三人の御使い 獣と呼ばれし者達 EP9 戦という名の筋書き
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『優しい』と言われる者がいるが

 

 

 

 

 

本当に『優しい』者ほど

 

 

 

 

 

本当の意味で『優しい』と言われることは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほとんどない

 

 

 

 

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一刀の行動の真相が明らかになって数日が経ち

 

 

 

結果として一刀の思惑は成功した

 

 

 

白蓮は桃香達一行が加わることを正式に受理し、予想よりも遥かに高い地位に優遇した

 

 

 

一刀の数々の無礼な発言も桃香達を思っての行動だということが理解され、その件についてはお咎めなしとなり、数日が経った今では少数ではあるが部隊を率いることを許されるまでにお互いの信頼を高めることが出来、信頼を高めた現在も―――

 

 

 

軍議に参加し、

 

 

 

戦に参加し、

 

 

 

兵士達を勝利に導き、

 

 

 

桃香達は確実に自分たちの理想に向かって突き進んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

そんな順調順風満帆な影に隠れ、

 

 

 

一刀と桃香達の間には

 

 

 

あの日から―――

 

 

 

『真相』が明らかになったあの日から

 

 

 

どうしようもないほどに

 

 

 

埋められない溝が

 

 

 

小さな亀裂が

 

 

 

静かに

 

 

 

しかし、確実に

 

 

 

刻み込まれていた……

 

 

 

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ある日、俺は公孫賛と趙雲に呼び出しを受けた

 

 

 

理由は分かっている

 

 

 

あのことだ

 

 

 

あの日の―――公孫賛を必要以上に挑発し、桃香達全員に嫌われようと画策して、結果的にその思惑がばれてしまった……史上最悪最低の日のことについてだろう

 

 

 

 

 

……まったく

 

 

 

 

 

 

 

 

どこまでも『予定通り』に動いていてくれる人だな

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は呼び出された部屋に向かう途中、内心彼女を馬鹿にしたようにそう思った

 

 

 

しかし、同時に彼女のその行動を仕方がないとさえも思った

 

 

 

それもそのはずだ

 

 

 

なぜなら、あの『真相』が明らかになった日から俺と桃香達はまともに会話をしていなかったのだから……

 

 

 

だが、それも仕方ないことだろう

 

 

 

仲間として―――仲間と思って行動を共にしていた俺が自分たちに嫌われるために行動していたなんて事実を目の前に突き付けられたのだ。彼女達でなくとも顔を合わせ辛くなるのは無理のないことだ

 

 

 

仕方のないことだ

 

 

 

当然のことだ

 

 

 

だから俺も

 

 

 

そんな彼女達の心情が手に取るように分かるから……俺自身もあの日から彼女達に積極的に関わることは避けていた

 

 

 

私生活ではなるべく部屋に籠って接触を避け、

 

 

 

軍議にはなるべく顔を出さず、

 

 

 

戦力的に問題のない戦の時は最低限の指示を兵達に残して前線には出ないようにした

 

 

 

そうすれば彼女達も……見たくもない俺の顔を見ずに済むし、何より俺自身の実力を見せることがないと思ったからだ

 

 

 

そうすることが『最善』だと思ったし、

 

 

 

そうすることが『最高』の結果を残すのだと……そう思っていたから

 

 

 

 

 

俺は彼女達との接触を避けることに努めたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

だからと言って、桃香達と俺との間に生まれた溝が埋まるわけではない

 

 

 

如何に俺の取った行動が『最後』の結末を『最高』のものにするためとは言え

 

 

 

俺の取った行動は……結果として桃香達を裏切り、『今』の彼女達を傷つけた

 

 

 

それは否定しようのない事実だし

 

 

 

そのことに対して言い訳をするつもりも毛頭ない

 

 

 

 

 

 

 

そんな割り切った……冷酷とも言える考えを俺が持ってしまっていたから

 

 

 

あの日から

 

 

 

俺と桃香達は―――

 

 

 

どうしようもないほどにぎこちない関係が続いているのだろう

 

 

 

 

 

 

 

それを考えると公孫賛達の行動は先に話した通り、それは仕方のないことだと俺は思う

 

