IS-W<インフィニット・ストラトス> 死を告げる天使は何を望む |
ヒイロは携帯の連絡帳を見る。
そこに載っている名前はかなり少なかった。一夏や箒、セシリアに鈴、皐月、本音と学園の人間がほとんどだった。それらを除いて連絡が取れるのは2人だけだった。
一人は一夏と一緒にバイトをしていた『五反田 弾』
もう一人はヒイロとたまたま知り合い連絡先を交換、時々メールを出し合っている女子高生『相生 祐子』だけだった。
ヒイロはとりあえず、裕子に電話をかけることにした。
『もしもし〜』
「俺だ。祐子」
『ヒイロさん!?めずらしい、電話なんて!?』
『ゆっこ?誰と話してるの?』
『みおちゃんがこの間『五所蹂躙絡み《ごところじゅうりんがらみ》』をしたヒイロさんだよ』
『…ゆっこのお友達?』
どうやら裕子とその友だち、長野原 みおと水上 麻衣とお泊り会をしていたようだった。
ちなみに…『五所蹂躙絡み《ごところじゅうりんがらみ》』とは…かの有名な●●バスターの事である。
「祐子、俺の相談に乗ってほしい」
『え!!なになに?どんなの?』
「……男か女か分からない奴がいる。どうやったらわかるか?」
『う〜ん…』
と祐子は考え始める。そして…
『そうだ!!みおちゃんのアノ本を見せたらいけるんじゃ…』
ヒイロはアノ本と言われても思い浮かばなかった。アノ本とは…
アノ本=BL(ベーコンレタス)本
『ジュラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
『ぐあああああああああああああああああああああああ』
祐子が何かを言おうとした瞬間、何かの叫び声がヒイロの耳に入った。ヒイロは再び他の人には分かりにくいけど顔をしかめる。そして…
『ごめんなさい。ゆっこ寝ちゃったからまた今度で』
「いや…今明らかにお前が」
『ゆっこは寝たんです』
「………」
『ゆっこは寝たんです』
「……わかった」
その後、祐子の携帯からみお、麻衣のアドレスと連絡先が送られてきて、結局方法は聞き出せなかった…
ヒイロは次に五反田 弾に電話をかけた。
『はぁ〜い…もしもし』
とやる気のない感じの声が聞こえてくる。もう疲れていのかもしれない。
ヒイロはそんなのお構いなしに話を始める。
「久しぶりだな…弾」
『その声…ヒイロか!?元気していたか!!』
久しぶりに聞いたヒイロの声に弾はテンションを上げる。弾にとってヒイロは一夏同様、かけがえのない友だからである。
ヒイロはさらに本題に入ろうとする。
「ああ、弾…俺の質問に答えてほしい」
『急だな…なんだ?』
「……男か女か分からない奴がいる。どうやったらわかるか?」
『女かどうかって…お前…そりゃ〜アレだろ…風呂を覗――』
その途端先ほどの裕子の叫び声とは違い何かが破壊される音が聞こえるのであった。
それもかなり長い時間…5分ぐらい聞こえ続けた。
そして次に電話に出たのは
『ええっと…お兄ぃはもう寝ましたので』
妹、蘭の声だった…ヒイロはわかったと言って電話を切ったのだった
結局、二人から情報を得ることができなかったヒイロはその後、真耶の部屋に行って布団をもらってきて、部屋に戻って寝たのであった。
シャルルが転校してきて五日目の土曜日。午後のアリーナ全解放を利用して一夏はシャルルに軽めの手合わせとIS戦闘のレクチャーを受ける予定である。
ヒイロは『午前中は用事がある』と言って食堂を出た。
午前中に『デュノア社』にハッキングをかけて調べるためだ。幸い、一夏とシャルルは午前中,白式のメンテナンスとデュノア社からの連絡等があって部屋には戻らない。ヒイロにとって良いタイミングであった。
部屋の前まで戻ってドアノブを掴んで鍵を開ける。その時、中から人の気配を感じた。しかもかなりの手練れである。殺気を出していないしちゃんと気配も殺している。ここまで接近して初めてヒイロであっても気づかないレベルのものだった。
(……敵か?)
