ハルナレンジャー 第三話「狙われた幼稚園」 B-2/B-3
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Scene7:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 AM09:30

 

 シェリーがアールデコ調の優美なデザインの受話器を下ろすと、チン、と涼やかなベルが鳴った。

「これで良いのか?」

「ご苦労様です」

 慇懃な礼とともにジルバが電話機を懐にしまう。

「本当に良いのか?」

「善意の第三者による通報は市民の義務と存じますが」

 デスクの天板をいらいらと指で弾くシェリーの様子に気づいた風もなく、冷静に答える。

「……『主犯による犯行声明』の間違いだろうが!」

 びしりと天板にヒビが走った。

「わざわざ連中に居場所を教える必要がどこにある!」

「お忘れかも知れませんが」

 怒鳴るシェリーをジルバが制する。眼鏡の奥の感情は見えない。

「今回の第一目的は、あくまで当局の危機意識レベルの引き上げです。こちらには現段階で一応の成果が確認できたと判断いたしましたので、ここからは必要以上の市民感情悪化を避けるべく早期の事件解決を計ります」

「それはマッチポンプといわんか」

 頬杖をつき、いらただしげにそっぽを向くシェリー。

 ジルバは何も答えず、再び深々と一礼する。

 

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Scene8:とある山中の路上・バス内 AM10:00

 

「ぎ、ぎにゃー!?」

 レミィはのっけから大ピンチだった。

「そ、そこはめくらないで欲しいでやんす!いや、ちょっと、あーれー!?」

 まくられかけた腰当てを必死で押さえる、と、

「いひゃひゃひゃ、いひゃいいひゃい」

 顔が下がったところでほっぺたをむにむに引っ張られたり。

「やん、ちょ、にゃー!?」

 ちょっと書けないあそことかそことかぺちぺちされたり。

「こらちょっと、みんなやめなさい!」

 秋山先生の制止も空しく、子供達にもみくちゃにされていた。

 

 乗っ取られた当初こそ怯えていた子供達だったが、「子供に危害を加えるな」と厳命されていたレミィ達が抵抗出来ないことに気づくと、すっかり大はしゃぎ。

 何しろ相手は正真正銘本物の悪の秘密結社、その戦闘員と女幹部である。

 「ヒーローごっこ」の敵役として、これほどふさわしい物も無いわけで。

 わっととりついてぺちぺちぽこぽこぺたぺた……レミィのみならず、戦闘員も程度の差こそあれやられっぱなし。

 運転役の戦闘員にまで被害が及びかけたため、事故を起こすわけにもいかず慌てて路肩に止めたのだが……

「ほらお姉さん困ってるでしょ!やめてあげなさい!やめなさい……やめろっつってんだろうがコラー!」

 秋山先生の怒号が響くと同時、

 カーブを大きくはみ出しつつ突っ込んでくるおんぼろバン。

 派手なブレーキ音をきしませ、豪快にスピンしながら停止したバンから飛び出してきたのは言わずと知れたハルナレンジャー。

 遅ればせながらのヒーロー登場に、子供達は大いに盛り上がった。

 

「大丈夫か!」

 非常レバーを引き、運転手役の戦闘員を引きずりおろしながら乗り込むブルー。

 その操作で開いた入り口から飛び込んだレッドに、恐怖に震える人影がすがりついた。

「酷い目にあったでやんす〜」

「お前かよ!」

 思わず抱きとめたレッドの顔を見上げ、うるうると涙を浮かべるレミィ。続いて乗り込もうとしていたピンクのマスクの中から、びきっと青筋が浮き出る音がした。

 慌てて飛びすさるレミィ。

「はっはっは、待ちかねたでやんすよー!今日こそ貴様らも年貢の納め時、でやんす!」

 取り繕うように胸を張り、見得を切る。衣装はよれてるわ髪の毛はぐしゃぐしゃだわ涙はまだ残ってるわと、最早色々台無しではあったが。

「いや……うん、まあいいけど……」

 気勢をそがれて思わず頬をかくレッド。マスクの上からかいても意味がないことに気づき、頭をかこうとして……やっぱり意味がないことに気づいてため息をつく。

 どうにもしまらない両雄の対峙に、しかし子供達は大興奮。

 歓声なんだか絶叫なんだかわからない狂乱の騒音に、思わず耳を塞ぐレッドとレミィ――レッドはやっぱりマスクの上からだから、意味も効果もないのだが。

「ば、場所を変えるか」

「そ、そうでやんすな……」

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