 

 

考えてみてほしい

 

 

 

今の俺と桃香達の関係は極めて複雑だ

 

 

 

お互いがお互いに気を遣っているために満足に謝罪すらも儘ならない

 

 

 

毎日を気まずく過ごし、顔すら合わせない―――

 

 

 

そんな光景を毎日傍から見させられる者達からとってみれば

 

 

 

堪ったものではない

 

 

 

特に公孫賛のように義に厚い人間にとって

 

 

 

その光景は文字通り息が詰まると言えるだろう

 

 

 

そして、そんな義に厚い彼女だからこそ

 

 

 

そんな見るに堪えない光景を黙って見ているはずがない

 

 

 

きっと無理にでも仲直りさせようとするに決まっている

 

 

 

だからこそ―――

 

 

 

そんな『普通』な彼女だからこそ俺は彼女の行動を予測出来た

 

 

 

だからこそ―――

 

 

 

俺は彼女を『予定通り』に動かせた

 

 

 

彼女ならきっとこうするだろうと

 

 

 

彼女のように優しい人ならきっとこう動くはずだと

 

 

 

彼女の善意すらも予定の中に組み込んだ

 

 

 

これから部屋に呼ばれることも

 

 

 

これから桃香達と仲直りさせられることも

 

 

 

彼女のそんな優しい行動すらも―――俺にとっては『予定通り』に過ぎないのだから……

 

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白蓮「……呼ばれた理由はわかるな、北郷?」

 

 

 

 

一刀「……ああ」

 

 

 

 

俺は部屋に入った瞬間、部屋の真ん中に正座をさせられた

 

目の前には腕を組んで不機嫌そうに俺に問いかける公孫賛

 

そして、後ろには俺を部屋から逃がさないように扉に寄りかかりながらこちらを監視している趙雲がいた

 

 

 

まったく……

 

 

 

この光景を見るだけで彼女達の俺への信用も高が知れるな

 

まあ、俺のやったことを考えれば、信用なんてあるはずもないか……

 

俺が内心嘆息を吐いていると目の前の公孫賛が話を続けた

 

 

白蓮「……わかっているならそれでいい。それで、お前は一体どうするつもりだ?このまま桃香達と気まずい関係のままこの城を出るつもりなのか!?」

 

一刀「いや、そんなつもりは全然ないんだが……」

 

白蓮「なら何故だ!?お前がいつまでも桃香達に謝りに行かないから…ここ数日私がどれだけ……」

 

一刀「それは本当にすまないと思っている……だけど、俺だって困ってるんだ。今更どの面下げて桃香達に謝ればいい?あんなことをしておいて許してもらおうなんて虫がいいにも程がある」

 

星「それこそ虫が良すぎるのではないですかな?このままずるずると仲間面して一緒にいる方がよっぽど不誠実だと私は思うのですが」

 

一刀「……そんなことは君に言われなくてもわかってる!わかっているから困ってるんじゃないか!?」

 

白蓮「何が困るというんだ!!お前が素直に謝罪すればそれで丸く収まる話だろう!?それをいつまでも―――」

 

一刀「…わかってる。だけど『きっかけ』がないんだ。彼女達に謝るきっかけが……俺にはどうしても見つけられないんだ……」

 

 

そう言って俺は視線を地面に移して俯いた

 

 

 

 

 

ここまでは俺のシナリオ通り

 

 

公孫賛は俯く俺の様子を不安げに見ている

 

恐らくこれ以上彼女からの追及はない

 

そしてこの後が俺のシナリオ通りに進むなら―――

 

 

 

星「ならば、『きっかけ』さえあればあなたは彼女達に謝れるのですね?」

 

 

 

―――当然、彼女がそう言ってくれるはずだ

 

 

 

そして、俺は内心ほくそ笑みながら彼女の問いに答えた

 

 

 

 

 

一刀「ああ……『きっかけ』さえあれば……ね」

 

 

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時は軍議の場―――

 

 

白蓮「―――では、次の戦は『天の御遣い』である北郷一刀が指揮を執ってもらう。皆もそのつもりで準備を進めてくれ。それでは……解散!!」

 

 