ヒイロは懐に隠し持っていた銃を取り出し、少しドアを開けて様子を見た。それだけでは様子がつかめなかったが中に人がいることは確信に変わる。そして一気にドアを開けて銃を構える。ドアが開く音が響き、そしてそこにいたのは…
「お帰りなさい、ア・ナ・タ(はぁと♪)」
胸元がハートマークのエプロンを裸で着ていて手にはお玉を持ったIS学園最強の生徒会長…更識 楯無だった。
ヒイロはとりあえずドアをさっきと同じ速度で閉める。そして拳銃をしまい、代わりに携帯を取り出す。そしてカメラモードを起動したからもう一度ドアを開ける。
「ご飯にします?お風呂にします?それともわ・た・し?」
と楯無が言ったところで写真を取る。そしてそのまま携帯をいじり始める。
楯無は嫌な予感を感じてヒイロに尋ねる。
「え…何する気?」
「お前のさっきの写真を祐子とみおに送信する。…前から『IS学園ってどんなところですか?』って聞かれていたから―――」
「ちょ!!そんな写真送らないで!!」
と言って携帯を奪い取る。さすがに他校の人間に見られるのには羞恥心があったようだ。
「……楯無…俺は今、やらないといけないことがある。邪魔を…」
「シャルロット・デュノア」
「…」
「それが彼女の本当の名前よ。理由はおそらく、会社からあなたと一夏くんのデータを盗むようにと言われたからでしょうね。あなたがこっちの世界に来る前のデータが家にあったから調べることができたけど、ものの見事に消されてたわね」
と楯無は携帯の写真を消してヒイロに返しながら言った。
ヒイロはやはりと思った。シャルルが女であって、理由は自分たちのデータを盗むことであることに。それは『デュノア社』とフランスが抱える問題が原因であることもわかっていた。しかし…
「……おそらくマーシャル・デュノアはそれだけではない」
「どうして?」
「もし、データを盗むだけなら…俺のような工作員を使えばいい。なのに素人のシャルルを使ってきた」
「たしかに…」
「裏がある。それもマーシャル・デュノア…シャルルの実の父のみが隠している真実が…」
ヒイロはそう言って部屋の机に座り、パソコンを起動させる。そして恐ろしいスピードでキーを叩いて行く。その様子を裸エプロン(実際は水着を着ているが…)で見つめる。
「……簪とはどうなった?」
「ん?最近すれ違ったら挨拶するようになったわ。こっちから挨拶するようにしたらそれだけで声が聴けるようになるなんてああ〜」
楯無がクネクネし始める。いかに変態か見れはわかるであろう…それを無視してヒイロは作業を続ける。そして…
「『デュノア社』のメインコンピュータにアクセス成功…最重要ファイルのロック…解除」
楯無は恐怖を感じていた。開始して10分でIS企業の最重要ファイルを開いたのだから。もちろん、一人不思議の国のアリスは3分ぐらいでやってのけるが…
そしてヒイロは一つのファイルを見つけ、データを落とす。
それは…シャルロットも知らない父の真実を語った日記だった。
「えっとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだね。知識として知っているだけじゃ、近接格闘オンリーの一夏のISでは勝てないよ。さっきも間合いを殆ど詰められなかったでしょ?」
「うっ……、確かに瞬時加速も読まれてたしな…」
「一夏の瞬時加速は直線的だから対処されやすいんだよ。あ、でも無理に軌道を変えようとすると最悪骨折しちゃうからね」
「そうなのか?…別にそんなことは…」
一夏は最後の部分は小声で言ってシャルルには聞かれなかった。
時刻は午後になり、ヒイロや一夏はいつものメンバー(皐月は倉持の用事で不参加)で訓練をしていた。
シャルルの説明は本当に分かりやすく、一夏は感動していた。ちなみに今までの自称コーチの方々の説明はこんな感じだ。
『こう、ドン!としてガッ!ときてドガンッガキン!って感じだ』
『なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。はぁ?何で分からないのよバカ』
『そこで急停止して身体を左に十度傾けてから右方向へ旋回軌道ですわ』
