第三十一話:心と魂より生まれし剣
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・・・ゲッ、何だこの段数は」

 

ゲンナリしたようなサイの一言が静かな辺りに響く。

ゲームセンターで挑戦者千人斬り(は、大げさか?)をし終わった後、頃合を見てネギ&明日菜と共に抜け出して辿り着いたその場所・・・。

サイの見つめる先には大きな鳥居が立ち、明らかに千や二千などと言う数を裕に超えている石段があった。

此処こそが関西呪術協会総本山への入り口であり、明日菜曰く『悪い人達の巣窟』への唯一の進入口だ。

 

「ちょっと・・・これ全部登るの?」

 

流石の圧巻と、まるで天にも続くかのように見える石段の数に流石に元気娘の明日菜であってもやる気無くぼやく。

だが他に道がある訳ではない―――ブツクサ文句を言いながらも明日菜は見える事の無い程の天辺に聳える関西呪術協会を思い、見つめた。

 

その時―――不意に明日菜とネギの目に淡い光を放つ蛍のような物が見える。

その淡い光が小さく爆発するように光を放つ。

 

『サイさん、明日菜さん、ネギ先生!! 大丈夫ですか!?』

「・・・ん? わっ!? な、ななな・・・何よアンタ!?」

 

其処には小さな人形のような少女が姿を現していた。

良く見れば誰かに似ているような気もするのだが―――そのいきなり現れた少女をサイは一瞥すると呟く。

 

「あぁ? 何だ分身(わけみ)の式神じゃねぇか・・・こっちにもあるんだな、知らんかったぜ」

『はい、そうですサイさん♪ サイさんが一緒とは言え、心配でしたので・・・』

 

サイのその言葉に同意するようにして小さな少女は礼儀正しく頭を下げながら返す。

記憶が大分戻ったサイは元々の世界にあった知識も少しずつだが思い出し始めている、その中で白面九尾派導術に今の小さい少女のような存在を作り出す術式があった事も蘇って来たのだ。

・・・まあ向こうの導術の場合は一体ではなく十や二十の数の式神を一気に召喚するのだが。

 

「わけみのしきがみ・・・サイ、何それ?」

 

『あ、それは私が説明させて頂きます明日菜さん。

簡単に説明すれば『連絡用の分身』と言う存在ですね、式神っていう日本古来の符術を使って使用者と同じ姿の存在を作り出す技法です。

取り敢えず私の事は『ちびせつな』とでもお呼び下さい』

 

“ちびせつな”と名乗った式神に説明が解っているのか解っていないのかは理解出来ないが頷く明日菜。

その後ろにいたネギは、自身の使う魔法の中に光を使って分身を作り出す魔法があるので大体の事は理解出来たのか『はい、宜しくお願いしますちびせつなさん!!』と元気に返していた。

するとちびせつなはニコニコしていた表情から真面目な表情になると鳥居の先を見つめ、上の方を指差しながら三人に聞こえるように言う。

 

『皆さん、ご注意を。

この先には確かに関西呪術協会の長が居ると思いますが―――東からの使者のネギ先生が歓迎されるとは限りません。

一昨日襲ってきた奴等の動向も解りませんから、くれぐれも罠や待ち伏せなどに気をつけて下さい』

 

ちびせつなの言葉にネギも明日菜も気合を入れて真剣な表情をする。

だが、少々気負い過ぎているようにも何処となく感じるのは気の所為だろうか?

・・・そしてこんな時こそいつでもマイペースなあの漢の一言が役に立つのである。

 

「オイオイ、んなガチガチになるまで気合入れんじゃねぇ。

心配しねぇでも関西呪術協会ってのは足生やして逃げる訳じゃねぇし、無駄に気合入れたって疲れるだけだぞ。

ホレ・・・気楽に行こうぜ、気楽によ」

 

そんな場も考えないサイの言葉は何処から敵が来るかも解らなくて緊張していた二人の硬さを取る。

まあ・・・緊張などしていて硬くなっていては良い結果になる筈のものも悪い結果にしかなりはしないものだ。

だからこそどんな時でもリラックスし、マイペースに事に挑む心構えが大事である。

 

お互いに見合ってからゆっくりと鳥居の中に足を踏み入れるサイ達。

そして奥へと向かって一気に走り出すと、後ろを振り向く事も脇目を振る事も無く進んで行くのであった―――

そう・・・この静けさやら場所やら自体が刺客達の罠であると気付かぬままに。

 