 

公孫賛の言葉通り、次の戦は俺を中心に展開されることが軍議の場で正式に決定した

 

この世界では実績もなく、天の御遣いなどと言う眉唾な存在である俺に対して

 

当然のことだが、周囲からの反発は強かった

 

しかし、その周囲の人間の反発を趙雲が制止する

 

星「皆少し落ち着いたらどうだ?この方は今大陸中で噂になっているあの『天の御遣い様』なのだぞ?皆が不安に思う気持ちも理解出来るがその心配は不要と言える。なぜならこの御仁は天の御遣いと呼ぶにふさわしい能力『未来視』の力をお持ちのお方だ。だから皆は心配せずにこの御方を信じて存分に己の勇を奮ってくれ」

 

 

などと、とんでもない裏設定を盛り込んで―――

 

確かに反発する皆を鎮めるためにはそれくらいの『異能』でもない限り実現は不可能だっただろう……

 

しかし、よりによって『未来視』とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あながち、『間違っていない』ことが恐ろしい

 

 

俺は内心溜息を洩らしながら事の次第を見守った

 

 

結局のところ、これが話し合いの末趙雲が俺にくれた『きっかけ』だった

 

 

内容は至って単純だ

 

 

次の戦で俺が実力を示すこと

 

 

それが趙雲の出した『きっかけ』だった

 

 

彼女は言った

 

 

どんな形でもいい

 

 

とにかく俺自身の力を周りに誇示することで出来れば、それで公孫賛が公の場で褒賞を与えやすくなると……

 

 

その行為が分かりやすい形での俺と公孫賛との和解に繋がり、それは周知の事実として民にも桃香達にも伝わるはずだと

 

 

それが結果として俺と桃香達との仲直りの『きっかけ』になるはずだと

 

 

そう彼女は言った

 

 

 

しかし……それを実現させるには普通の活躍では到底無理だ

 

 

皆の安全を守るため

 

 

 

誰も生かさず

 

 

 

誰も死なさず

 

 

完全無欠の結果以外……それを望むのは不可能だ

 

 

だから彼女は俺に試練を与えた

 

 

 

 

いや……喧嘩を売ってきたというべきか

 

 

 

あの発言をした時の彼女の瞳はどこまでも挑発的な目をしていた

 

 

 

『やれるものならやってみろ』―――と

 

 

 

『出来ないならば彼女達の傍にいる資格はない』―――と

 

 

 

そう彼女の瞳は告げていた

 

 

 

まったくもって……勘違いも甚だしい

 

 

 

俺にとってそんなことは問題でもないというのに

 

 

 

俺にとってそんなことは

 

 

 

『やるかやらないか』でもない

 

 

 

『やれるかやれないか』でもない

 

 

 

そんな下らない根性論の問題では決してないのだ

 

 

 

 

俺にとってこの程度の試練など―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『出来る』以外の結論など存在しないのだ

 

 

 

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―――

 

 

 

――――――

 

 

 

 

一刀達の目の前には壮観とも壮絶とも言える光景が広がっていた

 

 

眼前にはまるで津波の様に押し寄せる敵軍が迫っていた

 

 

数は優にこちらの三倍

 

 

正面からの戦いではこちらに分がないことは自明の理とも言える圧倒的な戦力差だった

 

 

しかし、そんなことは一刀にとって想定の範囲内

 

 

元居た世界では『国家特別戦力』―――通称『国戦』のメンバーであった一刀にとってこんな状況は日常茶飯事だったからだ

 

 

 

だが、そんな一刀にも一つだけ気になることがあった

 

 

それは敵の身に着けている黄色の頭巾だった

 

 

黄色……それはつまりこの三国志の世界の中で思い浮かぶ軍勢は一つしかない

 

 

そう……それは彼の有名な『黄巾党』

 

 

それが今目の前にいる

 

 

その事実に一刀は静かに溜息を洩らす

 

 

一刀「……ふう、正直戦力差についてはある程度は覚悟していたが―――まさか相手がよりにもよって黄巾党とは……俺の予想より若干早い展開だな、これは」

 

 

そう呟くと、一刀は不敵に微笑を浮かべ、自軍の兵士に指示を出す

 

