ハルナレンジャー 第四話「魔剣襲来」 B-1 |
Scene7:月葉根神社境内 AM06:00
「こりゃひどいでやんすね……」
朝靄に煙る境内に、十名ほどの戦闘員を引き連れたレミィの姿があった。
数名の戦闘員が手早く現場写真の撮影を済ますのを待って、残った者たちに倒れた戦闘員の体を運ぶよう指示する。
転がっていた機械の残骸を持ち上げ、親指大の記録装置を抜き取り……当たり所が悪かったのか、大きな亀裂が入っていた。
「こりゃひでえな」
「のわひゃぁ!?」
後ろからかけられた声に思わず悲鳴を上げて飛び退く。
咄嗟に投げつけたスクラップを軽くかわしたのは、少々くたびれたスーツ姿の青山君だった。
「ななななんでブルーがこんな所にっ!?」
「夜勤明けにそこでラーメン食ってたら、お前らの方から突っ走って来た」
微妙にクマが浮いた目をしぱしぱさせながら眠そうな顔で指さす先、参道に続く石段の麓に、明らかに場違いなラーメン屋の屋台が一つ。
「んなアホなーっ!?」
戦闘員達は倒れた連中を担いでっているので今はなし。武器を探して思わず腰に手をやるが、撤収と調査しか予定になかったために非武装。
「か、かくなるうえはっ」
素手で打ち倒そうと殺気を膨らませるレミィに対して、青山の方は今一緊張感もなく手を振る。
「こっちもやる気はねえよ」
いや、青山君個人的にはめちゃくちゃやっつけたいのだが。かわいい『部下』の有香ちゃんの腕をへし折った仇でもあることだし。
田中課長にも赤岩先輩にも、当時者の有香ちゃんにまで止められてるのではしかたない。
「今のところはお前ら相手とは言え、辻斬り同然に暴れ回ってる奴がいつ一般市民襲い出すかわかったもんじゃねえからな。安全対策課としても調査しなきゃなんねえんだ」
つまらなそうにあくびをしつつ、現場を見回す。
レミィの方もとりあえず構えは解くが、警戒心はむき出しのまま。
「しかし、襲われたにしちゃ血痕も何も見あたらねえのな」
倒れていたあたりの地面は荒れているものの、血やその他の体液が流された様子は全くない。
「戦闘員は疑似生命体でやんすからな」
錬金術と各種科学技術の粋を結集して作られた、サイバーホムンクルスとでも言うべき生命体が戦闘員の正体である。
導入コストは高いが、訓練や教育・洗脳の必要もなく、致命傷を受けても数日で培養修復可能なタフネスと運用コストの安さから、戦闘や簡単な調査などには重宝されている。
「あれ、人間じゃなかったのかよ……」
呆れたように呟く青山君に、レミィが返すのは若干の軽蔑。
だが、青山がその表情に違和感を感じるよりも早く、レミィの通信端末に撤収準備完了の合図が入る。
「こ、今度会う時は容赦しないでやんすよー!」
「こっちのセリフだ、ばーか」
なぜだか負けた気がしたらしく捨てぜりふを吐いて去っていくレミィの背中に舌を出す。
「しかし、あいつらなんでこんなとこにいたんだ?」
徹夜明けでばさばさしている髪を手櫛で梳きながら改めて辺りを見回す。
レミィが聞いたら「お前が言うな」と怒りそうなセリフだが、実のところ青山はレミィ達のアジトを最初から張っていただけで、本当にたまたまラーメンをすすっていたわけではなく。
とはいえ周囲は放棄された神社という以上に専門家――この場合なんの専門的知識が必要なのかがまずわからないのだが――でもない青山には不明であり。
結局、襲撃現場に何か痕跡はないかと探すくらいしか――これだって刑事でもない青山には専門的な能力があるわけではない――できないのだった。
「……ん?」
何かに気づき、首をかしげる。
「こうきて、こう、か? ……あ、いや、こうで、こうか」
訪れる者とてない境内だから良かったが、誰かに見られたら通報間違いなしな、珍妙な動きを始める青山君であった。
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