真・恋姫無双呉ルート(無印関羽エンド後)第51話
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 劉?side

 

「・・・ごめん、しくじった・・・」

 

城に帰還した王朗は、沈痛そうな表情で安楽椅子に座っている劉?と厳白虎に謝罪した。そんな王朗の報告を劉?と厳白虎は気を悪くすることも無く聞いていた。

 

「まあ仕方ねえよ、向こうが一枚上手だっただけだって」

 

「そうよ〜、気に病むことは無いわ束沙ちゃん、兵糧幾つか燃やしただけでも大健闘よ〜」

 

「・・・・・・・・・」

 

幾分か落ち込み気味の王朗に対して劉?と厳白虎は慰めの言葉をかけた、が、それが逆効果だったのか、ますます王朗は落ち込んでいってしまう。それを見ながら劉?と厳白虎は嘆息した。

 

「しかし・・・、兵糧襲撃は失敗、か・・・。多少は被害はだせたが、まだしばらくは持ちこたえるだろうな・・・」

 

「そうね〜、劉?ちゃん、どうするの?このまま持久戦でもする?」

 

考え込む劉?に、厳白虎はそう質問した。

いくら補給を行ったといっても、敵の兵糧には限界がある。長期間の戦闘が続けばいずれ枯渇するだろう。

対して此方は自分自身の領土での戦闘のため、糧食の補給についてはまったく心配は無い。領土の地形も全て把握している。だから反孫呉連合にとっては有利な戦であることには変わりない。

たとえ兵糧の襲撃に失敗したとしても、しばしばゲリラ戦、奇襲を繰り返して孫呉を疲弊させていけばいずれ敵も退却するであろう。無論、かなりの長期戦になるのは避けられないだろうが。

厳白虎の言葉を聞いた劉?は、しばらく沈黙していたが、やがてゆっくりと頷いた。

 

「・・・そうだな、戦力差も結構有ることだし、このまま馬鹿みたいに真正面でやりあっても負けるだろうしな。ここはひとつ持久戦でなんとかしていくか」

 

「・・・・異議無し」

 

「わ・た・し・も♪・・・・て、そういえば睦月ちゃんはどこ?」

 

厳白虎は、太史慈が居ないことに今頃気がついたのか、周囲を見回した。劉?は今頃気がついた厳白虎に若干呆れた。

 

「あいつならまた孫呉の陣地を襲いに行ってるよ。ついでに相手の兵糧を始末させにもな」

 

「あら?まだ兵糧諦めてなかったの?」

 

「そりゃあな。あれさえ潰せりゃ相手の士気も落ちて、勝率は上がるんだ。狙わねえ手はねえだろ?」

 

「そうだけど〜。幾らなんでも一度襲われたんだから守りも厳重にしてるんじゃない〜?」

 

 厳白虎の言うとおり、敵陣の兵糧は、特に厳重に守りを固められていることが多い。ましてや敵地、しかも一度奇襲を受けたり兵糧を襲われたりしたのだからなおさら厳重に守るのも当然であろう。が、劉?は不敵な表情で笑う。

 

「心配はいらねえ。あいつには少し策を出してやった。ま、上手くやるだろうぜ」

 

劉?の言葉に、厳白虎と王朗は互いに顔を見合わせた。それを見て劉?はさらに笑みを深めたのだった。

 

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一刀side

 

「いや、すまなかったの〜恋、霞。お主等が来てくれなんだらどうなっていたことか・・・」

 

「本当ですわ。感謝いたします」

 

「・・・・別に、いい」

 

「せやせや〜。むしろこの作戦考え付いた一刀と冥琳に礼をいってえな」

 

無事本陣に兵糧と共に到着した祭さんと六花さんの部隊は、自分達を護衛してくれた恋、霞の部隊と共に本陣で休息に入っていた。そして祭と六花は、自分たちを救ってくれた恋と霞に対して頭を下げて礼を言っており、恋と霞は別に何とでもないとでも言いたげに、二人を押し留めている。

 

「でも二人が無事でよかったわ。祭と六花に何かあったら兵糧よりも大きな損害だもの」

 

「策殿・・・、しかし申し訳ない。運搬していた兵糧の幾つかは燃えてしまいもうした。やむを得ぬ状況とは申せ、お詫びせねばなりますまい」

 

「確実に全て届けるとお約束しておりましたのにこの体たらく、どうかご容赦の程を」

 

そして祭さんと六花さんは雪蓮に頭を下げて詫びる。雪蓮は苦笑を浮かべながら二人を押しとどめた。

 

