ハルナレンジャー 第四話「魔剣襲来」 A-3/4/5
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Scene3:榛奈市中央病院 AM11:00

 

「一撃でばっさり、かあ……」

 レミィから聞かされた悪の組織の窮状に、しかし有香と赤岩の表情は晴れない。

「敵の敵は味方ってことは……」

「どうだろうなあ」

 襲撃の犯人が自分たちではない、とすれば新手の別組織。

 辻斬り同然に夜道を不意打ちなどというやりくちを考えれば、別の「悪の組織」の縄張り争いと言う方がわかりやすく。

 曲がりなりにも武器の使用を制限しているらしいダルク=マグナに対し、「新手」はまったく容赦なく武器を持ちだして来ているわけで……

「厄介な敵が増えただけですよね、これ」

 うーんと唸って黙り込んでしまった有香に、赤岩はその先を話すのを躊躇った。

 味方であったとしても、いや、味方である方がタチが悪い。

 「新手」への対抗上、ダルク=マグナも武器を使ってくるのは目に見えている。

 双方が勝手につぶし合ってくれている分にはいいが、こちらの「味方」が武器を持っていれば、ダルク=マグナの武器がこちらを向く可能性もより高まる。

 それはさすがにこちらの手に余る――有香の左腕を覆うギブスを見ながらこめかみを押さえた。

「あいつらも結構強いんですよね」

「あ、ああ。そうだね」

 気まずい沈黙を破った有香の言葉。

 手加減されていたとまでは思いたくないが、レミィ達は色々な制限を抱えたままこちらと互角に渡り合っていた。

 奇襲とは言えその彼らがなすすべもなくやられるとは……

「あたしももっと強くならないとなあ」

 有香が気分を無理矢理切り替えるように照れ笑いを浮かべた。

「退院したら、その……空手とか教えて貰ってもいいですか?」

 思い切ってお願いしてみる。ちょっと緊張。頬がほんのり熱くなる。

 手取り足取り稽古を付けて貰って……「強くなったな」「赤岩さんのおかげです……いえ、あなたのために」とか……そのまま顔が近づいて……などとそのまま妄想世界に旅立った有香のやに下がった顔とは対照的に、赤岩の顔が険しくなる。

「有香ちゃんは充分強いと思うけどね」

 そんなことないですよと、軽い口調で反論しようとして、その渋い表情に戸惑う。

「でも、こうして実際負けちゃったわけですし」

 左腕を押さえながら、改まって真面目な表情で赤岩を見据えた。

「大事なのは、『強く』なることじゃないんだ」

 赤岩もそれに答えるように姿勢を正して答える。両膝の上で拳を握りしめながら。

 

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Scene4:黄旛道場 10年前

 

 夕暮れ。

 大戦後まもなく建てられたままほったらかしなどとまことしやかに噂される古ぼけた道場の裏。

 三畳ほどの狭い和室に繋がる縁側で、赤岩「少年」は年上の少女に傷の手当てを受けていた。

「本当にもう、コウちゃんはすぐ喧嘩ばかりして」

 体中に出来た擦り傷に赤チンを塗っていく少女の表情と口調はその言葉に反してとても穏やかで、叱る諭すと言うよりは手のかかる弟の面倒を見るのが楽しいといった風情。

 それが返って必要以上に子供扱いされているようで、「コウちゃん」には面白くない。

「うっせーよ! 俺がもう少し強ければあんな奴らくらい……」

 不機嫌そうに負け惜しみを言う「コウちゃん」に、少女がますます笑みを深めた。

「強いばかりじゃいけないなあ」

 建物の影から現れた青年が、優しい微笑みを浮かべながらその言葉を遮る。

「英次さん……!」

 少女の顔が赤く染まったのは、深まる夕焼けのせいだけではなかっただろう。

「英次兄ちゃん!」

 少年も「英次兄ちゃん」が好きだった。

 華奢な体躯と病気がちな体質ゆえ実力こそ道場一とは言えなかったが、温厚で礼儀正しい性格は皆に慕われ、道場主の孫娘――縁側で頬を染める少女の姿を見れば、いずれは彼女を娶って後を継ぐのではないかという周囲の期待も無理からぬことであったろう。

「強さを押さえる心も、ちゃんと鍛えないとね」

 縁側に少女とは少し離れて――それを見て少女の表情は少し曇ったが――座った青年が、床の間に飾られた一対の刀を見やる。

「刀を抜き身で持ち歩く人はいないだろう?」

「そりゃそーだよ、あぶねーもん」

 何を当たり前のことを、と思いつつ、どこか寂しげな青年の笑顔を見つめて少年が答える。

「そうだね。抜き身でぶらぶら持ち歩いていたら、うっかり誰かを傷つけてしまうかも知れない。何かの拍子に自分が怪我をすることだってある。なにより、そんな危ない人はそれだけでだれかにやっつけられてもおかしくない」

 少年は神妙な顔で聞いている。

 頭の中で時代劇のごろつき風の男が抜き身の刀をひっさげてる所を想像……あっさり正義のお侍さんに手打ちにされる。

「だから、ああして鞘に納めるんだ」

 赤地に金、青地に銀の流水模様の鞘。煤けた和室には不釣り合いなほどに精緻な細工は、内に納まる刀もさぞや業物だろうと思わせるにふさわしい。

 その刀と青年を交互に見比べて唸る少年。結局何が言いたいのかわからない。

「拳も同じ、普段はちゃんと鞘に納めておかないとね」

 青年はその様子にくすりと笑って、拳をもう一方の手で包む――包拳礼の型を見せる。

「だって、拳に鞘なんかねーよ?」

 手袋でもしろってのかよ、と不満そうな少年の胸を、少女が軽く突いた。

「鞘はね、ここにあるの」

 

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Scene5:榛奈市中央病院 AM11:30

 

「でもそれって、無駄に喧嘩売って歩くなとかそういうことじゃないんですか?」

 不満そうな有香の様子がかつての自分とかぶって見えて、赤岩は苦笑する。

「俺もその時はそう思ったんだけどね」

 敵と向き合う時、相手がどう出てもいいように備えること。

 がむしゃらに攻めるのではなく、いつもどこかに冷静な自分を置くこと。

「試合の場とて鞘を捨てるな……ってね」

 攻める気一方で突っ込んでくる相手は確かに危険だが、それは諸刃の剣。隙を突かれればあっさり返される。

 そう諭されて。

「あう……」

 有香はレミィに負けた時のことを思い出す。

 冷静さを失って、レミィ達を侮って、無理矢理に突っ込んで……あっさり返された。

 折られた痛みがぶり返したように感じて、思わず左腕を抱えてしまう。

 そんな有香の様子を少し困ったような表情で見守りながら、

「だから、まず心の強さを、ね」

「はい……痛感しました」

 

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