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「ううっ・・・本当になんて長い石段なのよぉぉ・・・」

「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・もう三十分は走ってますよぉぉぉ・・・」

 

最初は敵の妨害も何もない為に拍子抜けし、さっさと親書を届けてしまおうと全速力で走っていた明日菜とネギ。

しかし、走れども走れども同じような石段が続くばかりで関西呪術協会のかの字も見えない事から流石に疲れたらしい。

 

「阿呆が、調子に乗って走るからそう言うザマになる。

そもそもテメェ等二人は修行が足りねぇんだよ、修行って奴がな。

基礎体力も上げる事無く、段飛ばしで来るからそうなるんだよ―――帰ったら明日菜は基礎体力上げからみっちり叩き込んでやるから楽しみに待ってろ」

 

一方、サイなど二人と同じ位のスピードで走りながらも息一つ乱れていない。

まあこの二人と基礎体力という奴が全くと言って良い程に違い過ぎるのだから当然と言えば当然であるが。

しかし・・・そんなサイをして、先ほどから三十分以上も走っているのに目的地に着かないというのはおかしいと疑問に思い始めていた。

 

「(・・・おかしい。

普通あんだけ石段が長かろうと30分も走ってりゃ着かないにしても何か風景に違いが出る筈だ。

なのにさっきから鳥居が続いている石段の道以外は何も出て来やしねぇ)」

 

そこで一つ・・・可能性としてある事を考え付いた。

サイは急いで先を肩で息をしながら歩いている二人に向かって声を飛ばす。

 

「おい、テメェ等はちっとそこで休んでろ。

良いか? 俺が戻って来るまでは絶対に動くんじゃねぇぞ・・・解ったな?

行くぞ、ちびせつな」

 

「えっ? う、うん・・・」

「解ったよ、何をするか知らないけど気をつけてねお兄ちゃん」

 

疑問を浮かべつつも言われた通り座り込む二人。

それを後ろ目で少しだけ見つめた後、サイは肩にちびせつなを乗せると全速力で走り出した。

 

「行くぞオラァァァァァァァ!!!!」

『ひゃあっ!? は、早い・・・早すぎですよサイさん!! お、落ちる、落ちちゃいますよぉぉ!?』

 

出来ればこう言う時ばかり鋭い己の勘が外れて欲しい。

そう祈っていたサイであったが・・・残念ながら戦場(いくさば)を生きていた者の危険を認識する勘はそう簡単に外れてはくれないようだ。

 

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「・・・えっ!? な、何で後ろから走って来るのよサイ!?」

「どういう事なの!? お兄ちゃんはさっき、向こうに走っていった筈なのに・・・!?」

「・・・やっぱりかよ、クソが」

 

すると・・・先に向かって走っていった筈のサイが何故か後ろから走ってきたのだ。

驚くネギと明日菜を尻目に忌々しげに舌打ちするサイは近くに落ちていた石を拾って横の竹薮に投げる・・・今度は何故か藪の中に投げた筈の石がそのままの勢いで後ろから飛んで来たのだ。

そのまま後ろを振り向く事も無く召喚した六道拳で石を叩き落しながら溜息を吐くと、一部始終をサイと共に見たちびせつなが重々しく口を開く。

 

『サイさん・・・間違いありません。

これは無間方処の咒法です―――今、私達が居るのは半径500m程の半球状の堂々巡りをし続けるループ型結界の内部。

つまり・・・・・・』

 

そこで一度言葉を切るちびせつな。

次に言われる事はもう大体が予想出来ている、出来ているが・・・出来れば聞きたくはなかった。

意を決して口を開くちびせつなの声色に、一段と重い響きが含まれる。

それは―――

 

『私達は閉じ込められてしまいました・・・この千本鳥居の中に・・・』

 

一挙に音が消える。

無音になった千本鳥居の中に風が吹き、周囲の竹藪を揺らす。

まんまと三人は結界の中に閉じ込められてしまったのであった・・・。

 

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「ヤレヤレ・・・こりゃまた面倒だな、オイ。

それに平和ボケしちまったモンだぜ、まだまだ現役時代の勘は取り戻せてねぇって事かよ」

 

