共に、地下室の石畳に敷かれた魔方陣から光が溢れる。
その実体を伴うほどの力を持ったマナは、渦巻く風と共にヒトの姿を形取り……… 。
風と光が収まった時、魔方陣の中央には、赤い外套をまとった英霊が頭を下げた状態で跪いていた。
騎士はその姿勢のまま口を開く。
「問おう。汝が我が……」
「お久しぶりですっ。アーチャー!」
しかし、彼が契約の口上を述べ始めた時、少女のうれしげな声がそれをさえぎった 。
「?」
どこかで聞き覚えのある声に、アーチャーと呼ばれた英霊が顔を上げると、驚いたよ うに目を瞬かせる。
目の前に立っていた人物は……彼にとって、ある意味、忘れられない相手だったからだ。
「……まさか……セイバー、なのか?」
「はい!」
金の髪に碧の瞳。リボンをあしらった白いブラウスに群青のスカート姿の少女は、かつて、聖杯戦争で対峙した英霊の一人。
聖杯戦争最強のサーヴァント、セイバー。その人だったのだから。
「なぜ君が……!? 一体ここは何処なんだ。それに……」
疑問を口にしながら、アーチャーの視線は彼女の腰元に注がれる。
そこには、セイバーにしがみつくように、二人の幼子が立ってこちらを見つめていた。
一人は赤いワンピースに、長くて癖のある黒髪を、二つに結い上げた女の子。
もう一人は、淡いグリーンのパーカーとジーンズ姿の、赤毛を短く切りそろえた男の子。
二人とも六歳くらいだろうか。
ようやっと小学校に上がったばかりに見える年頃の、あどけない子供達だ。
その、あからさますぎるの容姿の二人に、アーチャーは一つの可能性を思い浮かべ る。
「ここはもしや……聖杯戦争の後の世界なのか? その二人はまさか…彼女達の 子供?」
「なっ…!!」
「何言ってるのよアーチャー!」
その言葉を聴いた瞬間、子供たちが目を丸くして抗議の声を上げ始める。
「私と士郎は、まだそんなじゃないんだからね!!!」
「俺と遠坂はまだそんなんじゃないぞ!!!」
喰いかからん勢いで言い返してきた子供達に、アーチャーがあっけにとられると、その二人をセイバーが引き剥がした。
「二人共大人しくしてください! 説明できませんっ」
背後から両手で身体を抱え込むように止められて、二人はしぶしぶとだが静かに なる。
そんな二人にセイバーは、なんとも複雑な表情でため息をつき、アーチャーの顔を 見た。
「実は…………この二人は、本物のシロウと凛なのです」
「………は?」
今、一体なんとイイマシタカ?
改めてセイバーが説明するには、今は、あの戦いから二年余りが過ぎた梅雨の最中らしい。
凛、士郎。セイバーの三人は、今はロンドンで暮らしているが、一週間ほど前、夏 期休暇で日本に戻ってきたのだと言う。
そして凛と士郎は、それぞれの自宅の掃除やら留守中に溜まっていた仕事を片付 けながら、なにやら新しい魔術の構成を研究していたそうだ。
「……で、昨夜その実験をしていたんだけど、ちょっとだけ手違いがあったみたいで」
「そんな姿になってしまった。と」
凛が最後に呟くと、アーチャーは納得したようにうなずいた。
今の彼女は本当に小さな子供だ。立って並ぶと、彼女の頭はアーチャーの腰元までしか届かない。
か細い手足も形の良い頭も、愛らしい人形のようだが、その強い意志によって輝く青い瞳は、間違いなく遠坂凛だ。
アーチャーは、荒唐無稽に思える事情を、有り得ないと断じることはしなかった。
いつの事かは覚えていないし、座にある自身の記録にも残ってないが、生前刻み込まれた経験が、強く肯定していたからだ。
――彼女ならやりかねない。と。
「………君が凛で、そっちのが衛宮士郎なのは理解した」
そう言うとアーチャーは、理解は出来たが状況に痛む額に手を当てて、ため息をつ く。
「それで、二人で何をしようとしていたのだ?」
「……………………」
「……………………」
凛と士郎は言いたくないのか、うつむき加減に互いの目を合わせて黙り込む。
「昨日からずっとこうなのです。魔術の内容に関しては、一言も」
セイバーも、困り果てたように呟いた。
そんな様子にアーチャーは、目を細めて二人を見る。
「ふむ……セイバーにすら言えない様な、バカバカしいことをしていたという事か」
「そ、そういうわけじゃ……」
もごもごと口ごもる凛に、士郎がキッとアーチャーをにらみつける。
「遠坂が悪いんじゃない!俺が……っ」
「衛宮士郎。貴様がやったのか」
険悪な雰囲気が石造りの地下室に流れだす。
が。
ぐう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
「う」
「あ」
「むむむ…」
何処からともなく響き渡った三重奏に、あはは…と気まずそうにおなかを押さえて 苦笑いする、アーチャー以外の三人組。
その様子にアーチャーは、すっかり毒気を抜かれた顔でため息をつくと、身体を翻し て地上に続く階段に足を向けた。
「アーチャー?」
思わず凛が声を掛けると、アーチャーはやれやれといった表情で振り返る。
「二人共その姿では、料理も作れ無いのだろう?」
セイバーを初めから数に入れていない辺り。さすがというべきか。
「私が何か作ろう。話はそれからだ」
そしてさっさと地下室を出て行ってしまったサーヴァントに、三人は思わず目を見合わせた。
アーチャーは廊下を歩きながら、三人があわてて追いかけてくる足音を聞いていた が、ふと素朴な疑問に口が開く。
「……そういえば、私のマスターは誰なんだ??」
つづく。
説明 | ||
聖杯戦争から数年後。何故か再召喚されたアーチャーの目の前には、凛と士郎にそっくりな子供とセイバーが!? 久々の投稿になります。 イラストつき小話です。よかったらお暇つぶしにどうぞ。 |
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