自信満々でこう言うのである。教えてくれるのは有難いが分からなければ意味が無いのだ。流石にこれらを理解するのはきついものがある。一番マシなのはセシリアだと思うが…
ヒイロは『戦って感じ取れ』と助言することなくただただ模擬戦をし続けていた。それにより一夏もかなり強くなってきたが別の問題が生じ始めてきているのだが、それはのちにわかることなので語らないことにする。
自称コーチ三人がブツブツ不満を言っているがコミュニケーションって大切だよな…と思う一夏であった。
「一夏の白式って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」
「ああ。調べてもらったけど拡張領域(パスプロット)が空いてないらしい。だから量子変換は無理だって言われた」
「多分単一仕様に容量を使っているからだろうね」
「なんだっけ…たしか槇村さんが昔説明してくれたとおもんだけど…」
「文字通りたった一つの特殊能力だよ。ISと操縦者の相性が最高の時に発動される能力のこと。でもそれが発現するのは第二形態からでそれでも発現しない機体が多いからそれ以外の特殊能力を使えるようにしたのが第三世代型ISなんだよ」
こういう事がすらすらと出て来る辺りシャルルがどれだけ優秀か分かる。それに同じ男子として精神的な疲労も無く話せるのは本当に嬉しい事だと一夏はしみじみと感じていた。
「そうそうそれだ!!白式の場合『零落白夜』がそれに当たるんだったな…」
「第一形態から発現しているのは前例がないからね。しかも織斑先生と同じ能力なんでしょ?」
千冬と同じ武器で同じ能力なのは姉弟だからでは説明つかないらしいがそれでもなんとも因縁めいているとヒイロも思っていた。
「単一仕様は文字通りコピーできるものではないからね」
「そっか。でもまあ今は考えても仕方ないし置いておこうぜ」
「そうだね。じゃあ射撃練習をしてみようか。はいこれ」
手渡されたのは五五口径アサルトライフル『ヴェント』。シャルルのISの武装の一つだ。
一般的な武装で扱いも楽な種類である。
「あれ?他の機体の武装って使用出来ないんじゃなかったっけ?」
「所有者が使用許可を出したら使えるよ。今一夏と白式に許可発行したから撃ってみて」
シャルルに指導されるように射撃姿勢を取りながらメニューを開いて射撃武器とのリンクを行わせようとする一夏。だがいくら探しても見つからない。
それもそのはず、白式は格闘オンリーの機体故に備わっていないのだ。
「うーん、なら目測でやるしかないね」
シャルルに事情を説明してから一度深呼吸をして引き金を引く。その物凄い火薬の炸裂音に一夏は驚いてしまった。
「どう?感想は?」
「おう…そうだな…とにかく早いって感じだな」
「弾丸はISよりも小さく空気抵抗が少ないからその分速いんだね。だから一夏は動きを読まれてカウンターを食らうんだよ。あ、ほら脇を閉じないと反動に負けるよ。1マガジン分撃っていいから」
これほど有意義な特訓は初めてではないだろうか。ヒイロとの模擬戦も得るものが大きいけどこういうものも勉強になると肌から一夏は感じ取っていた。
「あれ程私が言ったのにな」
「あれで分からないあんたがバカなだけじゃないの」
「私の理路整然とした指導の何処がいけないというのでしょう」
「…………」
ヒイロの顔には冷や汗が見えたのは気のせいではないだろう。
一夏は『あはは…』と元気なく笑い訓練を続ける。
「それにしてもシャルルのISってラファールとは違うように見えるけど同じ機体なのか?」
本来のラファール・リヴァイブはネイビーカラーに四機の多方向推進翼が特徴的なんだがシャルルのはオレンジで多方向推進翼が背中に一対、中央から二つに分かれるようになっておりアーマーも大分シェイプアップされていた。そして四枚付いているはずの物理シールドは全て取り外され左腕に一枚の大型物理シールドが取り付けられている。逆に右腕はスキンアーマーのみだ。
「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラファール・リヴァイブ・カスタムU』。基本装備をいくつか外して拡張領域が倍にしてある」
「倍に!?…ちょっと分けて欲しいくらいだ」