此処は千本鳥居の結界内に存在している無人の休憩所。

本来は長き石段を登ってきた人々の疲れを癒す為に売店の売り子も存在するのだろうが、今は完全に無人の状態となっている。

自動販売機でいつもの無糖コーヒーを買って飲み干した後、煙草を咥えながらサイは自分に憤った。

 

「ひゃ〜〜〜、助かったぁぁぁぁ・・・」

 

―――そんな言葉を呟きながら休憩所の奥から明日菜が出て来る。

実は彼女は結界の中でトイレに行きたくなったのだが・・・何せこんな所にトイレなど無いと思い、暴走して闇雲に限界寸前まで走り続けたのだ。

・・・まあ、お陰で休憩所を見つけてサイは落ち着く事は出来たし、明日菜は御不浄(お漏らし)しなくて済んだ。

 

尚、ネギも落ち着いた所為かトイレに行きたくなったらしく先ほど明日菜と交代するようにトイレに向かっている。

(勿論、バレない様に女子トイレへ向かったようだ)

 

「も〜、それにしても何でアイツ等は親書を渡すのを妨害しようとするのよぉぉ!!」

 

中学生になって漏らしそうになった事が原因か、はたまた東西が仲良くしようとするのを邪魔するのが許せないのか?

どちらの理由かは解らないが腕を振って癇癪を起こし始めた明日菜に対してサイが冷静に呟く。

 

「・・・さあな、東西が仲良くなると都合の悪い奴が居るんだろ」

 

本当の理由は学園長から聞かされているのでサイは知っている。

だが、それを話すとなると秘密裏に頼まれている事も語らねばならない為か余計な事は言わないらしい。

そのまま黙ってZippoを懐から取り出して咥えていた煙草に火を点けると、煙草を吸い始めた。

 

「・・・一応突っ込んどくけどさ、アンタ。

煙草って本来は二十歳以上にならないと吸っちゃダメな筈だけど・・・アンタ外見は私達と同じ位なんだから見つかったら確実に怒られるわよ?」

 

「ん? あぁ、問題ねぇよ。

俺が着てる魂衣(スピリットローブ)には認識阻害能力っつうモンがあってな、俺が任意で法力を魂衣に込める事によって他人には見えなくさせる事が可能だ。

まあそれなりに力持ってる奴は誤魔化せねぇが、一般人なら“コーヒー飲んでる”姿にしか見えねぇよ・・・それに言っとくが、俺はこんなナリでもジジイより年上だぞ」

 

確かにサイは麻帆良のぬらりひょんこと妖怪・近衛近右衛門よりも年上(約700歳以上)であるので煙草を吸っても問題は無いだろう。

だが、そんな問題では無いような気がするのは気の所為だろうか・・・まあそもそもバトルの時など以外は物事を深く考えないアホな性格であるサイに深く考えろと言った所で無理な話なのだろうが・・・。

 

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―――話が逸れたので本筋に戻そう。

何だかんだでじゃれ合っている(ように見える)サイと明日菜の姿を微笑ましげに、何処か困惑したように見つめていたちびせつな。

再び真面目な表情に戻ると、サイの先程の東西の仲の悪さに対する簡潔な物言いを補足するように説明し始めた。

 

『関東の人達が伝統を忘れて西洋魔術に染まってしまった事が原因の一つらしいです。

それにサイさんの説明もあながち間違ってはいないと思います―――東と西が争う事で利権を得ている者達も居ると言う噂ですから・・・』

 

全員が全員打算的な事を考えている訳ではないだろうが、関西呪術協会の者達には者達なりの誇りという奴があるのだろう。

伝統や伝承を護る事は悪い事ではないし、間違いではないだろうが・・・それでも手段は選ぶべきであろうが。

結局正しい事をしようが何をしようが“争い”という選択を選んだ時点で碌でもない事には変わりない。

 

「チッ・・・下らねぇ」

『・・・・・サイさん?』

「いや、何でもねぇよ・・・」

 

そう吐き捨てるサイの言葉は一体誰に対して呟いたものなのか?

しかし、何処となく自分自身に対して呟いたように聞こえたのは気の所為だろうか?

答えを知る者など此処には・・・いや、この世界には居まい。

 

『それよりも今は此方の戦力分析をした方が良いのでは?

