Masked Rider in Nanoha 一話 戦士と魔法出会う時 |
五代の目の前で展開されている光景。それは、自分が世話になっている家の少女の友達が空を飛び、赤い服の少女に襲われているというものだった。しかも、その少女はその赤い服の少女によってビルへ向かって吹き飛ばされたのだ。
それを五代が見る事になったキッカケ。それは何か嫌な胸騒ぎを感じ、散歩に出た事だ。その最中、不意に周囲の色がまるで抜け落ちたようなものに変わり、変化に驚いていたのも束の間、そんな光景を見たのだ。そして、そんな時五代が選ぶ行動は一つだけ。
「なのはちゃんっ!」
少女を助けるために走る。だが追いつけるはずもない。届かない。”今の自分”では。だからこそ、五代は願う。助けたい。守りたいと。その時脳裏に浮かぶのは、もう二度と使いたくないと、そう思った力。それを彼は再び使う事を決意する。それは、誰かを倒すための力ではない。それは、誰かを、笑顔を守るための力。
そんな五代の想いに応えるように彼の腹部にベルト状の装飾品が出現する。それを感じ取り五代は構える。それは彼がこの地で叫ぶ二度目の言葉だ。自身の体を超人へ変える力あるもの。失われるはずの命を守る事の出来る姿への変化を促す魔法。
「変身っ!」
五代の言葉がアークルと呼ばれるベルトに息吹を吹き込む。中央にある赤い宝石―――アマダムと呼ばれる神秘の輝石が五代の姿を変えていく。それは赤い身体と赤い瞳を持つ古代の戦士。そして現代に甦った英雄。その名は―――。
「っ!!」
―――クウガ。笑顔を守るために戦い抜いた、青空の如き心の勇者。
そして、その身体が飛び上がりながら赤から青へ変わり、ビルに激突しようとしていたなのはを間一髪受け止めた。その温もりになのはは驚きながら目を開け、クウガを見て更に驚いた。だが、その瞬間クウガの声にそれが別のものに変わる。
「大丈夫? なのはちゃん」
「ふぇ?! ……その声、もしかして五代さん!?」
こうして戦士と魔法は出会う。後に『闇の書事件』と呼ばれる戦い。その幕開けを兼ねて……
「だ、第四号……」
翔一は驚愕を隠す事もせずに目の前を見つめていた。はやてが寝付いた後、蒐集行為へ出かけたヴィータ達が心配になり、シャマルに頼んで連れてきてもらった彼。そこで目にしたのは未確認生命体第四号がヴィータと戦っている光景だった。
いや、正確には戦ってはいない。クウガはヴィータを止めるようにしか動いていないのだ。その証拠に一度もクウガはその拳を振るっていない。ただヴィータの攻撃をかわし、必死にその行動を押さえようとしているにすぎないのだから。
翔一はそんな印象を受けるクウガの行動に疑問を感じるも、元居た世界でのクウガの活躍を知っている以上ヴィータが心配だった。クウガがいつヴィータへ攻撃を開始するか分からないために。
「このままじゃヴィータちゃんが……」
「シグナム、どうするの?」
「……介入するか。私があいつを」
抑える。そう言おうとした時だ。それを遮るように鋭い声が翔一から発せられた。
「いえ、俺が行きます」
「何?」
「翔一さん?」
二人が揃って翔一を見る。翔一は、何かを決意した眼差しでクウガを見つめていた。その眼差しの強さに二人は何も言えなくなる。普段は大人しく優しい翔一がそんな眼差しをするなど想像もつかなかったからだ。
しかも、その視線は紛れもなく戦士のもの。だからこそ何も言わない。言えるはずがない。それだけの何かが今の翔一にはあったのだ。そして、二人の沈黙を了承と取った翔一の腹部にベルトのようなものが出現する。
オルタリングと呼ばれるそれは、彼がもう一つの姿になるためのもの。それと同時に、翔一が左手を腰に、右手を前へとゆっくり動かしていく。
(な、何だあれは。いや、それよりもこの安心感は何故だ……?)
