Masked Rider in Nanoha 二話 急転 |
「ちょっといいですか?」
突然掛けられた声にクウガは戸惑う。今まで未確認と戦っていた時、相手からこんな風に話しかけられた事がなかったからだ。故に若干戸惑うものの、クウガは出来るだけ柔らかい声で返した。
「……何かな」
「貴方は……第四号ですか」
「そう……呼ばれてるね」
クウガの答えにアギトは内心驚いていた。本来自分がいた世界にいた存在。それが目の前にいる。そして、人の言葉を話している事に。それはクウガも同じ。最初こそ未確認かと思ったが、どうやら違うらしい事は雰囲気で分かった。先程の少女に対して逃げろと言っていた事からもそれが窺えるのだから。
だからこそ、クウガは聞かねばならなかった。何故、少女がなのはを襲っていたのかを。目の前の存在が守ろうとした相手。ならばきっと悪い子ではないはず。そう思ってクウガは小さく頷いた。
「今度は俺からいい?」
「あ、はい……どうぞ」
「さっきの女の子。俺の知り合いの子を……えっと……」
襲っていた。そう言おうとしてクウガは躊躇う。ヴィータがなのはを襲う事にした理由を聞かねばならない。だが、ヴィータの事を一方的に悪く言うように取られかねない言葉はどうかと、そう思ったのだ。アギトはそんなクウガの沈黙の理由に気付かないが、それが言い出し難そうにしている事だけは理解した。
「もしかして……誰かに迷惑を掛けたんですか?」
「……うん、俺の知り合いの子なんだ。それでどうしてかなって理由を聞いたんだけど、お前には関係ないって」
それを聞き、アギトは実にヴィータらしいと思った。だがそれが本当ならアギトとしても許せる事ではない。はやてのために。そう聞いたからこそ彼は蒐集行為を見逃した。でも、誰かに迷惑を掛けるのはそのはやて自身が許さない事だ。
「そうだったんですか。すいません! ちゃんと言っておきます」
「えっと……でも、さ。きっと……仕方ない理由があったんだよね。だから、あの子もどこか悲しい目をしてたんだろうし」
クウガは自分と対峙していた時のヴィータの目を思い出していた。まるで、したくない事をしなければならないと言っているような目を。それはクウガには良く分かるもの。かつての自分がそうだったのだから。
だからこそ理由が知りたかった。どうして望まない事をしなければならないのか。それを聞きたかったのだ。もしかしたら自分が力になれるかも知れない。そう思っていたから。
「……四号さん」
そんなクウガの思いを感じ取ったのか、アギトはどこか感動したように呟いた。本当はヴィータ達も蒐集なんてしたくない。だが、それをしなければはやてが死んでしまう。それを防ぐために、四人ははやてと交わした”蒐集はしない”との約束さえ破って行動しているのだ。
「四号さんは止めてくれるかな? 俺、クウガって言うんだ」
「あ、すいません。じゃ、俺はアギトって呼んでください」
「アギト? それもかっこいいなぁ……でも、クウガが一番だな、うん」
どこか和やかな空気さえ感じさせる二人の仮面ライダー。だが、周囲はそうはいかない。
「ちっ、やるな!」
「速い……そして強い」
空中では、なのはを助けるため現れたフェイトとシグナムが戦っている。その激しい衝突は火花を散らしていた。
「やるじゃないのさ!」
「……まだ甘いな。今度はこちらから行くぞぉ!」
一方ではアルフとザフィーラが激しい攻防の格闘戦を行っていた。使い魔と守護獣の戦いは互いの守りたい存在のために磨いた力をぶつけ合っている。
「くそ、厄介な奴だ」
「ユーノ君、気をつけて!」
「あの術式……まさかベルカ式?!」
そしてデバイスを損傷したなのはを守るため、ユーノがヴィータを相手に戦っていた。その強固な守りは鉄槌の騎士さえ舌を巻いている。
そんな周囲に気付き、クウガとアギトは互いへ視線を送り―――頷いた。抱いた気持ちが同じだと感じ、二人は力強く地を蹴った。
「っ!」
「はぁ!」
「「戦いを止めてくださいっ!」」
二人は近くのビルへと着地するとそのまま両陣営へ戦いを止めてくれるよう呼びかけた。その声にフェイト達もシグナム達も動きを止める。
その視線はクウガとアギトへ注がれ、アギトを翔一と知っているシグナム達はともかく、クウガをなのは以外人と知らないフェイト達は完全に動揺していた。
「もうやめてください。俺達が戦う必要はないんです。なのはちゃんからも何とか言ってくれない?」
「シグナムさん達もやめてください。自分のために人を襲ったなんて聞いたらはやてちゃんが悲しみますよ!」
