真・恋姫†夢想 夢演義 『再演・胡蝶の夢』 〜桂花EDアフターより〜 |
第二幕「再会の」
一刀と桂花、二人にとってその邂逅は、色々な意味で複雑なものだった。
黄巾党と思しき野盗に襲われていた少女、賈駆との出会いの後、その彼女を救出に来たこの地の軍、それを率いるさらしに袴姿と言う出で立ちでいる女性をその目に捉えた二人は、その胸中に湧き上がった喜びを抑えるのに必死だった。
張遼、字を文遠、そしてその真名を((霞|しあ))。
二人にとって、かつては敵であり、そしてその後、良き友ともなったその彼女。しかし、例えどれほど嬉しくとも、彼女の方はそれを覚えて居ない、いや、正確には出会うそれ以前の状態に、今は戻ってしまっている筈だから、二人にはそれをおくびにも出すことが出来なかったから。
そして、忸怩たる思いで張遼率いる軍勢が自分達の方に近づいてくる、その様をただじっと、溢れ出しそうになる涙を堪えて見ていたのであるが、百騎程度の騎馬がその足を一斉に賈駆を含む三人の前に止めたその瞬間、一刀と桂花の口から出たのは、先ほどの想い、その全てを吹き飛ばすほどの驚愕の篭った言葉だった。
『なんでお前(アンタ)がココに居る(のよ)!』
ビッ!と、見事なまでにハモった二つの声と供に、二本の人差し指が向けられたその先に居たのは、時代劇に出てくる侍のように上下の((裃|かみしも))の上に、鈍く光る黒の胸当てと同色の手甲と脚甲を身に着けた、一刀も桂花も、元居た世界では本当に良く見知った、だからこそ、本来なら此処にはけして居る筈の無い人物。
自称一刀の大親友こと及川佑が、眼鏡の下のその細い目を二人に向けつつ、朗らかな笑顔のまま二人のその驚愕の顔を見れて満足、そんな表情で馬上の人となって居たのである。
「なんや佑?あんさん、この奇天烈な格好したのと知り合いなんか?」
「奇天烈って……!ちょっと!言うに事かいて何てこと言うのよ、s「わわっ!」むぐっ!」
(駄目だって桂花!この時点では、俺達はまだ彼女とは初対面なんだから、迂闊に真名を呼んだら!)
(あ……)
危うく。張遼が言った奇天烈と言う言葉に激昂し、その彼女の真名を呼びそうになった桂花を、一刀が間一髪でその口を塞ぎ、周囲には聞こえぬよう、小声でその事を注意する。
「……なあ嬢ちゃん、今、もしかしてウチのこと」
「し、霞姐さん!?ほら、先ずは詠の嬢ちゃんを助けてくれた、その礼をせんと!えー、“初めまして”!ワイはこの擁州は安定県を治める県令、董仲頴様の配下で高順云う。こっちの色っぽい姐さんはワイの上官で、張文遠将軍や」
「いや、初めまして、って……お前、何言って」
(アホ!ワイが必死に誤魔化しとんや!話合わせ!)
