ちびっこますたー! そのに
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―クラス・Okan―

 

地上に出ると、既に夜は明けていたらしい。朝の柔らかなの光が窓から降り注いでいた。

アーチャーは三人に食堂で待っているように言うと、一人厨房に入ってく。

 

そして十分程が過ぎた頃。

 

「できたぞ」

「えっ。もう?」

「早いなあ」

驚いた顔になる士郎と凛に、アーチャーは三人分の皿を乗せた盆と、パンの入ったかごを手に肩をすくめる。

「なに。ありもので簡単にこしらえただけだ」

食堂で待っていた三人にアーチャーが持ってきたものは、左手のカゴには黄金色に焼いた厚手のトーストが人数分。

右手の白い皿にはサラダとポーチドエッグに、こんがり焼いたベーコンを載せた、正統派ブレック・ファストだ。

「美味しそうですね」

セイバーが正直な感想を漏らす。

「ミルクとオレンジジュース。どちらにする?」

「私ミルク」

「オレンジジュース」

「オレンジジュースをお願いします」

希望を聞くと、アーチャーは三人のグラスに、それぞれ飲み物を注いでやる。

「アーチャーは食べないのか?」

早速フォークを手にした士郎が尋ねると、アーチャーは片手を上げて首を振った。

「私は食事を必要としない」

「あ、そっか」

サーヴァント……英霊は本来食事を必要としない。

マスターによって霊力という食事を与えられているからだ。

「セイバーは食べるから、てっきりそのつもりだった」

彼女が食事を取るのはあくまで魔力の補助と、本人の嗜好によるものである。

「私のことはいいからさっさと食べたまえ。料理が冷めてしまう」

「ああ」

士郎はうなずくと、早速料理に取り掛かった。

 

静かになった食堂で、食器の動く音だけが響いている。

そこで、アーチャーは先ほどから疑問に感じていたことを尋ねてみることにした。

 

「ところで私のマスターは」

「アーチャー。このサラダ、ドレッシングに何を使ったの?」

しかしその前に、凛がアーチャーに尋ねてくる。

「む。適当にあった調味料を和えただけだが……」

「えー。美味しいから配合聞こうと思ったのに」

「後で思い出しておこう。それで」

「これは……! 白身は完璧に火が通っているのに黄身が完璧な半熟なんてっっ。アーチャーどうやったんだ!?」

「はあ? どうといわれても……時間をきちんと計れば誰だって作れるだろう」

「うそだっ。俺だってかなり練習したけど、ここまで完璧なポーチドエッグ出来たこと無いんだぞ!」

ものすごく悔しそうになる士郎(外見推定六才)に、アーチャーは呆れて言い返す。

「知るかっ。もっと練習しろっっ。それより聞きたいことが」

「アーチャー。お代わりを」

そこへ、いつの間に食べ終えたのか、空になった皿を差し出してくるセイバーさん。

舐めたように綺麗になっている皿を見て、アーチャーはついに、この場で追求することをあきらめた。

「……トーストは?」

「二枚で大丈夫です。焼き色はもっと薄くお願いします」

 

 

結局その後。士郎と凛までお代わりをして、にぎやかな食事が済むと、さすがに空腹が満たされたのか三人も落ち着いたようだった。

先に彼らを居間に移動させ、アーチャーはテーブルの片付けと洗い物を済ませると、後から皆の元に向かうことにする。

これまでの経緯と、マスターについての質問などを組み立てながら。

 

……しかし。

 

「…………召喚したては、酷く消耗しているのだったな。そういえば」

だから食欲も旺盛だったのか。と、応接セットのソファですっかり寝入っている三人に、アーチャーは深いため息をついたのだった。

 

凛と士郎を寝室のベッドに運び、セイバーは良く分からないのでソファに寝かせたまま毛布を掛けてやる。

さて。これからどうするか。

ぐるりと部屋を見渡せば、最近まで人が住んでいなかったのは本当なのだろう。

部屋の天井の隅に蜘蛛の巣が張っていることに気がついた。

見れば、背の高い柱時計の上にも埃が積もっている。

気がついてしまうと無視をするのは難しい。

少しだけ片付けるか。とアーチャーはハタキを練成すると、その蜘蛛の巣と埃を取り 除くことにしたのだ。

 