 

 

一刀「皆……敵の数はこちらの倍以上だ。だけど、恐れる必要はない!!いくら数が多かろうと相手は所詮弱者から奪うことしか能のない烏合の衆だ!!『作戦』通りに動いてくれれば問題なく勝てる相手だ!」

 

 

その号令に兵士たちは戸惑った

 

 

 

初の戦に恐怖を抱く者

 

 

 

初の一刀の指揮に不安を抱く者

 

 

 

大群に怯える者

 

 

 

様々だった

 

 

 

だが、一刀はそんな兵士達の不安をかき消すために尚も言葉を続ける

 

 

 

 

一刀「敵に怯えることは構わない!俺に不満を持つことも構わない!!だが、逃げることだけはしないでくれ!!確かに……今逃げれば君たちは助かるだろう。しかし、今君たちが逃げてしまったらその被害を受けるのは後ろにいる力なき民達だ!君達の愛する家族や恋人だ!!各々の『大切な人達』が奴らに蹂躙されるのを君達は黙って見ていたいのか!?己の命と引き換えに愛する人を差し出すつもりか!?俺は嫌だ!!そんなことは許さない!許せない!!だから、戦おう。愛する人達を守るために!!」

 

 

 

その号令に兵士達は鼓舞した。

 

 

己の愛する人達を守るために

 

 

 

 

 

必死に自分達を奮い立たせ、戦場と言う名の地獄に身を投じた

 

 

 

 

 

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敵は勢いよく公孫賛軍に向かってくる

 

 

数の利を活かし、欲望に身を任せ、一刀達の方に向かってくる

 

 

一刀「下がれ!!まともにやり合おうとするな!」

 

 

 

一刀達は敵の圧力に押され、逃げるかのように林を通りぬけ後退を続けた

 

 

その状況は典型的なまでの多勢に無勢

 

 

典型的な負けパターンだった

 

 

そして一刀達はそのまま敗走を続け、近くの渓谷まで軍を退いた

 

 

敵軍はその様子を見たことで勝利を確信し、指揮官の男が自軍の兵士達に指示を飛ばす

 

 

指揮官「野郎共!!敵さんは俺たちの力に怯えをなして隠れようって魂胆だ!このまま追撃して俺たちに逆らったことを文字通り死ぬほど後悔させてやれ!!」

 

 

黄巾兵「「「おおおおおーーーー!!!」」」

 

 

 

その号令と同時に黄巾党は進軍の勢いを更に増して一刀達の追撃に乗りだした

 

 

勝利を確信したその進軍は正に欲望を丸出しにした獣そのもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

そんな勝利の進軍も一刀達が通った林の横を通り抜けようとした瞬間

 

 

あっさりと

 

 

平然と

 

 

何事もなかったかのように

 

 

 

終わりを迎えた

 

 

 

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愛紗「―――今だ!!突撃いぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

黄巾党が林を通り抜ける瞬間、凛とした号令とともに予想だにしない隊が横撃を仕掛けた

 

 

隊の前線には青龍刀を携えた愛紗

 

 

丈八蛇矛を振り回す鈴々

 

 

自身の愛槍を片手に馬を走らせる星の三人が並んでいた

 

 

 

突如として現れた隊に黄巾党の面々は度胆を抜かれ、隊列を乱す

 

 

 

黄巾兵「な、何だ!?いきなり横から―――うわ、やめ…ぎゃああああああああ!!!」

 

 

 

その隙を突いて愛紗達は黄巾党の兵に切りかかる

 

 

先頭の愛紗に斬りつけられた黄巾兵の一人は断末魔を上げながら体を真っ二つに切り裂かれて絶命した

 

 

愛紗の鬼神の如き一撃は黄巾兵に恐怖を植え付け、無意識の後退を余儀なくした

 

 

続く鈴々と星はその隙を逃さず、追撃を仕掛け敵の隊を完全に二つに分断することに成功した

 

 

 

 

星「よしっ!!隊を二つに分断したぞ!愛紗!鈴々!作戦通り北郷殿達と合流だ、行くぞ」

 

 

愛紗「応っ!!」

 