(デバイスではないわ。……まさか、翔一さんが私達を平然と受け入れたのも……)
オルタリングが出現した時から翔一の雰囲気が一変した。それを感じ取ってシグナムとシャマルは不思議な感覚を覚えていた。歴戦の騎士である二人。そんな彼女達を安心させる翔一の存在。それが一体何を意味しているのか。それを確かめるように二人の視線が翔一へ注がれる。
「変身っ!」
翔一が言葉と共に両手でオルタリングの側面を押す。それをキッカケに翔一の身体を光が包んだ。それは、人類に与えられし光の力。闇を払う誰もが持つ可能性の姿。金色の身体と真紅の瞳を持つ神秘の戦士。その名は―――。
「はっ!」
―――アギト。全ての人間のために、全てのアギトのために神を相手に戦い抜いた勇者。
アギトはヴィータとクウガの前へ降り立つ。その突然の登場に戸惑う両者を余所に、アギトはヴィータに対して視線を向けた。
「ヴィータちゃん。ここは俺に任せて逃げて」
「そ、その声……翔一なのかよ?!」
「こいつ……クウガに似てる……?」
アギトの声からその正体に察しを付けるヴィータと、アギトの姿に自身との類似性を見出すクウガ。それに構わず、アギトはクウガへ視線を向けた。それに対しクウガもアギトを見つめる。
本来ならば出会う事のなかった二人の仮面ライダー。互いに何か思う事はあれど、守る者のためにその力を使うのは同じ。だが今は、まだその力が重なり合う事はない。互いに互いを見つめ、小さく呟く。
「「……どうしてこんな事に」」
ジェイルは久方振りの満足感を味わっていた。ライダーシステムと名付けた真司の変身能力。それの解析が一向に進まないからだ。普通ならばそれに満足などしない。むしろ不満にさえ思うのだろう。だが、ジェイルは違う。自分の知識や技術が通用しない事に喜びを見出していたのだ。
「素晴らしい……。鏡の中へ……たしかミラーワールドだったかね?」
「そうそう。でも、ここにはモンスターいないみたいだ」
ジェイルの言葉にいい加減に答える真司。その視線は出された食事に固定されている。真司がジェイルのラボに来て数日。既に真司はここに馴染んでいた。
最初こそジェイルの性格や行動に戸惑ったが、話してみれば質問には答えてくれるし、住む場所や食事まで世話してくれるので今では変わり者の良い人と思っていたのが彼らしい。
「で、真司さん。そのミラーワールドへ行く事が出来るのは、仮面ライダーだけなんですか?」
「いや、行くだけなら何とか出来るけど……ぷはっ、戻ってくる事が出来ないんだよ」
ウーノの問いかけに真司は最後のジュースを飲み干して答えた。それにジェイルが増々笑みを深くする。それを見たウーノはやれやれとため息一つ。最近、真司が来てからジェイルが上機嫌なのはいいのだが、本来の研究を放り出しているためだ。
理由は簡単。正体不明のライダーシステムに魅入られているのだ。ま、流石に残りのナンバーズを仕上げる事は忘れていない。それでもその作業速度は以前に比べて落ちているのであまり歓迎出来ない。
ウーノがどうやってジェイルに研究をさせるか思案し始めたところで研究室のドアが開いた。そこにはメガネをかけた女性が一人立っていた。彼女の名はナンバー4ことクアットロ。頭脳労働専門の狡猾な性格の女性だ。
「失礼しまぁ〜す」
「げ、クアットロ」
ちなみに真司はクアットロが苦手。何しろ初対面から事ある毎にからかわれ、真司はすっかりクアットロを浅倉とは違った意味で厄介な相手だと認識していた。
「あっらぁ、誰かと思えばシンちゃんじゃなぁい。げっ、なんて酷いわねぇ。ウーノお姉様ぁ、シンちゃんが私を嫌うんですぅ」
「……当然でしょクアットロ。あまり真司さんをからかうんじゃないわ。……彼は、その気になったら誰にも手が出せなくなるのよ?」
嗜めるウーノ。だが、さり気無く近付いて後半をやや警告のように言うのを忘れない。それにクアットロも渋々頷き、視線を真司へと向ける。
