ハルナレンジャー 第四話「魔剣襲来」 A-2
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Scene2:ダルク=マグナ極東支部榛奈出張所 AM11:00

 

「ハルナレンジャーの仕業ではない、と?」

 優美なデザインを受話器を肩に挟みつつ、モニタを流れる被害状況を確認しているシェリー。

 デスクの前にはまるで彫像のように微動だにしないジルバが控えている、いつもの光景である。

『少なくともレッドが嘘を吐いているようには見えないでやんすねー』

 電話の相手は先ほどまでピンクの見舞をしていたレミィ。受話器から漏れ聞こえる車や雑踏の音からすると、律儀にもわざわざ病院を出てから電話をしてきたらしい。

「すると貴様は、この街にはこんなバカげた戦闘力の持ち主が連中以外にいる、と言いたいわけだな?」

『ひぃっ!?も、申し訳ないでやんす〜!!』

 咄嗟に謝りだしたレミィの怯えた様子からして、相当不機嫌な声を出していたらしい。

 久しぶりに完全に後手に回っていることにいらだちはするが、レミィに当たったところでどうなるものでもない。

「いや、すまん。貴様に責があるわけではない。情報不足はこちらの問題だ」

 ため息をつきつつ謝罪すると、電話の向こうから露骨にほっとした空気が伝わってきた。

――それはそれで苛立たしいのだが。

『で、あのー、あっしはどうしたら……』

「しばらくはピンクに貼り付いていろ。戦闘員共の培養修復が終わるまではどのみち作戦にならん」

『了解でやんす!……あうっ』

 受話器からがつっとどこかにぶつけたような大きな音がした。どうやら通信端末を持ったまま敬礼でもしたらしい。

 思わず耳を離した受話器を睨み付けると再び持ち直し、

「以上だ」

 あちらの返答を待たずに通話終了。受話器を置かれた電話機はいつの間にかジルバの懐へと消える。

 

「……だ、そうだが」

 つかみ所のない笑顔を浮かべたままのジルバに目をやる。

「『バカげた戦闘力の持ち主』ですか。言い得て妙ですな」

「薄いとはいえ並の刃物では傷一つ付かぬ特殊強化繊維の戦闘服を真っ正面から一刀両断なぞ、バカげてなければ化け物だ」

 モニタを切り替え戦闘服の破損状況を表示。引き裂かれるのではなく、鋭利な刃物で綺麗に切り裂かれている。

「将軍にも不可能ではないとお見受けいたしましたが」

 世辞の類ではない、むしろこちらも化け物ではないかと揶揄するようなジルバの態度に苦笑する。

「かかしにでも着せて斬りかかるなら、な。闇に紛れての不意打ちとはいえ、訓練された相手にここまで綺麗には打ち込めん」

 戦闘員達も正規の訓練を受けた身である。襲われれば身をかわそうとするし、襲う側も反撃を警戒しなくてはならない。

 かかしのように身じろぎもせずに突っ立っているものに後先考えず斬りかかるのとは訳が違う。

「であれば、彼らにもそこまでの技量があるとは思えませんが」

 眼鏡を右手の人差し指で押し上げつつ反論するジルバの言葉ももっともではある。

 過去の戦闘データからすれば、ハルナレンジャー各人の戦闘能力はせいぜいレミィと同等か少し劣る程度。

 これほどの戦闘能力があるなら、もっと早い段階でこちらも対抗手段を練る必要があっただろう。

 ……と、そこまで考えてふと思い至る。

「あちらも対抗手段を取ってきたということか?」

 今回の作戦でこちらがそれまでの交戦規定を踏み越えてハルナレンジャーに損害を出した。

 負傷者を極力避けるという暗黙の了解が破られたため、あちらも武器の使用を解禁してきた……

「軍拡競争の泥沼の縮図ですな」

 まったく信じてない口調でジルバが返す。

「彼らの動きは基本的にこちらの作戦行動に対する対症療法の域を出ません。今回のような夜襲による積極行動は、逸脱しすぎているように感じます」

「では、貴様も全く別組織の者が動き出したと?」

 問いかけには答えず、軽く肩をすくめただけ。

 当然その可能性は考慮すべきであるし、常習的に恨みを買う立場とあれば思い当たる節もないではない。

 しかし、そうした連中が動き出したという情報や兆候もまたなく、どのみち特定困難なことに変わりない。

 シェリーは興味を失ったように椅子に沈み込むと、

「ともかく、しばらくは夜間の外出及び哨戒行動を控えるよう通達。施設への侵入は未だないとはいえ、油断は出来ん。当直のローテーションを見なおしておけ」

「御意」

 一礼して立ち去ろうとしたジルバに、思い出したように声をかける。

「ところで、何者かが私の私室に忍び込んだ形跡があるのだが」

「レミィがなにやら捜しておったようですが」

 振り返らずに返答するジルバに顔をしかめる。

「あれがか……何か言っていたか?」

「何かは存じませんが、『お見舞いに丁度良いでやんす』と」

「……帰ったら顔を出すように言っておけ」

「御意」

 苦り切った顔に何故か赤みが差していたが、ジルバがそれを直接確認することはなかった。

 

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