二人の告げた言葉が両陣営へ動揺を生む。そして、クウガから指名されたなのはが少し驚きながらもフェイト達へ念話を送った。クウガは敵ではなく味方で自分を助けてくれた事。あの姿をしているが本当は人間だとも。
一方、シグナム達も念話で相談していた。アギトとクウガが揃って戦闘する気がない事に疑問を抱きつつも、アギトの言ったはやてが悲しむとの言葉からこれ以上何かアギトが言う前に早期撤退するべしと結論付けた。
そんな風に落ち着いたのを見て、クウガとアギトは安堵した。どうやらもう戦う事はない。全てが片付いたとそう思ったのだ。だが、それが間違いだと二人は気付く。そう、常人離れした感覚をしている二人だけは感じ取ったのだ。
そう、何者かが自分達を見つめている事を。それがどこからかを確かめるため、クウガは変身時と同じ構えを取った。そして叫ぶ。
「超変身っ!」
「え……緑になった……?」
ペガサスフォーム。時間制限こそあれ、全ての感覚が鋭敏になる姿。邪悪なる者あらば その姿を彼方より知りて 疾風の如く射抜く戦士だ。その変化に戸惑うアギトに構わずクウガは周囲を見渡しこちらを窺う仮面の男を確認した。
「アギトさんっ! あっちです!」
「はいっ!」
クウガが指差した方向へ向かってジャンプするアギト。一方、なのは達は二人が何をしているのか理解出来ない。そこへ体を赤へ戻しクウガが声を掛けた。
「誰か射撃出来る道具持ってないですか? ちょっと貸して欲しいんだ!」
「何に使うの?」
「こっちを監視してる相手がいるんだ。その人、かなり怪しいし、万が一に備えておきたいんだ!」
クウガはそう答えて視線をアギトが向かった方へと移す。その先にいる仮面の男から感じていた気配を思い出し、クウガは最悪の事態を想定する。仮面の男から感じたのは紛れもない敵意だったがために。
自身に似たアギトならば大丈夫だろうと思うも、それでも嫌な予感が消えないクウガ。そこへなのはから射撃が出来る物を渡すとの返事が聞こえ、クウガはビルから飛び降りた。間に合ってくれと、そう思いながら……
ジェイルは困っていた。それは真司から聞いたとある事が原因だった。それは龍騎達十三人の仮面ライダーに関係する重要な要素。その力を無くさないために必要で、モンスターと契約した以上避けては通れない事だ。
「餌?」
「そ。え・さ」
真司はいつものように食事を平らげた後、思い出したと言ってその話を切り出したのだ。それは、自身が契約しているモンスターのついて。ミラーモンスターは、定期的に餌を与えなければ最後は契約者を襲う。そして、そのまま本能のままに暴れる存在となるのだ。
それを聞き、何を食べるのかと尋ねた答えにジェイルは初めての絶望感を味わう事になる。何せミラーモンスターの食糧はこの世界では得るのが困難なのだ。それは次の真司の言葉が告げていた。
「ミラーモンスターかな? あ、後は……」
「……後は、何だい?」
「人間、だったはず」
「人間、とはね……それは困ったな」
「だろ? どうしよ……」
頭を抱える二人。この世界にはミラーモンスターがいないからだ。そして当然ながら代替手段としての人間なども食糧に出来る訳がない。無論、真司とジェイルの間には最後についての考えの違いがある。真司は、純粋に人を食糧になんて使えないと思っているのに対し、ジェイルはそうそう確保出来ない上後始末が面倒との理由から困っているのだ。
故に、真司がいなくなった後もジェイルはドラグレッターの食糧をどうするかをその天才と呼ばれた頭脳をフルに活用し、考案していた。
「……ドクター、真面目に仕事をしてくれないと困ります」
そんなジェイルを、秘書的な役割をしているウーノが呆れつつ見ていた。その手には数多くの書類が抱えられている。全てジェイルへ送られた最高評議会絡みの仕事だ。これをやらなければこの生活もままならないのだが、そんな事はお構いなしとばかりにジェイルは思考を止めようとはしない。
「下手に人工生命体を与えると真司が煩いだろうし……」
「ドクター?」
「そうだ、原生生物ならいいか。それも人に危害を加える程の凶暴なものなら生命力も強い……ああ! それを真司に倒してもらってデータ取りにも使えるなぁ! 一石二鳥だ。これで行こう」
ウーノを完全無視して呟き―――いやただの狂言にも近い独り言を告げるジェイル。それを聞き、ウーノはため息一つ。そして視線をジェイルから天井へ移して呟いた。心の底からの本音を。
―――ドクターの世話、クアットロに押し付けようかしら……?
