とある冒険者の休日 ―パラディン―
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ガチャガチャと、うるさい足音が、平和な街中に響き渡る。

足音の主は、街中だというのに全身金属の鎧で覆い、足裏までも金属製の脚部の鎧が、石畳にぶつかってうるさいい音を立てていたのだ。

 

もちろん、このハイ・ラガートには、世界樹へと挑む冒険者が後を絶たないので、こうした武装した人物は珍しくは無いが、迷宮に向かうでもなく、こうしてフル装備でマラソンを行っている人物は少ない。だから、大抵の住民は音の主を珍しそうに見ながら、その鎧の男の邪魔にならぬ様に道を開けていた。

 

鎧の主は、30は過ぎている様に見える中年の、体躯に恵まれた大男だ。腰には剣を帯び、背中には手でかざせば体の大部分を隠せてしまう程の大きな盾を背負う。

 

鍛え抜かれた技と肉体と、それによって初めて着られる重たい鎧をもって、前線で味方を守り抜く、冒険者の中でもパラディンと呼ばれる人物である事は、この街の住民ならば誰でも一目で分かる姿だった。

 

そんな彼は、一定の呼吸を心がけながら、一心不乱に街中を走っている。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…!」

 

分厚い鎧に身をまとい、仲間を守るパラディンは、鈍重な印象を与えがちだが、実際は違う。

時として、強敵と相対した時。味方がケガをして戦線を立て直すのが困難な時、味方を逃がし、かつ自分も生きのびる。それを可能とする、強い脚力も時として必要になるのだ。

地味かもしれないが、生き残ってこそ、怪我と疲れをいやし、再び迷宮への挑戦が可能になるのだ。

 

そしてこの聖騎士は、それを可能とするための足腰を鍛えるために、実戦さながらの重装備を持ってしての走り込みの最中だった。

実戦では、これにケガと、悪路などの周囲の地形などが働くのだ。妥協は許さず、徹底して走り込む。

 

そんな時、聖騎士の耳に、ふと、泣き声が聞こえた。

幼い、子供の泣き声だ。

騎士はゆっくりと足を止め、辺りを見渡した。自分の足音が耳をすますのに邪魔をしない様に。

すぐに、泣いている男の子の姿と、その子に事情を聞こうとしているのだろう。しゃがみこんで、子供に話しかけている女性が目にとまった。

 

懸命に話しかけている様だが、一向に子供は泣きやまないし、泣き声で何を言っているのか分からない。

 

騎士は、ゆっくりと近づき、子供の傍で、女性と同じくしゃがみ込んで、話しかけた。

 

「どうしたー。坊主?」

 

だが、女性が話しかけてもこの有様なのに、新たに現れたのは、大柄で、しかもガッチリと鎧を着込んだ、厳ついオッサンなのだ。泣きながら、チラッと見たが、一目見て怖いと感じたのか、余計に泣き声が大きくなってしまった。

 

「うわああああああああんっ!!」

 

先に、子供に声をかけた女性からの非難の目が、胸に刺さる。

ガシガシと後ろ頭をかきむしって、どうしたものか。と騎士は考えて、ある程度の重たさがある、荷物袋を手に持った。

 

「……しゃあねぇな。こーゆー時は」

 

とはいっても、こういう時の定番のアメ玉とかはないし、そもそも冒険に出る訳ではないから食料も抜いてある。

ただ、その他の道具はある。取り出したのは、東洋の食器。ハシだ。ナイフやフォークと違って、多目的に使える上にかさばらないから、野営中の食事にはそこそこ重宝するため入れてあった。

 

「ぼーず? こっち見てみな?」

 

騎士の声に、男の子はひっく、ひっくとしゃくりあげながら、涙におおわれた目をゆっくりと騎士に向けて、それから、そこにある光景におどろいて、目を見開いた。

 

騎士は、ハシの端を自分の鼻に突っ込み、もう片方の端を大きく開いた口の下アゴにつっかえ棒の様に差し込みだらしなく大口を開けていた。

 

……その、あまりにも意外過ぎる光景に、子供は思わず、泣きやんでそれを見た。

一緒に子供の相手をしていた女性は、口元に手を当てて笑いをこらえている。

そして騎士は、踊りだした。

酒場や、貴族たちの舞踏会なんかとは程遠い、華麗でも何でもない、むしろダサい、だが、目を引く。そして愉快で、バカバカしい踊りだった。

しまらない口から、何を言っているのか分からない、とりあえず音楽代わりにあーとかうーとか、ヘンな声を出して、とにかく変でふざけた振り付けで、デタラメに踊る。

 

「……ふっ、はっ、あっはははははははははっ! ばかだーっ!!」

 

注目してた子供は、そのおかしな光景に、指さして素直な感想を吐いた。

女性も、クスクスと笑っている。

いきなりの見世物に、いつの間にか周囲にギャラリーの人垣が出来ていた。

 

パラディンの技能に、敵の攻撃を己に引き付ける『挑発』という技がある。

だが、相手は大抵は野生の魔物・動物だ。暴言を吐こうが意味が通じない。故に、動作で注目を浴びる、もしくはバカにするのが、一番効果的なのだ。

 

「……さって、ところでボーズ? 一体何で泣いてたんだ? おとーさんとおかーさんはどーした?」

 

再び騎士は、しゃがみこんで子供に問いかけた。

おかしな踊りで心をつかんだ騎士は、その後、子供を肩車して、親を探すのに協力した。

 

……余談だが、この後、珍妙な芸を持っている騎士として、良くも悪くも、ハイ・ラガートで噂になった。

説明
MYパーティSSその3です。
主要メンバー全員のエピソードを書きたいなとか思ってます。
ある意味うちのパーティで一番濃いというか変なヤツがコイツでした。

何故今更世界樹2なのかというと、はじめからやろうかなとか少し考えてるから、その前の思い出整理も兼ねてます。…が、またやりはじめるとなればいつになるやら、予定は未定です。

今回作中に名前が出てこなかったのは、『アールグレイ』と名付けたはいいけど、「グレイ伯爵」って意味になるらしくて、なんかおかしいから名前を出すのはやめました。
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