ウィンクを二回。初めましてと一刀と桂花に対して言った高順の事を訝しんだ一刀へと、必死になって話を合わせろ、そう高順が合図をする。そんな彼の表情と態度に、何か事情があることを察した一刀と桂花は、一応この場ではその彼に話を合わせ、初対面の振りをすることにした。
「あ、えと。そ、そうね。初めまして。……私は荀文若よ。初めまして、張将軍、高将軍」
「あーっと。俺は北郷一刀。姓が北郷で名が一刀だけど、真名持ちじゃあないから一刀がそれにあたるんで、そこの所宜しく」
「……ま、ええわ。改めて、張遼、字を文遠や。よろしゅうな、奇天烈なお二人さん」
「ほいで詠はん?体の方は大丈夫なんか?その玉のお肌に怪我とかしてへんか?もしかして、賊のアホどもに貞操奪われたりとかしてへんやろな?詠はんの貞操はワイのんやさか、ぶべらっ?!」
賈駆の傍へと早足で駆け寄り、その身を案じる言葉とともになにやら不適切な言葉も交えた高順のその顔を、懐から取り出した竹簡で思い切り、その顔を真っ赤にした賈駆が殴りつけた。
「って、いきなりなにすんねん!竹簡で顔面はごっつすぎるやろ?!」
「アホはあんたよ、好色高順!誰の何があんたのですって?!」
「ややなあ〜。そないに顔真っ赤にして照れんでも、ほぼおっ!」
「誰が照れてんのよ馬鹿祐!蹴って蹴り倒してその辺に埋めてあげようか?!」
「もう蹴っとる!もう蹴っとるって〜!でも、これもまたワイには御褒美、ああっー!」
「……及川……だなあ……認めなくないけど、正真正銘、本物だわこいつ……」
「……そうね……あ、なんか頭痛くなって来た……」
罵倒の台詞とともに賈駆に思い切り足蹴にされながらも、どこか嬉しそうにしている高順を見て、一刀と桂花は大きな嘆息と共に、その肩をすくめるのであった。
「まあ、祐の阿呆は放っといて、と。北郷に荀文若やったな。改めて、賈駆っちを助けてくれたこと、礼を言わせてもらうで」
「ああ、それは大して気にしなくていいよ。ここに来たのは単に偶然が重なっただけだし、彼女を助けたのも、結果的にそうなったってとこだから」
「それでも、僕があんたたちに助けられた、それは間違いの無い事実よ。僕からも、もう一度感謝させてもらうわ。ありがとう、二人の“天の御遣い”さんたち」
「っ!天の御遣い……やて?この二人がか?!」
『それは……』
すでに管輅という人物によって、件の天の御遣いに関する予言は流されている。もっとも、その内容は以前の、一刀が一人でこの外史に訪れた際のものとは、少々微妙に異なっている。
『蒼空を切り裂き舞い降りる、二つの流星。そは天より遣わされし御遣いなり。一人は覇王、一人は智慧。比翼の鳥たるその者ら、大陸に真なる平穏を齎さんとす』
というのが、今回のこの外史に新しく蒔かれた、天の御遣いに関する予言である。
「二人とも、揃って空から降って来たしね。まあ、そっちの荀ケが智慧の御遣いって程の知者かどうかは、まだ僕にも分からないけど、少なくとも、北郷の方はそれなりに武を嗜んでるみたいだし。まあ、覇王ってのはさすがに大げさだろうけど」
「へえ。賈駆っちがその腕を認めるんか。それはちょいと楽しみやな。どや、北郷?ウチといっぺん、やってみいひんか?」
「霞姐さん?それはまた後でええんとちゃいます?それより今は、詠はんを無事、月嬢ちゃん様の所に連れ帰る、その方が優先とちゃいますか?」
「まあ、それもそうやな。北郷に荀ケ、二人も一緒に来てくれるか?二人ともこれからどうするんかは知らんけど、何にしても、まずは賈駆っちを助けてくれたその礼、ちゃんとせなあかんしな」
「……どうする、桂花?」
「そうね……せっかくだし、まずはその言葉に甘えましょう。この後どこに行くにしても、準備も何もなしに旅は出来ないもの」