「だからもういいって!ねえ冥琳、残っている兵糧でどれ位この戦は進められそう?」

 

「・・・・我々の残っている兵糧とあわせて・・・、さらに出来る限り食事する量を節約すれば、大体一ヶ月以上は持つと思うぞ」

 

「・・・だ、そうよ。だから大丈夫だって!」

 

冥琳の答え聞いた雪蓮はにっこりと笑みを浮かべながら祭さんと六花さんを慰める。それでようやく二人も落ち着いたらしい。

まあでも多少は兵糧に被害が出るのは予想してた。

いくら祭さんと六花さんの部隊が精強だとはいえ、兵糧を守りながら戦うのは並大抵ではない。ましてやそれが地理的に敵側にアドバンテージのある敵地での運搬ならなおさらだ。

むしろ恋と霞の援護があるまで持ちこたえて、敵を食い止め続けた健闘を讃えるべきだろう。

 

「でもさ、連合もまだ兵糧を狙ってくるよな?」

 

「はい、補給線を断つことには失敗しましたが、我が軍の兵糧が無くなれば我々が戦どころではなくなるのは事実。確実に狙ってくるでしょうね。冥琳、その対策は?」

 

愛紗の問いに冥琳は眼鏡の縁を指で押さえながら答える。

 

「心配はいらない。兵糧庫の守りは以前の倍にしてある。最悪三万の兵が来ても持ちこたえられるだろう」

 

「ふ〜ん、なら問題なさそうね。祭達は疲れているだろうからゆっくり休んでて。恋、霞、あなた達もゆっくりしててね」

 

「む、ではお言葉に甘えようかのう、六花よ」

 

「ですわね、兵達にも休息が必要でしょうし」

 

「・・・おなか、すいた」

 

「あ〜、呂布っち〜。まだ飯には早いで〜」

 

雪蓮の言葉を聞いた祭さん達は、各々お喋りしながら天幕を出て行った。そして、天幕に残った人間は、俺、愛紗、そして雪蓮と冥琳のみとなった。

 

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「とりあえず、兵糧も祭さん達も無事でよかった、かな?」

 

「ですが、失敗した劉?達は焦っているでしょう。どういう手段を使ってくるか・・・」

 

愛紗の言うとおり、兵糧の強奪に失敗した以上、劉?達も余り余裕が無いはずだ。何か策を仕掛けてくる可能性もある。

 

「そうね・・・、冥琳、これからどうする?」

 

「とりあえずいつまでも一箇所に留まるのは危険だ。ここは敵の庭だからな。明日の夜明けには陣を畳んで出発するとしよう」

 

冥琳の言うとおり、いつまでもこの場所に居ても次々と敵の襲撃にあうだけだろう。なにしろ今陣を敷いている場所は周りは木々に囲まれてはいるものの、それゆえにいつ奇襲を仕掛けられてもおかしくない位置取りだ。ついでに此処は揚州、完全に敵のテリトリーだ。地の利は敵側にある。

 

「分かったわ、なら一刀と関平は明日には陣地を引き払って進軍を開始するって全軍に伝えておいて。行動は迅速に、夜明けには出発できるよう準備も整えなくちゃいけないわね」

 

「分かった」「承知しました」

 

雪蓮の言葉に、俺と愛紗は肯定の言葉を返した。

そして俺達は、すぐさま陣を引き払う為の準備を開始した。いつ攻めてくるか分からない以上、準備も早めに済ませておくのが妥当だと判断したからだ。

 

そして片付けは3、4時間程度で終わったものの、その頃には夜中になっていたため、寝ずの番の兵士以外は、ぐっすりと天幕で就寝となった。無論俺達も、だ。

 

 

太史慈side

 

孫呉の陣地から離れた太史慈率いる部隊の陣地において・・・。

 

「太史慈将軍!孫呉の陣地の偵察の報告です!!どうやら連中は寝ずの番の兵以外はぐっすりと眠っている模様です!!」

 

「そうか、ご苦労だった。すぐに軍を動かすよう全兵に指令を出せ。例の作戦を実行する、とな」

 

「はっ!!」

 

伝令の報告を聞いた太史慈は全てが予定通りに進んでいることに内心でほくそ笑んだ。

先ほど主である劉?より、援軍と作戦の指令書が送られてきた。その作戦を実行すれば、確実に孫呉軍の息の根を止められるだろう。

だが、決して油断は出来ない。相手は自分の軍の参謀である王朗の裏をかいた連中、まだどんな策を隠しているか知れたものではない。

 