その頃、真司はと言えばかなりの重労働をしていた。いや、していたというよりはさせられていたが正しいだろう。何せ、それは彼が望むものではなく他人から望まれた事なのだから。
「空を飛べないくせに、中々しぶといな」
訓練場での訓練。相手は戦闘向きのナンバーズであるトーレだ。対する真司は龍騎へと変身し、その手にはドラグセイバーを握っている。トーレはそんな龍騎を空から見下ろしていた。その表情は放つ言葉とは裏腹に嬉々としている。
「馬鹿にすんなよ! モンスターの中には空飛ぶ奴もいたっつの!」
「なら、見せてみろ。どうやって空の相手に対応するのかを……なっ!」
龍騎の言葉に少しだけ苛立ちを覚えてトーレは姿が消えたように急降下する。その速度はインヒューレントスキル―――ISと呼ばれる特殊能力によるもの。ナンバーズは全員それぞれに固有のISを持っている。トーレのISは”ライドインパルス”と呼ばれる高速移動なのだ。
その速度はかなりのものがあり、今の龍騎では完全に捉える事は出来ない。しかし、それでも一つはっきりしている事がある。それは必ずトーレは龍騎に接近しなければならないという事。それを既に理解している龍騎は姿が見えなくなったトーレに対し啖呵を切るように一枚のカードを手にした。
「何度もやられるかっての!」
”GUARD VENT”
ドラグバイザーにカードを差し込む龍騎。それを読み込ませると音声と共に龍騎の肩に盾が出現する。それに速度を乗せたトーレのブレードが叩き付けられるが―――。
「何だとっ?!」
まったく傷付かなかった。それどころか、強度の差かブレードの方が欠けてしまう。あまりの事に戸惑うトーレ。想定外の出来事に人は弱い。戦闘機人と呼ばれる一種のサイボーグにも近いトーレもその例外ではない。
その隙を見逃す程龍騎も素人ではない。即座に手にしたドラグセイバーで叩き折るようにもう一方のブレードを斬り付けたのだ。
「折れたぁ!!」
「っ?! しまった!?」
自分の武器を失い咄嗟に距離を取ろうとするトーレだったが、そこへ龍騎が手にしていたドラグセイバーを逃がすものかと投げつける。それを危なげなくかわすトーレだったが、そこで距離を取ったのが間違いだと気付いた。
”STRIKE VENT”
「はあぁぁぁぁぁ……」
ドラグセイバーを投げると同時にカードを読み込ませた龍騎。その右手に龍の顔をした手甲のようなドラグクローを構えていたからだ。それから放たれるはトーレも知る攻撃。ドラゴンストライク、と彼女が名付けた龍騎の技の一つなのだ。
逃げる事は出来る。だが、トーレに逃げるという選択肢はない。何故ならば今から放たれる技は龍騎の切り札ではないのだ。そう、本命はこの攻撃を失敗した後に放たれるのだろうから。
(ここで仕留めなければ、次はアレが来るっ!)
それは彼女の速度を持っても逃げ切れなかった龍騎の最大の技。それを出されれば現状の彼女に勝ち目はない。だからこそこの攻撃を凌ぎ、カウンターを仕掛ける以外に道はない。龍騎は何だかんだで負けず嫌いで熱くなりやすい。つまり、この一撃を避ける事は最後の手段へ移行させる事に繋がるのだ。
「はぁ!!」
「おぉぉぉぉっ!」
迫り来る火球とドラグレッダーを紙一重でかわしながら龍騎へ肉迫するトーレ。視線の先で完全に硬直している龍騎を見てトーレは自分が勝負に勝ったと確信した。
(もらったっ!)
叩き折られていない方のブレードを龍騎の首元に突きつけるトーレ。だが、その顔に浮かぶのは決して勝利を喜ぶ笑みではない。どこか満足そうで悔しさを滲ませた笑みだった。
「……やるな」
「トーレこそ」
龍騎の首元に突きつけられたブレード。それは確かにトーレの勝ちをもたらしただろう。しかし、そんなトーレの後方で唸りを上げるものがいる。ドラグレッダーだ。そう、龍騎はトーレが火球を避けてもドラグレッダーがその後ろに回るようにしたのだ。
つまり相打ち。だが、もしこれが実戦ならば結果としてはトーレの敗北だ。何故なら突きつけたブレードはその先端が折れている。あの時ドラグシールドによって折れてしまったために。尚且つ、龍騎はまだ奥の手を出していないのだ。更なる姿と更なる力をもたらすカード。それをまだ隠しているのだから。
それを聞いた時、トーレ達は揃って驚愕したのだ。龍騎の可能性とその強さに。だからこそトーレも真司を認めている。戦士ではないのにも関わらず、ここまでの強さを身に付けた心を。それ故にトーレは戦って楽しいと思えるのだ。
「とりあえずさ……これ、降ろしてくれよ」
「……いいだろう」
龍騎の頼みに渋々トーレはブレードを降ろす。それに応じるように龍騎も変身を解除した。大きく息を吐き、トーレへ笑みを見せる真司。しかしトーレはそれに顔を背けて歩き出す。
「おい、何だよ。どうしたんだって」
「別に何でもない。私は洗浄に行く」
「あ、ズル! 俺も風呂入りたい!」
並ぶように歩きながら二人は言葉を交わす。全体的に言葉を素っ気無く返すトーレに真司はどこかで蓮を思い出して懐かしむように笑みを浮かべた。初めて戦闘した日以来、この二人はいいコンビとして残るナンバーズの戦闘師範役をする事になるのだが、それはまだ先の話……
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三話。クウガとアギトの会話がやりたかった事。後、トーレは蓮だと思うんです。
説明 | ||
運命の悪戯か対峙する事になったクウガとアギト。だが、彼ら二人はすぐに拳を振るう事はしなかった。 ここから変わり出す大きな流れ。今はそれを誰も知らない。 |
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