二人にとってのかつての主君、華琳こと曹操の下へ行くにしても、それ以外の勢力の下に行くにしても、着の身着のままでこの広い大陸を旅など出来るわけも無い。今は張遼の提案に乗り、落ち着ける場所に移動してから今後の方針を決め、しっかりとした準備を整えるべきと。
一刀に意見を求められた桂花はそう判断し、一刀もまた、その判断が一番この時点では妥当だと判断した。
「分かった。張遼将軍、お言葉に甘えて俺たちも同行、させてもらいます」
「よっしゃ、決まりや!賈駆っちはウチの後ろに乗り。祐、馬を一頭、北郷たちに貸したり。……あんたら、馬には乗れる……よな?」
「それは大丈夫。問題ないよ」
「ホンマに大丈夫なんか?なんやったらけ…荀ケはんはワイが」
「は?なんで私があんたみたいなイロモノ男の馬に同乗しないといけないわけ?馬鹿なの?死ぬの?というか死んで」
「ぐほっ!?……相変わらず、きっついお言葉……って、あれ?」
桂花の言葉に高順がショックを受け落ち込むその間に、いつの間にか先ほどまでその彼が乗っていた馬に、一刀と桂花がタンデム状態で跨っていた。
「ちょ!それワイの馬……っ!」
「ああ、すまんな、祐。どうやら他には空いてる馬が無いみたいでな。悪いけど、あんさんは走って帰ってくれな」
「そ、そんな殺生な……っ!ここから安定までどれだけ距離があると思てますん!?」
「大丈夫。あんたなら気合で何とかなる。さ、行きましょう、霞、北郷」
「ああ。……及川、ありがとうな。お前のことは決して忘れないから」
「あんたは安心して、どっかでのたれ死んでていいからね。じゃあね♪」
そして張遼の出した出立の号令一下、一刀と桂花、そして賈駆を交えた一団は、無常にも、いともあっさり高順一人をその場に残して駆け出した。
「……って!ホンマに置いて行かんといてやー!待ってや霞の姐さーん!詠はーん!かずぴー!桂花はーん!ワイは放置プレイは好きや無いっちゅうねええええええええん!」
陽が西の空に沈みだし、辺りが夕日の朱に染まり始める中、高順のそんな叫びが延々と、カラスの鳴声と供にこだまし続けるのであった。
「……やはり来ましたか」
暗室。とまでは行かないにしろ、相当に薄暗いその部屋の中、眼下にたゆたう水面を冷静に見ていた于吉は、その揺らぎが収まるとそうポツリと呟いた。
「くそ。やはり嗅ぎ付けられたか。しかもあの化け物共、今度はあんな人形まで一緒に送り込んできやがった」
「さて、あの娘を人形とまだ呼んでいいのでしょうかねえ」
「……どういう意味だ。あの女は元々、この世界に存在していた人形の一体だろうが。上の方の連中が何をどうしたかは知らんが、外史の壁を越えて正史に存在する様になっていたからといって、その本質までも変わるわけが無かろうが」
于吉の発したその言葉は、左慈にとっては不可解な事だった。先ほどまで二人が覗いていた水瓶の水面には、張遼たち合流した一刀と桂花の姿がありありと映し出されていたわけだが、一刀はともかく、左慈にとって桂花は、本来なら外史の中に生まれ、外史の中にしか存在できない筈の、左慈や于吉ら否定派の管理者達の言うところの、単なる物語の登場人物、すなわち“人形”でしかない。
しかし、今の于吉の口ぶりは、まるでそれを否定するかのようなものだった。
「左慈の言わんとすることも分かりますし、私もそれそのものを否定はしませんよ。ですが……」
「……なんだ?」
「……いえ。まあ、どうせ今の私達には余り関係の無い話です。それより左慈。先日も言いましたが、北郷に手を出すのは厳禁ですよ。彼には」
「分かっている!……忌々しいが、奴は暫く泳がせないといけない事ぐらいな……っ!」
ギ、と。唇から血が流れるほど強くそれを噛み締め、今はもう何も映っていない水面を憎悪の瞳で睨みつける左慈。