「だが、策があるかもしれないと行動しないでいては勝てるものにも勝てはしないな」

 

太史慈は指令書を懐に入れるとにっと笑みを浮かべた。太史慈は直ぐに天幕を出る。

目の前には、自分に長い間仕えてきてくれた兵士達が、自身の命令を今か今かと待っている。太史慈は声を張り上げ命を下した。

 

「これより孫呉の陣地に夜襲を仕掛ける!!作戦は既に言い渡したとおりだ!!今度こそ連中にこの地を侵した報いを受けさせてやるがいい!!」

 

 太史慈の号令に、軍勢は高らかに雄叫びを上げた。

 

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一刀side

 

 片付けの作業が終わった時、俺自身結構疲れが溜まっていたのだろう。

 組み立て式の寝台の上に寝転がった瞬間、直ぐに睡魔が襲ってきた。愛紗達は既に別の天幕で眠っている頃だろう。

 

 俺も、早く寝よう・・・。

 

 俺は睡魔に身を任せ、目を閉じる。

 

 目を閉じた瞬間に、俺は夢の中へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい経っただろうか、突然遠くから何やら怒鳴り声や銅鑼の音が聞こえてくる。

 

 一体何が・・・「ご主人様っ!!」・・・あ、愛紗!?

 

 「愛紗!?一体何が・・・」

 

 「夜襲です!!敵軍が夜襲を仕掛けてきました!!」

 

・・・!!予想はしていたが早速きたか・・・・。

 

 予想以上に早かったけど、やっぱり陣地の場所がばれていたのか・・・。

 

 「分かった。雪蓮と冥琳は!?」

 

 「今後方で指揮を取っています!!他の将達も迎撃に向かっていますが、予想以上に敵軍が多く、膠着状態に陥っています!!」

 

 「分かった!!雪蓮の所に案内してくれ!!」

 

 「はっ!!」

 

 俺は服の上に外套を羽織ると、愛紗に案内されて、雪蓮の下に向かった。

 途中、兵士達が走り回り、次々と指示や命令を飛ばしているのが見えた。ほとんどの人間が撤退の準備で疲れて寝静まっていた時に突然の襲撃である。大分混乱しているようだ。

 

 「雪蓮!!」

 

 「あっ!!一刀!!関平!!どうやら無事だったみたいね!!」

 

 兵士達に檄を飛ばしていた雪蓮は、俺に気がついて此方を向いた。その表情には若干の疲労が見えているのが分かる。

 

 「天幕まで敵が来ていなかったおかげでね、それで、戦況はどう?関平から聞いたけど膠着状態だとか・・・」

 

 「そうよ、敵が思った以上にしぶとくてね、しかも数がかなり多いみたいで中々押し切れないのよ。でもなんだか妙でね。攻めてきた割には弓矢で遠距離から攻撃するばっかりであまり攻めてくる気配が感じられないのよね。たまに突撃してきても少し反撃したらすぐに逃げちゃうし。それに奇襲だってすぐに寝ずの番の兵に見つかってるし、本当にこっちを攻める気があるのやら・・・」

 

 雪蓮はどこか釈然としない表情で呟いていた。

 確かに劉?軍を見てみると、一回突撃したみたいだが、少し攻撃されると直ぐに退却して、その後突出してきた孫呉の兵達を弓矢で狙い撃ちにしていた。

しかし、そんな事をしたとしてもこの陣地を落とせるとは思わない。確かに此処はそれなりに守りは固めてはいるものの、城や要塞に比べれば大分もろい。その為、少々策や工夫を練れば力攻めでも落とすことは可能であろう。そこまで慎重になる必要もあまり無いはずだ。

それに雪蓮の言っていた見張りの兵に直ぐ見つかったというのが気がかりだ。通常夜襲を行うならば、出来る限りばれないように行うはず。ましてやここは劉?軍のホームグラウンド、この地形についても知り尽くしているだろうし見張りに見つからないように行動するのも可能であるはずだ。劉?が袁紹並に馬鹿だというのならばそれで終わりだろうが、少なくともそんな話は聞いた事が無い。

 

「愛紗、どう思う?この状況」

 

「そうですね、確かにここまで慎重に攻めてくるのは少しおかしいですね。見たところ数ではそれなりに多いようですし、ここまで多ければ力押しでも充分なはずです」

 

「それに、すぐに見張りの兵に見つかったのも気がかりだね」

 