「あはは。あげられたらいいんだけどね。今量子変換してあるだけでも二十くらいあるよ」
「まるで火薬庫(デンドロビウム)だな」
「デ…デンドロ?何それ?」
と思うシャルルだがそんな時間も終わりが告げられる。そのまま丁度マガジン一つ分撃ち続けた時、アリーナに変化が訪れたからだ。
「ねぇ、あれ…」
「うそ…。ドイツの第三世代型」
「まだ本国でトライアル段階だと聞いているけど…」
周囲の注目の的になっている存在に全員が視線を移す。
「……………」
そこにはもう一人の転校生であるドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒが漆黒のISを展開してこっちに向っていた。
転校初日以来誰ともつるもうとしないどころか会話さえしない孤高の女子。そして過去のヒイロ・ユイと同じもの…ただの戦闘マシーンであった。
「おい」
「…なんだよ」
ISの通信(オープン・チャンネル)で声が飛んでくる。間違いなく初対面の時聞いたラウラ本人の声だった。
「貴様も専用機持ちだそうな。ならば話が早い。私と戦え」
「断る。理由がねえよ」
「貴様には無くても私にはある」
(だろうな)
一夏はそう思った。ドイツでの千冬と言ったら第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦の事だ。決勝戦の日、一夏は『謎の組織』に誘拐された。目的も正体も不明だった。
真っ暗な空間で拘束されていた一夏はその事を聞きつけ決勝戦会場から飛んできた千冬によって助けだされたのだ。
千冬は決勝戦を放棄して不戦敗となり、『二回目の優勝』を逃した。
そしてその事件は闇に消えていったのだが、独自の情報網で一夏の監禁場所の情報を提供したドイツ軍に『借り』ができ、千冬は一年間ドイツで教官をしていたのだった。つまり事件の全容を知っているのはドイツ軍だけ。
一夏は後から考えてそこに答えをたどり着けた。このことはヒイロも知らないことだった。
「貴様がいなければ教官の大会二連覇という偉業が成し遂げられたのは容易に想像出来る。故に私は貴様の存在を許さない」
千冬の経歴に傷を付けたのが許せないのだろうがそれは一夏も同じで無力だった自分が許せなかった。きっと誰よりも一夏本人が一番この事件で自身が許せなかったんだろう。
(だがそれでも俺とラウラが戦う理由にはならない)
一夏はそう感じていた。なのでラウラに言った。
「また今度な」
「ふん。ならば戦わざるを得ないようにしてやる!」
刹那、ラウラのISの肩の大型レールカノンが火を噴いた。
去ろうとしていたから後ろを振り向いていた一夏には回避が間にあわなかった。
しかし、
「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようだなんて、ドイツの人は随分沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
けたたましい金属音が響いた。 シャルルが物理シールドをコールし、レールカノンを防いだからだ。さらに、六十一口径のアサルトライフルを二丁コールし、銃口をラウラに向けた。その時間わずか0.3秒で武装を切り替えた。
「貴様…第二世代型(アンティーク)で私に挑もうというのか?」
「未だ量産の目途が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうからね」
シャルルとラウラの間に火花が飛び散り、一触触発な空気が漂う。
そしてラウラがもう一度レールカノンを発射しようとする。ここで戦闘を行おうと言うのだ。シャルルは間を詰めようと動こうとする。しかし…
「…そこまでにしておけ…ラウラ・ボーデヴィッヒ」
白き翼が舞い、緑色のビームサーベルがラウラの目の前に突き付けられる。
「い…いつの間に…」
シャルルはそうつぶやく。ヒイロの行動の速さに驚きが隠せなかった。
「く…告死天使め…」
ラウラがそう言って間を取り、にらむ。ヒイロはその顔を見つめる。
(同じだ…あのころの俺たちと…)
とヒイロが感じていた時だった。