 

鈴々「がってんなのだ!!」

 

 

 

 

 

奇襲に成功した三人はその言葉と共に一刀達が向かった渓谷へと馬を走らせた

 

 

 

 

 

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場所は一刀達が向かった渓谷―――

 

 

 

一刀は崖の上にその身を移し、愛紗達が黄巾党の隊を分断する光景を満足そうに眺めていた

 

 

 

一刀「よしよし……ここまでは作戦通りだな。愛紗達もこっちに向かっているようだし……そろそろ準備を始めるか」

 

 

一刀の独り言に近くにいた白蓮が話しかける

 

 

白蓮「おい北郷……準備と言うが、本当にこんなこと出来るのか?」

 

 

一刀「ん?ああ、大丈夫、大丈夫。昨日は雨も降ってるからね……条件的には多分成功するよ」

 

 

白蓮「私としてはその『多分』が不安で仕方がないのだが……」

 

 

一刀「そんなに心配しないでよ。大丈夫……『成功するイメージ』はすでに出来てるから問題ないよ」

 

 

白蓮「…いめ……何?」

 

 

一刀「ああ、ごめん。イメージっていうのは想像するって意味。紛らわしい言い方して悪かったね」

 

 

白蓮「想像って……そんなことで本当に成功すると思ってるのか?考えただけで成功するなら誰も苦労なんてしないだろう!?」

 

 

一刀「それは仰る通りなんだけどね……残念だけど『俺に関して』言うならば、その常識は当てはまらないかな」

 

 

そう言うと一刀は悲しそうに遠くを見つめた

 

 

 

 

白蓮「……それは一体どういう意味―――」

 

 

白蓮が一刀に言葉に真意を聞こうとした瞬間

 

 

事態は急激に動き出した

 

 

愛紗達が渓谷に辿り着いたのだ

 

 

つまりそれは同時に黄巾党が渓谷に辿り着いたことを意味していた

 

 

その様子を確認した一刀はすぐに行動に移った

 

 

この戦を終わらせる最後の策に……

 

 

 

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愛紗達は馬を走らせ、渓谷まで辿り着いた

 

 

渓谷の入り口に着いた愛紗は馬に乗ったまま崖の上に視線を向ける

 

 

崖の上には旗を振って作戦実行の合図を送る一刀の姿が見えた

 

 

愛紗はそれに静かにうなずくと後ろにいる兵の皆に振り返り声を掛ける

 

 

愛紗「皆の者、作戦は予定通り決行される!我々はこのまま渓谷を駆け抜ける!遅れず付いてこい!!」

 

 

公孫賛兵「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

愛紗の号令に呼応し、兵士達は叫び、渓谷の中へと姿を消していった

 

 

―――

 

 

――――――

 

 

 

 

指揮官「お、おい野郎共!!あいつら谷を抜けて逃げる気だ!逃がすんじゃねーぞ!!」

 

 

 

渓谷へと姿を消す愛紗達を追っていた黄巾党の指揮官は急いで部下に指示を出す

 

 

指揮官から指示を受けた黄巾党の面々は二つに分断された隊のまま、すぐさまその指示に従い愛紗達を追いかけた

 

 

 

その行動が自分たちの命運を分ける行為だと知りもしないで……

 

 

 

 

 

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……

 

 

 

 

…………

 

 

 

渓谷に辿り着いた黄巾党はその勢いのまま谷を抜けようと馬を走らせた

 

 

 

 

 

 

そして、二つに分断された前の隊が渓谷に入りきった時―――

 

 

 

 

 

 

彼らは自分たちの死の音を上空から聞いた

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが駆け抜けようとすると目の前には土砂によって道が塞がれていた

 

 

 

そして、そこで彼らは気付いたのだ

 

 

 

先ほどの上空から聞こえた音の正体を

 

 

 

彼らは急いで引き返す

 

 

 

しかし、それは叶わなかった

 

 

 

彼らの後ろには目の前の光景と同じように土砂崩れによって道が塞がれていたからだ

 

 

 

彼らは絶望した

 

 

 

この光景が

 

 

 

この状況が

 

 

 