「はい、確かにここ揚州は敵の陣地、我々に奇襲を仕掛けるのも容易なはずです。それをわざわざ見つかるようにするなど、まるで、わざと敵を自分達に引き付けて、時間稼ぎをしているかのようですね」

 

「はあ?何で時間を稼ぐ必要があるの?そんなことしても劉?達に得なんてないじゃない」

 

 雪蓮が素っ頓狂な声を上げる。確かに、わざわざ自分達に敵を引き付けて時間稼ぎをするようなメリットは今の所劉?軍には無い。

 じゃあ一体何の為に・・・・?俺が考えていると突然背後から叫び声や怒号が聞こえ始めた。

 

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 「な、何だ!?」「何!?この騒ぎは!!」「今度は何ですか!?」

 

 俺達が背後を振り向いた時、目の前にとんでもない光景が飛び込んできた。

 

 俺達の陣地から少し離れた地点、その場所から幾本もの煙が上がっていた。間違いなく何かが燃えて煙が起こっているとしか思えない。しかもその煙が出ている方角は・・・・。

 

 「あそこ・・・・、兵糧がある場所じゃない!!」

 

 雪蓮の言うとおり、あの煙の立っている場所には軍を養う為の兵糧が置かれている。無論、そこにだけあるわけではないが、今ある兵糧の大半はそこで守られていると言ってもいい。無論俺達もそれは分かっているから守りは相当堅くした。冥琳曰く二万三万の兵でも持ちこたえられるほどに。

 そこで煙が立っている、これが意味する所はそこが敵襲にあい、さらに火をかけられたということである。

 

 「そ、孫策様!!」

 

 と、突然明命が闇夜に紛れて姿を現した。その表情は疲労と焦りが入り混じっているかのような表情であった。

 

 「明命!?一体何があったの!?兵糧は!?」

 

 「は、はい!!突然太史慈の軍勢が夜襲を仕掛けてきたのです!!敵軍の勢い激しく、今は何とか持ちこたえておりますが既に兵糧を貯蔵している倉庫が二棟炎上してしまいました!!このままではさらに被害拡大の恐れがあります!!」

 

 「くっ!!なんて事・・・。直ぐに援軍を送るわ!!それまで持ちこたえるように伝えて!!」

 

 「は、ハイっ!!」

 

 雪蓮の指示を受けた明命は再び闇夜に姿を隠した。

 

 「伝令!!」

 

 「はっ!!ここに!!」

 

 「直ぐに兵糧の設置場所に援軍を出しなさい!!このままじゃ兵糧が全部灰になるわ!!」

 

 「ぎょ、御意!!」

 

 雪蓮の命を受けて伝令は直ぐに前線に向かった。その後姿を見ながら俺はある一つの確信を持って愛紗を見た。

 

 「・・・愛紗、やっぱり・・・」

 

 「はい、ご主人様。私もそう考えていました」

 

 「!?ちょ、二人とも、どういうことよ!?」

 

 雪蓮の問い掛けに対して、俺と愛紗は互いに顔を見合わせたあと、雪蓮に向き直った。

 

 「単純に言うとだ、俺達は嵌められたんだよ」

 

 「嵌められた!?」

 

 「はい、敵の策に引っかかったのですよ、私達は」

 

 驚愕の表情を浮かべる雪蓮を尻目に、俺と愛紗は解説を続ける。

 

 「劉?軍の目的はこの本陣の殲滅なんかじゃない。真の狙いは補充されたばかりの兵糧だ。恐らく、兵糧を運搬途中に焼き捨てることができなかったから、今度こそと思って軍を差し向けたんだろうね」

 

 「今正面で迎え撃っている軍勢は、ただのオトリ。ただ孫呉の軍を引き付けて、視線を釘付けにすることだけでいいのですから、あまり積極的に陣を攻める必要もありません。あとは敵の軍がオトリに引き付けられている隙に兵糧を狙う・・・、単純ですが意外といやらしい戦術ですね」

 

 俺と愛紗の説明を聞いていた雪蓮は、段々と険しい表情になってきた。

 

 「ふん、なるほどね。敵も馬鹿じゃないって事か」

 

 「まあね、これが美羽のような傀儡政権や、袁紹みたいに指揮官が無能なら楽だったんだろうけど・・・」

 

 「あいにく劉?達はそんな噂は聞かないしね。まあ私は指揮で此処から動けないから、誰かに援軍に向かってもらうしかないんだけれど・・・」

 