「それともう一つ。あの外史の流れそのものに干渉する、それも禁止です」
「……俺達が介入する事で、俺達の目的が、肯定派に露見するかもしれない。その上」
「ええ。私達が介入する事で、下手をすれば混乱そのものが早期に終結してしまう、その危惧すらありますからね。私達がこの外史で出来ることはただ一つだけ。……では行きましょうか、左慈。二人の共同作業の場に」
「いちいち気持ちの悪言い方をするな!この変態!」
「ふふふ。そうして照れる左慈もとっても魅力的です。最高ですよ、貴方のツンデレは」
「誰がツンデレだ!ちっ!貴様と付き合ってると気がおかしくなる!俺は先に行くぞ!」
「ああ、待ってくださいよ左慈〜!」
部屋の主であった二人がその場を立ち去ると、その室内は完全な闇に包まれる。その闇の中、平穏な状態を保ち続けていた先ほどの水瓶の水面が、再び小さな揺らぎを起こしていた。
やがて、その水面に一つの影が映し出される。
何の影かは分からない。人の形をしているようにも見えれば、獣の形をしているようにも見える。時間にしてわずか数秒ほど、それはゆらゆらと水面と同調して揺れた後、何事も無かったかのように掻き消え、そこは再び、静寂の闇に包まれたのだった。
「……四人とも、ホンマに、酷すぐるわ……」
ぜいぜいと。肩で大きく息を切らし、全身滝のような汗まみれになった高順が、安定の町の城門前で漸く追いついた張遼や一刀達の事を、恨めしげに睨み付けている。
「ええ鍛錬になってちょうど良かったやんか。たかだか三里走った位で、そんな恨めしい顔せんでも」
「日頃女の尻ばっかり追い掛け回してるあんたには、これ位いい薬でしょ」
「……この世界でもそんななのか、お前は……」
「呆れた助平ね。どうせならあのまま本当に野垂れ死ねば良かったのに」
「つ、罪の意識っちゅうんはおのれらにはないんか?!二刻以上も人に夜道を一人走らせとい」
「張遼!帰ってきたか!賈駆の奴は無事だったのか!?」
そんな彼を冷たくあしらう一刀達に対し、高順が更なる文句を言おうとしたその瞬間、城門の傍に立っていた一人の人物が、高順の抗議の声を遮るかのように、タイミング良くその声を一同にかけつつ歩み寄ってくる。
「おー。華雄やんか。なんや、わざわざ待っとんたんかいな」
「ああ。本当は董卓様がご自分で出迎えたいと仰っていたんだが、流石にもう時刻も遅いのでな。代わりに私が皆を待っていたんだ。……ところで、高順は何故、そんなに疲れているんだ?」
「それは皆がワイをむぐぐっ!」
「そんなことより華雄。月は?月に是非会って欲しい二人が居るの。そのついでに、洛陽での件も皆に報告したいんだけど」
ずい、と。紫色のビキニ鎧と腰巻という姿の人物華雄に、己の状態とそうなった原因を涙ながらに訴えようとした高順だったが、横合いから出てきた賈駆によってそれを遮られ、その口を思い切り塞がれてしまった。
「ん?ああ、董卓様ならまだ起きていらっしゃる筈だ。ただ、呂布と陳宮はさすがにもう寝てると思うが」
「分かったわ。北郷、荀ケ、悪いけど、もう少しだけ付き合ってくれる?僕たちの主君である董卓将軍に、二人の事、紹介しておきたいの。と言っても、時間が時間だからとりあえず顔を合わせてもらうだけになるけど」
「ああ、俺は構わない」
「私も」
この時。一刀と桂花の二人が微妙に緊張し、その面持ちを強張らせていた事に、賈駆や他の面々は気付いていなかった。唯一気付いていたのは高順ぐらいであったが、その彼はあえてその事を口にせず、細めたその眼鏡の下の黒い瞳で、二人を一瞥するにとどめていた。
「じゃあ僕にこのまま着いてきて。華雄、悪いんだけど、兵士たちは貴女に任せても良い?」