全てを物語っていたからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

一刀「やあ、黄巾党のみなさん。こんにちは」

 

 

 

 

そんな絶望の淵にいる黄巾党の面々に崖の上から一人の男が話しかけた

 

 

 

 

指揮官「て、てめー!!何者だ!!」

 

 

黄巾党の指揮官は決まり文句を口にする

 

 

一刀「はははっ……この状況でもそれだけ粋がれるってことは君が指揮官かな?」

 

 

指揮官「そ、それが……何だ!?」

 

 

一刀「……いやいや、それなら話が早いと思ってね。どうだろう?このまま降伏する意思はあるかな?出来ればこちらとしてもあまり無駄な犠牲は出したくないんだけど」

 

 

指揮官「ふざけるな!!!誰がそんなことするか!」

 

 

一刀「どうしてだい?この状況を見れば君たちに勝ち目がないことなんて火を見るより明らかだろう……ほら聞こえるだろう?君たちの後ろから聞こえる仲間の悲鳴が」

 

 

その言葉を聞いた指揮官は背後の土砂崩れの向こう側に耳を傾ける

 

 

 

『ぎゃああああああああああああ』

 

 

 

『たすけてくれええええええ』

 

 

 

 

『死にたくねええ―――』

 

 

 

 

 

聞こえてくるのは黄巾党の仲間の悲鳴

 

 

 

その事実に指揮官は自分の顔から血の気が引くのを感じた

 

 

一刀「ね?これが現実……君たちは負けたんだ。今は俺の仲間たちが君の仲間を討伐してる。つまり、生き残ってるのは君達だけなんだ。指揮官ならこれ以上自分の部下を死に追いやるのは愚かだと思わないかい?」

 

 

そういうと一刀は見下すように、蔑むように指揮官の男に語りかける

 

 

指揮官「じょ、冗談じゃねーよ……誰がてめーらなんかに……」

 

 

それが指揮官の精一杯の強がりだった

 

 

一刀はわざとらしく溜息を吐くと―――

 

 

一刀「残念だ……」

 

 

そう言って右手を挙げて、弓兵に合図を送る

 

 

 

一刀の合図に呼応し、弓兵たちは一斉に矢を放ち、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄巾党の兵士達を

 

 

無情に

 

 

 

無常に

 

 

 

残酷に

 

 

 

冷酷に

 

 

 

 

一部の容赦もなく―――駆逐した

 

 

 

 

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谷の底には血の海が広がっていた

 

 

 

死体として転がる黄巾党の兵士達は身に着けていた黄色の頭巾を赤く、紅く染め上げるほどに夥しい量の血を流し横たわっていた

 

 

 

これがこの戦の終焉

 

 

 

 

一刀達は戦に勝利したのだ

 

 

 

 

皆喜んだ

 

 

 

 

白蓮も

 

 

 

星も

 

 

 

兵士達も

 

 

 

 

そして桃香達も

 

 

 

 

 

その場にいる全ての人間が喜んだ

 

 

 

 

桃香「やった、やったよ一刀さん!私達勝ったんだよ!一刀さんの言うとおりにして、一人も犠牲を出さずに勝ったんだよ!」

 

 

桃香は喜びのあまり一刀に抱き着いた

 

 

それに続くように愛紗も鈴々も抱き着いた

 

 

 

一刀「やったね……みんなのおかげだよ。ありがとう」

 

 

そう言って一刀は三人の頭を優しくなでた

 

 

 

 

しばらく三人の頭を撫でた後、一刀は白蓮の下に向かった

 

 

一刀「公孫賛さん、お疲れ様です」

 

公孫賛の近くに寄るとねぎらいの言葉を口にした

 

 

白蓮「ああ、お疲れ……やったな、北郷。それによかったな仲直り出来て……」

 

 

一刀「ありがとう、君のおかげだよ」

 

 

白蓮「そう言われると何だか照れるな……だが、私は何もしていないよ。頑張ったのはお前じゃないか?私は機会をあげただけさ」

 

 

一刀「敵わないな、公孫賛さんには……」

 

 

白蓮「ははっ……そうか?――――あっ、それはそうと北郷、一つ聞いてもいいか?」

 

 