申し訳ないですが、敵が狙っていると解った以上、お嬢様の側を離れる訳には行きませんので・・・。

まずは何とかしてこの結界から抜け出す方法を―――済みませんサイさん、お役に立てず・・・』

 

申し訳無さそうにするちびせつなにサイは黙って首を横に振る。

元々、此処に閉じ込められたのは刹那の所為でも、明日菜の所為でも、ネギの所為でも、誰の所為でもない。

 

それに仲間達の記憶を取り戻したサイにとって、もう少しこの結界内の様子を見れば“ある技術”を使える。

その技術を利用すれば、此処から脱出する事も可能だろう―――奥の手の一つの為かあまり使いたくないが。

 

「こっちの心配なんぞしてねぇでテメェは木乃香を確り護れ。

俺等も俺等なりに何とか此処から脱出するから問題ねぇからよ・・・解ったな?」

 

根拠の無い自信ではない事は刹那も良く解っている。

勇気付けられるような一言にちびせつなを通して刹那は『・・・は、はい』と小さく呟いた。

・・・若干、嬉しそうに。

 

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「ねぇ、所でさサイ?」

「あん? 何だよ明日菜?」

 

そこで不意にエヴァ&茶々丸が腹が減った時の為に持たせたサンドイッチを食べていた明日菜が口を開く。

 

「サイ、アンタに前に助けられた後にその・・・“法力”っての扱い方を習ったけどさ。

あれって要は“魂獣(スピリッツ)”ての力が普通の生活の時に出て来ないようにする為のモンでしょ?」

 

「・・・まっ、そうだな。

普段の状態で法力を解放し続ければ疲労が早くなるし、そもそも常時法力解放状態だと力が強過ぎて普通の生活なんぞ送れねぇしよ・・・それがどうした?」

 

「じゃああれ解放したら私でもアンタみたいに戦えるんじゃないの?

何処から関西呪術協会の刺客ってのが来るか解んないし、頭数は多い方が良いんじゃない?」

 

一応、普通の人間に比べても半魂獣化した事により力を得た明日菜。

この物語では描かれていなかったが、最初の日に木乃香が攫われそうになった時には何と素手で刺客の式神をぶん殴って撃退出来た程だ。

どこぞの不幸体質少年の幻想殺し(イマジンブレイカー)の如く、とんでもない破格な力である。

―――ただしそれには明日菜自身のある事情も関係していたが。

 

「・・・まあな。

確かに普段抑えてる筈の魂獣の力を解放すれば、多分テメェなら元々素質がありそうだから戦闘技術を覚えねぇでもそこそこ戦えると思うぜ。

―――だが、俺は余りオススメしねぇが」

 

「えっ・・・な、何でよ?」

 

サイの含みを持ったような言い方に疑問を持って聞き返す明日菜。

丁度そこに用を足し終わったネギも戻ってきたが、深刻そうな雰囲気に首を捻る。

そこでサイは一度黙り目を閉じると、少しの沈黙の後に説明を始めた。

 

「理由は簡単だ。

テメェの今の状態は簡単に言えば人間の魂と魂獣の魂とで絶妙なバランスを取っていてシーソーと同じ状態になってる。

本来、瀕死になるような傷を受けたのを俺が強引に俺に宿る魂獣の魂の欠片を利用して治したからな―――それ以外の方法も、時間も無かったしよ。

だが本来、死ぬような傷を受けた人間の魂を強引に魂獣の魂で補ってるんだ・・・現在の状態で魂獣の力なんぞ解放したら、魂の均一が崩れて一生人間に戻れなくなるぞ?」

 

そう、何故サイが明日菜に法力の制御方法を教えたのか?

その理由は今彼が説明した通り、その力を使い続けると人間では無くなってしまう為だ。

現在の明日菜の状態は欠けてしまった人間の魂を魂獣の魂で補っている状態である・・・その際に魂獣としての力を使い過ぎれば、本来人間の魂よりも密度も強度も強い魂獣の魂が人間の魂を吸収してしまう。

そうなれば最後、嫌でもその人物は二度と人間には戻れなくなってしまうのである。

 

今まで人間だった人物が人間ではない存在となる事の辛さはサイは理解出来る。

勿論、人というのは優しい存在故に気持ちを理解して人間かどうかなど気にしない者が居なくも無い。

しかしそれは人間全体で見れば悲しいかな2〜3%程度も居れば上出来だ―――残りの大多数は恐れるか、蔑むか、排斥するかどれかだ。

 