 雪蓮は苦々しげに前方の乱戦を見続ける。

 先ほどの煙に呼応したかのように、敵軍の攻撃が激しさを増しているのが分かる。遠いためよくは分からないが、自軍も大分苦戦しているようだ。

恐らく先ほど兵糧庫から上がった煙が合図になって、それで防御主体から攻撃主体に切り替えたのだろう。しかも、雪蓮の話だと、敵軍はまだ後方にも控えているらしい。

これではそう簡単に援軍を送れなくなってしまう。

 

 「冥琳は三万の軍勢なら持ちこたえられるって言ってたけど・・・」

 

 「それでもそこまで長くは持たないでしょう、相手はあの太史慈です。既に二つ兵糧庫が焼かれた以上、もはや楽観視は出来ません」

 

 「・・・・・」

 

 雪蓮は俺と愛紗の話を聞いて、沈黙しながら何かを考えていた。

 

 「でも仕方がないわ。ここは援軍が来るのを祈って、兵糧庫を守っている明命達の無事を祈るしかないわ」

 

 雪蓮はどこか無念そうな表情で目の前の戦場に目を向けた。

 

 

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 太史慈side

 

「燃やせ燃やせ!!敵の食糧を一粒残らず焼き尽くせ!!」

 

 太史慈は自分に斬りかかる孫呉の兵を自慢の鞭で打ち、殴りながら怒鳴り声を上げる。

 それに呼応するかのように、太史慈の軍からも雄叫びが上がり、火矢があちこちに飛び交い、兵糧庫に火をつける。

孫呉の兵も必死に応戦するものの、寝込みを襲われたこと、そして敵の士気の高さにこちらは逆に士気が落ち、防戦だけで精一杯の状況となってしまう。

そんな孫呉の兵士達を見て、太史慈は馬鹿にするかのように鼻を鳴らした。

 

「ふん・・・、話にならんな。まあ寝込みを襲えばどんな軍もこうなるか。しかし、劉?様もさすがだな。オトリの軍に敵を引き付けさせて本隊で兵糧を狙うとは」

 

劉?の策とはこうだ。

まず、オトリである軍勢を使って、陣地の正面を攻めさせる。そして、敵軍の目をオトリの軍に向けさせて、その隙に兵糧を焼き尽くす、という作戦だ。

このとき、後部の部隊の兵士達は、背中に二つ以上の松明を背負わせ、さらに藁や木で作られた木偶の兵士も幾つか混ぜ、松明を背負わせる。

こうすることで、背後にも敵軍が大勢いるように見せかけることが出来、敵には大軍が攻めてきたと思い込ませることが出来るのだ。ましてや今は夜、辺りは一寸先も見通せぬほど暗い為、なおさらだまされる連中も多いことだろう。

そして、一度攻めたら此方から合図があるまでは、あまり積極的に攻めかからず、一撃離脱、そして敵の迎撃を主として余り兵力を消耗させず、合図が会った瞬間に一気呵成に攻撃を仕掛ける。これによって、敵兵に援軍を送らせる余裕、時間を奪い去り、兵糧を焼き尽くすまでの時間稼ぎを行うのだ。

つい先ほど合図として狼煙代わりに兵糧庫を燃やしてやった、既に向こうのオトリの軍も仕事を始めていることだろう。

 

「やれやれ・・・、こういう作戦はあまり趣味ではないのだが・・・、まあ仕事だ、仕方がない。・・・貴様等にとっては不幸極まりないだろうがな」

 

と、太史慈は足元で傷だらけで転がっている明命に言葉をかける。明命は全身打撲や内出血でボロボロであり、体の骨も何本かひびが入り、折れているのも少なくはなかった。だが、それでも明命は刀身が半ばから圧し折れた長刀を握り締め、地面から必死に立ち上がろうとしていた。

そんな姿を哀れそうに見ながら太史慈は左手の金鞭を肩に乗せる。

 

「もうあまり身体を動かさないほうがいいと思うがな、お前の身体はあちこちの骨にひびが入っている、その刀ももう使い物になるまい。見逃してやるからそこで寝ているがいい」

 

「なにが・・・・、見逃して・・・やる・・・・ですか・・・・。あいにく・・・敵に・・・情けを・・・掛けられるほど・・・・・弱っては・・・いません・・・よ・・・」

 

明命は息も絶え絶えに長刀を支えに立ち上がり、地面に転がっていた長刀の刃を握り締め、太史慈に向けた。刀身を握り締めた掌からは血が滴り、疲労と痛みから足はがくがくと震えていた。誰が見ても明らかな満身創痍である。

太史慈は、その姿を見ながら大きく溜息を吐いた。

 

