What the fuck?!
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「大人しく投降するなら攻撃はしない。しかし刃向うようなら容赦しないぞ。たとえホワイトランの従士だとしても今回の行為は目に余る。命が惜しいなら両手を上げろ」

 俺の目前に突っ立っている衛兵がこちらに刃を向けたまま言った。分厚い鋼鉄で出来た兜をかぶった衛兵は一様にして同じ姿をしているため、兜の中では衛兵がどのような表情をしているかまでは汲み取ることが出来ない。恐怖で強張った顔をしているのか、はたまた人を小馬鹿にしたような嘲笑を浮かべているのか。

「……ちょっと待てって言ってるだろう? 俺は今までウインターホールドで大学関連の仕事を引き受けてやってたんだ、その間ホワイトランには戻ってないし、何なら大学に問い合わせたっていい。俺が居たと証明してくれるだろう」

 やっと言い返せた。

 周りの視線に気圧されてるばかりでは本当に俺が罪人に仕立て上げられちまう。冤罪はお断りだ。

 しかし俺の言い分なんて聞く耳持たず、といった様子で衛兵はこう言った。

「はん、大学の奴らなんて信用おけるものか。お前がたとえ大学にいたとしても、大学の連中から話を聞く奴なぞ居る訳ないだろうが」

 しまった、と思わず舌打ちをする。

 何故ならノルドは魔法が嫌いだから──魔法そのものを毛嫌いしてる傾向がノルドには強いのだ。だからノルド出で大学に在籍している者は数少なく、居たとしても大体は家族から反対されても大学にやってきた、という者達ばかりだ。

 第4紀の122年に起きた大崩壊でウインターホールドの町の殆どが壊滅した。突如ウインターホールド一体の大地が崩れ落ち、海の底に沈んでしまったのだ。

 町は殆どが無くなったのにも関わらず、大学はほぼ無傷だった……それはたまたま偶然だったのかもしれない。しかしそれがウインターホールド市民や、スカイリムのノルドには気に食わなかった。

 大崩壊は大学の連中が引き起こしたと根拠も無くに決めつけ、ノルドの魔法嫌いが一層加速した──だから大学とウインターホールドには未だに軋轢があり、お互いが干渉し合うことは無い。

 そしてそんな事実はスカイリムに住むノルドにとっても同様であった。ウインターホールドに住んでないハーフィンガル、リーチ、ハイヤルマーチ、イーストマーチ、リフト、ファルクリース、そしてホワイトラン地方に住むノルドに大学の話をすれば皆一様に顔をしかめ、大学の連中は信用なら無い、と同じ返事をするに決まっている。

 しかし当の大学はそのような態度にも眉を顰めたりせず、寛大といえば寛大な態度を取っているのだが──それだけ互いを認めようとしない溝が深いのだろう。

 だから衛兵が言ったことは至極当然の態度であって、そしてそれが俺を更に不利な立場にする要因の一つになってしまっていた。

 思わず言い返す言葉を失う。どう言おうと聞く耳を持ってもらえそうにない。

 ならば──

「……“数人の男を引き連れて”、とさっき言ったよな?」

 反論をしてこない俺の言い方に納得したのかと勘違いしたのか、俺の目前に突っ立っている衛兵はふん、と鼻を鳴らした。彼しか喋らない辺り、衛兵長なのだろうか。

「ああそうさ。後々その連中の素性と居場所も吐いてもらうからな」

「その男達は何人だった? 身なりはどういう格好だった?」

 間髪入れずに問いかける。衛兵は一瞬面食らったようだったがすぐに気を取り直し、

「……お前入れて三人だった、だから連れていた男は二人だ。……格好だと? あまりいい格好じゃあなかったな。擦り切れた鎧や傷がついた衣服などを身に着けてた。あれじゃ山賊や盗賊と間違えられてもおかしくない姿だった」

 山賊……確かに。山賊は皆擦り切れたり刀傷のついた鎧などを身につけている。その理由は勿論、殺した相手から奪ったものだからだ。

 ならば山賊が俺に扮して襲ってきたのだろうか? しかしどうやって? 俺の顔に似た奴でも居るのだろうか? 

