ハルナレンジャー 第四話「魔剣襲来」 B-2/3/4 |
Scene8:黄旛道場 AM07:30
『――つーこって、ほぼ間違いないとこじゃないっすかね』
「わかった……すまんな」
『先輩のためっすから』
道場の裏、小さな和室に繋がる縁側に腰掛け、青山からの電話を切る赤岩。
10年経ってもいささかも変わらない風景――いや、色々様変わりはしていたか。
道場はより古ぼけ、庭の片隅にあった灌木は高さを増し、踏み固められた地面はその分緑を失い……
主が、代わった。
左手に持っていた携帯電話がぎしりと悲鳴を上げ、拳を握りしめようとしていた事に気づく。
「電話、青山君から?」
「ええ、まだ犯人は掴めてないそうです」
「そう」
床の間を背負う主席に座り、悠然と問いかける恵美に白々しく答える。
一間と離れていない距離、通話の内容が聞こえていてもおかしくはないのだが。
しかし、恵美はそれ以上重ねて問うこともせず、赤岩も言葉を続けはしない。
通学中だろうか、遠くで子供達がなにやら騒ぎ立てながら駆けていく。
「英次さん……」
薄い笑みを絶やさぬままぽつり、と恵美が呟く。赤岩の肩が一瞬ぴくりと動揺した。
「今頃、どうなさっているのかしら」
「さあ……」
曖昧な答えを返しながら、赤岩は瞑目する。
Scene9:黄旛道場 8年前
朝からしとしとと降っていた雨は、放課後には烈しい土砂降りとなっていた。
前も見えないような豪雨の中、傘をたたき落とされないよう必死になってしがみつきながら道場までたどり着いた少年は、その門前に傘も差さずにぼうと立ちつくす少女を見た。
「姉ちゃん……?」
雨に打ち据えられた道着が肌に貼り付くのも気づかぬかのようにただ立ち通しの少女の様子にただならぬものを感じ声をかけるが、少女はそれに答えず、感情の抜けた顔のまま、小さく
「英次さん……」
と呟くのみ。
異変を知らせようと駆け込んだのは、道場裏の和室。
主席に居住まいを正し巌のように座っていた老人は、要領を得ぬ少年の説明にただ一言。
「英次めが、出て行きおった」
Scene10:黄旛道場 AM07:40
「姉御……」
「なあに?」
――貴女は、彼の居場所を知っているんじゃあないですか。
無邪気な笑顔に問いかけようとして、しかし果たせず。
「『刀』だけ延々鍛えるっつうのは、できるもんですかね」
尋ねたのは全然別のこと。
レミィや青山が語る被害の様相。
防御も駆け引きも捨ててただ一閃の攻撃に全力を注ぎ込むような、そんな無茶を。
真っ当な人間は出来る物なのだろうか。
恵美はくすりと笑って、床の間に目をやる。
「力だけを追い求める、それは一つの理想だけれど。『鞘』の無い『刀』に、置き所はあるのかしら」
抜き身の刃は周囲を、自分さえも傷つける。そんな危険な物を、放置していても良いのか、と。そんな物をわざわざ携えようという者はいるだろうか、と。
「『刀』と『鞘』、どちらも揃ってはじめて完全。どちらが欠けても安定を失うわ」
当代の道場主は、ゆったりと茶を飲みつつそう答える。
「安定を失ったモノはとても脆い……」
呟く声はどこか8年前のあの日を思い起こさせて。
「姉御にも『鞘』はありますか」
淀んだ空気を混ぜ返すように問いかけた赤岩に、恵美もまた笑みを返し。
「ええ、見つけたわ」
見やる床の間には8年前から変わらず一振りの刀が。
赤地に金の流水模様も艶やかに。
飾られているのであった。
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