「ふん、そうはいうがこの状況を見ろ。もはや兵糧庫は4つが焼け落ち、残りもいつ焼け落ちるかわからない状態だ。しかも兵糧を守っている他の将、呂蒙に凌統も我が兵にかかりきりで私を防げるのはお前一人のみ、そして私に挑んだお前はご覧の有様、もはや敗北は誰が見ても明らかだ」

 

「馬鹿に・・・・、しないで・・・・ください・・・・、まだ、まだ終わっていません!!」

 

 明命は叫んで太史慈目掛け飛び掛る。その手には折れた刀身が握られ、せめて一太刀だけでもとの気迫が込められていた。が・・・・、

 

「・・・その意気やよし、が・・・・・甘い」

 

左の金鞭が振るわれ、再び明命を打ち据える。内臓にまで達する衝撃に明命は血を吐き、地面に再び叩き付けられた。

 

「かっ・・・・げは・・・・・・がっ・・・」

 

「確かにその腕はたいしたものだ、気配を隠してからの奇襲ならばいかなる人間も逃れられまい、が・・・・、真正面の戦いになれば、この通りだ」

 

太史慈は倒れ伏した明命に向けて、金鞭を大きく振り上げる。

 

「助命してやろうと思っても、お前自身が拒むのならやむを得んな。なに、安心しろ、痛みは一瞬、直ぐ楽になれる」

 

「ぐ・・・・・」

 

そして、明命目掛けて金鞭が無慈悲に振り下ろされた。

 

(ああ・・・もっと、お猫様をモフモフしたかったです・・・・)

 

明命は、最後の瞬間、瞳を閉じてそう考えた。

 

 

 

が、いつまで経っても金鞭が身体を砕く感触が襲ってこなかった。

明命が、そっと瞳を開けると、そこには、金鞭を振り下ろす前の動作で止めた太史慈が、あらぬ方角を驚愕の表情で見つめていた。

 

「な、何がどうなっている!?何故我が軍が!?」

 

太史慈の、まるで訳が分からないと言った表情をみた明命は、ゆっくりと太史慈の見ている方角に目を向けた。

 

そこには、今まで我が物顔で兵糧を焼き回っていた太史慈軍の兵士達を殺していく、見たことも無い黒い鎧の兵士達がいた。

その様はまさに圧倒的、劉?軍の中でも精鋭で知られるはずの太史慈軍の兵達を、難なく屠り、叩き潰していく。その様子を見た太史慈は、硬直していた状態からすぐさま立ち直り、キッと明命を睨みつける。

 

「・・・・命は預けてやろう」

 

太史慈はそう呟くとすぐさま謎の漆黒の軍勢に向かって飛び込んでいった

明命は、太史慈を見送ると、その兵士達の背負っている旗印に目を向けた。

 

「黒い・・・・烏・・・・?」

 

そして、明命は意識を失った。

 

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一刀side

 

 「どういうことよ!!まだ援軍が送れないって!!」

 

 雪蓮は柳眉を逆立てて、目の前で跪いている兵士を怒鳴る。その怒鳴り声に兵士はびくりと身体を震わせる。

 

 「も、申し訳ございません!!ただいま前線が乱戦の為、援軍に割くための兵力を募れないとの事で・・・」

 

 「そんな事言ってて、兵糧が全焼したらどうなるか分かってるの!!私達の軍はここで立ち枯れるのよ!!」

 

 「げ、現在呂布様と張遼様が援軍の為の兵を纏めています!!今しばしお待ちください!!」

 

 「・・・・もういいわ、下がりなさい」

 

 雪蓮の言葉に兵士は頭を下げると、俺達の前から退いていった。雪蓮はその様を見て、爪を噛みながら悔しげな表情を浮かべていた。

 いらだつのも当然だろう、既に伝令に援軍要請を伝えて三時間、一向に援軍らしき部隊は出てこない。

恐らくは乱戦になったせいで部隊に命令が伝わっていないか、もしくは敵との戦闘で精一杯で援軍を送る余裕が無いのかのどちらかであろう。

どちらにしろこちらとしてはまずいことこの上ない。既に煙の量から見てかなりの兵糧庫が燃えているのは明らかだ。兵糧の守りには明命、亞沙、咲耶の部隊が就いているものの、相手は劉?軍一の武将と呼ばれた太史慈だ、苦戦するのは必死だろう。

 

「まずいですね・・・、このまま援軍が来ないとなると・・・・。守りについている明命達の安否も気がかりですし・・・」

 

「・・・・・・・」

 