真司は食事の片付けを始めており、それを見てクアットロは少し不満気味にため息を吐いた。本来それは真司がやるべき事ではない。ちゃんと専用のメカがいる。それでも真司は極力自分の事は自分でやろうとしているのだ。
クアットロはそういう無駄が嫌い。しかも今回はジェイル達へ報告しなければならない事もある。それには真司が邪魔となるため、それを取り上げた。
「何だよ?」
「これは私が片付けておくから。シンちゃんはチンクちゃんの相手、お願い出来る?」
「いいけど……貸しなんかにすんなよ?」
「はいはい。別にそんな事考えてないから、それよりもチンクちゃんが待ちくたびれちゃうかも」
「分かった。訓練場だよな?」
頷くクアットロを見て真司は研究室を急ぎ目に出て行く。それを確認し、クアットロは視線をジェイルへと向けた。やっと用件を済ませる事が出来る。そんな風に顔には書いてあった。
「……それで?」
「はい。ドクターの希望通り、ドゥーエお姉様から例のものが手に入った、と」
「それは良かった。で、ドゥーエは何と?」
「それが……シンちゃんの事を聞いて一度会ってみたいと」
「……戻ってくるつもりなの?」
ウーノのどこか呆れた表情と声にクアットロも同じ表情で頷いた。それにジェイルは一人笑う。それは心からの笑い。一番自分に近いドゥーエが真司に会いたいと言った事が堪らなく嬉しかったのだ。変化していると。
何故なら、ドゥーエはナンバーズの中で一番冷酷で残忍な性格。それが与えられた任務を終えたとはいえ、自分から仕事ではなく帰還を選んだだけでも驚きなのだ。ましてや、その理由が正体不明の次元漂流者に会ってみたいとは。だからこそ、ジェイルは笑う。自分から離れ、独自の道を歩き出した存在に。
「いやぁ?、愉快だ。実に愉快だよ。……ククッ、真司は本当に私の興味を尽きさせないね」
「……ヘックシッ!」
「風邪か?」
「いや、多分違う。クアットロ辺りが馬鹿にしてんだ、きっと」
どこか心配そうに声を掛けるチンク。それに苦い顔で答える真司。既に真司はラボにいる稼働中のナンバーズから一定の尊敬を受けている。その理由の一つはジェイルと平然と会話している事。ちなみにジェイルは自分が犯罪者だと真司に告げた。だが、真司は―――。
―――いやいや、ならどうして俺を助けたりすんのさ。犯罪者って、大抵酷い奴だし。
そう言ってまったく信じなかったのだ。まぁ、後にそれが真実と知った時も真司はジェイルを悪人とは思えず助けるのだが。
そして、もう一つはその力。戦闘用のナンバー3―――トーレすら勝てないその能力にあった。
「じゃ、やろうか」
「頼む」
チンクの言葉に真司は頷き、用意された鏡へと向き合う。そしてカードケース―――龍騎のデッキを取り出し、それを鏡へ突き出した。するとその鏡の自分の腰にVバックルと呼ばれるベルトが装着される。そして、それは実際の真司も同様でそのまま手にしたデッキを片手に―――。
「変身っ!」
叫ぶ。そして、そのケースをバックルの位置にはめ込んだ。するとその身体が鎧で覆われる。銀の鎧と銀の仮面の戦士。赤い身体に赤い瞳を持つ騎士の姿へと。
その姿こそ、人が手出しできない世界から襲い来る怪物を倒すため戦い続ける存在。その名は―――。
「っしゃあ!」
―――龍騎。戦いを止めるべく戦う、龍の影を纏う勇者。
「さ、始めようかチンクちゃん」
「ああ……それと、何度も言うがちゃん付けはやめろ」
そう言いながらもどこか嬉しそうなチンク。龍騎はそんな彼女に小さく笑うと訓練開始とばかりに身構えるのだった。
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時間が若干飛んでいますがご了承ください。
説明 | ||
召喚されて数日後、五代はとある事情から月村家で居候をしていた。 そんな中、散歩中の彼は信じられない光景を目にする事となる。これが異世界での冒険の始まりと知らずに。 |
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