「ああ良いぞ。私にも詳しい話、後でちゃんと聞かせろよ。張遼、高順、お前達は賈駆に着いていってやってくれ」
「ん、了解や」
「へーい。ほな行こか、北郷はんに荀ケはん」
城の方に向かって自分たちを促す高順の言葉に無言で従い、賈駆と張遼が先導するその後をついて歩き出す、一刀と桂花。その道中、二人は小声でひそひそと、言葉を交わしていた。
「……ねえ一刀。確か前の外史では、結局私たち、董卓本人とは顔を合わせていなかったわよね?」
「ああ。……けど、あの時俺が保護して劉備さんに預けた娘の片割れが彼女、賈駆さんだったって事は、それはつまり」
「そのとき一緒に居た娘が……?」
「その可能性が高いだろうな。……しかしそうだとしたら、だ」
「?そうだとしたら?」
「……いや、会えば桂花にも分かるさ」
「……」
煮え切らないというか、何か言い難そうに言葉を濁す一刀に、桂花はなんとなく彼の思惑が読めたような気がしていた。おそらく彼の言いたいのは、かつて二人の主君だった、あの人物の評、それに関わる事なのだろう。
今ではもうそれ程でもないとはいえ、桂花は以前、かの人物に敬愛を超えた愛情を抱き、尊敬を超えた崇拝とでも言えるほどの情熱を持っていた。それ故に、当時その主君の寵愛を受ける一刀の事が腹立たしくあり、憎らしくもあったが故、彼のことを散々に罵倒し、時には足蹴にし、と。嫉妬の炎の燃え盛るままに行動していた。
とはいえ、それはもうすでに過去のことであり、己の純粋な気持ちに気付いた今となっては、かつての主君への愛、それによって痛めるよりも、隣でその事を心配する彼の悲しげな横顔、その方がよほど、今の桂花の心を痛めていた。
「……一つだけ言っておくわ、一刀。今の私にとって、何より一番は貴方。だから、華琳様の絡むような事でも、貴方が気に病む必要は無いわよ。これまでも、そしてこれからも、ね」
「……分かった。ありがとな、桂花。っと、そう言ってる間に城に着いたみたいだ」
「あ、あそこ。門の所に誰か」
宵闇の中、焚かれたかがり火の中に浮かびあがり、一刀たちのその目に映し出されたのは、小柄で華奢という表現がもっとも適切な、一人の儚げな少女だった。紫色を基調にした、地面にまで届くほど裾丈の長い袍をその身にまとい、月光の様な穏やかで優しい微笑をそのあどけなさの残る顔に浮かべていた。
「月!」
「詠ちゃん!」
その少女のことを視界に捉えるやいなや、賈駆が一目散にその下へと駆け出す。そして少女もまた、賈駆の方へと裾を引きずりながら駆け出し、かがり火の灯りのその中、二人の少女はしっかりと互いを抱きしめあった。
「おい、及川。もしかしてあの娘が」
「せやで。彼女がこの安定の県令はんにして、ワイらの主君。董卓仲頴さまや」
「……到底、悪逆暴虐の人非人には見えないわね……」
「全くだ……この事、華琳の奴はあの時、分かっていたのかな?」
「……多分、華琳様もご存知は無かったでしょうね。けど、たとえ知っていたとしても、方針は変えなかったでしょうけど」
「……そうだな」
再会を喜び合う董卓と賈駆の、その微笑ましい光景を遠目に見ながら、一刀と桂花はかつて自分たちも参陣したあの戦いの事を思い出していた。その戦いの根底にあった、その発起となったかの檄文は、おそらくそれを発した当人による捏造だろうとは、当時の主君であったかの人も予測はしていた。
だが、一刀は疑問こそ持ちつつも、当時はそれに抗えるような立場で無く、桂花の方はそこに疑問の欠片も挟む余地も無いほどに主君を溺愛していたため、結局、すべてが終わったその後も、事の真実を知るには至らなかった。
そして、二度目となったこの外史において、皮肉にも、その時敵対した相手の軍に拾われた事により、董卓という人物の本当の姿、友人の無事を喜び純粋な歓喜の涙を流せる心優しい少女、というものを知る事が出来たのは、二人にとって少々複雑な思いであった。