愛紗の言葉を聞いて雪蓮はさらに顔を歪めたが、直ぐに表情を引き締めると南海覇王を片手に兵糧庫目掛けて早歩きで向かおうとした。

 

 「ちょ、ちょっと雪蓮!!一体どこに行くの!!」

 

 「決まってるでしょ!!今すぐ兵糧を焼いている太史慈を叩き斬ってくるのよ!!援軍なんて待ってたら兵糧が全部灰になってるわよ!!」

 

 「あ、焦る気持ちは分かります!!ですけど一人で向かわれるのは危険です!!それに自分は軍の指揮があるから抜けられないと先ほど言ったではありませんか!!」

 

 「一人でも総大将の太史慈斬り捨てればそれで敵も崩壊するわよ!!軍の指揮はあなた達に任せればいいでしょ!!」

 

 さすがに兵糧が焼かれるのに我慢ならなくなったのか、それとも援軍が現れないことに業を煮やしたのか、雪蓮が兵糧庫にたった一人で援軍に向かおうとする。・・・いや、一人じゃ援軍と言わないか?

 まあそれはどうでもいいが、さすがに一人で向かうのは無茶だ!!いくら雪蓮が強くても多数対多数の戦いで雪蓮が乱入したところで、大して効果は無いうえに、下手をすれば敵の総大将ということで袋叩きにされる恐れもあるのだ。太史慈との一騎討ちで殺される可能性もある。原作での描写では孫策と太史慈の実力は互角、何合打ち合っても決着がつかなかったと言う。この世界ではどうか分からないが、前の戦いのときは、どちらも実力が拮抗して決着がつかなかったらしいから、この世界でも互角と考えていいだろう。

互角ということはどちらが勝ってもおかしくはないし、逆にどちらが負けてもおかしくないということ、つまり、ちょっとした弾みで力関係が崩れれば、すぐさま敗北、すなわち死に直結しかねないということだ。ましてや乱戦では流れ矢に当たったり他の兵士に不意打ちされたりする危険性も高い。そんな危険の真っ只中へ雪蓮を行かせるわけにはいかない。

 

「我が侭な事をいうな!!雪蓮死んだら軍が総崩れになるんだぞ!!そうしたら兵糧焼かれるに俺達の負けだろうが!!」

 

「死なないわよ!!一刀から貰った命なのよ!!太史慈如きに奪われるはずが無いわ!!」

 

「そんなの分からないでしょう!?いいですから落ち着いてください!!」

 

「ああくそ!!ここに冥琳がいれば・・・「申し上げます!!」・・・ん?」

 

俺と愛紗が雪蓮を抑えつけていると、突然伝令の兵士の声が聞こえた。俺達が声の聞こえた方向に顔を向けると、やはりというべきか伝令の兵士が片膝をついて控えていた。相当激戦だったのだろうか、鎧のあちこちに矢が刺さり、唇から血が滲んでいる。が、俺達が注目したのはその兵士の表情であった。どこか困惑したような、まるで喜んでいいのか分からないような表情、それが何故か不可思議でならなかった。

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「どうした!今は御覧の通りに取り込み中だ!!」

 

「はっ!!で、ですが一大事です!!太史慈の軍勢が・・・・撤退を開始しました!!」

 

「「「えっ!!?」」」

 

伝令の突拍子のない言葉に俺達は一斉に素っ頓狂な声を上げた。

だってそれはそうだろう。

今の今まで優勢で、兵糧庫も燃やしていた太史慈の軍勢が突然撤退を開始したとの知らせが入ったのだ。晴天の霹靂や寝耳に水なんてもんじゃない。

 

「ま、マジか!?」

 

「信じられぬかもしれませんが、事実でございます!!」

 

「い、一体何が起こったのよ!!仲間割れ!?それとも太史慈の首でも獲ったの!?」

 

雪蓮の質問に伝令の兵士は黙って首を横に振る。そして、しばらく息をつくと口を開いた。

 

「そ、それが、妙な軍勢が突然乱入をしてきて、太史慈の軍に襲い掛かったのです。突然の襲撃に太史慈軍は浮き足立ち、しばらく留まって交戦していたものの、しばらく後に退却を始めたのです」

 

「妙な軍勢?」

 

「全身を漆黒の鎧で覆っており、乗っている馬の毛並みも黒、旗には黒い烏の絵が描かれていました。我等孫呉の軍勢ではありません!!」

 

黒い鎧に烏の旗印・・・・?なんだそれは。

確かにそんな軍勢は孫呉の軍にはいなかったはずだ。

となると、どこか別の勢力の軍勢か・・・?