人間とは“ある筈のものが無い”という事と“無い筈のものがある”と言う事を恐れる。

それ故に自分と違う者を虐げ・・・『自分と違う』と言う事を大義名分に度の超えた残酷な事も平気でする。

しかし悲しいかな、それが人間の現実と言う奴なのだ―――

 

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―――さて、再び話を戻そう。

サイから力を使う事の危険さを改めて聞いた明日菜。

だが彼女は自分の首を突っ込んでしまった事柄を無責任に他人任せに出来ない損な性格をしている。

それに、自分よりも年下のネギが戦っているのに自分だけが逃げる事など出来なかった。

 

そんな勝気な性格をサイも理解しているのだろう。

もう一度、顎に手を当てるような仕草を取ると・・・少しだけ考えた後に意を決したように語りだした。

 

「・・・解ったよ、明日菜。

テメェの目を見りゃ覚悟を決めてるのが良く解る・・・男でも女でも覚悟決めてる奴は決して折れねぇよな。

なら、急激に法力を使わねぇでも戦える方法が一つあるから教えてやるよ。

だが先に聞いとくぜ、前にも聞いたが後悔はねぇな?」

 

その言葉に明日菜は深く頷く。

そしてニヤッと笑うとサイに向かって言葉を返した。

 

「前にも言ったじゃない、私は選んだ答えに後悔しないって。

それに私は自分で考えてその答えを出したんだから後は自分に出来る事を精一杯するだけよ・・・何か文句ある?」

 

答えを聞いたサイは一度鼻で笑うと呟く。

 

「フン・・・生意気な事言いやがる。

だが、俺はテメェみてぇな自分の意思を貫き通す女は嫌ぇじゃねぇよ。

・・・じゃあちっとこっち来い」

 

サイは明日菜を手招きして近くに来させると、腰に帯刀している七魂剣を抜いて地に突き刺した。

するとまるで七魂剣を突き刺した場所から魔方陣のような物が形成され、煌々と光を放ち始めたのだ。

 

「す、すごい・・・魔法じゃないけど、凄い力を感じる。

これは一体何なの、お兄ちゃん・・・?」

 

魔法についての知識はそん所そこらの人物には負けないネギ。

しかし目の前で起こる目が眩む程の光は、かつてカモが一度か二度しか行っていない仮契約の方陣よりも温かく感じる。

同じようにちびせつなも光を見つめていたが・・・何処と無く寂しそうにも見えた。

 

「・・・黙って見てろ。

『東嶽大帝 天曹地府祭 急々如律令 奉導誓願 何不成就乎

(とうがくたいてい てんちゅうちふさい きゅうきゅうにょりつりょう ほうどうせいがん かふじょうじゅや)

貪・瞋・癡――我、三毒障礙在者 断罪在也』」

(とん・じ・ち――われ、さんどくかいぎせしもの だんざいせしめん)

 

詠唱のようなものを唱え終わると、魔方陣がまるで生きているかのように明日菜の身体に巻きつく。

だが苦しくは無い―――寧ろ、まるで温かい何かに包み込まれているような感覚を感じた。

そして次の瞬間・・・明日菜の目には信じられない光景が映ったのだ。

 

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「え・・・ええっ!? な、何これぇぇぇぇ!?」

 

何とそれは・・・己の胸から、武器の柄のような物が生えていたのだから―――

いきなりの事に見守っていたネギとちびせつなも言葉を失い、明日菜はパニックになる。

しかしサイは慌てずに静かに明日菜に呟いた。

 

「その柄を確りと握り締めろ、明日菜」

「え、ええっ!? ちょ、ちょっとコレは何なのよサイ!?」

「良いから確り握れ、そして其処から抜け」

「ぬ、抜けってアンタ!? 無茶言わないでよぉぉぉ!?」

 

そりゃそうだ、いきなりそんな事を言われて出来る奴など居まい。

だが、サイの有無も言わせないような目付きに明日菜は恐る恐る自分の胸から生えている柄を両手で確りと握る。

すると何故だろうか・・・その武器の柄らしき物を握った瞬間、今まで感じていた不安やら何やらという感情は何処かに吹き飛んでいた。

 

「(・・・暖かい、何だろうこの感覚?