「詠ちゃん、体は大丈夫?怪我とかどこもしていない?」
「うん、僕は大丈夫。寸手のところで助かったわ。あそこに居る二人、北郷と荀ケのお陰でね」
「北郷さんに、荀ケさん……」
賈駆から一刀と桂花、二人の事を教えられた董卓は、賈駆の体からその手を離すと、ゆっくり一刀たちの方へとその歩みを進める。
「始めまして、北郷さんに、荀ケさん。私はこの安定の県令、董卓、字を仲頴と申します。この度は、私の親友である詠ちゃん、賈文和の危難を救っていただいたとの事。改めて、私からも御礼を申し上げさせていただきます。本当に、ありがとうございました」
「あ、いや。俺達が賈駆さんを助ける事になったのも、色々偶然が重なっただけですから、どうか気になさらないでください。あ、そうだ。申し送れました、俺は北郷一刀。姓が北郷で名が一刀って言います。真名持ちじゃあないんで、名の一刀がそれになります。よろしく、董卓さん」
「私は性を荀、名をケ、字を文若。北郷の智慧、よ。宜しく」
「……あれ?比翼連理の((件|くだり))は?」
「う……べ、別にあれを逐一言わなくても、その、だから……その、そう!あ、アンタが浮気しない事、心から信じることにしただけよ!だから、その、浮気なんかしたら宦官にするからそのつもりでね」
「って。それちっとも信用してないし!」
流石に一々比翼連理の枝だと、そう自己紹介をし続けるのは恥ずかしかったのか、その部分を省略しての自己紹介を董卓に行なった桂花に、冷静なツッコミを入れた一刀に対し、顔を真っ赤にしてそう((嘯|うそぶ))いた桂花と、その彼女が最後に放った一言に顔を真っ青にする一刀と。そんな二人の様子を、董卓は朗らかに微笑ましく見ていた。
「くすくす。……仲が宜しいのですね、お二人とも。と、いけない。お客様をこんな、夜中の城外で立たせていては失礼ですね。詠ちゃん、お二人を客室に」
「あ、月嬢ちゃん様?それやったらワイが二人を案内しますわ。ちっとばかり、三人で旧交も温めたいんで」
「なに?あんたら、ほんとに知り合いなの?」
「そらあもう。詳しゅうは省かせてもらうけど、糸が引くほどの腐れ縁ですわ。ほなかずぴー、桂花はん。ワイに着いて来てや。……話はそこで、な?」
「……分かった」
「報告、後でちゃんとしぃよ、祐?話せる範囲でええでな」
「わあってますって、霞姐さん。ほな行こか、二人とも」
そうして、一刀と桂花は高順の案内によって、城内の客室へと、董卓達とは別れて一旦移動する事となり、董卓は賈駆と張遼の二人とともに別の場所へと、それぞれに移って行った。
一刀と桂花が董卓の城に入り、その彼女と面会をしていたちょうどその時。同じ安定の町の中にある一軒の宿に、一人の少女が宿泊していた。
「ふう、漸く一息つけたな。……にしても、桔梗様も無茶ばかり仰られる。武者修行自体はいいが、大した路銀も無しに愛弟子を旅に出させた上に、将としての極意を掴むまで帰ってくるな、なんて……一体どうしろと言われるんだか……」
黒髪の一部をメッシュに染めたその頭を掻きつつ、少女は自分を旅に出させた師匠の顔を、その脳裏に思い浮かべつつ、思わず悪態を漏らしていた。
「……将としての極意、か。……そんなもの、一体どれほど旅を続けたら掴めると言うんだか。いや、そもそも将としての極意とはなんなんだろう……他人を寄せ付けない武か?それとも万の兵を自在に操れる、優れた才知か?はたまた人間としての……」
彼女はあれこれ考えながら、師に言われた将の極意とは何かと、自分でも良く分かっている、その無い知恵をフルに絞り、少しでも見当をつけようとする。しかし、どれほど考えてみた所で、そんな答えが容易に出る筈も無く。