『そこの生徒、何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』
アリーナのスピーカーから監督の教師の怒号が飛ぶ。
「…ふん、今日は引こう」
興が削がれたのかラウラはISを解除してあっさりとゲートへ去っていった。
「一夏、大丈夫?」
「あ、ああ。助かった」
「そう、なら良かった。今日はもうあがろっか。そろそろアリーナの閉館時間だしね」
「おう、銃ありがとな。参考になった」
「いいよ。…じゃあ、先に着替えて戻ってて」
シャルルはいつも一夏達と一緒に着替えようとはしないのだ。もちろんそんなことできる訳がないのだが…そんなこと知らない一夏は
「たまには一緒に着替えようぜ」
「い、イヤ」
「つれないことを言うなよ」
とシャルルの肩を組んで密着する。シャルルの顔が赤と青の混ざったような感じになる。
ヒイロはそれを見て、一夏に近づき、
「一夏…行くぞ」
「うおっ!!どうしたんだよヒイロ?」
「アレの餌食になりたいのか?」
ヒイロに腕を掴まれ引っ張られていく状態で後ろを見ると。
「一夏ってもしかしてそっちに興味が…」
「不潔ですわ…修正してやりますわ!!」
「ヒイロ、私が落とすまで一夏を上手く抑えてね…。」
修羅となろうとしている3人を見て一夏はヒイロと速攻で更衣室に逃げたのだった。
「はー、風呂に入りてぇ…」
更衣室で着替え終わるなり一夏がこぼす。
学園では寮の部屋それぞれにシャワーがあるだけでなく大浴場があるのだが男が入ることに女子から反発があった。
『男子が後に入るなんてどういう風に使ったらいいのか分かりません!』
『男子が入った後なんてどういう風に使ったらいいんですか!』
と言う理由が原因だ。
一夏は日本人である以上風呂は恋しいだろう。一夏自身、風呂好きでもあるのだから。
ヒイロは別にそこまで気にしていないので普通にシャワーをする。風呂に入れるのなら誘われたら行く程度に思っている。
「なあ…ヒイロ」
「……なんだ?」
「…どうやったら強くなれるんだろうな…」
一夏の言葉にヒイロは考えることなく答えるために一夏の自分の方に無理やり振り向かせて言う。
「なにを…」
「よく覚えておけ…一夏…強者なんて存在しない、人類すべてが弱者なんだ。俺も、お前も、千冬も、箒も、鈴も、セシリアも弱者なんだ」
「……」
「……今はまだこの意味が分からないのかもしれない…だが覚えておけ」
「…ああ」
ヒイロの真剣な目を見て一夏はそう言い切った。
一夏はその日から強さとはなんなのか考えるようになった。ヒイロもまたあることで答えを探し続けているのだから…
「あのー、織斑君、ユイ君、デュノア君いますかー?」
「はい?えーと、織斑とユイだけいます」
「入っても大丈夫ですかー?着替え中だったりしますー?」
「大丈夫です。着替えは済んでます」
「そうですかー。失礼しますねー」
そう言ってもじもじと更衣室に入ってきたのは真耶だった。
一夏は珍しいことにすぐに真耶に何故来たのか尋ねようとした
「どうしたんですか?」
「ええとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります。時間帯別にすると問題が起こりそうなので、男子は週二回使用日を設けることになりました」
「本当ですか!嬉しいです。助かります。有難うございます、山田先生!!」
「い、いえ、仕事ですから…」
一夏が真耶の手を握ってこれでもかと礼を言っている。対して真耶はいきなり異性に手を握られたのが驚いたのか顔が若干赤い。もしかして…ってことはないと信じたい。
ヒイロはその様子を見ていると
「…一夏、何してるの?先に戻っててって言ったよね?」
シャルルが更衣室に入って来た。表情はそのままだがその言葉に刺を感じる。
「喜べシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」
「そう」
朗報 (一夏にとって)に対してもそっけない返事だ。
ヒイロはシャルルが女とばれるかもしれないからのストレスと思った。
「あっと、織斑君は職員室まで来てもらえますか?白式の登録に関する書類を書いてもらうので。ユイくんはすでに早瀬さんがやってくれているので問題ないです」
