ハルナレンジャー 第三話「狙われた幼稚園」 B-4/B-5 |
Scene9:とある山中 AM10:30
雑木林を分け入った10m四方ほどの空き地で、ダルク=マグナの戦闘部隊とハルナレンジャーが向かい合う。
「今日のあっしらはひと味違うでやんすよー」
軽く腰を落として構えながら不敵に笑うレミィ。
先ほどの惨状はどこへやら。涙は拭って、身だしなみもお化粧も整えている。
ハルナレンジャーのバンに同乗してきた矢木沢さんの運転で、続きが見られず不満の声を上げる園児達を強制送還させるのにてんやわんやの最中に、こっそり直した。
名残はちょっと充血しちゃった白目くらい。
「いや……もう人質解放されたし、こっちはどうでもいいんだが……」
応じるように構えつつ、困惑した口調のレッド。
「んなわけあるかー!」
思わず構えを解いてツッコミを入れるブルー。
「子供に手を出すなんて悪党っすよ!? 一発カマしとかなきゃまたロクでもねーことやらかすに決まってんすから!」
「それはそうなんだが……」
気を揉まされた腹いせとばかりやる気満々なブルーの様子に、ますます気が乗らないレッド。
「そうよ……きっちりシメとかないとね……ふふふふふふふ」
意外なところから不穏な同意を得て振り返るブルーの目に、いつになくどす黒いオーラを纏ったピンクの姿が映る。
仁王立ちになり、ばきばきと指を鳴らすピンクの姿に思わずドン引くブルーとレッド。
「ゆ……ぴ、ピンクさん?」
「ええそう、二度と悪さが出来ないくらい、痛めつけて上げないと……」
無意識に敬語で問いかけたブルーの声も届いていない。
「あらあら、大変」
その場の全員がピンクの異様な気配に硬直したと思われた中、イエローだけが楽しげにくすくすと笑っていた。
「……くっ、ええい、者共出会え出会えーっでやんす!」
恐怖と緊張に負けたらしいレミィがやけくそ気味に号令を飛ばす。
「イーッ!」
と敬礼した戦闘員達が一斉にハルナレンジャーに襲いかかると、ブルーとレッドも向き直ってこれに応じる。
レミィも姿勢を低くし、リーダー格同士の戦いに引き込もうとレッドの元へ駆け寄る。
「こっちも今日は気兼ねなくやらせていただくでやんす!」
いつものように器物破損や周囲の迷惑を考えなくていい山中、交戦規定の枷はゆるい。
走り込むスピードそのままにローキックを浴びせようとしたレミィの前に、ピンクが飛び込んできた。
「あんたの相手はあたしだぁっ!」
ピンクの突進をかわすため、地面に手を突いて無理矢理勢いを殺し、飛び退くレミィ。
はあはあと肩で息をしながらぐるんと向き直るピンク。構えも何もあったものではない野獣のような動きである。
「こわっ!?めっちゃこわっ!?」
構えを取りつつ思わずまた泣きそうになってるレミィ。気迫に押されるようにじりじりと後ろに下がる。
だが、さほど広くない空き地の中ではいつまでも逃げてはいられない。
今にもぐるぐるとうなり声でも上げそうなピンクの姿を見据え、深呼吸。
軽く構えを下げ、誘いの隙を見せた刹那。
「がぁっ」
ピンクが飛びかかった。
――殴ろうとして踏み込んだところに脚払い、倒れてきたところに肘うち。
勢いが付きすぎて、打ち込まれた肘を支点にしてくるりと回転して倒れ伏すピンクの左の二の腕を
だんっ!
全体重をかけて踏み抜く。
「ぐかっ!?」
ぼぎりという嫌な音とともに、ピンクが泡を吹いて気絶した。
「てめぇっ!」
激昂し、周囲の戦闘員を引きちぎるようにして飛び込んできたレッドの蹴りは、しかし、軽やかなバックステップでかわされた。
「言ったでやんすよ?『今日はひと味違う』って……本当はあんたを狙ってたんでやんすがね」
低い構えのまま陰惨にほくそ笑むレミィには、それまでのお間抜けな雰囲気はない。
凍り付く空気の中、戦闘員は潮が引くように包囲を解き、雑木林の中に消えていく。
「……その技、どこで学んだ……」
「企業秘密、でやんす」
絞り出すように問いかけたレッドを嘲るように笑うと、大きくバックジャンプ。そのまま戦闘員の後を追い、消える。
「畜生っ!」
いつの間にかハルナレンジャーの5人しかいなくなった空き地の真ん中で、レッドが吼えた。
Scene10:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 AM11:00
「……そうですか。お疲れ様でした。……いえ、上出来でしょう。そのまま帰投して下さい」
携帯端末でレミィからの報告を受けたジルバを、シェリィがつまらなそうに眺めている。
「どうにも、こういうやり方は気にくわんのだがな」
シェリーのこぼしたその愚痴を、携帯端末を懐に戻したジルバはただ、黙って受け流した。
「治療費くらいはこちらで払ってやれ。それくらいしても罰は当たるまい」
「御意」
一礼したジルバの笑みが酷薄な物に変わったが、伏せたその顔は眼前のシェリーにも気づかれなかった。
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B-3続き 3話終了 | ||
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