一刀「何だい?」

 

 

白蓮「今回の戦だが……お前はどうしてあんな策を取ったんだ?」

 

 

一刀「……あんな策とは?」

 

 

白蓮「あの『渓谷の土砂崩れ』のことだよ。なんでお前はあの渓谷で土砂崩れを起こせると思ったんだ?成功したから良かったものの一歩間違えればこちらが全滅する危険だってあったんじゃないか?」

 

 

一刀「ああ、その件か……簡単なことだよ。土砂崩れを起こす前に俺は言っただろう?『昨日は雨が降ったから』って……それが全ての答えだよ」

 

 

白蓮「……雨だと?確かに昨日は雨が降ったがそれが何の関係が……」

 

 

一刀「ちょっと考えればわかることだよ。雨が降れば地盤が緩む。土はいつもよりも柔らかくなり、崩れやすくなる。つまりああいう何の支えもない崖なんかは普段よりも崩れやすい条件が整っていたってことだよ」

 

 

白蓮「……なるほど、だからあんな短時間で二つの土砂崩れを起こして敵を閉じ込めることが出来たのか……」

 

 

一刀「その通り」

 

 

白蓮「ふふっ……北郷、お前中々すごい奴だな。伊達に桃香達が天の御遣いなんて崇めてるわけじゃないんだな」

 

 

一刀「止してください。俺はそんな大層な存在なんかじゃないですよ。さあ、もうこの話は終わりにして帰って祝勝会でも開きませんか?あんまり長話をしてると鈴々あたりが空腹で暴れだしてしまうかもしれませんよ?」

 

 

白蓮「ははっ、そうだな。じゃあ私達もそろそろ行くか、北郷?」

 

 

一刀「そうですね―――っと忘れていた。すみません公孫賛さん。俺は少し野暮用があるので先に戻って祝勝会の準備をお願いできますか?」

 

 

戻ろうとした白蓮に一刀は告げる

 

その言葉に白蓮は不思議そうに振り返り、尋ねる

 

白蓮「……野暮用?何か忘れ物でもしたのか?」

 

 

一刀「まあ……そんな所です。それじゃ、俺はこれで……」

 

 

そして一刀は城とは反対の方向へ―――黄巾党の者達が死んでいる渓谷の方向へと歩いて行った

 

 

 

 

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お久しぶりです。

 

勇心です

 

 

 

今回正直今まで一番書いてて悩みました。

 

 

前回投稿したEP8で自分の文章の表現がいかに幼稚でいかに大袈裟かということを痛感しました

 

 

でも、これから書いていく続きはきっと今以上に大袈裟で原作ぶち壊しの内容になると思います。

 

恋姫達が空気化することがあったり、一刀達にいらない設定盛り込んだり、はっきり言って原作LOVEな方々には非常に不愉快な展開になっていくだろうことを

 

 

この場を借りて先に謝罪させていただきます

 

 

 

……本当にすみません

 

 

ですが、それでも自分はこの作品を自分が納得できる形で終わらせたいと思っているので

 

 

こんな駄作でも構わない−−−そう思ってくれる方々だけ今後ともよろしくお願いしたいと思います

 

 

情けないことを言っているのは重々承知しておりますがこれが自分にできる精一杯の誠意だと思っています

 

 

それでは皆様また次話でお会いしましょう

 

 

 

ちなみに次回は今回のラストで一刀が谷にむかった真相を書く予定です

 

短くなると思いますがよろしくお願いします

 

 

 

 

 

 

説明
お久しぶりです。
勇心です。

今回は予告した通り戦がメインです
拙い文ですが、よろしくお願いします
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コメント
鬼神 様 コメントありがとうございます! このような作品にうれしいコメントをして頂き、感激です!!(勇心)
暗黒界の犬神ヒトヤ 様 コメントありがとうございます!次回は星と一刀がメインなので、少しでも満足のいく内容にできるように頑張りたいと思います(勇心)
おもしろかったッス! 早く続きが見たいッス。(鬼神)
星は挑発で喧嘩を売ったようですが、一刀は見事やり遂げました、喧嘩に負けた星はどういう反応をするのか次回が楽しみです(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
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