「……あーっ!くそっ!駄目だ!考えた所で何も分からん!……はあ、はあ、はあ……っ。も、止めよう……桔梗様も仰っておられたではないか。下手の考え休むに似たりと。あれこれ考えていた所で答えが出ない以上、私に出来るのは己の武を高める事だけだ!……とはいうものの……」
ぐう〜、と。
思考するのを停止した途端、自分の腹から催促にも似た音が高鳴り、彼女一人しか居ないその狭い部屋の中に、これでもかと言うぐらいに響き渡った。
「……まずは路銀を何とかしないとな……宿の亭主の好意で、こうして部屋だけは借りられたが、食事抜きは流石につらい……はあ、今日はもう早めに休むか。明日朝一番で何か力仕事のあてでもないか、探してみるとするか……。いっそ、この町の県令に仕官してみるって手も、いざとなったらあるしな……」
そこまで寝台の上で一人ごちた後、少女はもぞもぞと布団の中へと潜り込む。天井のシミをじっと見つめ、絶えず鳴る腹の音を気にしつつも、やがて襲い掛かってきた睡魔に、わずかづつながらもその身を預けていく。
「……董仲頴っつったかな?この町の県令は……好い奴だと……良いんだけどな……この……魏文長さまが……力を貸すだけの……器だ……と……」
それだけ最後に呟いて、彼女は深い眠りの淵へと落ちていった。
魏延、字を文長。真名を焔耶。
夢の中、今は遠く離れている師匠に、時に厳しく、時に優しく教えを受ける彼女は、もうすぐそこまで迫った運命との出会いを、未だ知らない。
そしてそれは、以前は起きなかった、起こりえなかった事柄。この一つの出会い、そして変化は、本来ならば、二度と繰り返される事のなかった筈の、同一外史による歴史の再現という、イレギュラーな事態故に起こった、一つの変化。
そこに、如何なる力が働いたのかは分からない。だが、これだけははっきりと言える。
外史を形作るのは、すべからく、人の強き想いであり、誰かが願い、そして、望み望まれたが故に、物語は不規則な変化を、これからも起こしていくことになるのである……。
〜続く〜
というわけで。
桂花EDより派生の物語、再演・胡蝶の夢の、その第二話をお届けでした。
魏√では確か、一刀も桂花も董卓=月ってこと、知らなかった筈・・・・・・デスヨネ?原作をやったのも随分前なんで、そのあたりうろ覚えにつき、間違っていたら遠慮なく突っ込んでやって下さい。
あ、萌将伝のことは含まないで下さいね?これはあくまで、『真・恋姫†無双』の、魏√アフターが、物語の土台ですのでw
で。一応、前回でオリキャラは絶対に出さず、公式キャラのみでお話を進める、その心積もりで居る事を書きましたが、一応、公式キャラとはアニメのキャラも一部、含める形とさせていただきます。
え?小説のキャラは使わないのかって?・・・多分、出番は無いと思いますwまあ、あれも一応公式ですし、必要に迫られたら使うかもしれませんが(笑
さて。続いては、今回出てきた、董卓軍以外のキャラ、焔耶こと魏延。
彼女、大体ほかのssでも出番が遅いですから、たまには頭の方から話に絡んでもらおうかと思い、今回の登場と相成りました。お師匠の桔梗さんこと、厳顔さんも、原作より早め、そして違った形での絡み方で登場となる予定でいます。ちなみに、紫苑さんはまだ未定です。
では今回はココまで。
また次回、お会いしましょう。
再見〜( ゜∀゜)o彡゜
説明 | ||
桂花EDアフター、再演・胡蝶の夢、その第二話です。 ども。似非駄作家こと挟乃狼です。 仲帝記は現在、次話の構成でちょっとばかり梃子摺ってますので、 同時進行中のこっちを、先ずは先に投稿です。 それでは、本編をどうぞw |