 仮にその考えを100歩譲ったとしよう、俺に似た奴がこの世界に居たとして──そいつが山賊だという確率は? そうとう低くなると言わざるを得ない。

 しかし衛兵のこの態度。見間違い程度だったらこうまで言及し捕らえようとする筈はない。……だとしたら……

「もう一つ聞いていいか?」

 諦めたのかとますます勘違いしたのか、衛兵は促すように首肯した。

「本当に俺だったのか? その二人以外に居た奴ってのは?」

 俺の質問に何を今更、といったように呆れた態度をとった衛兵だったが、そうだと言わんばかりに何度も首を縦に振って見せた。

「間違いない。市民も目撃している。お前に間違いない」

「髪型も髪の色も瞳の色も顔つきも肌の色も身長も体躯も声も、全て俺だったというのか?」

 根掘り葉掘り聞いてくる俺の態度にかちんときたのか、次の瞬間握っている剣を鼻先に突きつけ、

「いい加減にしろ。お前に相違ないと言ってるだろう。市民の殆どがお前の姿を見ているのだ、我々と市民が証人になってやる。分かったら両手を上げろ!」

 激昂した様子でまくしたててくる衛兵だったが、俺を脅すには若干覇気が足りない。しかし俺を囲む衛兵も同じように両手を上げろと言い放ってきた。

 両手を上げて投降した様子を出せば一斉に飛び掛って押さえつけられてしまうだろう。そうなったら一気に冷たい牢獄にぶち込まれちまう。

 自分で犯した罪でもないのに牢獄で獄中生活なんて御免だ。だとしたら今俺が取るべき行動は──一つしかない。

「……分かった。手を上げるから剣を少し引いてくれ」

 顔辺りまで両手を上げるポーズを取る。その態度に囲んでいた衛兵は少しだけ剣を引いた。──今だ!

 両手を上げつつ俺は片手に力を込め、心の中で“力ある言葉”を唱えた。詠唱に反応して手がぼんやり光り出す。

 力を解き放つまで俺は片手を握り締め、衛兵に悟られないようにし──

「このくらいでいいか?」

 両腕をいっぱい伸ばしたところで、握り締めていた手を開き……呪文を解き放った。

 手から発せられた光が地面に落ちた直後──かっとまばゆい閃光が辺り一面を白く塗りつぶす。不意打ち同然だった衛兵はその光に抵抗する術も無く視界を奪われ、痛みに呻く声が周囲から響いた。

 相当光るように呪文を唱えておいたせいで、衛兵の後ろでこちらを見ていた市民にもその影響は出ていた。その場に居た全員が目を手や腕で覆い、俺の姿を見つけようとする行為さえままならないといった様子だ。

 今しかない。俺はその場から走った。とりあえず一旦どこかで身を潜めなければ。ホワイトランを出てもよかったのだが、いかんせん情報が少なすぎた。このままホワイトランを出たら俺は二度とここに立ち寄ることは出来なくなる──そんな気がしたのだ。

 そのまま一直線に走り出店が立ち並ぶ広場まで出る。ここまでくるとさすがに俺が放った閃光の影響は無いものの、町を歩く人の姿が無いことからここらで商売したり買い物をする市民の殆どは俺を遠巻きから見ていた者達だったのだろう。

 建物内に逃げ込めば逃げ場が無くなる。衛兵が俺を追ってくる可能性も高い。広場を外れ、一階建ての建物がひしめく庶民の家が立ち並ぶ一角でとりあえず身を屈め、辺りに気を配りながら身を隠した。

 何でこんな目に俺が遭わなくちゃならないんだ? 本当だったら今頃ブリーズ・ホームでハチミツ酒を飲みつつ晩酌をしていたのに──

 などと思っていると慌てた様子の衛兵が数人広場のほうに走っていく姿が見えた。俺がホワイトランを出たとは思ってないらしい。まあ正門の大扉を開けた音とか聞こえなかったからかもだが。

「居たか?」「いや、しかし町から出てないはずだ、探せ!」

 明らかに俺を探している様子で声を掛け合っている。虱潰しに探されたら間違いなく見つかってしまうだろう──しかし既に陽は沈み、辺りは徐々にだが闇に包まれている。隠密だけは得意なため、夜になればこちらの勝ちだ。見つかる筈は無い──と思った矢先。

「きゃああっ!」

 背後から甲高い声、悲鳴──まさか、と振り向くと片手を口に当てて驚いた様子の──

「……イソルダ」

 ノルドにしては珍しく髪を短くショートカットに切り整え、あちこち継ぎ接ぎがあたったワンピースを着たホワイトラン市民の一人、イソルダが俺の姿を見て驚愕の表情を浮かべたまま突っ立っていた。細身の体に似合わない大きな手籠を持っているあたり、買い物帰りか途中なのか。

 思わず悲鳴を上げた口を隠そうとしたみたいだが、指の間からはわなわなと唇が震えているのが見て取れる。また悲鳴を上げるかもしれない。そうなったら俺の居場所がばれてしまう。