 

     *****

 

 

セイバーは、何か懐かしい音楽を聞いてるような心地で目を覚ました。

 

それはまだ幼い頃。

王の剣を抜くどころか、騎士になることすら考えてなかったころ、忙しく家事に立ち 回る養母について回っていた時、聞いていた……。

 

「え?」

 

元の時代より更に過去に戻ってしまったのか!? と、思わず飛び起きると、

目の前に飛び込んできた風景は、見慣れた遠坂の家の居間だった。

「……夢?」

全く夢を見た覚えはないが、そう呟くと、ひょっこりと居間の入り口から一人の男が 顔を出してきた。

「目が覚めたのか」

「あ」

 

その浅黒い顔を見て、状況を思い出し……今の状況が分からなくなる。

 

「…………あーちゃー?」

「君らが眠り込んでしまって暇になったんでな。勝手をさせてもらっているぞ」

アーチャーは武装を解いて、一般人と同じような衣類を着ていた。

ただし。

その白髪は三角巾に覆われて。

服の上には真っ赤なエプロン。

緑のゴム手袋をはめた手にしているのは、バケツに雑巾。箒にハタキと掃除道具一揃い★

 

 

「…………」

「全く……いくら家を空けているとはいえ、出かける前にきちんと掃除をしていなかっ たのか?

凛も衛宮士郎も何をやっていたんだ。 館中埃だらけじゃないか。使わない部屋もちゃんと換気をしないとカビが沸くぞ。というか北側の部屋が既にかび臭い。とりあえず簡単に掃除をしたが、明日から本格的にやらなくては……」

そこまで一気に呟くと、アーチャーはセイバーに目を向ける。

「セイバー」

「ひゃいっ」

唖然としていた所で突然声をかけられたので、思わず舌をかんでしまう。

そして、なんでそんな格好してるんだと言う問いが浮かぶ前に、アーチャー口を開いた。

「そろそろ凛達を起こしてやってくれ。夕飯の準備ができてる。あと、君らは昨日から風呂にも入ってないだろう。食事が済んだら入れるようにしてあるからな」

「は……はい」

どうにかこうにか返事をすると、アーチャーは再び廊下の向こうに立ち去ろうとしたが、ふと振り返ってセイバーに再び声をかける。

「ああ。凛達は彼女の寝室に放り込んである。私は地下室の整理をしているから、用があったら呼んでくれ」

「…………」

そのまま去っていった男の軽快な足音を聞きながら、これか。と気がついたが、深くは追求しないことにした。

幼少期の暖かな思い出が被ったことのを認めるのは、ちょっとキツい。

 

 

 

その後、アーチャーは地下室の片づけを終えると、三人が食事とお風呂を済ませ、再びベッドに入ったのを確認した。

最後にキッチンの後片付けと浴室の換気を確認した後、屋敷の明かりを消して回る。

全てが終わると、以前の召喚でも自分のスペースとして利用してきた居間に戻って、心地よい疲労と共にソファに腰を降ろした。

「うむ。久々に身体を動かすと気分がいいな」

空の様子からすると明日も晴れるだろう。

一日の予定を組み立て、手順を考える。

朝一番にすべきは洗濯だろう。カーテンが随分埃っぽかったから、いっそ全部洗ってしまいたい。

庭の草むしりもしたほうがいいだろう。

凛達の様子を見るに、家事を一人前にこなすのは難しいだろうから、手伝いだけでも………。

 

と、そこで。

 

 

「む?」

 

 

ナニカを忘れているような。

 

 

 

つづく。

説明
子供になってしまった凛と士郎。そしてセイバーの居る元に召喚されたアーチャーは、わけが分からないまま、とりあえず朝食を作ることに。しかし、アーチャーのマスターって一体…?
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遠坂凛 衛宮士郎 セイバー アーチャー Fate 

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