「わかりました。じゃあシャルル、ヒイロちょっと長くなりそうだから先にシャワーを浴びててくれよ」
「うん。わかった」
「じゃ山田先生、行きましょうか」
と言って一夏と真耶が出て行った。ヒイロはここでシャルルにとっての真実を聞いてもよかったのだが『マーシャル・デュノアの日記』を見た今となっては女とばれる時でいいだろうと思った。なので
「……シャルル、俺は研究室に行く。先に戻っていてくれ」
「わかったよ。それじゃ、ヒイロ。また後で」
「ああ」
ヒイロは研究室にいるであろう、皐月に会いに行った。倉持からの話があるとのことで聞きに行ったのだった。
研究室に入ると皐月は何かをしていた。しかもよだれを垂らしながら。
「フフフ〜新型〜…・」
「皐月…」
「武装〜…ああ…早くどんなのか使って…は!!」
「……」
その後、皐月の悲鳴が上がったのは言うまでもない。
話によると、そろそろ行われる学年別対抗戦でヒイロが出場しないわけにはいけないのでIS学園上層部と倉持技研上層部の閣議でウイングゼロとGプロジェクトは完全に倉持のものとなりウイングゼロは試作0号機と言う扱いになった。また槇村がある細工としてエネルギージェネレータの設計図を用意したらしい。その設計図通りに作っても作れない代物で事実ゼロの完成は奇跡によるもので倉持でももう作れないと公表することになった。
ヒイロはそれが最善だと感じ、了解したという返事だけした。
「なぜこんなところで教師など!!」
「やれやれ……」
寮に向かう一本道。ふと曲がり角の先からそんな声がヒイロの聞こえてきた。
ヒイロは木の上に隠れて声の発生源の方向をみると湖のほとりで千冬とラウラが話していた。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ。」
「このような極東の地でなんの役目があるというのですか!!」
あの氷のような転校生ことラウラ=ボーデヴィッヒがここまで声を荒げているのは滅多にないだろう。ラウラは千冬の現在の仕事について不満があるようだ。
「お願いです、教官。再び我がドイツでご指導を。ここでは貴女の能力は半分も生かされません」
「ほう」
「大体、この学園の生徒など教官が教えるに値しない人間ばかりです!!」
「なぜだ?」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官の時間が割かれるなど――――」
それはヒイロも感じていた。自分たちが触っているものは兵器であることを彼女たちは本当にわかっているのだろうか?ラウラの言葉ももっともだった。
だが…
「――――そこまでにしておけよ、小娘」
「っ……」
威圧感や覇気が混じった千冬の声。さすがのラウラも口をつぐんでしまった。
ヒイロはそんな千冬を見て感じていた。千冬もわかっていたのだ。だからこと愛してやまない弟をこんな世界に入れたくなかった。少しばかりラウラに当たっているのだろう
「少し見ない間に偉くなったな。15歳で選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「わ、私は……」
ラウラの声が震えていた。
「わかったなら、寮に戻れ」
「くっ……」
ラウラは悔しそうに走り去ってしまった。
千冬は溜息をつけ、木を見る。
「見苦しいところを見せたな」
「……そうでもない」
と言ってヒイロは木から降りる。
「そうか…ヒイロ」
「……」
ヒイロは呼ばれたので千冬の方を見る。千冬は少し元気のない感じの笑みで
「アイツらの事…頼む」
と言ったのだった。ヒイロはそれを聞いて、寮へを戻って行ったのだった。
寮の部屋に戻ると、一夏がシャワールームの扉の前で呆然としていた。
ヒイロはさすがに何かあったと感じ、聞いてみた。
「一夏…何かあったのか」
「………………シャルルに、胸があった」
シャルルの正体がばれた瞬間であった。
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第14話 シャルル・デュノア | ||
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