 しばらくお互いの間に妙な緊張感が漂った──後。

 耐えられなくなったのか、イソルダが口を開き、

「きゃ……!」

「待て待て! 叫ぶんじゃない!!」

 悲鳴を上げようとしたものの、身を屈め隠密行動をしていた状態を解いた俺が飛び上がってその口を手で塞いだため、悲鳴は辺りに響かずに済んだ。最初の悲鳴は衛兵や他の市民には聞き届かなかったようで誰もこちらに向かってくる気配がない。

 手で口を押さえつけ、肩を力を入れすぎないようにやんわりと掴んで近くにあった家の壁に身を潜める。壁に身を寄せておけば闇と同化して見つかりにくい。……しかしイソルダは体を振り切って逃げようとする。

「俺の話を聞いてくれ、イソルダ。俺は衛兵や市民が言ったような事なんかしちゃいない。だから悲鳴を上げるのはやめてくれないか。誤解なんだ」

 小声で諭すように話しかけたものの彼女は聞く耳を持つどころか、先程と変わらず必死で俺の掴んでいる肩を振り切って逃げようとする姿勢を崩さなかった。思わず肩を掴む手に力が入ってしまう。

 痛い、と手で押さえたままのイソルダの口から声が漏れる。その声に掴んでいた手の力を緩めようとした時だった。

 形振り構わずといった様子で押さえていた俺の手の指を、イソルダが思いっきり噛んできたのだ。

「てっ……!」

 激痛が走り集中が切れた途端、彼女は俺の束縛から脱出していた。不安と恐怖を綯い交ぜにした瞳でこちらを見据え、

「よくも……よくもそんな事が言えるわね。沢山物を奪ったり沢山人を傷つけたり! 私や他の人だって見たわ、あんたが襲ってきたって! 皆を!!」

「だからそれは俺じゃない……」

 とりあえず落ち着いてくれと、内心はらはらしながら言うものの彼女には全く伝わってない。俺から逃れようとじりじりと後ずさりしながら、

「それは俺じゃない、ですって?! 今だって私を襲おうとしたんでしょ!! 暗がりに私を引きずり込んでこないだしたみたく、無理やり……」

 言った彼女の言葉に、俺は今日二度目のしまった、に気がついた。──確か衛兵が俺の罪状を言った時………。

 そして今の状況。闇、隠密、建物の裏、口を押さえて肩を掴み、拘束してくると思われてもおかしくない行動。

 誤解されても仕方がない事を俺はしでかしてしまったのか? 頭の中でぐるぐると考えがめぐる。その隙を突いてイソルダは声を高らかに叫んでいた。

「衛兵! こっちよ!!」

 三度目のしまった、だ。──今度は声を聞きつけたらしく、背後から人が数人走ってくる音が聞こえてくる。

 ここはひとまず逃げなければ。聴力を総動員し足音が近づいてこない方角を定め、俺は走り出した。その間数秒。

 背後でイソルダが何か叫ぶ声が聞こえたが、今こそ俺は彼女の話を聞いている暇はなかった。捕まればドラゴンズリーチのダンジョンに放り込まれるのは確実。やってもない事で牢屋にぶちこまれるのは御免だ。

 ホワイトランを出るしかない。仕方がないが今ここに居るのは危険だ。とりあえず別の領土に入って追っ手を撒いてから、対策を練るしかないようだった。

 正門には恐らく衛兵がうじゃうじゃ待ち構えているだろう。──なら城壁を飛び越えるしかない。

 城壁の高さが若干低い場所を選び、よじ登って外側に降り立つ。既に辺りは闇に塗りつぶされ、双子の月が新月のためか辺りを照らしていないのも助かって、誰にも気づかれないまま俺はホワイトランから脱出するのに成功した。

 辺りに衛兵が徘徊している姿も見受けられるが、それらは全て松明を持っているため分かりやすく、その光の届く範囲から外れれば安心だ。

 灯りを避けてホワイトランの馬屋まで辿り着く。先程繋いだ時と変わらず馬はそこで身を休めていた。俺が近づいてきたのに反応してどうしたのか、と目をこちらに向けてくる。

「すまない。今日は休んでられる暇がないんだ……逃げなきゃならない。お前の足が頼みの綱だ」

 馬は何も言わず──勿論喋れる筈はないのだが──分かったといった様子で鼻を鳴らした。

 

 闇に包まれた静かな夜を、切り裂くように一頭の馬が逃げるように街道の彼方へと去っていく。

 再びこの地に足を着くことが出来るのか──そして自分の名と姿を騙った者は誰なのか。

 数々の疑問を残したまま。

説明
スカイリム二次創作第三章です。まだまだ続きますw
(年代において相違が見つかったので訂正してあります。間違えてすいませんm(__)m
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