前に一度、ネギに“契約執行”とか言うのをした時のとは違う・・・。

変な気持ち良さじゃなくって、何だか身体の中からポカポカと暖かくなるような感覚さえ感じる・・・)」

 

そして柄を握っていた両手は、自然とゆっくりと上に動く。

ゆっくりと現れる刀身、其処から放たれるのは白銀の煌き・・・その光が全て消えた後・・・。

明日菜の手には、幅広の刀身を持った大剣の柄が握られていた―――

 

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その手に得たは神の名を冠す武具。

魂獣の魂そのものを武器と変えた、魂獣達の誇りの証。

 

その名は―――神具(アーティファクト)。

そう、サイの言う戦う方法とは・・・半魂獣と化した明日菜が、己自身の力で生み出した神具にて戦うと言う方法だったのだ。

 

「ヤレヤレ・・・何とかなったか。

半魂獣にこの術式を使った事なかったからな、ちと不安だったが・・・」

 

「・・・って、えっ?

ちょ、ちょっとアンタ・・・この方法、誰かで試してから使ったんじゃないの・・・?」

 

そんな小声が聞こえたらしく、己の手に携えられた大剣を見ていた明日菜が途端に不安そうに聞く。

それについてサイはバツが悪げに頬を掻くと言葉を返した。

 

「いや、何処に試す方法があるんだ?

半魂獣なのはテメェだけだし、そもそもこの術式思い出したのはつい昨日の事でな。

・・・まあ良かったじゃねぇか、何も不具合無さそうだしよ」

 

勿論、そんな一言を明日菜が聞き逃す訳もない。

おかんむりな状態で目に涙を溜めながら彼女はブチ切れた―――

 

「良かったじゃないわよぉぉぉ!!!

じゃあアンタ、これでもしも失敗してたらどう責任取る心算だったのよぉぉ!?」

 

「まあ失敗しなかったから別に良いじゃねぇか。

それに俺は“たら”とか“れば”とか“もし”とか考えんの嫌ぇでよ」

 

「知らないわよこのバカ!!

てか、何でアンタそんなに余裕綽々なのよ!? 私が怒ってるっての自覚してんの!?」

 

「あぁ? 何だ怒ってたのかテメェ。

いつもの調子で喋ってからそんな意識無かったわ・・・あんまり怒り過ぎっと血管切れるぞ?」

 

「ア・ン・タ・が、怒らせてるんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

出た、久しぶりのサイの物言い。

本当にコイツはちょっと口を利くだけで他人を激怒させる天才である。

・・・マトモな事も言ったりはするのだが。

 

「・・・まあ、それはさて置いてだ。

明日菜、またとんでもない神具召喚したな―――“コレ”は白虎族の中でも上位の方に入る力持ってるぞ。

本来、神具ってのは一つにつき一つの属性しか持ってねぇ奴が殆どだ・・・なのにコイツは今調べたら白虎の“石”と“鋼”と“金”の三属性全てを持ってやがる。

テメェも大概、規格外な野郎だな・・・普通に召喚出来るような代物じゃねぇぞこの神具は」

 

取り敢えずネギに宥められて落ち着いたらしい明日菜。

サイの説明を聞いて、自分の手に携えられた大剣が凄い物だと解ったらしい。

 

「へぇ〜、そんなに凄いのコレって?

何だか良く解らないけど・・・持ってるだけで身体が暖かく感じる・・・」

 

「そりゃそれだけこの剣が強い力を持ってるって事だ。

使い方を間違えんなよ、この力の感じは下手して全力でブン回したらそこらの森が禿げ上がっちまう。

だがどうやら理由は解らねぇが全力で力を解放出来ねぇように封印が施されてるみてぇだな。

現時点じゃ三属性の力は使えねぇし、本来の力の半分も出てねぇようだ」

 

ふと、そこで今更何か気付いたかのように手を叩く。

実際の所、実力の半分も出せていないのはサイも同じなのだが。

 

「そうだ、忘れてた。

コイツは明日菜、テメェ自身がある意味生み出した様なモンだ・・・要は産まれたばっかのガキと一緒だ。

これから長い付き合いか短い付き合いかは知らねぇが、名前でも付けてやれ」

 

「え゛っ・・・そ、そんな事急に言われても・・・」

 

流石に急に武器に名前をつけるなど不可能だろう。

彼女はそんなにボキャブラリーが豊富と言う訳ではないし、少々頭が残念な娘故に(努力家ではあるのだが・・・)。

そんな明日菜が剣を見つめていると、不意に刀身に文字のようなものが書かれているのを発見する。

 

