ハルナレンジャー 第四話「魔剣襲来」 B-5 |
Scene11:月葉根神社境内 PM11:00
「何がかなしゅーてあっしがこんなことを……」
境内を蠢く人影が一つ。レミィである。
「しかも一人って!」
半べそである。
ただでさえ何か出そうな廃神社。しかも昨日と違って月明かりもない曇り空。
いやそもそも昨日は6人の戦闘員を反撃の隙も与えず切り伏せるような「何か」が出たわけで。
「一人って!」
涙とともに再び絶叫するレミィであった……
とはいえ。
軍師直々の依頼――という名の命令であれば拒否するわけにもいかないのが下っ端の辛いところで。
戦闘員の損耗がはげしく、調査に人数をそうそう割けない現状も痛いほどわかっており。
しぶしぶ、渡された機械を起動し調査をはじめる。
「で、この調査は何の役に立つんでやんすかねー」
今朝方ブルーにも問われたことでもあったが。
レミィ達実戦部隊が陽動作戦を行っている陰で、ジルバの率いる部隊が各地で同様の調査を行っていたことは知っていた。
ではこれが何を意味するかとなると……
「ま、わっかんない方がきっとしあわせでやんすな」
モニタに表示される指示通りぺしぺしとボタンを押しつつ、思考を放り投げる。
ゆらり、と。
レミィの背後で闇が揺れる。
機械が警告音を発し。
「危ない!」
「のわっ!?」
物陰から疾駆した赤い影がレミィを蹴り飛ばし。
「げぴょっ!」
レミィが壁に激突して潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
「ななななにするんでやすかっ!?」
抗議の声を上げて振り向いたレミィの目に映ったのは。
「……」
油断無く身構えつつも、じりじりと後退していくレッドと。
右手に刀、左手に赤い鞘をだらりと下げ、ゆらゆらと近づいてくる人影。
寝間着なのだろう着流しの着物に、長い髪がまとわりつく。
折からの風に吹き払われた雲間から覗く月の光に白々と浮かび上がったその貌は――
「姉御」
レッドが苦しげに呻く。
どこか茫とした笑みを浮かべた、黄旛恵美であった。
「ってやっぱりあんたらの仕業だったでやんすもがぁ!?」
思わず叫びかけたレミィの口を、駆けつけたブルーが塞ぐ。
「静かにしねえと、また狙われっぞ」
取り押さえられて抵抗しようとした体がぴたり、と止まる。
「手を離しても騒ぐなよ?」
言われて、目を見開きこくこくと頷く。
アレは流石に相手したくない。ていうか怖いし。
手を離したブルーに促されるまま、建物の影へとこそこそ移動する。
「あれはどーなってるでやんすかっ」
未だ対峙し続けるレッドと恵美の様子をうかがいながら、小声で抗議。
「こっちもさっぱりだ……てっきり別の奴の仕業だと思ってたんだがなあ」
昨日の調査が不首尾に終わったのを受けて、再びここに来ると踏んで張っていた。
レミィだけと言うのも予想外だったが……
「あれは流石に想定外……っつー感じでもねえな……」
「英次さんかと思ってたんですけどね」
呟く。眼前の『敵』が聞いているとも思えなかったが。
ぴくり。
揺らぎが一瞬きしむ。
「……英次、さん」
恵美の口からほう、と甘いため息が漏れる。笑顔がとろける。恋する乙女のように……いや、それは恋する乙女そのものなのだろう。
その表情とは裏腹に、背負う殺意は数層倍に膨れあがる。
レッドは攻めあぐねていた。
相手は、一瞬でも隙を見せれば切りかかってくる。
捨て身で、後先など微塵も考えず。
それは「一つの理想」、極限まで研ぎ澄まされ、切り裂くことしか眼中にない『刀』。
小手先でどうにかなる相手ではない。自分の実力では避けるだけで精一杯、返そうとすれば……いや、下手に受ければ恵美にも大きなダメージが行く。
それが……自分に出来るのか。
技術ではなく、覚悟として。
迷いが隙になり、隙を狙って殺意が収束しようとして……消えた。
「英次……さん?」
いつの間にか、恵美の目が自分を通り越してその背後を見ているのに気付き。
咄嗟に振り向く。
「お初にお目にかかります、ダルク=マグナ極東支部参謀部付軍師、ジルバと申します」
薄い笑みを浮かべ、慇懃に礼をする白皙の青年がそこに立っていた。
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