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コメント | ||
及某(|||)をその役に・・・、ってばっちりじゃないですか、その役に(笑)。名前は伏せていますバレバレですが。(YYT-ZU) yoshiyukiさん、大却下で。意表を突き過ぎにも程がありますってば。ああでも、一刀の代わりに及某をその役に(おw(狭乃 狼) 意表をついて、一刀が月の代わりに“暴君董卓”として討たれるというのはどうだろう。その後桂花は、華琳様の下へと。(yoshiyuki) YYT−ZUさん、ありがとございますw桂花の可愛さ、倍増で行っております(当社比)ww ( ゜∀゜)o彡゜桂花( ゜ω゜)o彡゜桂花! ( ゜Д゜)o彡゜桂花! (狭乃 狼) 彼のあの外史での主な役目ですwww 面白すぎです。相変わらず桂花は色々と可愛いですね〜。あっ今更ですがPSPの魏√をやり始めました。桂花・桂花ヽ(`▽´)/(YYT-ZU) mokitiさん、皆に虐げられる、それが彼のあの外史での主な役目です(おいwww(狭乃 狼) hayatoさん、彼は良いネタキャラですので(おw 月と詠については、多分、華琳の意向もあったんじゃあないですかね。推測ではありますがw(狭乃 狼) さすがは及某、あなたは最高だ。これからも、そのまま皆に虐げられて生きてください。(mokiti1976-2010) 及某、ブレないなあ。 相変わらず面白いので仲帝記ともども期待してます。 ってか前外史で霞に月と詠の容姿とか尋ねてなかったのはどうかと思うよ桂花さん(霞は口割らなそうだけど)(hayato) たこむきちさん、忠誠はともかく、一目惚れはどうでしょうかねえー(ニヤニヤw(狭乃 狼) summonさん、一人不幸なのは及某、とwww(狭乃 狼) ここで焔耶きたか・・・一刀さんに忠誠誓ったり一目惚れしそうだなー・・・(たこきむち@ちぇりおの伝道師) 及川ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁwwここで(たこきむち@ちぇりおの伝道師) 相変わらずのタグwww 安定に着くまでの三里は、一刀の後ろに乗れたので桂花は幸せだったでしょうね〜(summon) 一丸さん、はてさて、どうなるでしょうねえ(にやにやww(狭乃 狼) ほへほへ・・・・このまま董卓軍にいるのかな?それとも、曹操軍かな?はたまた、別の軍かな?・・・・まあ、続きを楽しみに待ってます。・・・・・なんか、董卓軍になるような気が・・・・・・(一丸) 叡渡さん、焔耶は正直、下手をすると後半まで全く出番が無しになりますからね。魏の軍師は、他の二人がそのまま配置になります。でないと華琳の所が(華琳以外)脳筋集団になりかねませんから(おw(狭乃 狼) 本郷 刃さん、及某は大体、桂花か詠の犠牲になります(おw メインヒロインは永遠に桂花ですよ?ただ、一刀の人誑しスキルに歯止めは利かないってだけでww(狭乃 狼) はい、及某への攻撃は詠がやってくれましたね(笑)。しかし、焔耶ですか……個人的には桂花のみというのが好きですね。そこらへんは狭乃狼さんしだいですが。それではまた……( ゜∀゜)o彡゜桂花( ゜∀゜)o彡゜桂花!(本郷 刃) 氷屋さん、及川の扱いはずっとあんなですwww反董卓に及ぼす影響に焔耶も入ってくるのか?それとも・・・?w(狭乃 狼) 及川の扱いがひどすぎて笑える、いいぞもっとやれwwwwww焔耶はこのまま一刀についちゃうとこの先面白そうですな、さてさてこの先の反董卓にどれだけの影響を及ぼすか楽しみでしょうがないです(氷屋) |
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