「・・・? えっと・・・ガ・・・ガム?」

 

刀身に書かれた文字は擦れている故に簡単には読めない。

辛うじて四文字が読めるが・・・彼女はそれを“ガム”と読む。

しかし其処に書かれていた本当の名は“グラム”と読むのである。

 

グラム―――それは北欧神話において語られる“竜殺しの魔剣”の名だ。

またの名をバルムンクと言い、同北欧神話の叙事詩『ニーベルゲンの歌』においては“勇者殺しの剣”や“裏切りの魔剣”としても有名な代物。

何故その名が刀身に刻まれているのかは不明だが―――

 

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「ま、まあ何にせよこれで私も戦えるわね。

それに一昨日出て来た奴等も全然大した事無かったし、サイも居るんだから大丈夫よね?

もう、何が来ようとド〜ンと来いって奴よ!!」

 

明日菜がそう余裕を見せたその時―――

周囲の竹薮が風も無いのに揺れ・・・ざわめく葉の音や無数の音に混じって、何処からとも無く声が響いた。

 

「・・・へへへっ、そいつは聞き捨てならんなぁ」

 

その声と共に近づく大きな音―――

サイや明日菜やネギが周囲を見渡していると・・・目の前に巨大な影が降って来た。

 

腹の底に響くような重低音と共に現れたのは、堅固な外殻に覆われた一匹の大蜘蛛。

人の足の倍以上ある顎腕のついている頭部に張られた札が、この巨大な存在が式神だと明言しているようだ。

 

更にそれに続くように軽やかに大蜘蛛の頭の上に立ったのは一人のヤンチャ坊主風の少年。

恐らく先ほどの声の主であろう少年は、頭のニット帽を押さえながら眼下のサイ達を睥睨する。

 

「そう言うデカイ口叩くんやったら・・・まずこの俺と戦ってもらおか?」

 

瞬間―――サイ達と少年の周りの空気が急に冷たくなる。

その少年が何者かは解らないが、少なくともその気配や雰囲気から味方だと言う事はあるまい。

 

「何だテメェ・・・何モンだクソガキ?

あぁ、良く考えりゃ言う必要も考える必要もねぇわ・・・テメェは要は邪魔する為に来た野郎だろ?」

 

謎の少年はサイの問い掛けに何を返す訳でもなく獰猛な笑みを浮かべているだけだ―――だが十中八九サイの問い掛けは当たりだろう。

何故ならサイがそう問い掛けた瞬間、少年から放たれる殺気が膨れ上がったのだ。

 

そして―――此処からは余計な言葉は不要だ、言葉ではなく拳にて語り合うのだから。

サイ達も少年も互いに構えを取ると・・・。

 

「「「「行くぞ(で)!!!」」」」

 

共に地を蹴ると戦いを開始するのであった―――

 

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第三十一話の再投稿を完了いたしました。

さてさて、遂にこの辺から修学旅行編の華であるバトルラッシュの始まりです。

最初の戦いはサイ達vs謎の少年(小太郎)・・・此処から京都編の最後まで突っ走れるように頑張ります^^

 

本作内ではネギ君は女の子ですので明日菜と仮契約はしませんでした。

なのでそれを考え、この場所で彼女の(命を助ける為の最終手段として融合したにしても)魂獣としての力を形として彼女用の神具を生み出しました。

ちなみに原作と同じく大剣ですが、原作の【ハマノツルギ】とは違った物となっていきますので前以ってご了承下さい。

 

明日菜の神具:白虎属性の大剣(名前はまだ無し)

サイ曰く『白虎属性三つ全てを宿す、白虎属性の神具全ての中でも上位に入る神具』

また使い方によっては下手して全力でブン回したら山の表面を禿げ上がらせる事も可能な程の力を秘めているらしい

しかし理由は不明だが何らかの力が作用してある種のリミッターのようなものが施されているらしく、現時点では本当の実力の半分以下の力しか出せない

更に三属性の力も使えず、能力としては『厳つい外見にしては軽い大剣』程度の力しか発揮出来ては居ないようである

説明
遂に始まる京都の戦いの序章
少女の想いの強さより生み出されしその力
その力が魔を滅する力となるか、それとも世界を破壊する力となるのか―――
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