 

「なあ雪蓮、烏の旗印を持った軍勢って、何か心当たりは無い?」

 

「全く無いわ。そもそも烏なんて不吉な鳥旗印に使うのなんて誰も居ないもの。無論、私達の軍にもね」

 

「そうか・・・」

 

確かに俺達の知る限り烏を旗頭にする群雄なんて聞いたことがない。

と、いうよりこの世界の群雄の旗印は『曹』『孫』といったように自分の姓を旗印にするのがほとんどであり、日本の武将のように、草花や動物を旗印にすることは余り無いのだ。

 

「他に何かその軍勢に関する情報は無いか?」

 

と、愛紗がその伝令の兵士に質問した。兵士はしばらく考えるそぶりをしていたが、すぐにはっとした表情となった。

 

「そういえば、確かその軍勢の将と思われる人物が我々から孫策様への伝言を渡されました」

 

「伝言?それって何よ」

 

兵士は一拍ほど沈黙してから、その伝言を口にした。

 

「『我等の名は八咫烏。日輪より舞い降り、天より遣わされし者に仕え、その手足となりし者達なり。我等が爪は御使いの刃、我等の声は御使いの御言葉なり』そう言ったあと立ち去っていきました」

 

俺達は、兵士の言葉を聞いて、呆然となったまま、沈黙していた。

 

 

 

八咫烏、日本神話において、太陽を象徴する熊野の神の使いとされ、それ自体も神の化身であるとされている伝説の烏。神武天皇の東征の際に姿を現し、勝利へ導いたと古事記には記されている。

本来この時代では、というよりこの国では聞くはずのない神鳥の名前である。

何故、こんな所でこの名前を名乗る集団が・・・・。

そして何より、彼らは天より遣わされし者に仕える、と言っていた。

天の御使い、恐らく正史からこの外史に舞い降りた人間のこと、つまり俺と愛紗の事だろう。

だが、俺は八咫烏なんて軍勢は知らないし、そんな軍勢を組織した覚えもない。それは愛紗や雪蓮達も知っているはずだ。

じゃあそいつらの言っていた御使いって一体・・・・。そう考えた時、俺の脳裏にある言葉が蘇る。

 

 

 『正史より・・・・舞い降りし者は・・・・お前だけでは・・・無い・・・』

 

 

 俺が毒で意識を失っていた時に聞いた言葉が蘇ってきた。

 

 

-9ページ-

あとがき

 

誠に申し訳ありません!!

 

通信大学と仕事の両立で忙しく、更新が大幅に停滞してしまいました!!

 

もう完全に忘れられてるんじゃないかコレ、いやマジで・・・。

 

自分ながらよく六月前に投稿できたと感心しております。

 

まあとにかく、多少雑な印象ではありますが、第51話、ようやく投稿いたしました。

 

よくもまあここまで書けたものだと自分ながら感心しております・・・。せめて赤壁辺

 

りまでは連載したいです。次は冗談抜きでいつになるか分かりません。ですが、お待ち

 

いただければ、私個人としては、かんしゃの一言です。

 

それでは、言い訳ばかりになりましたが、この辺で・・・。

 

説明
お久しぶり、いえ、マジでお久しぶりです。
約三ヶ月ぶりでしょうか、大変お待たせしましたが、51話、投稿しました。
一ヶ月に一回投稿するとか何とか言っていてなにやってんだ、俺・・・。
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コメント
ロンリー浪人 様 きまお様 残念ですがどちらも外れ、ですね・・・。詳しい情報はストーリーの更新を待て!!・・・としか言えません。(海皇)
陸奥守 様 期待していてくれてうれしいです。打ち切るつもりはかけらもございません。必ず完結まで持っていくつもりですのでどうか御待ちを。(海皇)
BLACK 様 きまお様 残念ですが何処の勢力か、というのはネタバレになるので申し上げられません。ですが、少なくとも味方ではない、とだけ申し上げておきます。(海皇)
じゃあ俺は不動先輩に一票!(マテ(きまお)
………よし! 大穴で及川だな!(ロンリー浪人)
期待して待っていて良かったと心底思った。打ち切られないだけでも良いッス。(陸奥守)
矢田硝子(普通に変換したらこうなったw)といえば、戦国時代(日本)の鉄砲傭兵集団雑賀衆の旗印でもあったな。はてさて、どこの集団だろう。(きまお)
正史からきた別の誰か・・・。八咫烏となると暗殺とかが得意な部隊とかかな?(全然理解せずにコメント中)(BLACK)
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